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剣を売ってガチャるな!  作者: 原 すばる
第五章 文化祭デート一日目編
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いざ、運命の文化祭開催!

「ゆ、勇者が出たああ!」

「なんだあ、お前。人を幽霊でも見るみたいにビビりやがって」


両手をあげて驚愕する豪健に、勇者は眉間に皺を寄せて訝しがる。


幽霊でも見ているんだよ、と豪健は心の中で突っ込みを入れた。

ゲームのキャラクターを通しているとは言え、

その向こう側では親父が健在なのだ。


嬉しいような悲しいような、手放しで喜べない複雑な気分。

たんぽぽもこんな気持ちを抱えて、お父さんと接していたのだろうか。


「今までどこにおったべ。オラあ、心配したっぺーよ」


勇者の隣にはそのたんぽぽのお父さん、つばきも並んで立っていた。

豪健は慌てて手を振る。


「悪かった。ちょっとな」

「って、ぬああ! 望月が、とんでもなくとんでもない格好でえ!」


今度は勇者が両手をあげて仰天し、望月を凝視する。

バニーガール姿の望月を。

その様子に、友塚がため息をついて勇者の耳を引っ張った。


「はいはい、さっさと文化祭の最後の飾りつけをやりましょうねー」

「いでっいたたたた! 離せ! ともちん! この暴力おんなああ!」


友塚に耳を引っ張られながら、教室の中に連れ込まれる勇者。

なんか、家でのやり取りを見ているみたいだと豪健は苦笑いする。


「ほら、おモチちゃんも。うちのメイド喫茶が開店するまでに着替えてきて」

「着替えのメイド服はあそこ、かも」


教室の奥にある机を縦にならべて黒幕で隠してある場所があった。

物置にしているのだろう。


「ありがとうっしょ!

