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剣を売ってガチャるな!  作者: 原 すばる
第五章 文化祭デート一日目編
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緊急会議

 薄暗い室内、四角にくっ付けられた四つの机。

その一つに両肘をつき、顎を乗せて、物々しい顔つきの豪健が口を開いた。


「みんな、良く集まってくれた」

「まさか我輩の見つけた空き教室に、

再び足を踏み入れるとは思いもしませんでしたぞ!」


紺のジャケットを着たまま、夏目は満面の笑みで豪健らを見回す。

オブジェクトの魔力変換のために、この教室のモノはほとんど運び出した。

残った机と椅子をかき集めて、どうにか四方に向かい合って相談できている。


「元は美術室みたいだけどな。僕達が屋上に運んだせいで、絵もほとんどない」


文化祭が始まり、学園生徒の興奮は最初の最高潮を迎えていた。

そんな熱気を遠くで感じながらも、この美術室だけはがらんと虚無だ。

ひんやり冷たい空気が肌を伝う。


「これだけのオブジェクトを魔力に変えて現実世界に戻ったのに。

あたい達はまたこの世界に来てしまいました」


望月が困惑した表情で言った。

豪健は頷く。


「現実世界では文化祭明けの後片付けをしている。

このリアルタイム進行に追いつけば、僕たちは永遠にこの世界に居続ける」

「二日後というわけですな。

我輩たちは博士から盗んだシルバーサーバのおかげで

この世界のリプレイを辿っている」

「な、なーんか、ややこしいっしょね。リアルタイム進行とかリプレイだとか」


豪健と夏目は校長室で受けた説明を理解していたのだが、

望月は首を捻って難しい顔をしている。


「何でも仕組みは難しいものさ。魔力の原理とか説明できないけど、

僕たちは魔力を使って身体能力以上のスピードを出したり跳躍したりできる」

「文化祭が終わるまでのリプレイ期間に

戻るための魔力を集めなければならない。

それだけ分かっていれば十分ですぞ」

「う、うん。そうっしょね!」


どうにか合点承知とばかりにガッツポーズを作る望月。


「戻って、どうするの?」


今まで黙りこんでいたたんぽぽが口を開いた。


「どうするって……」

「私達はここに逃げて来たのに、戻ってどうするの?」


畳み掛けるようにたんぽぽは言った。


「戻ったところで、復活した魔王に殺されるのが落ち、ですかな」


夏目がうな垂れる。


「そ、そんなことないっしょよ! さっきはふいを突かれましたが

今度こそ魔王にもちもち剣を食らわすっしょ!」


威勢の良い望月の声も、虚しく聞こえてしまう。


伝説の勇者が魔王に負けて死んでしまった今、

豪健らが戻ったところでどうにかなるとは思えなかった。

殺意を持った魔王に殺されるのは目に見えている。


「だったら、いっそここに居続ければ良い」


たんぽぽが変わらず淡々と言ってのける。


「死ぬぐらいなら、この世界の住人として生き続けるですか。

それもまた一つの選択肢。

いや、有力な選択肢だと我輩は思いますぞ」

「ちょ、ちょいっと待つっしょ!」


バンッ、と机を叩いて望月が立ち上がった。

大きな音が薄暗い教室の隅に飲み込まれる。


「それは現実の、あたい達の過ごしてきた世界を見捨てるということっしょか?

魔王が復活してしまったあの世界を」

「戻ったとしても死ぬだけ。結果は同じ」


たんぽぽは垂れた目つきの奥を鋭く光らせて、望月を見上げた。


「違うっしょよ!」

「何が、どう、違うの?」

「それは……」


言葉が喉に詰まる望月。

豪健はゆっくりと息を吐いた。


「それは、僕達が過ごしてきた世界には恩があるからだ」

「恩?」


たんぽぽは豪健に向き直る。


「僕らが今日まで生きてこられたのも、

獣の肉、甘い果実、澄んだ水を与えられ、元気に成長できたからだ。

時に優しく、時に厳しい住人たちに囲まれて、人間性も養うことができた」

「……」


たんぽぽは黙って耳を傾けている。


「何より自分を育ててくれた家族が居る。

そんな一生かかっても返せないような恩がある世界を、

僕は見捨てられない」

「……私には、家族はいない」


豪健は熱を込めて言ったものの、たんぽぽは冷たく呟いた。


「たんぽぽ氏、家族なら居るじゃないですかな」

「そうそう、ぽぽちゃんの家族なら現実世界に居るっしょよ」


夏目も望月も当然だと言わんばかりにお気楽だ。


「私の、家族?」

「モンスターのことだろう」


豪健は言ってやった。

あっ、とたんぽぽが吐息交じりに驚く。


「この世界にはたんぽぽ氏の好きなモンスターがおりませんからな」

「まだ生きているお父さんも居るようだけど、それは一時の幻に過ぎない。

二日後にはこの世界からもいなくなるのだから」

「ぐっ」


たんぽぽは珍しく苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

死んだ父親のぬくもりを、

つばきを通して感じていたことを責められているようで。


一方で望月は豪健の様子を伺っていた。

たった今たんぽぽに向かって言った豪健の言葉は、

そっくりそのまま豪健自身にも当てははまる。


けんちゃんはこの世界のお父さんについて、何にも思っていないっしょか?

そう、心の中で投げかけた。


「でもでも、戻ったら死んでしまう」

「いや、今、話していて、気になったことがあった」


豪健は待ったと手のひらを見せて、そのまま顎に持っていき思案する。


リアルタイム進行は二日後。

つまり自分達は現実世界よりも二日前の世界に居る。

ゲームの世界という条件付だが。


このからくり、上手く利用できないか?

現実世界に戻れば魔王に殺される。

ならば、魔王を倒すための秘策を戻るまでに……。


いや、勇者が、親父が死んでしまった今、そう易々とあるわけがない。


だったら、魔王復活の阻止。

魔王が復活しなければ殺されもしない。

復活したのは文化祭後なのだから、手は打てるはず。


そんな手が、あるのか?

そもそも魔王が復活したのは何故だったか。

それは、親父が伝説の剣を売ったからだ。


売られた伝説の剣がガチャガチャによって力が弱まり、魔王の封印が解かれた。

親父が剣を売ったのはいつだ?


「……文化祭だ」

「む?」


たんぽぽが小首を傾げた。


「親父が伝説の剣を売ったのは、文化祭のせいだったんだ」

「えーと、五人の女の子とデートして、キャンプファイヤーで踊る、

だったっしょか?」


望月がおでこを人差し指で押しながら思い出していく。


「そう、それ! 親父はその文化祭イベントを楽しむために、

剣を売ってガチャを引いたんだ!」

「売られた伝説の剣があの魔王復活のトリガーとなっているわけですな。

それを防ぐためには」

「親父にガチャを引かせずに、この二日間の文化祭を過ごして貰う!」


豪健は拳を強く握り締めて立ち上がった。

その瞳には光が宿っていた。

希望の光。

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