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剣を売ってガチャるな!  作者: 原 すばる
第四章 インディゴカジノで魔王再誕編
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怒りの共有

「えっ、お前は青い鳥の」

「有泉氏はこのカジノ一番のポーカーのディーラさんなのですぞ」


と、夏目が同業者らしく紹介している。

というか、思いっきり敵サイドの顔見知りが働いているのに

潜入調査の意味はあるのか?


「そそっ。今朝はたんぽぽちゃんにこてんぱんにされちゃってね。

ビギナーズラックかと思っていたんだけど、実力は本物みたい」


素直に嬉しそうに微笑んでいる有泉さん。


「あんなの偶然だよ。普段から顔に出さないあいつの態度が

たまたま上手くはまっただけ」

「あらあ、そうかしら? あの子がオールインした瞬間は見ていて?」

「ええっと、丁度その時に僕らは見に来たんだったな」

「ですな。四枚目を開く直前のオールインでしたぞ」

「そう。その時の場に出ていた三枚のカードは、3ハートに45のスペード」


人差し指を振って、有泉は意味深に微笑む。


「あっ、たんぽぽ氏の手札は36のスペードだから、

オールインした時には既に3456のスペードを揃えていたのですな!」

「その通りよ。あの対戦相手よりも一歩早く、有利な展開を迎えていたの」

「つまり、ハッタリでも何でもなく、

きちんと良い手が入っての全部ベッドだったわけか。やるな」


僕が感心すると、ふふん、と有泉がまた意味深に笑った。


「彼女の本当に凄いところは、相手を降ろさなかったところよ。

ポーカーで重要なのは強い手が入ることじゃない。勝ちを確信する手でも、

負け必至な手でも、眉一つ動かさないポーカーフェイスこそが、最強なの」

「なるほどですな。もちろんたんぽぽ氏はこれまでもあの表情を貫いて、

時には相手を降ろして手札を明かさず、時には相手に強い手が入っていても

自らが降りてこれまた手札を明かさず。掴みどころがなかったのですな」

「まっ、相手もあれだけ強い手が入って不幸ではあったわね。

あのタイミングのオールイン受けは早計だったけど、

あれだけの手が入った状態だったら、私もきっと勝負に行っていたし」

「それで有泉も負けたのか?」


僕が聞くと有泉の眉がぴくっと動いた。

それに本人も自覚したようで、軽いため息をつく。


「そういうことよ。彼女に大勝負を持ち込めば痛い目に遭う。私も、

きっとあの男も、その幻想にとり憑かれている。次に大勝負を持ち込まれたら

降りざる負えない。こうして強者は、ますますその地位を盤石にしていく」


言葉の最後の方は力がこもっていた。

なるほど、革命組織らしい思想をお持ちで。


気持ちはわかるが、強者には強者の苦労ってもんがあるはずだ。

僕はたんぽぽの姿を確認する。


今も観客の阿鼻驚嘆、歓喜感激にとり囲まれているのに、

平然とチップを整理して、トランプをシャッフルしているたんぽぽが

何にも感じていないわけがない。


きっと心の底では。

あーあ、煩い。やっぱり人間はゴミ。

って思っているんだろうなあ。


あれ、何も感じていない?


「まっ、一国の王子様に言ったところでお笑い草ね」

「そんなことは……」

「自分のことで精一杯。いちいち弱者に配慮していられない。

だって、そうじゃなかったら剣を売ってガチャるわけがないものね」


有泉は勝ち気な笑みを浮かべて後方を顎でしゃくって見せた。

その先には、親父がRHLを夢中になってプレイしている姿が。


親父だけではない。

気がつくと、カジノに居るほとんどの人がRHLを手に持っており、

ゲームが開かれずに暇そうなディーラーも居るほどだった。


「えー、皆さん! お待たせしました!

本日のメインイベント十三連ガチャ無料引き、もうすぐ開催します!」


有泉が声を張り上げてアナウンスした。

うおおおおおおおお、

と収まりかけていた場の熱が再び沸き起こる。


「というわけで、私は最終調整をしてくるから、

あなた達も楽しんでいってね」


最後まで、と有泉は付け加えて去っていった。意味深に。


「おうよ。最後までじっくり見させて貰うつもりさ」

「怪しいニオイがぷんぷんしますからなあ。十三連ガチャイベント」


不穏な空気を感じていると、突然カジノの電灯が消灯した。

一気に真っ暗闇となり、RHLの小さな光があちこちに不気味に浮かび上がる。

さっそく来たか!


