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剣を売ってガチャるな!  作者: 原 すばる
第六章 文化祭デート二日目編
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今はこの子とデートをしているからさ

 お昼の十二時手前にたんぽぽとつばきが姿を見せた。

そろそろ交代の時間か。


「よお、来たか。これ作ったら入って欲しい」


豪健がボウルの中の卵をかき混ぜながら背後のたんぽぽに声をかける。

くいっ、とエプロンの裾を引っ張られた。


「ん、どうした?」

「私の勇者デートはいつ?」


唐突に聞いてきた。

豪健は慌てて周囲を見渡す。

つばきは勇者と向こうで話していて、美雪もこの近くに姿は無い。


「モッチーナの後だ」

「そう」

「場所は決めてあるのか?」


豪健がそう聞くと、たんぽぽはポケットから四つ折りの紙を取り出した。

受け取り開いてみると、ギターやピアノ、ドラムを演奏する絵が描かれている。


「これは?」

「軽音部や合唱部のライブ」

「へぇ~。お前は歌うの好きだったもんな」

「良い歌があったら是非パクリたい」


眠たい目を少しだけ見開かせて言うたんぽぽ。


「パクるって、人聞き悪いな」

「じゃあ異世界の文化財産を持ち帰って糧としたい」

「また丁寧な言い回しだ。さすが即興で歌を歌うだけある」

「こうなったら楽しんだ者勝ち」


相変わらず眠たい目のままだが、意志の強い火が瞳の奥にちらりと燃ゆる。

それに当てられ、指先が温まった気がする。

豪健は強く頷いた。


「だな。ところで一つ聞きたいんだが」

「いよおっ、たんぽぽちゃん! お元気してた?」


かろやかなステップで勇者が登場した。


「まあまあ」

「そうなー、まあまあだよなー、こんな男と一緒じゃ」


勇者が豪健を指差した。

ほう、と豪健は腕組みをした。


「勇者と一緒に居たら、心の中が雨あられだと思うけどねー」

「ひ、酷い! 俺、そんなにたんぽぽちゃんに嫌われることしたっけ?」

「日頃の行いが悪いからなー。本人に聞いてみれば?」


豪健はそれとなくたんぽぽへ促す。

念のため、その眠い目に視線を合わせてアイコンタクトを送った。

はぁ、とあからさまなため息をつくたんぽぽ。


「私とデートすれば、それもわかる」

「えっ、ええ! たんぽぽちゃんとデート?」


勇者が大げさに仰け反って驚く。

隣で聞いていたつばきが心配そうに口を挟んだ。


「たんぽぽ、良いっぺか? こんな甲斐性の無い男とデートだなんて」


意外とつばきも毒舌なんだな。

たんぽぽの歯に衣着せぬ物言いは、つばき譲りなのだろうか。


「うん。ちょっと行きたいところもあったから、丁度良いかなって」

「そういうことなら、今日一日で俺の印象をがらりと変えて進ぜよう」


勇者が胸の前に手を持っていき、深々と一礼した。

純粋に気持ち悪いなあと思う豪健。


「勇者、たんぽぽに変なごどしたら、タダじゃ済まないべよ?」


つばきは勇者に人差し指を突きつける。


「わ、わかっているって。怖いなあ、たんぽぽのことになると」

「あらあ、注文をほったらかしてみんな楽しそうね。美雪も混ぜてくれるかな?」


接客をしていた美雪が調理場に戻ってくる。

んー? と迫力満点の笑顔で。


豪健は慌ててかき混ぜ器を握り締めて、卵を混ぜ始めた。

他の人も各々準備や調理に戻っていく。


「それ終わったら、豪君はちゃんと美雪をエスコートするのよ?」

「わ、わかりました。しっかり務めさせて頂きます」


よろしい、と悪戯っ子のような笑みを浮かべて、美雪は接客へと戻っていった。

段々僕も女の子の尻に敷かれ始めていないだろうか、と不安に思う豪健であった。


 調理当番も無事に引き継ぎ、

勇者は望月とデートをするからと教室の前で別れた。


豪健は美雪と二人で文化祭真っ只中の廊下を歩いていく。


「ねえ豪君」

「ん?」

「ずっと増えっぱなしだね、ウサギ」


先ほどから足元にぶつかるウサギが多い。

