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剣を売ってガチャるな!  作者: 原 すばる
第五章 文化祭デート一日目編
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剣は己の魂が宿る

「お前は説明を受けるより、実際に見た方が早いだろう」


水無月は長剣を取り出して、藍色のローブを舞わせ荷台から飛び降りる。

有泉は紫色の手袋をはめ直して、先ほど荷台から放り投げた丸太を持った。


到底、人一人で持てるような大きさではない。

しかし、有泉は涼しい顔で身体の三、四倍の高さもある丸太の断面を持ち、

それを空高くに放り投げた。


えー、と呆気にとられて口を開けっぱなしの豪健と望月。

水無月は駆け出した。長剣を地面に引きずり、

砂を撒き散らして切れ目を作っていく。


「水無月剣、滝のぼり」


地面を蹴って、水無月は丸太の下部から刃を入れていく。

魚の身を切るように、音を立てずにスルスルと刃が進む。

幹の中頃まで行ってもその勢いは衰えず。


「てあっ!」


気合いの乗った発声。

しかし、剣は丸太上部の最後五十センチぐらいのところで勢いが止まった。


水無月の額に汗がにじむ。


空へと向かっていた勢いは、段々と重力に押されていく。

そうして剣を刺したまま丸太は空中で止まる。

止まって、落ちる。


丸太と並んで落ちていく水無月。

剣は丸太を一刀両断の寸でのところで突き刺さったまま。

水無月は尚も剣を押す。


「藍、離れなさい!」


有泉が叫ぶ。

それよりも一歩早く、望月が地面を蹴って駆け出した。


「もちもち剣第一巻、望月斬り!」


豪健が気づいた時には、

既に望月は宙に飛んでくるりと一回転している最中だった。

そうして、今まさに落下し始めた丸太の上部に向かって、短剣を振り下ろした。


バキッ、と乾いた木の砕ける音が響く。

水無月とは対象的な力任せの剣。


しかし、望月の短剣は丸太の途中で止まっている水無月の長剣まで

木片を撒き散らしながら突き進む。


キンッ、と金属同士がぶつかる音。

直後に丸太が真ん中から縦に割れた。


水無月は剣を引き抜き、望月はさらに一回転して、

すれ違い交差するように飛んでから、二人は着地した。

その真ん中でドスン、ドスン、と割れた丸太が重なるように落ちる。


「わあ、息ぴったしなのです」


博士が手のひらを合わせて、目を輝かせている。


「どうかしらね。今のは藍の状況判断が一瞬遅かったわ」

「くっ」


有泉に指摘されて、水無月は唇を噛み締めそっぽを向いた。

博士がとことこ歩いて、水無月の肩を優しく叩く。


「まあまあ、あいも疲れていたのですよ」

「モッチーナもナイスフォローだったぞ」

「余裕っしょよ」


豪健がねぎらいの言葉をかけにいくと、短剣をかがけて望月は得意そうだった。


「じゃ、あとこれを四回ね」


んふ、と妖しく笑う有泉を水無月と望月は唖然と眺めた。


 その後は危険だということで、

最初に丸太を地面に置いたまま真ん中から半分に斬った。


そして、短くなったところを補助の人が上に放り投げて、

縦に斬るという方法が取られた。


「け、結構、きついっしょね」


丸太を二本ずつ割り当てられ、

一本目を斬り終えた時には望月は肩で息をしていた。

丸太の切り口は木屑が荒々しく剥げ、ささくれのように飛び出ていた。


「丸太の芯を斬らずに、剣の軌道もブレているから余計な力を使うんだ」


二本目を斬ろうとしていた水無月が口を挟んだ。

水無月の傍らには、切り口も綺麗で均等に斬られた丸太があった。


「煩いっしょ! あたいは、あいちゃんとは戦闘スタイルが違います」

「戦闘スタイルは違っても、剣の基本は同じだが?

正確に、真っ直ぐに、急所を叩き斬る」


言いながら水無月は地面に置かれた丸太を真ん中で斬った。


「全然違うっしょね~。剣の基本は、

素早く、手数第一に、隙を見せず叩き斬る」


望月は両手の短剣で地面の丸太を素早く二回斬りつけた。

相変わらず切り口はボロボロだが、ちゃんと半分に切断されている。


「ねえ、二人って一緒の道場で剣を学んでいたんでしょう?」


有泉が豪健に近寄り、こそっと聞いてくる。


「うん。親父の道場で小さい頃からな」

「だったら、どうして戦闘スタイルが違うのかしら」

「それはわたしも気になったのです」


下から博士もわくわくした小声で、間に入ってきた。


「それは、二人の性格の違いじゃないのか?」

「性格の違い?」


有泉と博士は一緒に小首を傾げた。


「剣は己の魂が宿る。剣で戦う時は、己の魂を差し出していると思え。

とまあ、一番初めに僕ら三人は、正座させられてこんなことを言われたわけだが」

「意外とスピリチュアルね」

「水無月はあの通り、どんな時も落ち着いているだろう?

