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剣を売ってガチャるな!  作者: 原 すばる
第六章 文化祭デート二日目編
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ああ、赤い血を通わせて欲しい

「勇者、朝っぱらから元気だな」


樹の上で剣を振っていた自分が言うのもあれだが。

勇者はカッコつけて前髪を払う。


「俺はいつでもエブリデイ、元気だぜ!」

「はいはい。友塚の苦労が知れるな」

「しかし、お前も元気だよなあ。美雪のお尻を見て興奮しているなんてよ」


勇者が馴れ馴れしく肩を組んで、小声で話しかけてくる。


「は?」

「まあ気持ちはよーくわかる。あんなにスカートが短いんじゃ仕方がないよな」

「……ああ、そうだな」


豪健は思わず頷いてしまう。


「俺に任せろい」


肩をトンと叩いて、勇者はかろやかに駆け出した。

そして、滑り込みながら下からスカートを勢い良くめくる。


「きゃっ」


可愛い悲鳴。

慌てて厚手のミニスカートを手で押さえる美雪。


「よっ、おはよーさんって、いでででで」

「朝っぱらからやってくれたわね~」


美雪に髪の毛を鷲づかみにされ、呻いている勇者。

そのまま床に向かって引っ張られ、勇者は床にひれ伏した。

お尻を突き出す形でうつ伏せ気味の勇者に、美雪はそのお尻を踏みつける。


「本能むき出しの脳みそチンパンジーが、調子に乗るんじゃないわよ」

「ひぃ、す、すみませんでし、あいたっ、やめ、そこは強く踏まないで」


美雪はグリグリと足を捻り、勇者は止めてと哀願している。

勇者の、勇者を操る親父の、家で良く見た光景だ。

懐かしさに涙腺が緩む豪健。


しかし、周りの生徒が奇異な目で見ている。

そろそろ止めてあげないと。


「お、おい美雪。それぐらいにした方が」

「はい?」


一瞬豪健にも蔑んだ眼差しを送るが、

目を見開いて、瞬き数回、美雪は気まずそうに視線を逸らす。


「えっと、昨日は曖昧な態度を取って、ごめん。今もだけど」

「ううん。美雪が悪い子だったの。勝手に怒っちゃって、豪君を困らせて」


美雪は勢い良く豪健の手を両手で取って、上目遣いで謝ってくる。

瞳を潤ませて。

あのゴミを見るような眼差しは消え失せていた。


「い、いや。本当に、ごめんね」

「もう、謝らないでよ。美雪は、豪君と楽しい今を過ごせれば良いの」

「ありがとう」


優しく微笑みかける美雪に、豪健は照れ臭くなる。


「あの~、そろそろ足をどけてくれませんかね」


相変わらず床に這いつくばっている勇者から抗議の声があがる。


「あらあ、ごめんなさい」


最後に一捻り踏んでから、美雪は勇者のお尻から足をどけた。

あふん、と歓喜を含んだ悲鳴を上げてから、勇者は立ち上がる。


「さあ、我が同士達よ。本日も張り切ってデザートを作ろうではないか」


豪健と美雪の間に入って馴れ馴れしく肩を組む。

あれだけの醜態を晒しておきながら、仕切ろうとするこの切り替えの早さ。


「ちょっと、触らないでよ汚らわしい」

「ひ、酷い。でも、そんな美雪ちゃんも可愛いぜ」

「そんな美雪ちゃんが可愛いんだろ?」

「豪健よ、まさしくその通りだ」

「変態。さっさと死んで欲しいわ」

「良い励ましだ。心が引き締まった」

「緩んでいないか僕は心配だけど」


わっはっは、と二人の肩を叩いて、勇者は前を歩いていく。

美雪は不服そうに口を曲げた。


「最近の勇君って、妙に逞しく感じることがあるわ」

「確かに勇者にしては、最近怯えた雰囲気が薄くなりつつあるな」

「勇者にしては?」


美雪が鋭く聞き返してくる。

豪健は慌てて両手を前に振った。


「いやあの、以前の勇者と比較して、勇者にしてはと思っただけだよ」

「ふ~ん? まあ何でも良いけどねっ」


美雪は人目も憚らずに豪健の腕に身体を絡めた。

二の腕に押し当てられる弾力には未だに慣れない。


照れてそっぽを向く豪健に、

その腕が離れていかないよう少しだけ強く抱く美雪であった。


 朝の調理当番は、そこまで人も混まず、

ゆったりと雑談を交わしながらモチを冷やしアイスを入れていく余裕があった。