「カジノにお越しのRHLプレイヤーの皆さん! ようこそお集まり頂いたのです!」


博士の声が暗闇のカジノに高らかに響き渡った。

どこからだ、と耳を澄ませて声の発信源を探る。


「昨晩はダンジョンが壊れてしまい、

ダンジョンガチャを引きに来ていた人には危ない目に遭わせてしまったのです」

「自然災害とは言え、

ダンジョンに入る目的を作ってしまった我々も責任を感じているわ」


有泉の申し訳なさそうな声も聞こえてくる。


「どの口が言うか。ダンジョンエネルギーをいたずらに枯渇させた、張本人ですぞ」


夏目の憤りのこもった静かな声。

周囲が期待と歓喜で満ちているだけに、

夏目の怒りは明確な輪郭を持って、僕の心に伝わってくる。


「そういうわけで、これからは危険なダンジョンに潜らなくても

ガチャを引けるように、我々で便宜を図ったのです!」


突如、パチパチッと大きな二本の電灯が点いた。

その明かりが交わる中央には、伝説の剣『ディメンジョンソード』があった。

ガラスケースに入れられ、インディゴブルーの絨毯の上に華々しく飾られている。


意識して目を背けていたが、やはり見ているだけでムカムカしてきた。

剣の本分は魔物を斬ること。

あんな風に観衆の目を引くために飾られて、醜態をさらしている!


今すぐにでもこの人ごみをかき分けて、あのガラスケースを叩き斬ってやりたい。

世の中、やっぱり狂っている!


「この伝説の剣と肩を並べて、ガチャガチャを設置することにしたのです!

ガチャガチャを引きたい時には、街中の安全なここに来ると良いのですよ」


うおおおおおおおおおお、と熱い雄叫びがカジノ中に響き渡る。


くそっ、何が肩を並べるだ。ふざけやがって。見世物じゃないってのに。

夏目の悔しい思いが痛いほどわかる。


「良かったなあ。これで危険なモンスターに遭わなくて済むよ!」

「俺っちも、もうモンスターに追われながら探さなくて良いんだなあ」

「まっ、怖いモンスターなんてみんなダンジョンの下敷きになったんだろうぜ」


がははは、と下衆な笑い声が近くからした。


そうだ。奴らは王国滅亡の目的のために、手段を選ばない組織。

ダンジョンだって平気で壊す。

そこを住処にしていたモンスターだって居るのに。


その考えに至ったところで、ようやくたんぽぽの居る理由がわかった。

たんぽぽも、悔しかったんだ。

きっとダンジョンに潰されたモンスターだって大勢居たはず。


夏目、たんぽぽ。

怒っているのは、僕だけじゃない。

その事実を心の底から実感できて、涙が出そうなほどに感動してしまう。


いけない。こんなことで嬉しくなってどうする!

怒りだぞ! 共有しているのは。悲しくないのか! 悔しくないのか!


感動は、喜びを共有した時だけで良い!


「それでは、ガチャの設置も完了しましたので、

前の人から順にガチャを十三回引くのですよ!」

「無くなったりしないので、押さないで下さい」

「はーい、二列で並んで。

順番が来たらRHLをガチャの頭にすぐセットできるよう、手に持っておくように」


水無月が列の整頓をしながら、注意を呼びかけている。


引くぜー、引きまくってやるぜー! 次の行事こそは俺が一番になる!

クラス中の女の子のハートを射止めるのは、この俺っちだぜ!


しかし、熱気が増して押し寄せてくる。

ガチャガチャに近づくどころか、押されて遠くに離れていっている気さえする。

男の肘が顔にぶつかる。開いた隙間に見栄えなく他のヤツが入ってくる。


どいつもこいつも! 頭の上に飛び乗ってやろうか!

そんでもって、ガチャガチャをぶっ壊してやる。


「落ち着くっしょよ」


急に背後から、ふんわりと肩の力が抜けそうなほどに優しい声が聞こえてきた。

そうして、僕の右手が温かく包まれる。

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