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剣を売ってガチャるな!  作者: 原 すばる
第五章 文化祭デート一日目編
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真っ赤な雰囲気

 豪健と宮下は騒々しい廊下を歩いていく。

普段よりも人通りが多く、なかなか前に進めない。見通しも悪い。


「宮下はあいつらが行きそうなところに、心当たりはあるか?」

「自信ないけど、お昼ご飯の時間だから食べ物屋かも」

「そうか。二人はデートの後に当番が控えているもんな。

今しかご飯は食べられないと」


うん、と隣を歩く宮下が頷いた。

格好はメイド服を着たままで、

頭に付いている猫耳が勇者の声を拾おうとぴくぴく動いていた。


「だったら温かい食べ物に目星を付けよう。勇者はアイスを馬鹿食いしていたし」

「温かい食べ物……。あれかも」


宮下が前方にある教室を指差した。

本場負けお好み焼き!

と看板が立てかけてある。


「本場負け?」

「この看板、真っ二つに折れた跡があるかも」


宮下が指摘したとおり、

看板の途中で何か強い衝撃でも加わったかのように折れて、

その部分を茶色いガムテープで修繕が施されていた。


「朝のウサギの行軍に巻き込まれたんだな」

「うん。ガムテープのところ、顔の字が隠れちゃってるかも」

「本当だ。本場負けのお好み焼き。誇張なしの嘘偽り無い看板になっちゃって」

「嘘を言わないのは大事なことだよ」


宮下がそうはっきりと言った。

ちくりと豪健の心が痛む。


僕はこの世界の住人じゃないことを隠して過ごしている。

それは、共に学園生活を過ごし、友人として接してくれる、

彼女らに対する裏切りではないか、と豪健は後ろめたさを感じた。


「とにかく、教室の中を覗いてみるか」


今はあまり考えないようにしよう、そう思いながら教室の中を覗いた。

お昼時なだけあって、ほとんど満席に近い状態で賑わっていた。

教室内で食べず、お持ち帰りサイズで注文する生徒も。


「さすがに混雑しているな」

「居た。教室の真ん中辺り」


宮下の鋭い口調。

豪健は視線を走らせる。

友塚の白いウサギの耳が頭一つ飛び出ているのを見つけた。


「ビンゴだ。どうする、僕たちも入るか?」

「うん。もっと近くで様子を見たいかも」

「オッケー」


豪健と宮下は教室に入った。

すぐに店員の生徒が見つけて、二人を空いている席へと案内する。


場所は勇者から見て斜め後ろの席。

勇者から見つかることはないが、友塚の視界には入っているかもしれない。


「ちょっと、いい加減注文を決めなさいよ!」

「うーん。豚玉かもう一方か」

「どっちだって良いわよ、そんなの」

「いやいや、午後の活動の命運を握る、大事なお昼だぜ?」


さっそく二人の揉めている会話が聞こえてきた。


「相変わらず勇者は優柔不断だな」

「今後を見据え、慎重に物事を吟味できる人だということ」

「物は言いようだけど」


勇者びいきの宮下に苦笑いする豪健。


「あんたにもう一方を頼む度胸なんてあるの?」

「ニンジントマトパプリカさつまいも玉のことか」

「緑黄色野菜が豊富で、栄養に良さそうじゃない」


えっ、もう一方って色物枠だったのかよ。

いかにも怪しい料理名だ、と豪健は不穏を感じた。


「緑黄色野菜、ツッコミとしてはありきたりかも」

「お前は姑か何かか」


つまらなさそうな顔で指摘する宮下に、どうしてか豪健は笑いそうになる。


「緑黄色野菜って、全部色が赤だけどな」

「括りの話をしているだけよ。

細かいこと言って、女の子の揚げ足を取らないの」


「カテゴリ名とずれた野菜の色を指摘。

それぞれの野菜の共通項を見つける冷静な分析力よ」

「全部色が赤って言うのは、ありきたりなツッコミだと思うけども」


