好きだあああああ!
一人で考えてもしょうがないと、豪健は宮下に話しかける。
「さっきから調理場の店員と何やら話をしているんだ」
「えっ?」
宮下も顔を上げて、調理場の方を見た。
「ここからじゃ内容はわからないけど、友塚が何かを店員に頼んでいるような」
「……赤い小瓶」
「なんだそれ」
「赤い小瓶を店員さんが指差している」
宮下が指摘した通り、店員は調理場の小瓶が並んだところ、
そこの赤い小瓶に向かって二、三度指差していた。
「調味料だろうか」
「あのパッケージはタバスコ」
「タバスコ、って何でそんなものを」
「かけるためかも。ニンジントマぱっ」
あっ、噛んだ。
宮下は頬を紅潮させる。
「トマトパプリカさつまいも玉に」
再び消え入りそうな声になる宮下。
猫耳メイドな姿も加味してか、辱んでいるその姿はぐっと来るものがある。
と、宮下の姿に見惚れている場合ではないと豪健は顔を振った。
「そうだとすると、勇者のお好み焼きにタバスコをかけることになるが」
「さらに雰囲気を濃く、過激な赤に染め上げるつもり、なのかも」
宮下が自分の両頬に手を置いて、悲痛な思いをあらわにする。
その前に豪健は宮下が何に絶望しているのか良く分かっていない。
「あの、僕にもわかるように言って欲しいんだけど」
「う、うん。えっと、勇者君は、その、いじめられるのが、好き? でしょ?」
宮下が控えめに、疑問系で聞いてくる。
腕組みをして豪健は頷いた。
「そうだ。確かに、勇者はいじめられるのが好きだぞ」
「だからこそ、ともちんは勇者のお好み焼きにタバスコを入れるのかも」
「なるほど。勇者は激辛なお好み焼きを食べる。
苦痛を味わう勇者。しかし、内心は大喜び。それを面白おかしく笑うともちん」
「二人を取り巻く空気はヒートアップ。情熱の赤へと変貌するの、か、も」
宮下が俯いてしまった。
ともちんめ、開き直って勇者との仲を僕らに見せつけるために、そんなことを。
原因の一端が自分にあるため、ここはどうにかしたいと豪健は頭をまわした。
「お待たせしました。豚玉とニンジントマトパプリカさつまいも玉です」
考えを巡らしているうちに、注文したお好み焼きが届いた。
店員さんは相変わらず流暢にメニューを言う。
「あ、豚玉はそっちの子で、僕がその赤いのです」
「はい。お熱いので、お気をつけて、お召し上がり下さい」
「ありがとう」
作りたての二つのお好み焼きがテーブルに置かれる。
並べてみるとその赤さが引き立つ。
「お、おい、これ本当に食べられるのかよ、おい」
「ここまで赤色にこだわったお好み焼きは珍しいかも。目に焼き付けておかねば」
お腹をすかせていたこともあって、
豪健と宮下はお好み焼きが運ばれてテンションが上がっていた。
「かつお節が踊っている間に、いただきますしちゃうかも」
「ちょっと待てい」
うきうき箸を持って、今まさにお好み焼きを摘もうとした宮下を止める。
「どど、どうしたの?」
「いいことを思いついた。
この赤いお好み焼きと勇者のタバスコ入りのお好み焼きを交換しよう」
「そ、そんなこと、できるの?」
「まず見た目はタバスコが入ろうと元からこの赤さだ。判断の付けようがない」
「でも、どうやって交換するかが一番の問題なのかも」
「確かに。タバスコ入りお好み焼きは
ともちんが厳重にマークしているはずだからな。ともちんの注意さえ
引きつける事ができれば」
うーん、と豪健は唸る。
「豪健君なら、ともちんの注意を引けるかも」
「ぼ、僕が?」
こくりと宮下が頷く。
「何か良い方法があるの?」
「ともちんに、愛の告白をすれば、良いのかも」
「ぶっ」
思わず吹き出してしまう豪健。
「本気?」
「半分冗談かも」
「な、なんだよ。たんぽぽみたいなこと言って、止めろよな」
クスクス、と口元を押さえて宮下が笑っている。
