痛いほど、分かるっしょ
「豪健君、勇者君の魔王討伐最終パーティをご存知かな?」
宮下が聞いてきた。
「えーと、四人パーティで、勇者の他に格闘家、魔法使い、僧侶が居たって」
「その三人の顔は見たことある?」
「魔法使いだけ。モッチーナのお母さんだから」
豪健が望月を見た。
望月は魔法使いと言う言葉に反応する。
「あたいは全然魔法適正がないっしょよー」
「あは、ちーちゃんは千年に一人の天才魔法使いと呼ばれていたかも。
でも、背丈の小さいところはそっくりさんね」
「似なくても良いところばかり似るっしょよー」
ふてくされている望月。
「大丈夫。ちーちゃんはさらに胸が小さいのもコンプレックスだったから。
って、私ったらまた、余計なことを喋ってしまったのかも」
頭を抱えている宮下。
本来の性格は結構おっちょこちょいなのかな。
「話の流れから察するに、宮下は勇者パーティの僧侶だったと?」
豪健がそう尋ねると、宮下は頭を抱えていた両手を下ろした。
「はい。私は僧侶。癒しの力を持って、勇者君のパーティを支えていた。
勇者君とはあなたと望月ちゃんみたいに幼馴染みだったんだけど、
僧侶として仲間入りしたのは大分後の方だったの」
「どうして最初からパーティに入らなかったっしょか?」
望月が不思議そうに尋ねる。
「私って、何の才能も取り得なくて、でも、村で物心のついた子どもの時から
勇者君のことが好きで。好きで好きで、でも想いを伝える勇気はなくて。
そうこうしているうちに、勇者君は魔王討伐の旅に出ちゃうし、
距離は離れるばかり」
宮下はゆっくり黒板の方へ歩きながら話す。
「そんな折に、僧侶を探しているって勇者君が村に一時帰った時に聞いて、
これが最後のチャンスだと思って必死に勉強して、修行して、
私は僧侶になったの。そこから祈願のパーティ入りを果たした」
くるっと振り向いて、照れたように微笑む宮下。
しかし、どこか寂しそうな影を落とす。
そこまで努力をしておきながら、結局は勇者と一緒になっていないという
酷く冷たい現実が無言で張り付いているからだ。
「結構簡単に言ってますが、僧侶になるのだって大変な努力が必要っしょ」
「そう。血反吐を吐く思いだったかも。でも、勇者君と一緒に居られるなら、
全然我慢できた。それも、結局は無意味だったのかも。
パーティ入りで距離は縮まっても、私は引っ込み思案の私のまま。
勇者君はどこかの大きな城の姫ちゃんと結婚して早々に子ども作っちゃうし。
ちーちゃんはちーちゃんで、きっちり良いひと見つけて子ども作っちゃうし。
私だけ、私だけおいてけぼりなのかも」
教卓を軽く殴って、行き場の無い思いを訴える宮下。
その子ども達が豪健と望月なわけで、二人は顔を見合わせ困惑する。
この雰囲気は確かに教会の酔っ払いシスターだと、納得しながら。
「そ、そうは言っても所帯を持っちゃったらどうしようもないわけで」
「それは、分かっている。諦めるしかないのかもと。
そう思って、思い切りもできずにお酒にばかり頼っていたある日、
青い蝶ネクタイをした女の子が教会を訪ねてきたの」
「青い蝶ネクタイって、もしかして」
豪健がほとんど確信しながら聞く。
「そう、青い鳥の人だった。その人は私が勇者君のことをお慕いしていると
見抜いて、さらにこんなことを言った。現実世界では無理でも、
ゲームの世界だったら、勇者君と恋人にもなれる、と。
青い鳥へのささやかな協力と引き換え、という条件付で」
有泉だ。
あいつめ、宮下の勇者への想いを利用して、上手く口車に乗せたのか。
「ささやかな協力って具体的には」
「あなたのジョブチェンジを快諾し、勇者君には報告しないこと。
商人になれば剣士のスキルは使えなくなるし、
向こうにとっては都合が良かったのかも」
「で、でも商人になったのには情報収集をするという目的が」
「それも、あなたに仕向けるように、青い鳥側で情報操作をしていたみたい。
剣士の時はあなた周辺からのRHL情報はシャットアウトされていたのかも。
それであなた達が良く利用する例えば行商から、
商人になれば情報収集が容易だと思わせるように仕向けた、のかも」
言われて思い当たる節があった。
ダンジョンをいくら攻略していても、ダンジョンガチャの場所が掴めず
行商人や他の攻略者、酒場で聞いても、皆口を割らなかった。
そんなに情報が欲しければ商人になれば良い、というアドバイスも何回かされた。
「後は、青い鳥が指定した時間と場所にそこに行って、
みんなが吸い込まれた後に吸い込まれてこっちの世界に来られたのかも。
インディゴカジノの時も同じ」
宮下が説明していると望月がづかづかと足音を立てて詰め寄った。
「正気っしょか! 青い鳥は魔王を復活させる組織っしょよ!」
「正気に決まっているじゃない!」
宮下は望月の瞳を見据えて怒鳴った。
「あなたには分からないのかも。
大好きな幼馴染みと上手くいっている、あなたには」
そうして宮下は俯いてしまう。
そんな宮下の両肩を望月は掴んだ。
「……分かるっしょよ。痛いほど、分かるっしょ」
豪健には聞こえないほどに声を小さく言った。
「だったら、私が青い鳥に手を貸しても」
「だったら、どうしてまだこんなところに居るっしょか!」
今度は望月が美術室に響き渡るほどに怒鳴った。
「勇者とラブラブしたくて、敵対組織に手を貸してまでこんな変な世界に来て、
それでどうして、勇者と一緒じゃないっしょか!」
「だって、そんなこと言ったって、私は」
「また同じことを繰り返すっしょ! 後悔のままお酒に溺れて死ぬっしょ!