けんちゃん、あたいの更なる可能性を楽しみにしているっしょ!」

「せいぜい、美雪の二の舞にならないことを祈っているよ」

「あー! 豪君、それどういう意味?」

「うむ、乳さ出せばええってことじゃないべな」


つばきがどストレートに言ってしまう。

自分で言い出しておきながら、豪健はおでこを押さえて後悔する。


「ひどおーい。今に見てなさい! そんな余裕が言えなくなるんだから!」


案の定美雪はぷりぷり怒りながら教室に戻ってしまった。

まったく、同じ調理チームなのに、先が思いやられる。

……そういえば調理チームってところに属していたな、と豪健は思い出した。


「あんれ、あの廊下の先に見えるっちぇ、たんぽぽちゃんだべ!」


喧騒漂う廊下の先、飾りつけや看板に紛れて歩いてくる少女。

歩調を保ったまま颯爽と黄身色の髪を揺らしている。

見覚えが無いとは言わせてくれない、あの姿は。


「変わった服を着ているっぺなー」


つばきが感心している。

たんぽぽもカジノに居た時と同じ服装、

紺のジャケットスーツをビシッとキメたディーラーの格好だった。


「あいつに限った話じゃないけどな」


学園制服を着ていない生徒、

要するに、現実世界で操作する人間が居るキャラクターも

十人十色の服装だ。


「しっかし、雰囲気がガラっと変わったべ。ほんわかしたのがきちっとしちょる」

「中身はいつものままさ。よおっ、お前も無事に来ていたか」


豪健は手を挙げて、歩いてくるたんぽぽを迎え入れる。


「……ここはどこ? 私は誰?」


眠い目をさせて、たんぽぽは突拍子も無いことを口走った。


「は?」

「たた、大変だべ! たんぽぽちゃんが記憶喪失に」


つばきがあたふたしている。

豪健は懐疑的だ。

細い目をさせて、その眠い目を疑い深く見つめる。


「お前、ほんっとうに記憶喪失なのか?」

「記憶……喪失?」


難しくない顔をさせて小首を傾げる。

たんぽぽは記憶喪失という単語が分からないようであった。


「記憶は決して裏切らん思い出の相棒だべ。

喪失は大切に持っていたモノを失うことっちゃねー」

「理解した」

「はやっ。理解度高いな、お前」

「人は私を天才少女と呼ぶ」


物憂げな表情で窓の外を見るたんぽぽ。


「いやいや、記憶喪失設定はどこに行った?」

「記憶……喪失?」


再び小首を傾げる。

豪健は拳を天井に突き上げた。


「ちょっとは記憶を保てよ!」

「これはどこかで聞いたことなんだがな。

本当に頭の良い人間は上手に忘れることができるのじゃ」


何故か爺口調のつばき。


「人は私を天才少女と呼ぶ」

「どうして二度言ったよ。

それと、ゴミ人間に天才なんて呼ばれても嬉しくないだろお前は」

「褒められればゴミでも嬉しい」

「嘘だろ? 節操なさ過ぎ」

「人間、愛があれば生きていけるべなー」

「愛、私は愛を探す旅人」

「たんぽぽちゃんはカッコええべな」


やたらとたんぽぽ贔屓なつばきに、満更でもなさそうに俯くたんぽぽ。

親子って感じだよなあ、と豪健がしみじみ思っていると、

ドドドドドドドド、と地鳴りが響いた。


「な、なんだ? 地震か?」

「いんや、この足音は」


つばきが素早く振り返った。

つられて豪健も後ろを振り向く。


虹色の水が洪水のように流れ出してきた。

そう思えた。


黒、白、茶、黄色、青、緑、蛍光

それぞれの色の揺れる耳、振る尻尾。


「ウサギの、大群だ」


豪健はあんぐりと口を開けたまま、動くことができなかった。

雪崩れこんでくるウサギ達は、豪健らの足元まで来ると、大回りをして避けた。


そのまま二周、三周と回ってから通り抜けていく。

必然的に豪健らを中心としたウサギの渦が出来上がった。


「どど、どうなっているっぺ」


つばきも動揺している。

たんぽぽは相変わらず自分を中心に世界が回っていると思っていそうな顔だった。

そんなたんぽぽに、渦の中から一匹のウサギが胸に飛び込んできた。


「クロちゃん!」


見覚えのある黒い無地模様は、たんぽぽに一番懐いていたウサギだった。


「こんなに増えていたんだな」


豪健は自分達の周りを止め処なく渦巻いているウサギを眺める。

勢いは変わらず、次から次へと目まぐるしく回っていく。


「今は512匹おるっぺなー」

「ご、ごひゃく?」

「んだ。ワシが月曜日に一匹連れてきてから、十二時のたんびに増えちょるけえ」


豪健とつばきは溢れ出るウサギに足元をすくわれないよう、必死に踏ん張る。

たんぽぽは踊るようにグルグルと回りながら、上手くその場に留まっていた。

やがて、ウサギの渦は小さくなっていく。


「やっと収まりそうだな」

「んだべ」

「一体、何がこいつらを駆り立てたんだ?」

「文化祭に大興奮」


黒いウサギを撫でながら、興奮気味に呟くたんぽぽ。

頬もぽわっと紅潮している。


「そうか、文化祭にな」


豪健が廊下を見渡した。

各教室の前に立ててあった看板は軒並み倒されて、転がっていた。

おばけ屋敷の看板なんて、文字の一部が剥がれておけ屋になっていた。


「嵐が去ったみたいだべ」

「こりゃあ直すのも一苦労」


ふと、一回り小さい子ウサギが遅れて小さく跳ねていくのが目に留まる。

ぴょん、ぴょこん、ぴょこととん。

廊下の真ん中でこけた。


「あ、大丈夫か?」


豪健は駆け寄る。

子ウサギは立とうとして、一、二度こけて地面に這いつくばっていた。


「ほら、慌てん坊さん」


豪健は子ウサギの横腹に手を入れて、持ち上げた。

小さな手足を必死でばたつかせる。

早く降ろしてくれと言わんばかりに。


「しょうがないな」


豪健が子ウサギを降ろすと、一瞬だけこちらを振り向いた。

その小柄な体型と優しい毛の色合いに似合わず、額に十字の傷を作り

細い目つきで豪健を睨みつけた。


「お、おい。何か文句が」


豪健が抗議し終える前に、子ウサギはぴょんこぴょんこと跳んで行ってしまった。


「変わった子ウサギだべなあ」

「たんぽぽみたいな子ウサギだったな」


豪健の率直な感想だった。

色合いといい、あのふてぶてしい態度といい。


「言われてみれば、たんぽぽちゃんの雰囲気が出ていたっぺ」

「たんぽぽのウサギ。ウサたんと名付けよう」

「あのコワモテからは考えられねえ可愛い名前だべ」

「だからこそよ」


その時、ぶつっとスピーカーから音が聞こえた。


「皆さん、大変長らくお待たせしました。

ただ今から、第一回学園文化祭を開催しますぞ!」

「俺様とデートしたい可愛い子ちゃんが居たら、どしどし声をかけてくれよな!」


姿が見当たらなかった夏目といつの間にか消えていた勇者の声が聞こえた。

その声に反応してか、準備を止め教室から廊下に顔を覗かせる生徒も。

そして、滅茶苦茶になった看板に絶望していた。

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