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剣を売ってガチャるな!  作者: 原 すばる
第六章 文化祭デート二日目編
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さすが、勇者君の息子さんね

「ところで、お前はキャンプファイヤーで誰と踊るとかもう決めてんのか?」


勇者に肘で突かれながら聞かれる豪健。


「い、いや、そんなものは決まっていないが」


豪健の返事に勇者はほっと安心して強気になる。


「あんなにちやほやされて、文化祭のメインイベントは寂しいもんだな」

「そういう勇者はどうなんだよ」

「うっ、そ、それは聞かないお約束だろ?」


一気にしょぼくれてしまう勇者。

ん、待てよ? 今は目の前に宮下が居る。

踊りは美雪に頼んでいたが、これは絶好のチャンスじゃないか?


豪健は宮下に目配せを送った。

会話の流れからか、すぐに宮下は豪健の目配せに気付き、その意図も読めた。

拳を握り、唇を噛み締め、瞳を閉じる。美雪の言葉を思い出した。


自分の恋がダメになりそうって時に、美術部が廃部になろうが、

世界が崩壊しようが、どうでも良いの! ダメになったら全部終わりなんだから。


そうだ。自分は何のためにここに立っているんだ。

宮下は顔を上げた。


「あの、勇者君、私と」

「ピンポンパンポーン。これにて、文化祭の出し物時間を終了となります。

そして、いよいよキャンプファイヤーが始まりますぞ!

自由参加ですが、是非とも校庭にお集まり下され!」


美術室のスピーカーから夏目のハイテンションな声が聞こえてきた。

くそお、あと一歩だったのに!

ここに来て絶対常識人夏目の間の悪すぎる放送!


「けんちゃんけんちゃん! ついに始まっちゃうっしょ!

キャンプのファイヤーが始まっちゃうっしょよー!」


ここにも一人ハイテンションで美術室に入ってくる女の子が居た。


「モッチーナ、落ち着け。あれだ、いろいろとあるだろ、僕達には」

「そうっしょけどー、もういろいろと落ち着いていられないっしょよー」


待ちきれないようで、楽しそうに腕をぶんぶん回している。

何が彼女を駆り立てるのか。


「おモチちゃんは、豪君と踊りたくてしょうがないみたいよ」


美雪が悪戯っ子のような笑みを浮かべてやってくる。


「そういうものか」

「ちゃんと誘ってあげなさいよ?

