熱気と冷たい空の狭間
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窓の外を見れば、空に残った夕日の軌跡が心をほのかに照らすよう駆け抜ける。
対照的に足元は薄暗く、一歩踏み外せば闇の彼方へ葬られる。
「選ばれし勇者よ、破滅へと誘う魔王の手から世界を救いたまえ」
「何っしょか、それ?」
豪健の右腕に身体を絡ませている望月が、上目遣いで聞いてくる。
「父さんが勇者に目覚めた時に聞いたお告げだそうだ」
「それで師匠は旅立ったっしょねー」
「ああ。魔王を封印するまで、長く険しい道だったそうな」
「でもどうして急に、お告げのことを?」
望月が小首を傾げる。
「さっき、勇者に言われたんだ。
後先考えずに目の前の困っている人を助けちゃうのは、『勇者』なんだぜ、って。
なあ、僕って勇者だと思うか?」
豪健がそう尋ねると、望月はうーん、と楽しそうに悩む。
「けんちゃんは、勇者じゃないっしょよ」
「じゃあ何だ?」
「あたいの大好きな、けんちゃんっしょ!」
そう言って、腕に鼻を擦りつける望月。
「モッチーナはそれ好きだよな」
「好き好きっしょよー。けんちゃんのにおいをたくさん感じられます」
「犬耳が板についって。ウサギが似合うと僕は思っていたが」
望月は頭の上に付いている犬耳をいじった。
「あたいは何でも似合うっしょ。けんしゃんの望む通りの格好をするっしょよー」
「じゃあスライムの格好なんてのはどうだ?」
意地悪く言うと、望月は身震いする。
「す、スライムは無理っしょよ。水は苦手なので」
「あれは水じゃないだろ。粘性のある体液?」
「同じっしょよー! まあ、どうしてもけんちゃんが
あたいのねちゃねちゃヌメヌメする姿が見たいのであれば、やるっしょが」
頬を染め、恥らうように腕をもぞもぞさせる。
「遠慮しとく。水無月の攻撃を食らう姿でお腹いっぱいだからな」
「むう。わかったっしょ」
何故か不満そうに頬を膨らませている。
本当は水無月の召喚魔法も食らって欲しくないんだけどな。
結構、危ないし。
「おっ、そろそろかな」
遠くで聞こえていた音楽が段々と近づいてきた。
心から楽しめる立場じゃないのに、否応なしに湧き上がる期待感。
今すぐ手を取って踊り出したい!
「テンションが上がってくるっしょ!」
望月も同じ気持ちのようで、ブランコのようにぶんぶん身体を揺らし始めた。
「お、おい。腕が取れるから、止めろ」
「腕が取れてもけんちゃんっしょ! あたいがちゃーんと面倒見るっしょよー」
「さらっと怖いこと言うな!」
望月に引っ張られながら校舎を出ると、高まる音楽と
生徒の笑い声やウサギの鳴き声が入り混じった喧騒の圧に押された。
「圧巻っしょねー」
「ああ、今までとは規模が違う。全てが集まっているようだ」
テンション高らかに校庭の手前まで来たはずだが、
中心の天に向かって激しく燃えたぎる炎、
その周囲を音楽に合わせて愉快に踊る生徒達と
グルグル駆け回る様々な色模様のウサギ。
あっという間に勢いは飲まれて、二人は立ち尽くした。
「こりゃあ慣れるまで時間かかりそう」
「あっ、いたいた。ごうちん、もっちん!」
二人を呼ぶ声が校庭の方から聞こえる。
おーい、と手を振ってその人物はやって来た。
「ともちんも来ていたっしょか」
望月は心なしか豪健の腕をぎゅうっと抱きしめる。
やって来た友塚は、すぐさま望月の様子を見抜く。
「そうワンちゃんみたいに威嚇しなくても、
あたしはご主人様を取ったりしないよー」
あは、と笑って指摘する友塚に望月はむすっとなる。
「そっちもウサ耳メイドの癖に、よく言うっしょ」
望月に言われて、そうだったと友塚が自分のウサ耳に触れた。
「このウサ耳を返すために、ここに来たんだよ」
「ここに来てどういう風の吹き回しっしょか?」
望月は未だ警戒している。
「昨日、ごうちんに告白されちゃって。あたしもそれに応えなきゃって思って」
「こ、ここ、告白っしょか!」
あわあわ狼狽しながら豪健と友塚の顔を見比べる望月。
「落ち着けモッチーナ。ともちん、言葉足らずな説明をして、
