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剣を売ってガチャるな!  作者: 原 すばる
第六章 文化祭デート二日目編
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最後の朝

些細なことでも厳しいことでも、

感想を残して頂けると励みになります!

わくわくどきどき楽しんで貰えたら幸いです。

 朝。豪健は微動する地面によって起きる。

身体が浮いているわけでもなく、きちんと地に身体があるからこそ感じられる

小さな揺れ。テントの中の、シート越しに感じられる。


身体を起こして伸びをする。

隣を見ると望月の姿はなかった。


「あいつ。また朝っぱらから鍛錬か」


今日は文化祭二日目、最終日。生きるか死ぬかの運命の日。

豪健はテントの入り口をめくった。


「げっ」


目の前の光景に豪健は絶句した。

森の地面のほとんどが、ウサギで埋め尽くされていた。

赤、青、緑、水、紫、黄、黒、白。


目に付いただけでも、これだけの色のウサギが、

縞、斑、水玉、チェック、ギザギザ等々の様々な模様を背中に描いている。


しかもそれぞれが止まったり、動いたり、落ち着き無く蠢いている。

いつまでも見ていたら酔って吐きそうだ。


豪健はできるだけ下を見ないように、

それでも足の踏み場には注意しながら進んでいく。


「おーい、モッチーナ! おーい!」


豪健は望月に呼びかけながらウサギを跨いでいく。

樹木を超えても超えても、その先の地面ではウサギがひしめいている。

目の痛い色合いもあいまって、動物の死骸に群がる虫を連想させる。


このグロテスクな光景を前にしながら、足の踏み場もないウサギ。

とても鍛錬どころではないと思うんだけど、

どうやって剣を振っているのだろうか、と豪健は疑問を抱いた。


「けんちゃん! ここっしょよー」


すぐ近くから声が聞こえた。

前方には姿が見えない。


「上っしょ!」


豪健は視線を上に向けた。

そこには、樹木の幹に立って、剣を構えている望月が居た。


「おー! お前、そんなところで、何を」

「もちろん、剣の鍛錬っしょよー」

「できるのか? 樹の上でなんて。つか、危なくないか?」

「全然、平気っしょよー。バランスを取る練習にもなります」


そう言いながら、二、三度剣を振ってみせる。

剣は鋭く空気を切った音をさせながらも、身体の軸は動かさず姿勢の良いまま。

なるほど、基本の素振りを嫌でも思い出せそうだ。


「モッチーナ、僕もやるよ」


豪健は望月の隣の樹木の枝に手をかけた。

木登りなんていつ以来だろうか。

懐かしさを覚えながら、すいすいと登っていく。


「この辺りなら申し分なさそうだ」


足の踏み場も十分の太い枝を見つけ、そこに立ってみた。

よし、問題なし。


「鍛錬は良いですが、剣はあるっしょか?」

「あっ」


うっかりしていた。

自分の剣は、現実世界で魔王のお腹を突き刺したままである。


「しょうがないですねー。あたいの五本ある短剣のうち一本貸してあげるっしょ」


望月は懐から短剣を一本引き抜く。


「五本って、もちもち剣の最新って第五巻だよな?」

「そうっしょねー。まだ実践では使っていませんが」


短剣を手元で投げて遊びながら望月は答える。


「じゃあ、これから第六巻とかも出てくるのか?」

「うーん。短剣を実践で六本以上使うのは厳しい気がするっしょねー。

もう一人あたいが居れば第六巻以上も可能ですが」

「お前がもう一人居るってファンタジーも良いところだが」

「それか、けんちゃんがあたいと連携してくれれば、第六巻も作れるっしょよ?」


パシッと短剣を握り締め、剣先を豪健に向けた。


「モッチーナのあの動きは他の誰も真似できないよ」

「そうっしょかね~」


望月は小首を傾げながら、豪健に向かって短剣を投げた。


「うおっ」


回転しながら短剣は、豪健のすぐ横の幹に突き刺さる。

数十センチずれていたら、豪健に刺さっていた。


「なかなか乱暴な受け渡し方法だな」

「あたいの投げ剣スキルは天下一品っしょ。やっぱり誰にも真似できませんね」


