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剣を売ってガチャるな!  作者: 原 すばる
第一章 ダンジョンガチャ探索編
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人間はゴミ

「あ、そろそろモチを焼きましょう! 小枝、かき集めておいたっしょ」


モッチーナが燃やせそうな小枝と乾燥した草の山を指差した。


「いつの間に、用意がいいな。食用のモチはここにあるから、

火起こしができたら持っていってくれ」

「おっけいです! 戦闘の後のモチは、格別っしょねー」


空気を通りやすく枝を組んでいくモッチーナ。

乾いた草にマッチで火をつける。チロチロと、か細い火種。

それを消えないよう愛しみながら、小枝へと移す。

小さな火柱が立った。


「これで大丈夫っしょ」

「相変わらず手馴れているな」

「戦闘でも火は使いますからね~。火の扱いは任せるっしょ」

「ほら、食べる分だけ串に刺しておいたから、持っていけ」

「わーい! じゅうじゅう焼くっしょよー」


喜々と受け取って、焚き火に二個のモチが刺さった串を、手に持ったままかざす。

もう片方の手はすぐに短剣が抜けるようにあけたままだ。


「地面に刺して待っていれば良いのに」

「それだと、微妙な火加減が調整できないのですよ。

ちゃんと、モチの角から中央にかけてまんべんなく火が行き渡るように」


で、ここで裏返すのですよ。ほら、ちゃんと狐色になっているっしょ!

自慢げに串を掲げて見せてくる。


「おお! 美味そうだな!」

「そろそろ味を付けるっしょ。持ってきたタレを下さいな」

「ほい、これだろ?」


タレ付け筆の入った小瓶を渡す。

待っていましたとばかりに、筆にタレを染み渡らせてから

モチに塗りたくっていく。火にテカテカと照りだした。


「香ばしいにおいがしてくるっしょ」

「ああ、お腹の虫が鳴ってくるな。僕もそっちへ行こう」


モチの一個を串に刺し直してもらい、

焚き火を挟んで、モッチーナと向かい合ってモチを頬張る。


「んん! おいひい」

「やっぱり、モチは味噌ダレに限るな」

「焼きたてのモッチモチに、五平さんの味噌甘ダレ。ここは天国っしょかー?」


暖かな火に浮かぶ、モッチーナの幸せそうな顔。

見ているだけで、食べているモチが格段に美味しくなる。


「そういえば、あのレアそうな石、売れたぞ」

「おお! いくらで売れたのですか?」

「いや、あの冷たい靴とダンジョンガチャの情報を引き換えに売った」


僕はお姉さんから聞いたダンジョンガチャの情報を話す。

モッチーナは、ふんふんと頷きながらモチを食べていく。


「このダンジョンのエネルギーを吸うだなんて、スケールがデカすぎるっしょ」

「うん。思っていた以上に大規模な組織が、RHLを運用していそうなんだよな」

「ゲームの中身もちゃんとしているみたいですし、

やはりガチャをぶっ壊した方がみんなの目も覚めるっしょか?」

「さあ、事はそう単純でも」


僕が言いかけて、モッチーナが素早く短剣を抜いた。

消えかかっていた焚き火がゆらめく。


「そこに居るのは誰ですかい?」


僕の背後に向かって叫ぶ。

いつでも飛びかかれるよう、立ち膝で姿勢を低くしているモッチーナ。

くそ、僕は気付けなかった。恐る恐る振り返る。


「人間はゴミ」


岩影に人が見えた。

それよりも、とても物騒なセリフが聞こえたような。

小さく可愛い声で。


「な、なにっしょか?」

「人間はゴミ。魔王が居た頃も、そうでない今も」


そう言いながら姿を見せる。

まず、淡いピンク色のワンピースが目に飛び込んできた。

綺麗な服だな、と視線を上げていくと黄身色の髪がさらさらと流れる。


「人間の女の子?」

「そうだった。私もゴミの一員ね」


眠たそうな目が、さらに物憂げになる。

明るい服装に似合わず、言っていることは真っ暗闇だな。


「黄色い君は、どうしてダンジョンに?」

「きっとこの娘もダンジョンガチャにとり憑かれた、哀れな人間っしょ。

外れガチャを引いて、人間はゴミだと自己嫌悪に浸っているっしょよー」


剣を構えたまま、モッチーナが邪推している。


「違う、私は」


ぐぅ、と張り詰めた空気に似合わない音が聞こえた。

黄色の女の子のお腹から。


「私は、父親を探しに来た」


何事も無かったかのように言い直す女の子。頬が薄っすらと紅い。

今のは無理があるぞ。モッチーナに目配せを送る。

しょうがない、と肩をすくめた。


「詳しく聞きたいから、モチでもどう?」

「モチ?」

「真っ白くて美味しい食べ物です。このにおいに誘われて来たっしょね?」


モッチーナの指摘に、黄色の女の子はハッキリわかるほど頬を赤らめた。


「人間はゴミ。お腹が減る」

「ゴミに減るお腹はないっしょよー」


小枝を焚き火に放り込んでいくモッチーナ。

ぼわっと火力が復活した。


「口が減らない人間はゴミ」

「口が減ったらモチは食べられないっしょよー」

「うん」


素直に頷いて、黄色い女の子が焚き火の前に座る。

僕は串にモチを一個通した。それをモッチーナに渡す。

モッチーナは慣れた手つきで、モチを火にあぶっていく。


ぷすっぷすっ、とモチの表面が柔らかくなってきた。

その間、黄色い女の子は何も喋らない。

焼き上がる直前に味噌ダレを塗った。


「はいっ、焼きたてほやほやのモチですよ」


モッチーナが狐色に焼き上がったモチの刺さった串を渡す。


「ありがと」


小声でお礼を言って受け取った。


「ちゃんとお礼を言える口はあるっしょねー」

「はぐ、むぐっ」


警戒心なく、そのままがぶりついた。

よっぽどお腹が減っていたらしい。

みるみるうちに、串からモチが無くなった。


「良い食べっぷりっしょねー」

「結構な時間、ご飯にありつけなかったんだろうな」


串に付いたモチの残りかすまでしっかりと舐めて食べ終える。


「ごちそうさま。とっても、美味しかった」

「お粗末様っしょ」


ふう、と一息つく黄色い女の子の表情は、先ほどと比べて安堵していた。

お腹が減ると、人間イライラするものだ。

これでもう、あんな変なことは口走らないだろう。


「良い食べっぷりだったけど、ずっとご飯にありつけなかったの?」

「ありつけなかった。このダンジョンのモンスターはみんな警戒心が強い」

「食料とか持って来なかったっしょか?」

「現地調達できると思って。でも、ここのモンスター、食べられない」

「はい?」


僕らは声をそろえて驚く。モンスターを食べるだって?


「モンスターを食べるって?」

「モンスターにお願いする。腕を食べさせて、とか」

「ええっと」

「モンスターは倒すものっしょよー」


冗談ぽくモッチーナが言うと、黄色い女の子が初めて目を鋭くさせた。

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