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剣を売ってガチャるな!  作者: 原 すばる
第六章 文化祭デート二日目編
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強者を貫く奇跡の羽を授ける歌

ドラムに合わせて、水無月と博士がギターを奏でる。

ギンギギーン、ギュンギューン。

前奏から激しいギターの音色だが、水無月は相変わらずの涼しい顔。


「あいつ、いつの間にあんなの演奏できるようになったんだ」

「やっぱり素敵ねえ。豪君の話が嘘みたい」


クールな水無月に、美雪はうっとり気味だ。

普段の水無月ならこんな道楽に付き合うはずはない。

きっと有泉の口車に乗せられて、必死に練習させられたのだろう。


「まだ何も知らない、まっさらな朝。

私は飛び出した。眼下に広がる野山、海原」


有泉のセールスで最大限の武器、通る声が生かされた歌声。

透明感のある声質は、会場に深く浸透していくよう。

それに身をゆだね、沈んでいくだけで心地よい。


しかし、水無月の激しいギターが曲調をロックに染めていく。

浸透していった有泉の歌声に力強い羽を伸ばしていく。


「まず山を目指した、まっしろな雲。

翼で風を斬り、霞を斬り、その頂を目指す」


博士のベースの音色が一定のリズムで段々増殖していき

風の粒となって体育館の底から吹き上げる。

揚力を高めていく。


「ああ、どれだけ木々を追い越しても、

どれだけ獣を追い抜いても、山に近づけない。

何故? 何故? 私はこんなにも頑張っているのに」


一瞬風が止んだ。

チチダダンダン、と力強いドラムが鳴り響く。

それを合図に勢いが湧き上がる。


「きぃづいたー! 途方もなくちっぽけな私とー、

途方もなくでっかいせーかーい!」


体育館全体が飛翔しているようだった。


「次第にかすんでいく視界、おぼろげなやーま!

翼は風に押され、霞に息は詰まりー、落ちる落ちていくぅ!

木々で身体が傷つき、獣の餌になるわーたーしー」


歌のサビが終わった。

水無月がピックを持つ手に力を入れて、ギターソロを奏でる。

生徒達は大盛り上がり。


豪健と美雪も不自然にならない程度に歓声を上げて手を振る。

そうしながら勇者とたんぽぽを観察しているが、

意外なことに勇者よりもたんぽぽの方がはしゃいでいるように見える。


「たんちゃん、テンション高いねー」

「あんなにぴょんぴょん跳ねちゃってまあ」


拳を握り締めて奏者を応援する。

アーティストなら敵だろうが親敵だろうが関係ない。

たんぽぽの背中からそんな言葉が聞こえてくるようだ。


水無月のギターソロが終わって、曲は二番に入る。

歌詞の内容も一番と似たようなもので、海の彼方にある島を目指したが、

いつまで飛んでも近づけず、最後は魚の餌になっていた。


そうして再び間奏に入る。

主旋律を重ね、底から這い上がり、

上へ上へと目指していくことを予感させるような演奏。


「あーおーい、鳥が見えた! 獣の目が、魚の目が、青い鳥を捉えた!

私は血肉を飲み込み、骨を砕いて皮膚を突き破った!

どこまでもどこまでも、青空を飛んで行く。

青い鳥と一緒に、世界の隅っこに辿り着く、その日までー」


最後は曲が転調して、最大限まで高めて歌いきった。

曲が終わって一瞬訪れる静粛が、空の彼方から世界を静かに見下ろしている、

そんな錯覚に襲われた。


ぱち、パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ。


遅れて割れんばかりの拍手が鳴り響いた。

余計な野次も入らない。言葉が出ない。

ただ有り余るその感情が、拍手としていつまでも強く鳴り響く。


有泉はハンカチを取り出して額を拭く。

そうして落ち着いたところでマイクを握った。


「ありがとう、みんなありがとう!