何としても勇者のことを良く考えようとする宮下。

そんな彼女に、豪健はますます好感を抱いた。


「だって、赤色ばっかりの野菜だし」

「ゆうちんの鼻血でも混ぜれば、さらに赤くなるんじゃない?」

「俺の鼻血を何故混ぜる」

「勝手に混ざる癖に」

「それは暗に俺が変態だと言いたいのか?」


むっとしている勇者に、友塚はけらけらと笑う。

気の置けない間柄で生まれる心地よい空気。


「お客様、ご注文はお決まりですか?」


豪健のテーブルに店員の生徒がやってきた。


「……」


宮下は意気消沈していた。

仲睦まじい勇者のテーブルの空気でも感じ取ったのだろうか。


「えーと、じゃあ豚玉一つと何だっけ、もう一方の」

「はい。ニンジントマトパプリカさつまいも玉のことでしょうか?」


女生徒は一度も噛まずにメニューを告げる。

聞いている豪健がたじろいでしまった。


「そ、それを一つ下さい」

「かしこまりました。少々お待ち下さい」


店員が戻った後、豪健はふぅと息を吐いた。

気を落としている宮下に気遣って、

色物メニューを注文してみたが、反応なし。


「なあ、あんなやり取り、いつものことじゃんか」

「……違う。雰囲気が濃く、色付いている」


そう断言する。

観察眼の鋭い宮下が言うんだから、間違いはないのだろう。

どうしたものか、と困りながら豪健は二人の様子を伺う。


「ねえ、いい加減に決めたら? 後から入ってきた人も注文越されているし」


友塚はそう言いながら、辺りを見回した。

その視線が豪健とばったり合う。


一瞬だけ目を見開かせて、ふっと柔らかに微笑んだ。

豪健は盗み見ていたことがばれて気まずくなり、視線を外す。


「わかっているって。よーし、じゃあニンジントマトパプリカさつまいも玉だ」

「凄い! 良く噛まずに言えたね」

「これぐらいお手の物だよ」

「じゃあ、あたしは豚玉で。すみませーん!」


友塚が店員を呼んで注文している。


「ニンジントマトパプリカさつまいも玉ニンジントマトパプリカさつまいも玉

ニンジントマトパプリカさつまいも玉ニンジントマトパプリカさつまいも玉……」


ぶつぶつと宮下が消え入りそうな声で呟き出した。

まずい。というか、怖い。

一度も噛まずに早口で、呪文のごとく言っていく様が。


「お、おい、宮下。張り合うなって」

「真っ赤、雰囲気が真っ赤に染まっていくよう」

「真っ赤とか言うなよ、怖いから」

「怖い? そう、怖いのかも」


宮下が震える手で自分を抱きしめる。

豪健は介抱するように、その肩を支えた。

支えながら、友塚の方を見る。


どうにかしてくれ、友塚。

アイコンタクトを送った。


友塚は豪健の視線に気づく。

そして、豪健の両手が宮下の肩を支えていることにも。


むぅ、と頬っぺたを膨らませて不機嫌になる。

豪健は自分の手元を見て、しまったと思った。

だからと言って手を離すわけにもいかず。


違う、誤解だ友塚! ご、か、い!


口で表してみても効果なし。

くそっ、むきになった友塚が余計に勇者といちゃらぶし始めた日にゃあ、

付き添った意味がないどころか、邪魔。宮下の恋路の邪魔をしただけで終わる。


「ごめん、ちょっと席を外すね」

「どうした? トイレか?」

「もう、女の子にそういうこと聞かないの。デリカシーないんだから」

「はいはい」


宮下が席を立った。

そのままこちらに来るのではないかと豪健は身構えたが、別の方へ歩き始める。

教室の前方にある調理場だ。


そこで接客している生徒に話しかける友塚。

何かを聞いている様子だ。

生徒は友塚の問いに、うんとハッキリ頷いてこちらを見る。


正確には勇者を見て、友塚も店員生徒も頷いていた。

一体何をたくらんでいるのやら。

豪健には皆目検討がつかない。


「友塚の動きが怪しいな」

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