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剣を売ってガチャるな!  作者: 原 すばる
第一章 ダンジョンガチャ探索編
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ピエロと化した伝説の剣「ディメンジョンソード」

着替えを済ませて、城を出る。

街の中心を目指さずに、城壁に沿って裏へと回る。

樹が生い茂り、ちょっとした林になっているそこから、

てあっ、たあっ、と威勢の良い声がこだまして聞こえてきた。


「ダンジョンから帰ったばかりなのに、精が出るね」


赤いリボンの髪飾りが華麗に舞った。

モッチーナが短剣を両手に素振りをしている。


「寝起きの習慣は直らないっしょよ。けんちゃんもやっていきますかい?」

「そうだな。ちょっとは身体を動かさないと、いざという時に困りそうだ」


僕も懐から愛用の剣を取り出して、素振りを始めた。

頭上に剣を構えてから、振り下ろす。

ぶふぉん、と風を切る音が鈍い。

首を捻って、剣を静かに置いた。


順番を間違えたな。まずは、ストレッチから。

腕を伸ばしたり、屈伸したり、ジャンプしたりする。

その間、モッチーナは持っていた短剣を懐に収めて、

また、二本の短剣を懐から取り出した。


よく観察すると、くの字に曲がっている。

剣の柄の部分も簡素で、真ん中から見て、より左右対称に近い作りだ。

まるで、ブーメランのような。


「その二本の剣は、いつもと違うな。もしかして」

「うん。もちもち剣第四巻の剣なのですよ」

「どうだ、完全習得はできたのか?」


伸脚をしながら聞いてみると、モッチーナは恥ずかしそうにそっぽを向く。


「まだ、っしょ。一応形はできているのですが、安定しないっしょねー」

「とりあえず、やってみなよ。見ているからさ」

「わかりました。目をかっぽじって、よく見ておくっしょよー」


ゆっくり姿勢を低くし、二つの短剣を闘牛の角みたく斜めに突き出す。

しゅぱっ、と手から放たれた二本の短剣は、斜めにくるくると回って

樹木の合間を縫うように弧を描く。


そのまま、Uターンしてこちらに戻ってきた。右手の短剣だけ。


「ありゃま、三回に一回は左が迷子になっちゃいますねー」


手前の樹に刺さった剣を引き抜きながら、モッチーナは小首を傾げる。

左手が放った短剣は、上手く曲がらずに途中で落ちてしまっていた。


「左は右に比べて、腕で投げようとしているな」

「腕で?」

「肩に変な力が入っている気がするよ」


うーん、むーん、と唸りながら遠くに落ちている剣も拾ってきた。


「もう一度ここで構えてみてよ」

「おっけいっしょ」


モッチーナが姿勢を低くして、斜めに構える。

見た限りだと、左肩がちょっと硬い感じがするよな、右に比べて。


「もう少し、腕をリラックスさせて」


僕はモッチーナの左肩に触る。


「えっ、ちょ、ちょいっと」

「ほら、やっぱり。力が入りすぎているよ、左腕のここから肩にかけて」

「は、はい」

「それで、投げる時も、鞭をしならすイメージで、スナップを効かせて」


腕を曲げて、すいっと腕を伸ばしてあげる。

すぽっと短剣が抜けて、からんからんと落ちる。


「おい、それは力が抜けすぎだって」


そう言って横を見ると、すごく間近にモッチーナの顔があった。

うおおっ、と驚いたふりをして、触れている二の腕をぷにぷにすると、

焼きたてのモチよりも柔らかかった。なんだこれは!