それにしても、彼のギターソロ、上手かったですねー。

ねえ、あい」


水無月に近づいて、有泉は意地悪い顔でマイクを向ける。


「ふん」


それだけ答えて、水無月はそっぽを向いた。


「俺にかかればこれぐらい余裕! だそうです。

さっすが、あい。このいけすかないクールさ、たまりませんねー」

「誰がいけすかないだ! 豆が潰れても練習させておいて!」


聞き捨てならないと水無月がマイクに顔を近づけ文句を言った。

あはは、と生徒達が笑う。


「さてと、これで私達のライブは終わりなんだけど」


有泉がこの言葉を口にした途端、

え~~~~、と集まっている生徒達から惜しむ声が聞こえてきた。

それが収まるまで、苦笑いを浮かべて、メンバー全員に一瞥する有泉。


「わかりました。それじゃあ、

ここに集まってくれている誰かさんと、私達でセッションをしませんか?」


それを聞いて勇者が顔を上げて、反応した。

豪健は確信する。

勇者が何となく盛り上がれていなかったのも、

ステージに立って演奏する青い鳥のメンバーが羨ましかったからなんだ。


そうして気付く。青い鳥の策略に。

今、生徒達の熱は最高潮。

ここでステージ立てたら文化祭で間違いなく一番目立つ。


しかし、勇者に楽器を演奏する力は無い。

無かったら、ガチャガチャ様に頼れば良い。


「まずいわね。勇者にガチャガチャを引かせようとしているわ」


隣の美雪も青い鳥の思惑に気付いていた。


「でも、ガチャガチャは学園の屋上だろう? 走っても時間がかかるよ」

「いいえ、勇者は瞬間移動を使えるはずよー。私達が買出しの時にやったみたく」

「あっ、そんなのがあったっけ」


RHL世界の住人は魔法は使えないのに、回数制限有で瞬間移動は使える。

ゲームのテンポを良くするためなんだろうけど。

僕が使えたらモンスターを倒すのに便利そうなのに、と豪健は思った。


「みんなと少しでも近づけたらと思ったけど、

いきなり出てきてセッションできちゃう、カッコいい奏者はいないですかねー」


有泉が生徒達を煽っていく。

勇者は俯き肩を僅かに震わせ、目を閉じた。

そして静かに頷いて、瞬間移動を使用する。


身体が足元から消えていく。

その勇者の異変に生徒達は気がつかない。

すぐ隣に居た、たんぽぽ以外は。


「私達が入る!」


たんぽぽは勇者の手を取って、挙手をした。

えっ、と呆気にとられる勇者。


そのまま手を強く握り、

生徒を押しのけて前に出ようとするたんぽぽ。

勇者は慌てて瞬間移動をキャンセルした。


体育館は次第に静かになっていき、

生徒達はたんぽぽと勇者のためにステージまでの道を空ける。


「お、おい。ガチャガチャは幸い回してないみたいだけど、

大丈夫なのか、あれ?」

「さ、さあ」


豪健と美雪が不安げに見守っている。

それは有泉も同じだった。


勇者の挙動は歌っている間も観察しており、

ガチャガチャを回させるために煽って参加させるつもりだった。

それなのに、ガチャガチャを回した様子もなく、ステージに上がってきた。


「すみません、ちょっと打ち合わせをさせて下さい」


有泉が満点の笑顔で生徒達に呼びかけてからマイクのスイッチを切り、

ステージに現れた勇者とたんぽぽに詰め寄る。


「えーと、お二人は何ができるのかな?」

「歌が歌える」


ステージの上で百人以上の学園生徒に見守られていても、

眠そうな目のまま当たり前だと言わんばかりの返答をするたんぽぽ。

マイクが入っていないのでその声は聞こえていないが。


有泉はため息をついて、勇者を見た。


「あなたは、何ができるのかしら?」

「お、俺も歌が歌えるぜ!」

「あのねぇ。そんなにボーカルは必要ないの。

楽器演奏はできないのかしら? カッコよく目立っちゃうよ?」


有泉のお得意の妖しい笑みで、豪健を誘う。


「あうっ、えーと」

「歌が重いのは承知。見たところ、キーボードが余っている」


たじろぐ勇者を制して、たんぽぽがステージを見渡しながら言った。


「そうそう。だからそこのイケメン君がもしピアノを弾けるのなら

一緒に演奏したいなあって。集まっている人も大盛り上がりよ?」

「大丈夫。もっと適任がいる」


たんぽぽはそう言って、有泉の持つマイクに素早く手を伸ばす。

あまりの突然な行為に、マイクはするっと簡単に有泉の手から離れた。


「あー、人間はゴミ」


マイクに向けて声を出すが、音は入っていない。

小首を傾げるたんぽぽ。


「魔王のピエロさんが言いそうなセリフなのですよ」


博士が無邪気に笑いかける。

有泉は軽くため息をついて、指差した。


「そこのスイッチよ」


たんぽぽは言われた通りマイクのスイッチを入れる。


「ともちん、演奏お願い」


たんぽぽが生徒の集団に向かって友塚を呼んだ。

生徒達はざわついて、各々がともちんなる人物を探し始める。


「急いで。早く」


相変わらず自分勝手に急かすたんぽぽ。

生徒集団の左側に空きができ始めた。

ステージへと続く道を、足取り重そうにうさ耳を付けた女の子が歩く。


メイド服姿のままステージに上がる友塚は、顔が真っ赤だった。

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