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剣を売ってガチャるな!  作者: 原 すばる
第五章 文化祭デート一日目編
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けも耳メイド喫茶

「そろそろ来る頃だと思っていたっしょよ!」


満面の笑顔も眩しいが、

さっきは薄暗くてちゃんと見えなかった望月のメイド服が目に染みた。

耳もウサギから猫へと変わっている。


「お前も猫耳メイドの姿で接客中か」

「ふん? これは猫耳ではないっしょよ」

「えっ、そうなの?」

「わんちゃんの耳っしょ! ともちんがこっちの方が似合うって」


確かに良く見ると茶毛交じりで先がトンガリ風味の耳。

犬耳だ。


「ともちんはモッチーナのことは犬押しだもんな」

「どうしてっしょかねー。自分が猫だとは思いませんが」


不思議そうに視線を上に向けて、自分の犬耳をいじる望月。


「従順な感じがするからじゃないか?」

「えー。あたいって従順っしょか?」

「うん。僕の命令なら何でも聞きそうだし」

「それは当たり前っしょが」

「当たり前!」


思わず声に出して驚いてしまう豪健。


「そうそう。ごうちんの言うことなら何でも聞いちゃうもんねー」


噂をすれば友塚が望月の背中からひょっこり現れた。

こちらは猫耳メイド姿で、悪戯っ子な笑みを浮かべている。


「もっちんは調理チームなのに、

さっきからご主人様の帰りを待ちきれないみたいで、飛び出して行っちゃって~」

「あ、そっか。お前は料理を作るんだもんな」

「しかも、ごうちん以外の人には噛み付いちゃうもんねー」


からかう友塚の態度に、望月はむうと上目遣いで睨む。


「ともちん?」

「さあて、噛み付かれないうちに調理に戻ろうっと」


軽くスキップをしながら友塚は素早く戻っていく。


「確かに友塚の言うとおりかもな」

「ともちんの調理台にも爆弾を仕込んでおけば良かったっしょねー」

「ははは。お前には無理だよ。僕の犬だからな」


言いながら豪健は望月の頭に手を置いた。

不機嫌そうにむすっとしながらも、されるがままに頭を撫でられる望月であった。


「そういや、夏目のデートはどうなった?」

「あそこの窓際で勇者と一緒っしょ」


望月が指差した方を見ると、確かにひし形テーブルに

勇者と夏目が向かい合うように座っていた。

背筋をぴんと伸ばして、姿勢が良すぎる。


「なあ、あれ大丈夫か?」


傍目から見ても、二人とも肩に力が入って緊張していた。


「全然大丈夫じゃないっしょよー。案内してからお互いに一言も話していません」

「だったら早くフォロー入れて来いよ」

「わかっているっしょ。今、秘密兵器を美雪が作っています」

「秘密兵器?」

「あら、なかなか戻って来ないと思っていたら、

美雪の豪君とイチャイチャしていたなんて、罰金モノね」


今度は美雪が望月の背中から現れた。

金色の猫耳もぴんと立ててご立腹のようである。


「あっ、美雪」

「豪く~ん。あのインチキペテン師うじ虫勇者のデートを盛り上げるために、

美雪頑張ったんだよ~」

「おやじっ、じゃなくて勇者も酷い言われようだな」

「ガチャガチャで他人の心情まで操作する普段の素行を見れば仕方ないっしょ」

「そう聞くと悪魔の所為だけど」

「そうよー、豪君はこわ~い悪魔から美雪を守って欲しいの」


そう言いながら豪健に身体を寄せる美雪。


「ちょいっと、くっつき過ぎっしょ!」

「おもちちゃんがサボっている間に頑張ったんだからこれぐらい良いでしょ」

「さっきから気になっていたんだが、美雪の持っているそれは何だ?」


美雪は片手で平皿を持っており、その上に白くて丸いものを二個乗せていた。


「これはアイスをおモチで包んだ美雪特製スイーツ。名付けて雪見」

「ちょっと待つっしょ!

