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剣を売ってガチャるな!  作者: 原 すばる
第六章 文化祭デート二日目編
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一つ重大なお知らせがあるんだけど

「ありがとう、美雪」

「あ、えっ?」

「ちゃんと僕を、留めておいてくれて」


豪健は腕にしがみつきっぱなしだった美雪に心からお礼を言った。


「い、いや、そんな大したことじゃないよー」


慌てて豪健の腕から離れて、両手を振る美雪。


「僕さ、あいつとずっと一緒に居て、下手したら親よりも長い時間一緒に居て、

それでモッチーナのこと、わかったつもりでいた。

でも、美雪のことを爆発に巻き込もうとしたのも未然に防げなかったし、

今もあいつの重さを知らなくて、飛び出そうとしていた」

「うん」

「分かっていないのは僕の方だった。

他の誰よりも、あいつのことを分かってあげたいのに」

「……うん」


美雪は消え入りそうな声で相槌を打つ。

薄暗い中、静粛が流れていく。

豪健は唇を噛み締めたまま、何も言えない。


「豪君、あのね」

「うん?」

「いいよ。勇君をキャンプファイヤーデートに誘っても」


美雪は軽い足取りで豪健を抜かし、目と鼻の先に立った。


「良いのか?」

「その代わり、遅くなっちゃったけど、お昼、奢ってよ」


ね? と優しく微笑みかける美雪。

美雪の温かな心遣いに、豪健は決心する。

この世界の真実を打ち明けよう。


 お昼ご飯は手当たり次第食べ歩き用の食べ物を買って、屋上へと行った。

手当たり次第と言っても、食べ歩ける出し物自体少ないので

三種類の六パックを樹木の下に広げる形となった。


「こういう時ぐらいしか、屋外で食べられないよねー」


美雪が声を弾ませて言う。

騒がしい文化祭の熱気は木々が吸い込んでしまったようで、

森の中は落ち着いた時間が流れていた。


ちらほらとウサギが見えるけれども。


「ずっと喧騒の中に居ると疲れちゃうもんな。ここなら落ち着いて食べられる」

「同感、どうか~ん」


鼻歌混じりに美雪はやきそばのプラスチックパックを手に取った。


「えらく機嫌が良いね」

「ふふ~ん、だってえ、豪君と二人っきりで、

こんな静かなところに居られるんだもん」

「……なあ、美雪はどうして僕のことを、そんなに気にかけてくれるんだ?」


豪健もやきそばのパックを手に取りながら聞く。


「ん? だって、豪君のこと好きなんだもん。気にかけるよー」

「そういうこと、お前は平然と言えちゃうから凄いよな」

「おモチちゃんには負けるけどねー」


にしし、と美雪は白い歯を見せてやきそばを食べる。


「僕さ、さっきも言った通り、文化祭の準備期間よりも前の記憶がないんだ。

だから、何か重大な約束とか、決め事とか、そういうことをしていたのなら、

話して欲しい。今からでも間に合うなら、守りたいし」


んー、と美雪は考え込みながらやきそばを頬張る。


「それなら先週の金曜日なんだけどね。

豪君と文化祭最終日のキャンプファイヤーは一緒に踊ろうって」

「えっ」


まさか、踊る約束をしていたのだろうか。

それなら大変なことなのだが。


「誘ったんだけど、断られちゃいました」


えへへ、と美雪は照れてペットボトルを仰ぐ。


「そう、か」


としか相槌を打てず、豪健は黙ってやきそばを食べる。


「仕方ないもんね。豪君はずっとおモチちゃんに一途だしさ。

さっきのおモチちゃんのお話聞いちゃったら、

美雪の気持ちも負けているなって、敵わないなって、思っちゃったし」


美雪は切なそうに微笑んでフランクフルトのパックを開ける。


「僕も同じだよ。負けていられないなって」

「あは、美雪と同じだったら、

おモチちゃんの想いに負けて諦めることになるわよ」

「え? えっと、そうじゃなくて、え?」


豪健は混乱してあたふたとする。

箸を落っことしそうになり寸でのところでキャッチ。

くすっと美雪は笑った。


「ごめんなさい。豪君ってからかい甲斐があるから。

意外とそういうところ勇君と似ているねー」


意地悪そうに美雪は言った。

さっきの意趣返しだろうか。

実の親子なので、意外でも何でもないんだけど。

しかし、そこだけは似て欲しくはなかった。


「そんなところ似てないよ、もう」

「あらあ、不機嫌にならないで~もう可愛いなあ豪君は」


美雪が人差し指で突いてくる。


「僕で遊ぶなって」

「はいはい。怒られちゃったので止めちゃうね?」


こてんと首を傾いで了承を貰おうとする美雪。

このあざとさ。

絶対にまだ諦めていないんだろうなあ、と豪健は思った。


「それで、健気で逞しい美雪に、一つ重大なお知らせがあるんだけど」

「愛の告白ならもちろんオッケーだよ?