だから一太刀を正確に、体重を乗せた重い攻撃ができるようにと指導を受けた」

「ふんふん、あいは確かにいつも冷静沈着、

せーらにしか素直に笑った顔を見せないのですよ」


そう博士が笑いかけると、有泉は髪をいじり始めた。


「そ、そんなことないわよ。で、あなたの可愛い彼女ちゃんは?」


取り繕うように、食い気味に豪健に聞いてくる。


「え? えーと、モッチーナは我慢できないというか、

考えるよりもすぐに手が出るタイプだったから、小回りの聞く身体も生かして、

数を打って相手を追い込む戦闘方法を学んでいったんだよ」

「ふーん。まあ、あの子には似合ってそうだわね」

「とても勉強になったのですよ。

同じ道具にしても操る人間によって性格が変わるモノなのですね!」

「二人の剣の長さはその性格が表れているね」

「剣の魂の表れなのです」

「ちょっと、けんちゃん!

女の子二人に囲まれて何をこそこそ話しているっしょか!」


望月が豪健らに気付いて、短剣をこちらに向けながら叫んだ。


「いや、ちょっとした昔話をだな」

「だったらけんちゃんが道場でおもらしした話をするっしょよ! あれは」

「馬鹿! 何を言い始めるんだ」

「だったら、早く補助に戻るっしょよー」


くそお、と豪健はやつれながら駆け足で戻る。


「さすが考えるよりも、先に口が動いちゃうのね」

「おい、セーラ。お前も作業の途中でサボるな」


厳しい口調で水無月が叱る。


「あー、ごめんよー。怒らないでよー藍」


有泉も平謝りをしながら補助へと戻っていく。


「人に歴史ありなのですねー」


博士は腕組みをしながら、感慨深そうに頷いた。


 残りの丸太も全部斬り終えて、一から三メートルほどの手頃な木材が

大量に校庭の真ん中に集まった。


「ありがとうなのです。後はこれを簡易に組み立てて、完了なのですよ」

「悪いけど、僕たちは人を待たせている。これで手伝いはお終いだ」


豪健がきっぱり断る。

それを気にせずに、有泉は軽く微笑んだ。


「わかったわ。手伝ってくれてありがとうね」

「良いってことしょ。剣の鍛錬にもなりましたし、

魔力集めにも少しは貢献できたっしょね」

「戻ったところで青い鳥の支配する世界に変わりはないんだがな」


ふん、と表情を変えずに水無月が言った。

その言葉に顔をしかめる豪健と望月。


「もし、お前達にその気があれば、青い鳥の幹部として任命しても良いのですよ」


博士が笑顔を見せながら言う。目を見開いて水無月が驚いた。


「師匠! 本気ですか、こいつらを」


珍しく取り乱す姿に、まあまあと博士は落ち着かせる。


「勇者は確かに世界を治める器ではなかったのですが、

その息子までをみすみす切り捨てるには、惜しい人材なのです」

「こいつが?」

「実力は未だ見ていないので分からないのですが、

人望の集め方を心得ているように思うのです。それに、そこのちっこい子は」

「お前もちっこい子っしょよ」

「こら、師匠になんて口を!」


水無月が忙しそうに怒鳴っている。

あいつ、師匠を持つだけで心労が溜まるのではないか、と思う豪健。


「あいと剣の扱い方は違えど、強さは相当なモノなのです。

二人ともどうなのです? わたしたちと青い鳥で活動し、

新世界を飛翔させる青い羽を編もうではありませんか」


博士は小さな手を伸ばした。

丈の長い白衣から可愛らしく手の先っぽだけを出して、

豪健と望月に向けられる。


「悪いけどお断りだ。僕はいつの時代も、どこの世界でも、

勇者の、親父の息子だからね」


豪健は背を向けて校舎を目指して歩く。


「あたいもお断りっしょねー。理由は、けんちゃんが断るからです」


望月は楽しそうにあっかんべーと舌を出して、豪健の後を追った。


博士は軽くため息をついて、伸ばした手を降ろす。


「まあ、断ることは分かっていたのですよ。少し残念ですが」

「師匠。どうしてあいつらを誘うなんてことを」

「あらあら、冷静な藍らしくもないわ。

博士はあの二人の出方を観察していたんでしょう?」


有泉が博士に話の水を向ける。


「そういうことなのです。少し、気になることがあったのですよ」

「気になること?」

「明日、屋上のガチャガチャを調べれば分かることなのです。

それよりも、この木材を燃えやすいように高く組上げるのですよ」

「そうね、夜にならないうちに始末しちゃいましょう」

「まずは囲うように、木材をこの辺りに置いていくのです」


博士の指示で有泉は木材を運んでいく。


「了解した」


水無月も腑に落ちないながらも、組み立て作業に入っていった。

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