美雪は残念ながら相手がいないのでー、勇君っ」


と、美雪は勇者の腕に身体を絡ませる。


「良かったら、美雪と一緒に踊って欲しいなー」

「う、うん。喜んで!」


勇者は鼻の下を伸ばしながら、二つ返事でオッケーする。


「それじゃあ、会場にしゅっぱーつ!」


美雪は美術室の出口へと勇者の腕を引っ張っていく。

あまりここに長居したくなさそうに。


「お、おい」


突然のことで勇者は戸惑いながらも、美雪と一緒に出て行った。

残された宮下は、沈んだ表情で俯いていた。


「ワシらも行くべな」

「うん」


つばきが声をかけ、たんぽぽはそれに従う。


「あの、私は少しだけここを片付けていく、かも」


宮下が顔を上げて言った。


「ほうか? 後片付け期間にやればいいべな」

「絵を描く画材がまだちゃんと片付けられていないから、それだけでも」

「だったらワシらもそれを手伝って」

「いいの!」


宮下が叫んだ。

ぴしゃりと鋭い声。

悲鳴のようにも聞こえる。


「ごめんなさい、もう、いいの……」


そう静かに告げて、宮下は顔を背けた。


「行こう」


たんぽぽが校庭へ行くよう促す。


「で、でも」

「一人になりたい時はあるから」


躊躇う豪健に、たんぽぽはそう告げて去っていく。


「わ、わかったべ」


つばきも美術室から出て行く。


今やここには、宮下と豪健と望月の三人しかいない。

豪健は望月と顔を見合わせた。

自分達はどうすべきか。


「あたいは、けんちゃんの好きなようにすれば良いと思うっしょ。

あたいはいつだってけんちゃんの味方です」


望月が優しく微笑んだ。

それを見て、豪健の気持ちは固まった。


「宮下、迷惑じゃなければ僕達も片付けを手伝うよ」

「いいから。私のことなんて気にしなくても」

「いいわけあるか!」


豪健は叫ぶ。

耳がキーンと鳴った。叫び慣れていない。


「どうして?」


泣きそうな声で、静かに尋ねる宮下。


「後先考えずに目の前の困っている人を助けたい、からかな」


宮下のメガネの奥にある潤んだ瞳を真っ直ぐ見て、豪健は言った。

へたっと床に崩れ落ちる宮下。

身体の力が抜けたようで。


「さすが、勇者君の息子さんね」


呟くように宮下はそう言った。


「え?」


何かの聞き間違えかと豪健が聞き返すと同時に、

遠くから、トタタットタタットタトタ

と足音が聞こえてきた。


「これは、ウサギの集団っしょ」

「またか。看板が壊されるぞ!」

「廊下の看板を、掃除用具ロッカーに片付けてほしい、かも」


宮下は二人に片付けを頼んだ。

一応は頷いて、豪健と望月は廊下に向かう。


「あたいの聞き違いじゃないっしょね」

「僕も何か変な言葉が聞こえた気がしたが、後で聞こう」


廊下に出た豪健は立て看板を掴んで、抱え込んだ。

その直後に、廊下の向こう側からウサギの集団が顔を見せる。

急いで美術室の中に入り、扉を閉めた。


ドタドタドタドタドタドタドタ


騒々しい足音が扉の向こう側から聞こえてきた。

大型のモンスターが走り回っているように思える。

恐怖心が湧いてくる。あのウサギ達はどこへ行くのだろう。


「間一髪だったっしょね」

「ああ、そうだな。とにかくこれを、掃除用具のロッカーとやらに入れよう」


美術室の後ろ隅にあるロッカーの前に立ち、その扉を開けた。

そこには、予想外の代物が入っていた。


「なんだ、この服」


豪健が手を伸ばして、ロッカーの中に入っていた服を取り出した。

綺麗に折りたたまれていた服が、勝手に広がっていく。


「けんちゃん、これって」


それは、遠い現実世界で見覚えのあるモノだった。


「修道服だな。教会のシスターが着る」


豪健と望月は恐る恐る、宮下の方へと振り返った。

宮下は何もかもが疲れたと言いたげな笑みを浮かべて、メガネを外した。


「えーと、これ宮下が着るのか?」

「そうなのかも」

「わかったっしょ! うちのけも耳メイド喫茶で着る衣装っしょよー!」


自信満々に言う望月に、がっくしと宮下は項垂れる。


「全く違うかも。その服は、元居た世界で着ていたもの。豪健君達と同じ」

「あの、あなたは誰ですか?」


豪健は混乱した頭を押さえながら、宮下に聞いた。


「えっ? 私の顔に、見覚えはない? メガネも取ったのにおかしいかも」


宮下があせあせと前髪を直している。


「モッチーナ、見覚えあるか?」

「うーん? 教会のシスターでこの顔っしょねー」


二人して目を細めて見てみる。

……。

同時に、酔っ払った赤い顔のシスターと

廊下から射し込む夕日に照れる顔が重なった。


「あっ、もしかして」

「ダンジョン前の小さな教会の!」

「はい。すぐに気付いて欲しかったかも」


胸に手をあてて悲しそうにする宮下。

豪健はぶんぶん手を左右に振った。


「いやいやいやいやいや、いっつも酔っ払ってて横暴で言葉遣いも荒いし。

酒瓶片手にうちの城に殴りこみかけてきた、あのシスターと宮下は別人だよ」

「えっ、お城殴りこみは初耳っしょ」


望月が豪健の方へ向く。


「まあ、親父にきつく口止めされた事件だったんだけど」

「その節はご迷惑をかけてしまったのかも。勇者君、姫ちゃん、あなたにも」


切ない表情で俯いてしまう宮下。


「事情を話して貰えませんか?」

「そうっしょね。ここに居るのもおかしいですし」


宮下は意を決して顔を上げた。

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