「きゃあっ、どこ触っているっしょか!」

「ご、ごめん」


慌てて今度こそ腕を離した。

モッチーナは顔を赤くさせ、ぷりぷり怒りながらすっぽ抜けた剣を拾いに行く。

くそお、ちょっとしたジョークも通用しないとは。

しかし、きゃあって。


「お前も、女の子みたいな悲鳴を上げるんだな」

「女の子っしょ! あんまりふざけていると、守ってあげません」

「そいつは困る。お詫びに、練習のあとにオヤツを奢らせてくれ」

「モチ、ですよ」

「もち!」


調子の良いことを言い合って、剣の練習を再開した。

横で威勢の良いモッチーナを見ていると、僕も剣術を使いたくなってくる。

ま、基礎ができていなければ、剣術なんて飾りになっちまうしな。

鍛錬、日々鍛錬だ。


練習を終えて、僕らは城下町を目指す。


「そういえば、道場の跡地に、大きな建物が建っていたっしょよ?」

「え、本当か?」


親父が道場へ指導に行かなくなり、ガチャのために所有権も手放してしまい、

数日前にはとうとう道場の建物が取り壊されてしまった。


幼い頃から道場で鍛錬を積んだ僕やモッチーナは、

言い知れぬ虚しさと悲しみに襲われ、それがきっかけで

ダンジョンガチャの調査に乗り出したのだった。


「跡地には、何ができたのかな」

「オヤツの前にちょっと様子を見ていくっしょ」

「そうだな。水無月のヤツは、どう思ったのかな」


僕らの他に、水無月という同い年の男も幼い頃から通っていた。

もっとも、ヤツは父さんが道場に来なくなって、顔を出さなくなったが。


「あいちゃんはドライですからね~。ようやく潰れたか、目障りなボロ道場め、

ぐらいにしか思っていないっしょ」


顎に人差し指と親指を挟み、目を細めてモッチーナが真似をする。


「あはは。実際にそう思いそうだからな、あいつの場合」

「白状者は放っておくっしょよ」


そんな話をしていると、段々と行き交う人が増え、目的地の前まで来た。

煌びやかな電飾の看板が、チカチカ目に飛び込んでくる。太陽も低くないのに。

僕とモッチーナは口を半開きにさせたまま見上げていた。


「インディゴカジノ」


カードとチップに囲まれた、店名を読み上げる。

カジノ、ってお金を賭けてゲームをする場所だよな。

前に一度だけ父さんに連れられて、隣国でやったことあったけど。

よりにもよって、神聖な道場跡地にこんなモノを。


「入ってみるっしょか?」

「そうだな。様子だけ見ていこう」


僕らは腰を引かせながら、入り口に近づく。

ドアには不気味な笑みを浮かべているピエロが飾られており、

差し出された手はドアノブになっていた。

恐る恐る、その取っ手を掴むと、握り返されたようで緊張が走る。


「いらっしゃいませ~」


中に入った途端、耳をくすぐられたような明るく可愛らしい声をかけられた。

おお! と思わずため息が出そうなほどの、美人なお姉さん。

しかもバニースーツを着ている! これが、カジノ。


「当店は初めてですか?」

「は、はい」


城下町のお店なのに僕のことは知らなそうだ。外部から来た人間だろうか。

しかし、それが新鮮で声を上擦らせてしまい、クスッと笑われる。


「この場所には毎日のように来ていましたっしょよ~。剣を習いに、ねえ?」


トン、と背中を小突かれる。嫌味っぽく言われてしまった。

そんなやり取りに、お姉さんはまたしても口元に手を添えて笑う。


「ふふっ。仲がよろしいんですね。

そうだ! 剣と言えば、このお店では珍しい剣を飾ってあるんですよ?」


お姉さんは得意げに、お店の中央に向かって腕を広げた。

誘導された視線の先には、見覚えのあり過ぎるモノがそこにあった。

幼き日々、父親の背中を追いかけた先に、いつもあったモノ。


「伝説の剣、ディメンジョンソード」


次元を超越した強さ、速さで繰り出す剣術に、目は釘付けだった。

それなのに、今は大人しく、ガラスケースの中に仕舞われている。

趣味の悪いライトを当てられて、見世物のように。

いや、事実見世物なのだ。


情けなさと悔しさがこみ上げてくる。

最悪な気分だ。これ以上、ここに居たくない。

僕は踵を返して、足早に店を出る。

お姉さんの慌てた声が後ろの方で聞こえたが、関係ない。


「……」


ある程度離れたところで、速度を落とした。

モッチーナも何も言わずに、追いついてくる。


「……今晩も行くぞ、ダンジョンに」


横を向けば、モッチーナが白い歯を見せた。


「ふふん。けんちゃんに頼まれれば、たとえ火の中、水の……。

いや、水の中は無理っしょが、とにかく! どこだってついて行くっしょよー」

「頼もしいな。ありがとう」


バニースーツのお姉さんに負けないほどの胸を張って、得意げなモッチーナ。

頭を撫でてやるとくすぐったそうに、顔をくしゃませる。


「その前に、モチを奢るっしょよー」

「存じておりますよ、お嬢さん」


僕が微笑むと、モッチーナは待ちきれなさそうに、

ぴょんぴょん前をスキップしていった。

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