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剣を売ってガチャるな!  作者: 原 すばる
第五章 文化祭デート一日目編
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アイスを一瞬で水蒸気に変える罵倒

「ふう、食べましたなあ。美味しかったのと、

スイーツなのにナイフとフォークで食べるのが新鮮で大満足ですぞ」

「ちょっと待て。まだお皿にチョコアイスが残っている」


勇者がお皿の上に溢れているチョコアイスの残りを指差した。


「しかし、それを食べるのは至難の業で」

「いや、こうやれば食べることができよう!」


勇者はお皿を持ち上げた。嫌な予感がする豪健。

持ち上げたお皿を、そのまま口の前まで持っていく。

そうして、舌を出してぺろぺろと舐め始めたではありませんか。


「ちょ、ちょっと勇者氏」

「ふむ。これぐらいちゃんと食べないと、食べ物を残してしまうからな」

「しかし、それはあまりにも」


豪健は思い出す。

親父はパンの一欠でもスープの一口でも残すことを嫌うことを。


それは、魔王討伐の旅をしている時に、餓死寸前になったことから

食べ物は粗末に扱ってはならないと心に誓ったらしい。


しかし、ここは学園の教室。

文化祭の華やかなメイド姿の生徒が接客するけも耳メイド喫茶。

勇者の行為は、あまりにもはしたなかく見えた。


「す、すみません。やっぱりカキ氷に変えて下さい」

「私も、おはぎに」

「俺は別の出し物に行くわ」


他の生徒もそれを見てアイスモチの注文をキャンセルする。席を立つ人も。


「うーん、美味だなあ」


当の勇者はぺろりと唇を舐めて満足げだ。


「ちょいっと、たくさんキャンセル入っているっしょ」


望月が慌てた様子で豪健の席にやって来た。


「勇者にも困ったものだ」

「他人事みたいに言うなっしょ。けんちゃんのお父さんです」

「うっ、他人であって欲しかったが」

「もうおモチの中にアイスを入れちゃったっしょ。五個ぐらい」

「こうなったら、自分の始末は自分でして貰わないとだな」


豪健はホワイトボードの文字を消して、新しく文字を乱暴に書き殴った。


追加で五個頼め! 罵声を浴びせてでも


それを見た夏目は、あわあわとし出す。


「ん? 夏目、どうしたんだ?」

「あ、あのですね勇者氏。このおモチアイスは本当に美味しかったですなあ」

「ああ。文句の無い絶品だったな」

「そこで、あと五個追加で頼んでみるというのはいかがですかな?」

「えっ、あと五個も?」


勇者は驚愕の声を上げる。


「なんの、勇者氏なら余裕ですぞ」

「そ、そんなことは、ないんじゃないかなあ」


あはは、と苦しそうに笑う勇者。

夏目は意を決したかのように、テーブルに肘をついた。


「はあん。だらしないですなあ、勇者氏。

我輩はもっと甲斐性のある漢だと思っておりましたのに」

「あ、うっ」

「ここでアイスモチを五個平らげてこそ学園の有名人

勇者の面目が保たれる、いや、光り輝き出すと、そう思いませんかな?」

「そ、そういうものかな?」

「そうですぞ。このままだと、何をやっても中途半端、

肝心なところでは意気地の無い、インチキペテン師うじ虫勇者

なんて呼ばれてしまいますぞ」


実は既に美雪に呼ばれていたりして。

しかし、普段常識人で口調の丁寧な夏目が、

こういう言葉責めをするのは、ギャップが凄まじいな。


ちょっと来るものがあるかも、と豪健がうずうずしていると

すぐ隣で豪健の表情を見つめていた望月がむっとなった。


「けんちゃん、何を妄想しているっしょか?」

「な、何も、考えていないよ」

「親子ですからね~。けんちゃんはなじった方が嬉しいっしょ?」

「ば、馬鹿言うな。それより注文入ったぞ」


豪健は勇者のテーブルを指差して、しっしと手を振った。


「あの、さっきのアイスモチを五個追加で」

「わかったっしょ。すぐに持ってきますね~」


笑顔で受け答えしてから、去り際に豪健の方をちらりと見る。