あ、でも、先におモチちゃんにお断りを入れてから告白した方が良いよ?

美雪も豪君も殺されかねないから」

「モッチーナを何だと思っているんだ。あんまり否定もできないけど」

「えへへ」


無邪気に笑う美雪。


「そうじゃなくて、美雪。僕は今、かなり真面目で衝撃的なことを

告白しないといけないんだ」

「えー、豪君女の子だったの?」

「誰が女の子だ!」


おでこをデコピンする。


「いったー! それ結構痛いんだよ?」


美雪はおでこを抑えながら文句を言った。


「お前がふざけて茶化すからだ」

「だってー、何か雰囲気が怖いんだもん」


頬っぺたを膨らませる美雪。

できるだけ明るく言おうかと思っていたが、緊張を悟られていたようだ。


「美雪はゲームって良くやったりするのか?」

「ゲーム? やるやるー。パズルゲームとか美雪結構得意だよー」

「そうか。育成ゲームとかはやるか?」

「んー。あんましやらないかなー。

あっ、もしかしてオススメのゲームがあったりするの?」

「えーと、そういうんじゃなくて」

「豪君と一緒なら何でも育成しちゃうよー。

どっちが上手く育てられるか見せ合いっこしよっか?

もし美雪が勝ったら、美雪をリアルに育成してー。なんて」


きゃっ、と可愛い悲鳴を上げて

美雪が自分自身を楽しそうに抱きしめている。


「美雪。この世界が、その育成ゲームなんだ」

「え?」


美雪は自分自身を抱きしめたまま石のように固まってしまった。


「この世界は、育成ゲームの世界。

この世界の外に僕の住む世界があって、この世界のキャラクターを育成している」

「……じょ、冗談はよしてよー」


美雪は硬直状態から解放され、豪健に駆け寄る。

笑いかけるも、豪健の真面目で険しい表情にぶつかって落ちた。


「美雪。僕はこの世界の人間ではないんだ」


そうして豪健は話し始める。

剣と魔法のある自分の世界のこと。

この世界はRHLと呼ばれるゲームで、魔力によって作られた世界であること。


勇者を操作している人間が実の父親で、

世界を破滅に追い込んだ魔王を封印したこと。

その封印がガチャガチャを回すために剣を売ってしまったことで解かれたこと。


それを防ぐために、文化祭中は勇者にガチャガチャを回させないこと。

そのために、いろんな女の子とデートをして貰っていること。


「だから、美雪にもキャンプファイヤーで踊るように、頼んだんだね」


すっかり意気消沈しながら、美雪は言った。


「そういうことだ。こんなこといきなり言われて、信じられないと思うが」

「ねえ、美雪を操作している人も居るってこと?」

「え? それはいないよ。美雪は操作する人間がいない

ノンプレイヤーキャラクターって呼ばれているんだ」

「そっか。良かった」


美雪は自分の胸に手を置いてほっとしていた。


「良かった?」

「美雪は美雪の意思で生きているんだって」

「そりゃあそうだけど」


美雪は樹木に手のひらをつける。

その感触を確かめるように、ゆっくりと撫でた。


「まだ全然実感とかないんだけどね。

ここがどこの世界でも、今こうして豪君と話しているのは、

美雪の意思なんだって。それだけの真実があれば、美雪は美雪で居られるの」


先ほどと変わらない、切なさの混じった笑みを零す。

この子はどうしてこんなにも強いのだろう。

現実世界にこだわっている自分が馬鹿に思えてくる。


このゲームの世界で一生を過ごすのも悪くない、とさえ思えてくる。


「そうだな。どこの世界だって人の想いは」

「変わらない、なんて言うつもり?」


背後から耳元で囁かれた。


「うおっ」


豪健が思いっきり仰け反る。

そこには木陰に佇む、たんぽぽが居た。

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