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剣を売ってガチャるな!  作者: 原 すばる
第五章 文化祭デート一日目編
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言えるわけがない

 校舎に入ると、電灯が目に染みた。

普段は夜になっても明かりなんて点けないのに。


「みんな暗くなっているのに、残っているんだな」

「日常と違う文化祭一日目っしょ。少しでも長く堪能していたいんですよ」


言うや否や、望月は豪健の腕に絡みつく。


「お、おい。最近、二人っきりになるといつもそれだな」

「ふふん。けんちゃんはモテちゃいますからね~。

こうやってしがみついていないと、どこかへ行っちゃうっしょ」


ぎゅうっとさらに強く身体を押し付ける。

右肘の裏に感じる、弾力のある柔らかい感触。

軽装に改造されたメイド服は、望月の胸元を大きくはだけさせていた。


「馬鹿。どこに行ったって、モッチーナの前からはいなくならないさ」


未だに慣れない感触に、豪健は赤らめた顔を見せず、

声もボソボソと聞こえ辛く言いながら、しかし足取りは緩めた。


「で、勇者のデートはどうするっしょか?」

「モッチーナ、すまないけど」

「分かっているっしょ」


豪健の言葉を最後まで紡がせず、望月は食い気味に言った。


「ありがとう」

「けんちゃんのためっしょよー。お父さんが死んじゃったら

あたいも悲しいですし。ついでに世界平和も」

「世界平和は二の次かい」

「そりゃそうっしょよー。世界がどうなろうと、

けんちゃんが悲しんでいたら意味ないっしょ」


ここまで真正面にぶつけられたら、逆に清清しい。

今すぐにでも愛を誓って結婚を申し込みたい衝動に駆られるが、

それは元居た世界で平和に過ごせるまでお預けにしよう、と心の奥にしまった。


「それで、あたいはいつ、勇者とデートをすれば良いっしょか?」

「うん。明日の朝一番で勇者が当番に入っているから、それが終わった後に頼む」

「了解っしょ。ところでけんちゃんは、寝取られ属性はありませんか?」

「寝取られ属性?」


きょとんとして望月の方を見ると、にししと白い歯を見せて悪い顔を向けられる。


「あたいは、実質的にはけんちゃんのお父さんとデートをするっしょ。

その状況に興奮を覚えることを、寝取られ属性なんて言うらしいっしょねー」

「よくもまあ、そんな怪しい言葉を覚えてくるもんだ」

「それで、けんちゃんは興奮するっしょか? お父さんとデートするあたいに」


わくわくに煌かせた眼差しを向けてくる望月。

豪健はため息をついた。


「するわけないだろう? 逆に心配でしょうがないよ」

「心配? あたいの心配をしてくれるっしょか?」

「馬鹿、当たり前だ。デートの場所も、事前に教えておいてくれ」


ぶっきら棒に言う豪健。


「なんか、けんちゃんがあたいのお父さんみたいっしょねー」


望月は豪健の腕に鼻を擦りつけた。

その幸せそうな顔に、豪健は笑ってしまう。


「何かおかしいっしょか?」


不思議そうに、微笑んだ上目遣いで望月は尋ねる。


「うん。幸せで笑ってしまった」

「おかしなけんちゃんですねー」


望月はそれ以上は何も言わず、

機嫌良さそうに、絡みついた腕を思いっきり振って、

豪健に軽く注意されるのであった。


 豪健が美術室のドアを開けると、部屋の真ん中辺りに集まっていた皆が、

一斉に視線を向けた。


「あ~、まーた二人っきりでいちゃいちゃしてー!」


豪健の右腕に絡みつく望月を見つけて、

美雪が喚きながら駆け寄ってきた。


「ふふん、羨ましいっしょか? 羨ましいっしょか?」

「じゃあ美雪はこっちの腕を貰うもん」


そう言って美雪は豪健の左腕に身体を絡めた。

望月に負けるとも劣らない、ふにふに弾力。

ここは桃源郷か?


