人間はゴミだからノーカウント
たんぽぽが今度こそ黒い幕を持って美術室に戻って来た。
豪健は教室の中央に二段重ねにした机を二つ並べる
「まさかあいつらも来ていたとはな」
「まさか黒幕が早々に見つかるとは思わなかった」
お前な、と豪健は呆れながら黒い幕を受け取った。
布にしては重いが、手触りは滑らか。
「無敵だよな、お前ってさ」
「……違う。私もあなたもただのゴミ」
「そうだったな」
クスッと豪健は笑って、黒い幕を重ねた机にかけた。
「よし。あとは表と裏に二枚ずつ絵画を貼って飾りつけ完了だ」
豪健の指示に従い、宮下は残された四枚の絵画を持ってくる。
それを三人で手分けして画鋲で貼り付けていった。
「こ、これでひとまず、完成? かも」
「おう。今ある作品の飾りはこれで精一杯だな」
豪健らは遠目から貼られた四枚の絵画を見る。
うーん、どう頑張っても寂しく見えてしまう。
「寂しく見える」
「思っても言うな」
「豪健君も思っていたんだ」
「あ、いや……。はい」
たんぽぽに突っ込みを入れたはずが思わぬ墓穴。
宮下はますます俯いて絶望を噛み締めているようだった。
本当はもっと枚数があって、華やかに飾るはずだったのに。
とにかく、この寂しい雰囲気をどうにかしなくては美術部の存続が危うい。
何故寂しいかと言えば、僕達が元の世界に戻るために
絵画を魔力変換に使ってしまったからだ。それらを復元することはできない。
絵画を無くした直接的な原因が自分にあるだけに、豪健は必至で頭を回転させた。
ならば、今から新しい作品を作る。
これしかない。
「今から新しい作品を作ろう!」
「時間ある? 既に文化祭は始まっている」
たんぽぽがその発言を予期していたかのように淡々と指摘する。
「人海戦術だ。複数人で大きな作品を作れば短時間で、インパクトも出る」
「大きな作品って、どこにそんな」
「あれを使おう」
豪健は美術室の正面を指差した。
そこには壁の端から端までスペースを取っている黒板があった。
「黒板のチョークアートは凄いけど、ある程度技術がないと難しいかも」
「チョークアート? チョークは使わないよ」
「チョークを使わずに、黒板に何をするの?」
「絵を貼る。ただし、一枚の絵になるような絵を」
「一枚の絵を複数人で作るということ?」
「そうだ。僕達のクラスの飾りつけで折り紙を使っていただろう?」
「あーそういえば、あったかも!」
「折り紙って何?」
たんぽぽが分かってなさそうに小首を傾げる。
クラスの出し物の手伝いをしていたならば、絶対にわかるはずだが。
「お前はずっとさぼってウサギと戯れていたからな。知らないだろうよ」
「うん、ちゃっちゃか説明して」
憮然とした態度のたんぽぽを、豪健は張り倒したくなる衝動に駆られる。
「折り紙というのは、赤や青や緑といった色んな色の四角い紙のことかも」
豪健の代わりに宮下が解説してくれる。
「その色んな紙を黒板に貼るの?」
「そうだ」
「絵になるの?」
「デタラメに貼ったら絵にはならないよな。
だから、宮下にまずは下書きを書いて貰う。黒板にチョークを使って」
「え、ええ? 私が、下書きを?」
「意外そうにしないで。あなたしかできない」
たんぽぽが豪健の意図を理解し、うろたえる宮下に対し淡々と断言する。
「美術部員は宮下しかいないし、僕達は手を動かせても絵に関しては素人だ」
「で、でも。一体、どんな絵を描いたら良いのか」
「私を描けば良い」
事も無げにたんぽぽは言ってのけた。
「いやいや、お前はもう十分、良い絵を描いて貰ったじゃないか」
「足りない。私は絵の中に居るのが好きみたい」
「ゲームの中に居る癖にな」
「ゲーム?」
宮下が訝しげに聞き返す。
豪健は慌てて両手を振った。
「あっ、こっちの話、こっちの話。
あと、たんぽぽの絵じゃなくても良いからな? 自分の描きたい絵にしなよ?」
「う、うん」
曖昧に頷く宮下。
「そうと決まれば、僕達は折り紙と人員の確保だな」
「夏目のデートの様子も気になる」
「じゃあ、行くところは決まりだ。宮下は下書きを描き始めていてくれ」
「わ、わかった」
どうしようかと思案しながら黒板に近寄る宮下を見届けて、
豪健とたんぽぽは美術室を後にした。
美術室を出ると、予想以上の熱気が押し寄せた。
呼び込みをかける人、食べ物を売り歩く人、
この学園の制服じゃない服装で歩く人、足元を駆け回るウサギ。
「なんか、カオスだな」
「カオス」
「お祭りに来ているみたいだ。城下街の」
「城下街のお祭りよりも賑やか」
隣を歩くたんぽぽがぼそっと言う。
豪健は少しムキになった。
「うちのお祭りだって賑やかだろう?」
「ウサギがいない」
「そうだけど、その分民衆が頑張って盛り上げて」
「人間はゴミだからノーカウント」
黄身色の髪を熱気になびかせて涼しい顔のたんぽぽ。
豪健は深くため息をついた。
「……最初っからウサギしか見えてないのね」
「気が重い」
「これだけの人間の熱気だ。人間嫌いのたんぽぽには重いだろうよ」
「デートしたくない」
「その話かよ! 夏目にも言ったけど、世界を救うデートなんだぞ?」
「私の想いを救って欲しい」
たんぽぽは眠たそうな上目遣いで豪健を見た。
私の想いって、現実世界では死んでいる父親への。
「うっ、なかなか重いことを言うのね」
豪健が項垂れている様子をちらりと盗み見て、たんぽぽは口を開いた。
「……半分冗談」
「おい」
「美術室での豪健の言葉は忘れていない」
それだけ言い残して、たんぽぽは前を歩いて行ってしまった。
現実世界にはモンスターが居て、今日まで生きて来られた恩もある。
そんな豪健の言葉で、世界を救う理由に納得しているたんぽぽ。
「しかし半分って」
もう半分はデートしたくないっていうたんぽぽの本音なのだろうと
苦笑してしまう豪健であった。
目的の自分達の教室前で待っていたたんぽぽに追いついた。
先ほどまでは無かった看板が立てかけてある。
「けも耳メイド喫茶」
たんぽぽが文字を読み上げ、看板の頭を触った。
看板にはさっき宮下や友塚が付けていた猫耳が付いており、
それを面白そうに摘まんでいるたんぽぽ。
「よくウサギに倒されなかったな」
「ウサギの大群を予期していた。父さん……、つばきが」
「ああ。ウサギの動きを理解しているのは、お前とつばきぐらいだな」
豪健は微笑みながら教室の扉を開いた。
「お帰りなさいませ、ご主人様!」
「どわっ」
目と鼻の先に望月が飛び出してきた。
豪健は面食らって後ずさり。




