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剣を売ってガチャるな!  作者: 原 すばる
第七章 最終決戦キャンプファイヤー編
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いよいよ水を噴射します

 水場で水を出しながら、望月の髪の毛や腕、手足などについた白いモチを取る。

豪健も背中についたモチを取ってあげていると、アナウンスが流れ始めた。


「さて、準備も整いましたので、いよいよ水を噴射します」


豪健は顔を苦くさせる。


「げっ、もう噴射するのか」

「けんちゃんだけでも先に行くっしょ!」

「そうしたいのは山々なんだけど、モッチーナがいないと校舎に入れないんだ」


豪健の言葉に、何故か望月は頬を赤らめる。


「そうっしょねー。けんちゃんはあたいがいないと何にもできないっしょよー」

「どうして照れているのかわからんが、あそこの生徒玄関を見ろ」


言われたところを見ると、

生徒玄関口には水色の壁のようなものがはめ込まれていた。


「あれって、壁スライムっしょ! さっきまでは無かったのに」

「おそらく水無月が召喚したのだろう。スライム全般、僕は手こずるから」

「けんちゃんの剣術は炎属性っしょからねー」


などと会話している間に、望月に付着していた鳥モチはあらかた取り去った。


「よし、これぐらい取れば戦闘にも支障をきたさないだろう」

「急いで壁スライムを破壊するっしょ!」


駆け出しながら剣を構える。

てやあっ、と二人同時に気合いを入れて壁スライムを斬りつけた。

その直後、ついに屋上のホースから水が噴射された。


 私は走っていた。さっきまで賑やかに、楽しそうに踊っていた生徒達は

今は戸惑い、屋上の大きな口を開けたホースを見上げながら立ち尽くしていた。

まるで銃口を向けられているみたいに、次の瞬間には噴射される水を恐れて。


ドンッ、とふらふら動く生徒にぶつかってしまう。


「ごめんなさい!」


頭を下げながらも止まらずに走る。

今は時間が無い。


……。

時間ならたくさんあったはずなのに。

他の誰よりも勇者君と過ごした時間は長かったはずなのに。


「あっ」


黒と緑の縞模様のウサギを蹴飛ばしてしまう。

キュッ、と小さく呻いてウサギは転がった。


「だ、大丈夫だからね。今、良くなるかも」


私は慌てて横たわるウサギに駆け寄り、手のひらを腹部に当てる。

回復魔法をかけてあげる。


こんなことをしている時間は無いのに。

私はまだ、恐れているんだ。

勇者君のところへ行くことを。


違う。違う違う。違う違う違う!

どんな時だって、蹴ってしまったウサギの手当てはしなきゃいけない。

そして、ウサギは回復した。


私はすくっと立ち上がる。

豪健君は白いテントの前に居ると言っていた。

そこに向かう。


向かいながら、私は変に思う。

あれだけ長い旅をして、寝食を共にして、

どうして想いを伝えるだけのことが、こんなにも難しいのだろう。

魔王を倒すことなんかよりも難しい。


って、また自分でハードル上げて、結局何もできない。

いつものパターンなのかも。

難しいことは考えず、勇者君を探すんだ。


そうして、人混みの中で勇者君と美雪ちゃんが手を繋いでいるのを見つけた。

その瞬間、ホースから水が噴射された。


 美雪は何をやっているんだろう。

ここに来て、勇君とキャンプファイヤーで踊りながら、

もう何度も何度も自問自答を繰り返している。


「マイムマイムマイムマイムッ、マーイームべっさんそー!」

「べべ、べっさんそー!」


勇君はぎこちなくステップを踏む。


「勇く~ん、身体が固いよー? もっとリラックスして」

「う、うん。こういうの慣れていなくて、どう踊れば良いのか」


勇君は苦笑いを浮かべた。

演技で楽しく振る舞うにしたって、

勇君に楽しんで貰えなければ意味ないんだし。


ここは美雪が人肌脱ぎますか。


「そんなの音楽に合わせて踊れば良いんだよー。

それとも、美雪のリードに任せちゃう?」


勇君の手をこうやって、美雪の腰に持って行って。

そうそう、もっと照れちゃって。

恥ずかしくなろうよ。ね?


「これより、文化祭メインアトラクションを開催致します。

ガチャガチャ様にお祈りしたい方はワープの準備をお願いします」


突然、変なアナウンスが流れた。

音楽も止まって、今まで愉快に踊っていた回りの人も戸惑っている。


「ど、どうしたのかな」


美雪も多分に漏れず、困惑中。

そんな美雪の手をぎゅうっと優しく握ってくれた。


「アトラクションって言ってたし、何かのサプライズだろうぜ?」


勇君が落ち着かせるように言ってくれる。

ほんのちょっとは男前なところ、あるのね。

豪君には及ばないけど。


「屋上をご覧下さい。今から数分後にあの大きなホースから

大量の水が噴射されます。水は校庭の中心の炎に向けてぶっかけますので……」


そう、そうよ。

美雪は本当は豪君と踊りたいの。

なのにどうして美雪は、こんなことをしているのだろう。


「……ただし、炎が消えれば音楽も流れなくなります。

このピンチを救うヒーローが現れることを祈りましょう」


アナウンスはそんなことを言い残して切れた。

そして再びダンスミュージックが流れる。

呑気なマイムマイムが怖い。


「あと数分であそこから水が噴射されるのか」


勇君は意味ありげに屋上のホースを見上げる。


「ね、ねえ、まさかガチャガチャ様のところに行くなんて考えてないよね?」

「いざとなったら仕方ねえだろ。俺は躊躇無く使うぜ?」


不安が的中した。


「ダメ! 絶対ダメ!」


美雪は大きな声を出す。

豪君の世界が滅んじゃうから。

だから、それだけは絶対にダメなの!