そのアイスにモチを包むアイデアはあたいが考案したっしょよ」

「でもー、あの冷たい靴底を使って

アイスを溶かさずに包む方法は美雪が考えたわ」


むむむと睨む望月を余裕そうに見つめる美雪。


「へぇ~このお菓子は二人の合作だったのか」


随分と仲良しになったものだと豪健は安堵する。


「おモチちゃんがほんの少し力を貸してくれたおかげだわ」

「原料のおモチがなければ存在しなかったスイーツっしょ」

「いがみ合うのは後にして、溶けないうちに早く持って行きなよ」

「そうっしょよー」


望月は舌を出して豪健に便乗する。


「ふんだ、わかっているわよ」


そう言いながら美雪は望月の襟首を掴んだ。


「わわっ、何をするっしょ!」

「それじゃあ、豪君また後でー」


笑顔を見せて望月を引きずっていく。

片手でスイーツを落とさずに、もう片方の手で望月を引きずっていく。

意外とバランス感覚があるな、と豪健は感心した。


「僕にもできることを探そうか」


空いている席を探すと、

丁度勇者と夏目が座っているテーブルの隣席が空いていた。


「じゃあたんぽぽ、あの辺りに……。って、あれ?」


隣に居たはずのたんぽぽの姿がない。

教室を見渡すと、一番端の席でつばきとウサギを愛でていた。

いつもの光景。


「相変わらずマイペースだな」


豪健は軽くため息をついて、勇者の背中側にある隣席に座った。

ちらりと見ると、夏目と目が合った。


豪健は頑張れとガッツポーズをしてみる。

ぶるぶると夏目は険しい表情で顔を横に振った。

当の勇者は美雪の運んできた秘密兵器に釘付けである。


「これ、どど、どうやって食べるのかなあ?」

「さ、さあ、我輩は存じませんぞ。とりあえず、つついてみるのはいかがかな?」

「そ、そうだな」


身体の内側がムズムズしそうなぎこちなさ。

夏目は百歩譲って仕方ないとして、

親父はあんなんでどうやって世界を旅して来たのだろう。


豪健は歯痒い思いをしながらデートの様子を伺う。


「やっほー、豪君一人でスイーツだなんて寂しいわねー」


美雪が威勢良く接客に来た。

豪健は人差し指を立てて唇の前に持っていく。


「しー、静かに」

「ど、どうしたの?」

「あっちのデートを僕もフォローするから、紙とペンを持って来て」

「わかったけどー」


んー、と悩ましげに豪健を見つめる。


「な、なんだよ」

「豪君が美雪とデートしてくれたら、全面協力しちゃうかも」

「えっ?」

「嫌?」

「嫌ってわけじゃないけど」

「ね、お願い、一度だけで良いの。そうしたら何でも言うこと聞いちゃうから」

「なな、何でも?」


うん、と美雪が顔を近づけてくる。

メイド服に白いエプロンをかけたその上からでもわかる強調された胸の膨らみ。


「ねっ、いいでしょう?」


半分開いた窓から風が吹く。

揺らいだ金色の髪が、豪健の頬を撫でる。

金色の耳がぴんと立っている。


「わ、わかった。デートをしよう」

「やったあ! 豪君大好き~」


ひしっと抱きつく。甘いにおいが広がる。

女の子ってどうしてこんなに柔らかいのか、と豪健は骨身に染みる。


「お客様~、ご注文はまだっしょか?」


突然耳に激痛が走った。


「いたっ、いたたたた」


大きな声を出せず、小声で我慢しながら痛みに耐える豪健

望月が豪健の右耳を引っ張っている。その手を美雪が押さえた。


「ちょっとーお客様に失礼なことをしちゃやーよ?」

「他のお客様のご迷惑にもなりますので」

「あら、あなたのご迷惑になるんじゃなくって?」

「そうっしょよー、あたいのご迷惑になるからさっさと注文聞いて戻るっしょ」

「開き直るとは良い度胸だわ」

「仕事中にデートのお誘いをかける方もっしょね」


望月と美雪は額がくっ付きそうなぐらい接近していがみ合っている。


「ちょっと、二人とも止めて。穏やかにいこうよ、ね」

「まあ、豪君の命令なら仕方ないわ。美雪は絶対服従だもん」


ねーっと豪健には笑いかける。

望月にはべえっと舌を出して、美雪は調理場の方へ戻っていった。


「けんちゃん、あの金髪どぶ猫を服従させるためにデートをするっしょか?」


むすっとした表情で見送ってから、

笑顔でモンスターに見せる殺気を豪健にぶつけてくる。


「い、いや一回だけの約束だし、服従って言い方の問題で、

例の勇者のデートノルマのお手伝いもして貰うつもりだよ」

「ふーん? あの金髪ハレンチどぶ猫の色香に当てられたんじゃないっしょか?」

「ち、違うよ。これも言わば世界を救うためのデートさ」

「世界を救う、が免罪符になると思っていそうっしょねー」


はは、と乾いた笑いしか出ない豪健。


「ま、無事に元の世界に戻ったら、たっぷり甘えてやるっしょよー」

「そいつは楽しみだ」


ふふっと妖しく笑って、望月も調理場に戻っていく。

無事に元の世界に戻ろうな、魔王のいない世界に、

と豪健は誓いを込めてその背中に心の声を投げかける。


その豪健の近くのテーブルで、丁度終わりの会話を耳にしていた人物が居た。


「元の世界?」


友塚は訝しがりながらも、今はそれ以上のことを豪健や望月には聞かなかった。

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