自分の正義のために泥棒だってする
「あれ、校庭の真ん中に何を運んでいるっしょかね~」
とっくに日は沈んでいるのに、
おでこに手を当てて、校庭の真ん中に注目する望月。
「大きな木材を運んでいるみたいなんだけど」
「あれ? 何か馬車とは違うおぞましい物体が車輪を回して動いているっしょ」
望月の言うおぞましい物体とは、荷台の付いた大型車のことだった。
「誰か乗っているな。白い服の小さい子」
「博士っしょね。魔法な乗り物でしょうか」
運転席には鼻歌混じりに運転している博士が居た。
アクセルやクラッチ等、少女の短い手足でも操作できるように、
改造が施されている。
博士は校庭の中央まで車を走らせて、そこで停止させた。
とうっ、と荷台に乗せられた丸太の上に有泉と水無月が飛び乗る。
「よーし、これで最後なのです!」
「気を抜かずに運び出すわ。藍、最後だしパワード手袋を使ってみない?」
「そんなもの必要ない。こういう労働も日々の鍛錬の積み重ねだ」
「はいはい。下手に落として足を挟まないようにね」
そう言いながら、有泉は紫色の手袋を両手にはめる。
そして太い丸太を苦もなく持ち上げた。
反対側から水無月も丸太に手を入れて持ち上げる。
こちらは少しだけ表情が険しい。
「同じ要領で、いっせーの、せで横に振って落とすわ」
「了解した」
有泉と水無月は呼吸を合わせて、丸太を振る。
掛け声を出し、ぽーんと放たれた丸太は、
既に無造作に置かれていた木材の傍らに鈍い音を立てて転がった。
「次」
「了解」
二人はテンポ良く荷台に積まれた五、六本の丸太を降ろしていった。
「やっぱり木を集めているみたいだな。何に使うか気になるところだが」
「ちょっと聞きに行ってみるっしょ」
「お、おい」
望月は豪健の返事を待たずに、駆け出した。
豪健はため息をつく。
ヤツらは革命組織の青い鳥。
世界滅亡の魔王を復活させ、親父を殺した憎むべきヤツらなのだ。
美術室でたんぽぽが水無月を連れてきたのは、
不意打ちだったからある意味良かったものの。
彼らと対面して、冷静で居られるだろうか。
いや、そうじゃない。
それは今の未来であって、これからの未来とは限らない。
今日と明日の過ごし方で魔王の復活も親父の死も阻止できる。
だからこそ、親父に剣を売らせないという奥の手をヤツらに悟られず、
且つ向こうの出方も観察する必要があるのだ。
ここは冷静に向き合え。
豪健は己に言い聞かせながら、望月の後を追った。
「精が出るっしょねー」
丁度全ての丸太を降ろした時に、望月は声をかけた。
「あーらら、おっぱいちゃんに見つかっちゃった」
「誰がおっぱいちゃんっしょ! あたいにはモッチーナという名前があります!」
「それもあだ名だろうが」
水無月がやれやれと指摘する。
「あー! 泥棒達なのです!」
トラックの運転席から博士が飛び出して叫んだ。
「お前らだって、親父の剣を勝手にカジノに飾っていただろう」
「ふん。あれはお前の親父がガチャガチャのために同意の下で売ったんだ」
「そうなのです。こちらは正攻法で侵略したのに、お前達は自分の正義のために
泥棒だってする、なりふり構わないクズ野郎なのですよ」
「な、なにおう」
酷い言われようだが、どことなく筋も通っているようで。
豪健が言いあぐねていると、望月が一歩前に出た。
「その通りっしょよ。けんちゃんは世界を守るために、
あたいはけんちゃんのために、なっちゃんはダンジョンのために、
ぽぽちゃんは全人類への憎しみのために、泥棒だって何だってするっしょ」
「たんぽぽは、お父さんのためだろ。きっと」
断言できないけど。
「あらあら、とんだ犯罪集団ね」
荷台の上から妖艶な笑みを浮かべて見下ろす有泉。
「でも、それは青い鳥だって変わらないはずっしょよ。
何が気に入らないか、わかりませんが。
今の平和な世の中を脅かす、魔王を復活させたっしょ」
「なるほど。こんな議論は無意味だと、お前は言いたいのだな」
水無月も腕を組んで荷台から望月を見下ろした。
「そういうことっしょ。あと、上から胸元を見ないで下さい」
望月は自分の胸元をさっと腕で隠す。
「ば、馬鹿野郎! 見るか、そんな肉の塊」
「相変わらずむっつりね~藍は」
んふふ、と楽しそうに微笑む有泉。
「話し合いのフェーズはとうの彼方に終わったということなのですね。
この日の沈んだ今の空のように」
博士が遠い目で暗闇に向かう空を眺めた。
「そうだよ。僕は今もお前たちを斬りたい衝動を抑えるのに苦労している」
「ふん。剣が無いのに、よくもそんなことが言えたものだ」
しまった、そうだった!