蹴飛ばさないように避けているつもりでも、向こうから駆けて来るのだ。


「そうだな。さっき十二時を迎えたから、この学園内には

四千九十六匹のウサギが居るはずだよ」


豪健は淡々とその数字を口にする。

もう二千も四千も変わらない、そんな思いで。


しかし美雪は豪健の腕に絡ませていた腕をいっそう強く抱きしめた。


「異常だわ」

「そ、そうか?」

「いくらガチャガチャ様が何でも有りだからって、こんなの変よ」


その時、黒無地に赤い水玉模様のウサギが美雪の足にぶつかった。

ひぃ、と小さく悲鳴を上げる。


「確かに、人間よりも圧倒的に多くなっちゃったもんな。

しかも、色と模様の組み合わせは二匹と同じ個体がいない」


てんとう虫模様のウサギは顔を二、三度振って、後ろへと駆けて行った。


「怖い。怖いわ。不吉なことが起こりそうな、そんな予感がするの」

「気にすることはないよ。この学園は平気さ」

「そうじゃないの」


美雪は潤んだ上目遣いを豪健に向ける。

それは、留守番を言いつけられて見送る時の子どもの目だった。


「あなたがどこかへ行ってしまうんじゃないかって、不安なの」


美雪の言葉に、胸が締め付けられる。

そりゃあ、どこかへ行くよ。この世界の住人ではないのだから。


「大丈夫だよ。僕はどこにも行ったりしないさ」

「本当?」

「ああ。それに今を楽しむんだろ?

そんなに哀しい顔をしていたら自分から悪いことが起こって欲しいって

言っているようなものだよ」


完全に夏目の受け売りだけど、今のこの状況にはぴったしの言葉だった。


「ごめんなさい。美雪ったら、また豪君に気を遣わせちゃっていたのね」

「いや、これぐらいなんてことないよ。あっ、あそこの教室じゃないか?」


豪健が指で示した先には、藍色の張り紙に赤い文字で

『青組オカルト部出し物』と書かれた看板が立っていた。

文字の周囲には血を滲ませた跡や青白い炎、可愛らしい幽霊が描かれている。


「オドロオドロシイ看板が立っているわ」

「学園七不思議ってお化け的なアレなのか?」

「近からずとも、遠からずだな」


豪健と美雪の背後から、突然声が聞こえた。

慌てて振り返ると、腕組みをした水無月が立っていた。

心臓が跳ね上がる。


「お前は、いつも登場が突然なんだよ!」

「貴様の都合にいちいち配慮はできん」

「する努力を見せろよ。せめて正面から現れるとかさー」

「しかし、まさか本当に我らがオカルト部の出し物に来るとはな」


豪健の文句を無視する水無月。


「別に良いだろ? お前らがまた怪しいことを企んでいないか偵察だよ偵察」

「え? なになに、豪君って青組の人と知り合いなの? わあ、すごおい!」


美雪がテンションを上げて豪健の腕を揺さぶった。


「お、おい。あんまりはしゃぐな」

「偵察の割には可愛い女の子を連れて随分と楽しそうじゃないか。

モッチーナと喧嘩でもしたのか?」

「アホか。薄情なお前と違って、僕は仲良くやっているよ」


水無月は鼻で笑った。


「嫉妬深いモッチーナが、お前を他の女の子と一緒に居られることを許すのか?

ありえない」


その様子に豪健も鼻で笑う。


「水無月。最近のあいつを知らないだろ?

ちゃんと人を見られるようになっているんだ」


豪健の言葉に、水無月は目を見開いた。


「驚いたな。あいつがちゃんと見られるのは、剣かお前ぐらいだったが」

「親父や水無月のことも良く見ているよ」

「そうか。だとしても、お前だけのモッチーナではなくなったのだな」

「良いんだ、それで」


良いんだ、と豪健は窓から差し込む日差しに照らされ、穏やかに微笑んだ。


そんな豪健の様子に、美雪は強く抱いていた腕を緩め、離した。

急激に寂しさに襲われる。

自分が部外者ではないかと思わせられる。


「ただ、今はこの子とデートをしているからさ。

お前のところの出し物をちゃんと案内して欲しい」


そう言いながら、豪健は離れた美雪の手を握った。

俯いていた美雪は息を飲んで豪健を見つめた。

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