「どうしてさ?」

「それは、勇君の世界が滅んじゃうから」

「は? 大丈夫か、お前」


勇君が呆れたような、心配そうな目で美雪を見てくる。

ダメ、ダメだよお……。美雪じゃ説得できない。


って、ここで諦めちゃダメよ美雪!

考えるの。耳障りなマイムマイムも取っ払って。

美雪は今何をやっているか。


決まっているわ。

大好きな豪君を助けるために、楽しく勇君と踊るの!

最初からずっと変わっていないわ。


「ねえ、せっかく音楽も流れているんだし、時間もったいないよー」


勇君の手を高く上げた。


「そ、そうは言ってもだな」

「くるっくるって、楽しく踊りましょ?」


そのまま身体をくるりと回す。

しかし、気合いを入れすぎて足がもつれてしまった。


「はわわっ」


よろける美雪を、勇君はすっと腕で受け止めてくれる。

ちゃーんす!

そのままさらによろけて、勇君の胸に飛び込んだ。


「ご、ごめんね?」


上目遣いで謝ってみる。

心臓に耳を当てて、ときめきチェックもしちゃったりしてー。


「……美雪、お前、無理してるだろ?」

「え?」


周囲の音楽が止まった気がした。

生徒の喧騒も、ウサギの足音も、何もかもが消え失せた。


「無理して俺を楽しませようと、していないか?」


どっくん、どっくん、ゆっくり聞こえる心音だけ。

この重い空気は良くない。とっても良くない。


「や、やめてよもう。そんなわけないじゃないのー!」


このこのー、と努めて明るく笑い飛ばしながら、肘で小突く。

自分でやっていて、キャラじゃない気もしたけど。

これぐらい思いっきりやらないとね!


「じゃあ美雪、俺のこと好きか?」

「へ?」


今度こそ何も聞こえなくなった。身体は固まって動けない。

でも勇君は美雪のことを真っ直ぐ見て、真面目に聞いている。

美雪もその視線を受け止めたまま逸らせない。


「え、えっとお、急にどうしちゃったの?」

「だって、どう考えてもおかしいんだよ。

お前は俺のこと、いつもゴミを見るような眼差しと、

ゴキブリに言うような罵倒を日課としてきたじゃないか」


平然と、当たり前のことのように言ってのける勇君。

思わず頷きそうになって、慌てて顔を振った。


「そ、そんなことないんじゃないかなあ」

「いや、そうだったよ。それが、ここに来て急に俺と踊りたいだなんて言って。

今さっきも楽しそうに俺と踊ってくれてさ。ガチャも回していないのに」

「う、うん」

「それってさ、お前が俺のことを急に好きになったとしか思えないんだよ。

なあ、どうなんだ?」


肩を強めに押さえられ、勇君は前のめりに聞いてくる。


どうしよう。ねえ、どうしよう。


いくら勇君のためでも、

美雪は自分の気持ちの嘘を言わなくちゃいけないのかな。

嘘を言って、勇君を傷つけなくちゃいけないのかな。


自分を傷つけなくちゃ、いけないのかな。


「……ごめん」


ぽつりと呟くように、できれば聞こえて欲しくない声で言って、

美雪は俯いた。


「ま、そうだろうと思ったぜ。事情は聞かないけどよ。

それなら、俺がガチャを回すのを止められる筋合いは無いってわけだ」


ぽんぽん、と肩を軽く叩いて、勇君は優しく微笑んだ。

ダメ、それでも!


「さて、準備も整いましたので、いよいよ水を噴射します」


ダメ! と叫ぼうとして、アナウンスに遮られる。

周囲に再びどよめきが走った。

逃げ惑う生徒、その場に立ち尽くす生徒。


音楽だけはリズム良く、弾むテンポを響かせて、

ウサギ達も炎の周りでの追いかけっこを止めない。


そして大きなホースの口から水が噴射した。

滝のように大きな塊が空中で分かれながらも、

目指すは校庭の中心にある、轟々と燃え上がる炎。


バシャン! ジャワワ! 大量の水がぶっかかり蒸発する音。

それは鳴り響いている音楽よりも煩かった。


「マイムマイムは、水が噴き出したことを祝って踊ったと言われています。

ご覧下さい。今の状況にピッタリでしょう?」


追い討ちをかけるアナウンス。


「時間が無い。完全に火が消えちまう前に祈ってくるぜ!」


勇君は白い歯を見せて得意そうに笑った。

さっきまで勢いの強い炎で明るかった周囲も、

今は明るい場所と暗い場所にムラができて揺らめいていた。


「あっ」


美雪が声をかける前に、勇君はワープによって、足元から消えていった。

校庭中に流れていた音楽が鳴り止む。

元気に駆け回っていたウサギ達も止まった。

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