得意そうに胸を張っている。


「こっちにジャンプして手渡ししてくれたら、

抱き寄せてキスの一つでもしたのに」


短剣を引き抜きながら豪健が意地悪く言った。


「きっ」


ぼんっ、と望月の顔が一気に赤くなる。


「ははっ、それは冗談だけど、ありがとうな短剣」

「けんちゃんと抱き合って、キス……」


望月には全く聞こえていないようで、

近くの太い幹に抱きついてキスをしようとしていた。


「モッチーナ、それはけんちゃんじゃないぞ」

「はっ! あたいは鍛錬の最中に何を」

「こっちが聞きたいわ!」


豪健は小さくため息をついて、素振りを始めた。

愛用の剣よりは軽いが、その分だけ素早く何度も振れる。


「モッチーナ、しばらくこれ、護身用に借りていても良いか?」

「う、うん。もちろん良いっしょよ」


望月は先ほどのことを頭から振り払おうと、夢中で剣を振っていた。

その勢いに、豪健も負けじと一生懸命に振る。


一通り素振りを終えて、豪健は剣の構えを解いた。


「それにしても、凄いウサギの量だな」

「校舎の中にウサギが残っていなければ、ここに二千四十八匹、居るはずっしょ」

「二千……」


豪健は苦い顔を作る。

今朝の地鳴りは、この眼下を埋め尽くすウサギのひしめきのせいだ。

このまま乗数で増えていけば、いずれ学園校舎は潰れてしまう。


「ウサギのことはどうしようもないっしょよ。

それより、あたい達は考えなければいけないことがあります」

「僕らの世界のことか」


望月は一歩踏み出して鋭く短剣で空気を斬る。


「何もせずに戻れば魔王に殺されますし、残れば一生この世界の住人っしょ」

「だな。勇者には、残り三人の女の子とデートをして貰って、

且つ、キャンプファイヤーで女の子と踊って貰う」

「それで勇者がガチャを回さなければ、伝説の剣も売られず、

世界滅亡の魔王は復活せず、けんちゃんのお父さんも死なずに済むっしょ」

「そうだ、全ては」

「勇者のデートとダンスにかかっているっしょ!」


豪健と望月は、拳を握り締めて同時に天に掲げた。


……。


地上のウサギ達が豪健らを不思議そうに見上げている。

豪健は静かに腕を降ろした。


「まあ、勇者のデートの相手は、検討付けられているし、

キャンプファイヤーも案があるから、後は上手く誘導するだけで良いんだけど」

「一つだけ引っかかるのは、革命組織、青い鳥の動きっしょね」


望月の言葉を聞いて、豪健は短剣で突きの構えを取った。


「確かに気になるけど、ヤツらは僕らの思惑には気付いていないはずだし。

このままノーマークで、スルッと魔王復活阻止」


豪健は一歩踏み込んで短剣で突いた。


「んー。どうっしょかねー。向こうはガチャガチャの状態を把握できますし。

あ、そうっしょ! 今日の勇者とのデートの場所を……」


望月は自分の勇者とのデート場所を豪健に話す。


「そうだな。僕も青い鳥の動向は気になっていたし、遠くで観察してみるよ」

「あたいのことも?」


豪健が望月の方を見ると、にやにやと笑いかけてきた。


「まあ、な」


豪健は視線を逸らして、再び突きの構えを取った。

ウサギ達は相変わらず不思議そうな眼差しを二人に向けていた。


 昨日の出し物の余りモノを持って来て、樹の上で朝食を取る。

その後、屋上のドアを開けると、ウサギ達は一斉に校舎の中へと入っていった。


豪健らもウサギの波に流されるように校舎へと入る。

美術室で共同制作した宮下の作品の様子を見ておきたいと言う望月と分かれ、

豪健は自分のクラスを目指した。


足元を元気良く駆けて、追い抜いていくウサギ達を見て、

朝っぱらから元気だなとあくびをする豪健。

その前方に金色の猫耳を付けた少女を見つけた。


美雪か。

メイド服なのに、相変わらずスカートが短い。

昨日喧嘩別れみたいなことしちゃったけど、どう接しようか。


「おっはよーさん!」

「ぐへっ」


背中に体当たりを受けて、豪健はよろけた。

肺が一瞬圧迫されて、変な声が出る。

振り返ると勇者が屈託のない笑みを浮かべていた。

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