「しかし、モチの中にチョコアイスを入れるなんて、良く思いついたよな」


どこでもスベールをひっくり返し、布を被せてまな板を乗せ、

その上で白いモチをこねくり回しながら豪健は傍らに立つ美雪に聞いた。


「おモチちゃんと、いろいろあってね。美雪はチョコパフェ作りたかったし、

おモチちゃんはおモチちゃんでしょ?」


美雪の物言いに豪健はぷっと吹き出す。


「確かにおモチちゃんだな、モッチーナは」

「そそ。一応は一件落着したんだけど、目に映る分かりやすい形で残したくて。

それで、思い出したんだよ~。

おモチとアイスを一緒に使っているお菓子あったなーって」

「へぇ~そんな珍しいお菓子もあったんだな」

「珍しい? そこまで珍しいお菓子かなあ、あれ」


美雪は小首を傾げる。


「ま、まあ。おモチは焼いて食べるものだからな、普通」

「ふ~ん?」


訝しげに豪健を見つめる。


たまにこのRHL世界の常識と現実世界の常識が食い違うことがある。

剣や魔法やモンスターが一切生活に関わらないこのRHL世界と

自分の過ごしてきた現実世界では、根本から食い違っているのだが。


「そうだ。この後のデートの場所は、青組のオカルト部出し物に行ってみない?

学園の面白い不思議話とか、占いとかやってるみたいなんだ」

「占い! 豪君とこれから先上手く愛し合えるのか、占って貰えちゃうのね!」

「誰と誰が愛し合うって?」


テンション高く腰をくねらせる美雪に、豪健は苦笑いを浮かべる。

認識の相違を感じたら、こうやって話題を逸らして切り抜ける。

七日目ともなれば、自然に出来てしまう。


友人を欺いているみたいで、嫌気が差す。

だからと言って、ここがゲームの世界だなんて言えない。

あなたはゲームのために作られたばかりのキャラクター、だなんて言えない。


「おーい、アイスおモチを持って来てくれないか?」


勇者が呑気にやってきた。


「丁度作ったから、美雪に持っていて貰うよ」

「お任せ~」


アイスおモチを皿に乗せる。

それを美雪は片手で持って、ご機嫌に歩いていく。


「あいつ、鼻歌混じりに機嫌良いな」


入れ替わりにやってきた勇者が小首を傾げていた。


「今なら変なことしても、踏まれるだけで済むんじゃないか?」

「それって、ダブルじゃん」

「ダブル?」

「ダブルヘブンズドア、オープン!」


ういーん、と勇者が両手で扉を開けるゼスチャーを見せた。


「お前は楽しそうで良いな。いっつも新しい扉開けてて」

「おうよ。今日もこれから望月ちゃんとデートするんだぜ!

オカルト部の占いで二人の愛が永遠であっても、恨まないでくれよな!」

「はいはい」


美雪と思考回路同じかよ、と笑いながら豪健はあしらった。


今朝の様子を見ていても、まるっきり美雪は勇者のことを嫌いってわけじゃない。

だったら、最後のキャンプファイヤーのこと、頼んでも問題無さそうだよな。


あーもう。

こうやって女の子を値踏みして、勇者のために駒扱いして。

うんざりする。人間のやることかよ。


世界を救うが免罪符になっていないっしょか?


モッチーナの言葉を思い出す。

本当にもう、最強の免罪符だよな。

この符が無かったら、とっくに投げ出してるよ。


逆か。

呪符だよな、これ。

僕を人間らしさから遠ざける呪符。


ああ、血が欲しい。赤い血を通わせて欲しい。

しかし、笑顔を振りまいて猫耳メイドで接客している美雪には、

人間らしい赤い血が通っていて。


ああああ。


「お、おい。手が止まって、顔も青いけど、大丈夫か?」


勇者が心配そうに声をかけてくる。

豪健は我に返った。


「あ、うん。大丈夫」

「そうか。無理そうだったら正直に言えよな?

なんぼでも料理長の俺がリカバーするからよ」

「誰が料理長だ。それと、卵の殻が入ってるぞ」


豪健が指摘をすると、勇者はおうふと箸を持ってくる。

つるつる滑らし苦戦して、殻を取り除こうとしている勇者。


豪健は、この勇者の向こう側に居る、世界を救った親父のことを見る。

少しだけ励まされ、心が温まり、そして、切なくなった。

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