望月は妖艶な雰囲気の流し目を送って、戻っていった。

悪くないかも、と豪健は密かに思った。


 その後、すぐに五個のアイスモチが運ばれ、

二個目までは順調に食べていく。

しかし、三個目からいよいよ勇者のお腹が冷えてきた。


「ううっ。結構きつくなってきたかも」


お腹をさすっている勇者。

これでガチャガチャでも回されたら本末転倒だと豪健は焦る。


「あっ、豪君まだ食べているの?」

「良いところに来た、美雪」


勇者の所為でお客さんがそこそこ出払ってしまったため、

暇になった美雪が豪健のところに遊びに来たのだ。


「なになに、さっそく美雪を服従させちゃうの?」


ん~、と豪健の膝の上に乗って身体を寄せてくる。


「近い、近すぎる。僕の対面に座ってくれ」

「うん? 良いよ~」


豪健におでこを押され、潔く向かい側の椅子に座る美雪。


「今、勇者がアイスモチに苦戦中なんだ」

「良いことじゃん」

「そうだ。だから、美雪には勇者をさらに追い込むようなことを

このホワイトボードに書いて欲しい」


豪健は真っ白なホワイトボードとペンを美雪に渡す。


「へぇ~楽しそう!」


美雪は目を輝かせて、ペンを握り締めた。

そして一秒も考えることなく、ホワイトボードにペンを走らせる。


「こんなんでどうかな?」


そのまま凍え死んで氷付けになって(はあと)


字体は女の子が書く曲線を強調したモノで、

末尾のハートマークが可愛らしさをアピールしている。

それでいて書いてある内容が殺意に満ちていた。


「良いね。美雪らしい罵倒だ」


照れている美雪を他所に、

豪健はこれを言え、と矢印マークで付け足してから夏目に掲げて見せた。

夏目は驚き目を見張る。


豪健が力を込めてガッツポーズを作った。

ううっ、と心の中で泣いて夏目は顔を引き締めた。


「手が止まっているようですが、どうしたのですかな」

「さ、さすがにお腹が冷えてきたみたいだ。身体の内側が寒く」

「だらしないですなあ。そっその」


こほん、と夏目は咳払いをする。

心なしか頬が赤い。


「そのまま凍え死んで氷付けになったらいかがですかな?」

「う、うわあ」


勇者は追い詰められ嬉しい悲鳴を上げ、

三個目のアイスモチを平らげていく。

フォークを口に運んでいくスピードが先ほどよりも速い。


「ねえ、ちょっと。元気になったように見えるわ」

「気のせいだろう。さあ、次に備えて今よりも激しい罵倒を書いて欲しい」

「わかったけど……」


美雪は戸惑いながら、再びホワイトボードを持った。

少し悩みながらも、今度もスラスラと時間をかけずに書いていく。


その薄汚い氷付けうじ虫をガリガリ削りたい(はあと×2)


「どう? 美雪、上手く書けてる?」


不安そうに聞いてくる。

思わず守ってあげたくなるような美雪の表情だが、

書いてあることは殺意と狂気に満ちていた。


「素晴らしい。僕には絶対に思いつかない罵倒だよ」


豪健はさっそくこれを言え、と矢印で付け足した。


「こ、今度こそ、ちょっと無理かも。身体が震えてきた」


勇者はアイスモチの四個目で手が止まっていた。

グッドタイミングだとホワイトボードを掲げる豪健。


それを見た夏目は顔を左右に思いっきりかぶり振った。

今までのを見れば分かるだろ夏目、

親父にとってはむしろご褒美なんだからいける!


いける、いけ! と豪健は必死でゼスチャーを送った。

何たること、と夏目は一瞬泣きそうな顔になりながらも、顔を引き締めた。


「身体が震えて来たのですかな?」

「う、うん」

「氷付けになるだけじゃ飽き足らず。

あなたみたいな薄汚い氷付けうじ虫は、ガリガリ削ってカキ氷にして

食べてあげたいですなあ」

「う、うひょおおお」


勇者は狂喜の悲鳴を上げて四個目を平らげ

勢いそのままに五個目も食べてしまった。


胃の中に流し込まれていったアイスは、

一瞬で水蒸気になりそうなほど、勇者は内側から燃える何かを感じていた。

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