この緊急事態にからかう余裕はあるらしい。
「まあ、元はと言えば僕に原因があるし、ともちんの注意を引くよ」
「わかった。その間に私は、この赤いお好み焼きと
勇者君のタバスコ入りお好み焼きを取り替えることにする」
言葉に力を込めてやる気を出している宮下。
こんなに逞しい子だったかな、と豪健は苦笑いしながら調理場を観察した。
勇者卓の注文は豪健卓の注文のすぐ後だったため、
今調理場から運ばれようとしているお好み焼きこそが、タバスコ入りだ。
豪健は宮下に目配せを送る。
無言でお互いに頷きあって、席を立った。
ともちんの注意を引けば良い、と言ったけれども
調理場から運び出されようと置かれているお好み焼きをすりかえるのだ。
店員を含めた店中の人たちの注目の的にならなければならない。
となれば、考える時間もない今、方法は一つしかなかった。
友塚の席の前まで豪健は歩いて行く。
「あれ、ごうちん?」
近づいてきた豪健に気付いて、友塚が不思議そうに小首を傾げる。
「ともちん、僕は、ぼ、僕は」
言え、言うんだ。
宮下の想いが報われるために、言うんだ。
「ともちんのことが、好きだあああああ!」
「……」
シーン。
教室の時間が止まった。
箸を持ったままの人、口を開けたままの人、接客で頭を下げようとした人。
豪健の絶叫の告白で、店内に静粛が訪れた。
「……えーとお」
友塚が頬を赤らめて困惑している。
今や教室中の生徒が豪健に注目していた。
豪健の当初の目的は達成された。
「ともちんの、そのウサ耳メイドが、最高に好きなんだあああああ!」
「……は?」
「何故、モッチーナを犬耳にしたんだ!
どう考えてもウサ耳で良かっただろう! 犬耳なんかより断然ウサ耳!
長いウサ耳もう最高! ラブラビット!」
「……はぁ」
今度は呆れ満杯のため息をつく友塚。
こいつは何を言っているんだと、蔑んだ眼差しさえ感じられる。
「わかる。その情熱、良く分かるぞ豪健!」
横で聞いていた勇者が立ち上がって拳を突き上げた。
「おお、勇者も分かってくれるのか!」
「当たり前よ! けも耳はロマン! だが、猫耳には遠く及ばんがな」
なーっはっはっは、と高らかな勇者の笑い声が店内に響き渡った。
それを皮切りに、止まっていた時が流れ出したかのように、
教室は喧騒を取り戻していった。
「なに二人で意気投合しているのよ。
変に注目されちゃって一緒に居るこっちが恥ずかしいわ」
「あ、ごめん。でも急に押さえきれなくなって」
「分かるぞ、その気持ち、とっても分かるぞ!」
隣で何度も強く頷く勇者。
もうそろそろ、勇者のこれがうるさく感じてきている豪健であった。
「ま、良いけど。ほら、ゆうちんも座りなさい。お好み焼きが来たよ」
見ると、丁度店員が勇者卓にお好み焼きを運んできた。
座るように促す友塚の瞳が僅かに笑っている。
「うわあ、思った以上に真っ赤だな、こいつは」
「うんうん。栄養が豊富そうだよ」
「そうとも取れるが」
「ささ、早く冷めないうちに箸を持って食べなよ」
ノリノリで勇者に箸を持たせる友塚。
「お、おう。ともちんもな」
「分かっているって」
訝しがりながらも勇者は真っ赤なお好み焼きを一口サイズに切って、
それを口に運んだ。
「ど、どう? 美味しい?」
勇者の反応を見逃すまいと、期待の眼差しを向けている友塚。
豪健も宮下のお好み焼きのすり替えが上手くいったか、勇者を見守る。
勇者は険しい顔をしながらも、もぐもぐと咀嚼していく。
飲み込むと一緒に、大きく頷いた。
「うん。普通に美味しかった。いけるよ、これ」
「えっ、そ、そう?」
何ともない勇者のリアクションに、友塚は面食らっている。
豪健は内心ガッツポーズをした。
よし、すり替えは成功していたんだ!
勇者の反応を見届けて、豪健は自分のテーブルへと戻った。