「良いなあ。豪健だけあんなにモテて。剣、売って来ようかな」


ぽつりと勇者が呟いた。

世界を揺るがす問題発言に、豪健は桃源郷から一気に引き戻されて身体が硬直し、

望月はブランコのように揺さぶっていた腕からパッと離れた。


「い、いやだっしょねー、ただのスキンシップです。ほらあ、勇ちゃんも」


そう言いながら、望月は勇者の腕に身体を絡みつかせた。


「なっ、え? スキンシップ?」

「そうっしょよー。あ、そうだ。明日、朝の勇ちゃんの当番が終わったら

一緒に文化祭デートをしませんか?」

「ななっ、文化祭デート? 俺と?」


勇者は赤面してたじろいだ。


「あたいで良ければ、ですが」


あざとい上目遣いでお願いする美雪。


「も、もちろん良いよ!」


即オッケーを出す勇者。


友塚やつばきは驚き、宮下は俯いて落ち込む。

たんぽぽはあくびを一つして、

夏目は合点のいったように頷いていた。


豪健も胸を撫で下ろす。

その安堵の表情を、腕に絡み付きながら美雪はそっと眺めていた。

そうして、ぎゅっと強く豪健の腕を抱く。


「ん? どうした?」

「……何でもない」


宮下と同じく、落ち込んだように俯いて美雪は呟いた。


「男女の青春も良いだけんど、部活動に汗を流すのも変えがたいものだべ」

「そうそう。二人があまりにも遅いから、作品完成しちゃったんだから」


つばきと友塚が我に返って、思い出したかのように言った。


「そうだ。ごたごたしてたけど、作品はどうなったんだ?」

「ごう君~、ちゃんと前の黒板を見なよー」


むう、と頬を膨らませて指摘する美雪。

どうして機嫌が悪いんだろう、と豪健は不思議がりつつも、

言われたとおり黒板を見た。


「おおっ」


どうして今まで目に入らなかったのだろう。

壁の端から端まである黒板、それを覆いつくす折り紙。


最初に目に留まったのは、やはりカラフルな虹の橋。

左から右へと太くて頑丈で、鮮やかな虹模様。


そして、宮下が最後まで作業をしていた真ん中の部分。

そこには、机に座り、肘を付いて、窓の外を物憂げに眺める、

女の子が描かれていた。


「圧巻だな」

「綺麗っしょねー」


豪健も望月も放心しながら眺める。


「みんな手伝ってくれて、ありがとう。これで明日、ちゃんと公開できるかも」


ぺこりと頭を下げたかと思ったら、宮下は足早に美術室から出て行った。

一瞬ちらりと、思いつめた表情が見えた気がした。


「どうしたってんだ、宮下のヤツ」


勇者が解せない顔で、後ろ髪を掻く。

美雪はため息をついた。


「あんた達が見せつけるように、いちゃついているからでしょうが」


イライラのこもった声の美雪。

ちなみに望月は勇者の腕に軽くしがみついていた。


「見せつけるだなんて、そんなつもりは……。あ、もしかして嫉妬してるのか?」

「ばっかじゃないの!」


豪健の腕を叩きつける様に離して美雪は叫んだ。

いてっ、と顔をしかめる豪健。


「まあまあ、落ち着きなさいよみゆちんも。

確かに、ゆうちんは憎たらしいところはあるけど、

悪気があるわけじゃないんだから」

「ふんっ。いつまでも美雪の目を誤魔化せると思ったら大間違いだわ。

豪君、おモチちゃん、美雪たちに何か、隠しているでしょう?」


美雪は心の中を見通さんと突き刺すような眼差しを二人に向けた。


「な、何のことっしょかね~」


望月は目を泳がせながらしらばっくれる。

嘘が下手かよ。


しかし、自分達の正体を明かすということは、

ここがゲームの世界であることも言わなければならない。


こんな人間らしい人間達に、

あなたはゲームのキャラクターです。あなたの人生はこのRHLのために

始まったばかりなのです。なんて、言えるわけがない。


「美雪。僕たちは確かに、隠していることがある。

だけど、それを今、言うことはできない」


豪健は美雪を見つめ返した。


「ど、どうして?」

「それは……」

「ガチャガチャ様の神隠し」


友塚が歌うように言った


「何よそれ」