水無月の冷静な指摘で、
豪健は自分の剣が魔王を突き刺したままであることを思い出した。
「よ、予備の剣がある」
「何年、お前と剣を交えてきたと思っているんだ」
「けんちゃん、目が泳いでいるっしょよ」
元道場組の哀れみのこもった視線が豪健に注がれた。
「僕は争いをしに来たのではない!
お前たちが何をやっているのか聞きに来たのだ!」
豪健はごまかすように大きな声で言い放った。
それを聞いて、博士は得意そうに腰に手を当ててふんぞり返った。
「我々はキャンプファイヤーのお手伝いをしているのですよ」
「キャンプファイヤーのお手伝い?」
「そそ。本来ならここの学園生徒がやるんだけどねえ。
肝心の文化祭の方をちゃんと楽しんで欲しくって」
荷台に座り、投げ出した脚をご機嫌にぶらぶらさせる有泉。
「極力雑用を俺たちで引き受けているというわけだ」
「どうしてそんなことを」
青い鳥の説明に、自然と疑問が口をついて出る豪健。
「もちろん、RHLのキャラクター全員に文化祭を楽しんで貰いたいからなのです」
「そうだけど、僕たちが帰る分の魔力は集めなくて良いのか?
時間も全然無いのに」
「だからこそ、学園生徒に文化祭を楽しんで貰わなければならないんだ。
学園から供給している魔力が馬鹿にならないことは、
前回の予想以上に早く魔力を貯蔵できたことで判明している」
「まっ、今回は私達の分だけ魔力が溜まったら、
さっさと帰っちゃっても良いんだけどね」
「お前達をこのRHL世界に残したら、滅茶苦茶に荒らすに決まっているのです」
博士がそう断言する。
果たしてそうだろうか、と豪健は疑問に思うものの口には出さない。
先に帰られたら困るのは自分達だ。
「まあ、そうっしょね。学園中を無茶苦茶に破壊して、
この世界を破滅させてやるっしょよ」
望月もその意図を汲んでか、凶悪な発言をしている。
にしし、と歯を見せて怪しく笑ったりして。
あれ? ちゃんとフリだよな。
「どっちが世界を破滅させる魔王なんだか」
水無月が呆れてため息をついている。
その横で、有泉が目を煌かせ始めた。
「だったらこの可愛い魔王様にも手伝って貰っちゃおうよ。
ほら、まだ剣を使う作業がまだ残っているでしょう?」
「は? あれは俺の剣の鍛錬のための作業で」
「でもさー、藍はパワード手袋も使わないで頑張って運び出してくれて、
もうくたくたじゃない?」
んー、と有泉が小首を傾げながら水無月の顔を覗きこむ。
それは疲れの一滴も見逃さないよと言っているようで。
水無月は諦めてしっしと手を振った。
「分かったって。モッチーナにも手伝って貰えるか聞くよ」
「剣の鍛錬になるのなら、大歓迎っしょよ」
「だそうだ」
「決まりね。博士も良いでしょう?」
有泉が身体をかがませて聞く。
「準備が早く終わるのなら、それに越したことはないのですよ~」
呑気に手を振りながら答える博士。
「それで、具体的に何をやるっしょか?」
「簡単に言っちゃえば、剣でやる薪割りだね」
よいしょ、と有泉が荷台がから降りる。