それで勇者に迷惑をかけ続けます! あたい達下の世代に愚痴りまくります!
魔王討伐の栄誉が泣けるっしょ! 情けない大人っしょ!
死ぬほど情けない大人っしょ! あたいは尊敬したいのに。
パーティを支えたあなたを、心の底から尊敬したいのに!」
途中から望月の叫ぶ声が涙声になる。
それでも宮下の両肩を押さえて、望月は訴え続けた。
悲痛な思いを。
「ピンポンパンポーン、只今よりキャンプファイヤーダンスを開始しますぞ!
既に相手が決まっている皆さんは手を取って紳士に礼を、
そうでない人は近くの人を強引に巻き込んでワイルドな礼を、
相手もいない皆さんは駆け回るウサギさんを抱き寄せて、
心ゆくまでに踊り狂いましょうぞ!」
夏目のテンション高いアナウンスが校庭に流れて、愉快な音楽が流れ始めた。
それを聞き、宮下はそっと微笑む。
両肩の望月の手の上に自分の手を重ねた。
「ねえ、この黒板の絵の意味、わかるかな?」
宮下は黒板の方を振り向きながら聞いた。
「肘を付いて窓の外の虹を眺めている宮下ちゃん。この絵の意味っしょか」
望月も改めて見て、首を傾げた。
様々な色の折り紙を貼り付けて作られた黒板の絵。
豪健も眺めてみる。そうして、気付く。
「これって、勇者の席から宮下を見た景色だ」
「正解」
宮下は豪健に微笑んだ。
そして、再び望月を見る。
「ありがとう、望月ちゃん。あなたの励まし、心に響いたかも。
後悔しない、やれるだけのことはやってくる」
「分かったっしょ。行ってらっしゃい」
望月も優しく笑いかけた。
宮下は小さく頷いて、美術室を飛び出して行った。
一息ついて、望月は豪健に振り返った。
「さすがけんちゃん。良くわかったっしょねー」
「そりゃあ、僕の席は宮下と勇者に挟まれているからね。勇者と同じ視点さ」
「じゃあ、どうして勇者視点の絵を描いたかは、分かるっしょか?」
望月が意地悪い顔をしながら聞いてきた。
そこまでは分からないと、豪健はたじろぐ。
「さ、さあ。そういう乙女心はモッチーナの方が分かるだろう?」
「そうっしょけどー。ちょっとはあたいの気持ちを知る良い機会っしょよ」
「ん? どうして宮下の話をしているのに、モッチーナの気持ちなんだ?」
豪健が眉間にしわを寄せる。
望月はあからさまに深いため息をついた。
「もう何でもないっしょ。それより、みっちゃんが気になります」
「あの様子じゃ、まだ心配だよな。美雪は結構手ごわいし」
「あたい達も様子を見に行かないとっしょねー」
うん? と望月が小首を傾いで笑いかけてくる。
そんな仕草が純粋に可愛かった。
「僕達もキャンプファイヤーに行こうか」
「うん!」
そうして望月は豪健の右腕に身体を絡ませた。
あまりにも自然な行為で思わず豪健は笑って、望月の頭をくしゃくしゃと撫でた。
むう、と抗議の声を上げる。
豪健は髪の毛を整えながら優しく頭を撫でてあげる。
望月はすっかりしおらしくなって、ぎゅっと腕を抱きしめた。
日は沈み、暗くなり始めた廊下をゆったりとした足取りで歩く。
文化祭最後の一大イベント、キャンプファイヤーが行われる校庭へ。
第六章 文化祭デート二日目編 終わり