「文化祭の準備期間に入って、二人はガチャガチャ様の神隠しに遭っているのよ。

みやちんも気付いていたけど、その日から二人の身に何かが起こっている」

「だからそれが、何かって聞いてるの!」


駄々っ子のように美雪は叫んだ。


「それは言ってくれないべ。二人は言うことができんのじゃて」


つばきが心配そうに言うと、美雪は無言で踵を返した。

そうして、わざと足音を立てて美術室を出て行く。


「あーあ。美雪を怒らすと機嫌直すまで時間かかるぜ?」


勇者が他人事のように言う。


「だ、誰のせいで」


誰を助けるために怒らせたのか、と喉まで言葉が出かかって、豪健は堪える。

怒りで震える肩を、勇者はぽんと叩いた。


「まっ、明日一番の当番は俺とお前と美雪だ。

俺も頑張って仲裁するからさ。仲良くやろうぜ?」


にっ、と無邪気に笑ってから勇者は美術室を後にする。

豪健は深いため息をついた。


「ったく。この世は考えることが多すぎる」

「あと一日の辛抱っしょよ」


気が付くと望月が目の前に来て、手を包み込むように握って励ましてくれた。


「うん。そうだな」

「で、あたし達への隠し事は、いつお披露目になるのかしら?」


友塚が割り込むように聞いてきた。


「え、えっと」

「なーんてね。そんなのはいつだって良いわ。

今は文化祭を思いっきり楽しみましょう!」

「んだ。お祭りごとは楽しむに限るっべな」


友塚とつばきも励ますように微笑んで、美術室から去っていった。


「楽しむかあ。心休まる瞬間がないよなあ」

「楽しんでいる時は心は休んでおりませんぞ」


夏目が虫眼鏡を取り出して、豪健の心臓を通して見た。


「そうっしょよー。世界を救いながらでも文化祭は楽しめるっしょ」

「そこまで逞しくなれないよ、僕は」

「弱気はいけませんぞ! 笑っていれば大抵、悪いことは起こりませぬ」


ぐっと拳を握り、夏目が熱弁する。

こう自信満々に言われると、そう思えてくるから不思議だ。


「そういや一人、問題児が見当たらないが」

「たんぽぽ氏なら後ろで寝ておりますぞ」


夏目が視線で示す。

振り向くと、ウサギに囲まれてぐっすり寝ているたんぽぽの姿が。


「一人だけ心休まっているヤツがいるけど」

「あんなところで寝たら身体を悪くするっしょ。起こしてきます」


望月が仕方なさそうに柔らかく笑って、たんぽぽを起こしにかかった。

ゆっさゆっさと揺られて、たんぽぽはまぶたを開けた。


「……朝?」

「夜だ、夜!」


窓の外はすっかり暗くなっていた。

それを確認して、たんぽぽは再びウサギのベッドへ身体を沈める。


「おいおい、寝るなって!」

「仕方ないっしょねー。屋上の寝床まで運んであげるっしょ」


ほらっ身体を起こして、あたいの首に手をまわすっしょよ、

と望月はたんぽぽに優しく声をかけながら、背負いこんだ。


「モッチーナが他の女の子に優しくするなんて珍しいな」

「心外っしょねー。あたいは慈愛に満ち溢れた剣士っしょよー」

「はいはい。ドア開けてあげるから、起こさないようにな」


豪健は美術室の扉を開けて、たんぽぽをおぶった望月が出て行くのを見送る。

その後を追うように、ウサギ達も扉の隙間から出て行った。


「夏目、僕たちも出払おう」

「そうですな。そこの壁に電灯のスイッチがありますぞ」

「えーと、あった」


豪健はスイッチに手をかけて、美術室を見渡した。

折り紙で色とりどりの黒板。

虹の橋がかけられ、それを物憂げに眺める女の子。


「あのさ。あの女の子って、誰なんだ?」


豪健は黒板を指差して何気なく聞いた。


「自分だと言っておりましたぞ」

「自分。宮下か」


窓の外に映る綺麗な虹の橋。

それを眺める少女は、一体何を考えているのだろうか。

そんなことを思いながら、豪健は美術室の電灯を切った。


景色が黒く塗り潰された。



第五章 文化祭デート一日目編 終わり

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