モッチーナで遊ぶな」
「はーい。ごうちんから愛のある告白をされて、あたしいろいろと迷っちゃって」
「けんちゃん、愛のある告白って何のことっしょかー?」
望月が泣きそうな怒りそうな表情で、
豪健の胸倉を掴んで、揺すぶり始めた。
「お、おい。僕で遊ぶのも止めろ」
「あはは。ごめんごめん。愛のある、っていうのはもっちんに対してのだよ」
「あたいに対して?」
揺すぶる手を止めて聞き返す望月。
「そそ。どうして犬耳にしたんだー、モッチーナにはウサ耳が好きだったのにー、
って、大勢の前で叫ばれちゃってね。無茶苦茶、恥ずかしかったんだから」
友塚はため息をつきながら、ウサ耳を外した。
「だから、これはもっちんに返すよ。元々、あなたのモノだったし」
「……けんちゃんは、どう思うっしょか?」
望月が上目遣いで聞いてくる。
この犬耳か、元のウサ耳か。
「そうだな。やっぱり、モッチーナにはウサ耳だ!」
「わかったっしょ! というわけで、この犬耳はお返しします」
望月は自分の犬耳を取って、友塚に渡した。
友塚は一瞬愛おしそうにウサ耳を見つめた後、それを望月に返す。
「似合っているっしょか?」
改めてウサ耳を付けて豪健に向き直った望月。
メイド服は軽量化のために所々破かれているが、
それでもピンと長く先の垂れたウサ耳が、元気の良い望月に抜群に似合っていた。
「完璧だ。おかえり、モッチーナ」
「ただいまって、ウサ耳でそこまで変わるっしょか?」
「変わる変わる」
二人が他愛の無いやり取りをしていると、友塚が犬耳を装着して踵を返した。
「それじゃ、あたしは合唱部のところに戻るね」
「うん。友塚も、届けてくれてありがとう!」
「良いってことよ」
顔を見せずに手だけ挙げて去っていった。
「なんか、みんな僕達に優しいな。美雪といい」
「そうっしょねーそうっしょねー」
いつの間にかまた腕にしがみついている。
るんるんしている望月に、豪健はため息をついた。
「あんまり浮き足だつな。まだ現実世界の平和は確定していない。
勇者がガチャを回さずに、このキャンプファイヤーに満足して貰わないと」
「そうっしょけどー」
不満そうに頬を膨らます。
「しかしこんな人もウサギも入り乱れた中から勇者を見つけるのは一苦労だな」
「だったら、あそこの野球部の活動場所近くにあるバックネットを使うっしょ」
望月が校庭の隅にある、校舎の三階に届きそうな高さの金網フェンスを指差した。
「あれを使うって、どうするんだ?」
「もちろんよじ登るっしょ!」
やる気満々にガッツポーズを作る望月に、それが冗談ではないと豪健は悟った。
金網は意外と掴みやすく、樹を登るよりもすいすいと登れた。
さらに校庭側にお辞儀をするように頂上の方がせり出していて、
腰をかけるのも容易だった。
「思ったより楽に登れたっしょ?」
隣に座る望月が得意そうに顔を覗き込んでくる。
豪健は素直に頷いた。
「うん。見晴らしも良いし、特等席だ」
眼下には、天へと昇る炎の柱。
音楽に合わせて踊っている無数の生徒とウサギ。
目まぐるしく動いていて、離れていても顔に熱気がぶつかってくる。
一方、とうに日の沈んだ空は、夜に向かってゆっくり青を濃くしていた。
深い深い青が、いつもよりも近くに感じる。
冷たい風が通り抜けていく。
「心地良いような、ひんやり怖いような、不思議な場所だな」
「適度な緊張感があります。あたいは気に入ったっしょ」
「そうだな。さて、さっそく勇者を探そう」
「おー!」
張り切って二人で勇者の姿を踊る生徒達の中から探す。
「勇者の相手は美雪なのかな。宮下なのかな」
「あたいはみっちゃんだと思うっしょ」
「どっちもみっちゃんだけど」
「あっ、本当っしょ!」
望月は照れて、こほんと言い直す。
「美雪ちゃんの方だと思います」
「そうか。僕もそう思うな」
豪健も寂しげに同意した。
「こんな荒々しい雰囲気の中に入るだけでも大変っしょ」
「それに加えて踊っているところをかっさらうのなんて、僕でも無理だ」
諦めのこもった、ため息をつく豪健。
「あっ、見つけたっしょ!」
望月が声をあげた。




