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剣を売ってガチャるな!  作者: 原 すばる
第四章 インディゴカジノで魔王再誕編
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空っぽな心を暖めるもの

 パンを忙しなく口の中で咀嚼しながら、城門の外へと出た。

前方には無防備に口笛を吹いて歩いている親父の姿が!


「おーい、おやじい~」


呼びかけてみた。

ひゅえ? と口笛を疑問系で止めて、こちらに振り返る。

おーい、と手を振った。


息子の姿を確認し、親父は逃げるように駆け出した。

何故!


「あんの、野郎」


仕方なく僕も走り始めた。

道は緩やかに下り坂。

城下町までは整地もされているので、難なく走れる。


徐々に距離も詰まってきた。

手が届きそうなところまで来た時、僕は地面を思いっきり蹴った。


「てやあっ」


その逃げる親父の背中に飛び蹴りを食らわす。

げへらっ、と肺から空気が押し出される呻き声が聞こえ、

ごろんごろんと草むらに倒れこんだ。


「はあはあ、どうして逃げるんだ」


息を整えながら、地面に突っ伏している親父に聞いた。


「息子とのスキンシップだ」

「そうか。楽しかったか?」

「いたたたた。母さんに似て、なかなか良い蹴りだったよ」


腰をとんとん叩きながら、身体を起こす。


「あんまり母さんを困らせないでよ」

「ふむ。そいつはどうかな?」


服に付いた雑草を払って、にやりと不敵な笑みを浮かべる。


「かっこつけて家庭内不和を匂わせることは言わないで欲しい」

「まあまあ。喧嘩するほど何とやらってね」

「言っておくけど、僕は母さんに付いていくから」


きっぱりと言ってやった。

げえっ、と親父が意外そうに飛び退き驚く。


「な、何故ゆえ! この逞しい父さんの背中を見て育ったお前が!」

「走って追いつかれた上に、蹴飛ばされてすっ転ぶ軟弱な背中に覚えはない」

「い、言うようになったじゃねえか」


ぐぬぬ、と親父は奥歯を噛み締めて前を歩き出した。

その背中は本当にしょぼくれてしまったように見えて。

ダンジョンで一緒に冒険をしていた頃は、伝説の剣もその背中にあったのに。


「ねえ、どうして剣を売っちゃったの?」

「ん、そりゃあ女の子とデートをするためだよ」

「だって伝説の剣だよ? 今まで愛用していた剣だよ?

他に売るものがあったと思うんだけど」

「他に売るものなんて、ありゃしねーのさ。

あの剣が俺の売れる、最後の物だったんだからな」


親父は遠い青空の、さらにその先を見ながら言った。

ひゅー、と風で親父の髪の毛がなびく。


「いや、格好付けて言ったって、ごまかせないからね?」

「だって、仕方なかったんだよおお。

文化祭行事が始まっちゃって、ガチャ引くお金もなくなっちゃってえ」

「……」

「女の子五人ぐらいとデートしたかったし、

キャンプファイヤーだって踊りたかったんだもん!」


今度は駄々っ子のようになってしまった。

つくため息もなかった。


「……それで、剣を売って良かったのか?」

「それはもう、ばっちり良かったぜ!」


親指を突き出して満面の笑みを見せてきた。

もうこうなってしまっては、何も口は出せない。

親父の私物だ。それで何をしようが勝手だってものだ。


僕は親父を抜かして城下町へと早足で歩き出した。


「あ、おい息子よ」


親父に呼びかけられる。

僕は駆け出した。


「だあっ、抜け駆けとはずるいぞ!」


後ろから親父の声が聞こえたが、すぐ遠くになってしまう。

それでも僕は構わずに駆けていく。


くそっ、くそおおお。

悔しかった。この世界がおかしい。狂ってる。

何もかも、何もかもが無くて馬鹿らしい!


……おかしくない。

気付いたら僕は城下町の入り口まで来ていた。

光のように一瞬だった。


「この世界は正常だ」


そう呟いて振り返る。

そこには、今駆けて来た道があるだけ。

何も無い。


僕は空っぽの心のまま城下町へと入っていった。


 真昼間なのに、太陽に負けないぐらいの電飾。

インディゴカジノの前に僕は真っ直ぐ来た。


もうどうにでもなれば良い。

そんな危険な思いのままに、入り口のドアノブ代わりのピエロの手を握った。

そうして思いっきり引っ張ってやる。


「きゃあっ。お客様、扉はゆっくり開けて下さい」


驚き戸惑う女の子の声。

聞き間違わないほど、聞き覚えのある声だ。


「は?」


バニースーツを着たモッチーナがそこに立っていた。

それは、わがままに膨れ上がったおっぱいを惜しげもなく放り出し包み込む。

黒のあみあみがいたずらに、モッチーナの身体を妖艶に仕立て上げる。


にもかかわらず、頭からはウサギの耳を飛び出させて

無邪気さを、可愛いさをアピールしている。


「どうしたっしょか? 思わず見惚れているっしょか?」


むふふー、と得意な上目遣いで僕を見てくる。


「……あった」

「あった? 何があったっしょか?」

「何かがあった!」


空っぽの心に火が灯る。

ここにあったのか。


「意味がわからないっしょ」

「いや、こっちのことだ。

それより、お前はどうしてここでそんな格好をしているんだ?」

「ふふん。本日は十三連ガチャのイベントのため、大変な賑わいが予想されます。

ご迷惑をおかけしますが、何卒、ご勘弁してくださいっしょ」


ぺこり、と従業員みたく丁寧に頭を下げる。


「ええっと、つまり?」

「助っ人要因で来ているっしょ」

「いやだから、どうしてお前が助っ人に来ているんだよ。ここは青い鳥の」

「もちろん潜入調査のため、ですぞ」


横の壁から声が聞こえた。

にゅうっと紺色のジャケットを着たウエイター姿の夏目が現れた。

ビシッと決まっていて格好良い。


「夏目も来ていたのか」

「ダンジョンの寿命をいたずらに縮める青い鳥は放っておけませんからな」

「そっか。そうだよな」


王国滅亡を目論む青い鳥の行動に気をつけてくれて、

僕としてもなんだか嬉しい。


「あたいはバニーガールになってみたかったのも半分理由っしょね」

「建前でも良いから、そこは夏目に便乗しておけよ。半分じゃなく全部で」

「あたいは素直さを売りにしていますので」


えへ、と照れている。仕方の無いヤツだ。

それにしても、この二人が揃ったということは、あと一人は。


「ではレイズ。全部で」


淡々とした口調が喧騒に紛れて耳に入る。

その直後、うおおおおおお、と歓声が隅のほうで湧き起こった。


「な、何事だ?」

「あそこは、たんぽぽ氏の卓ですぞ」

「たんぽぽの卓?」

「ぽぽちゃんは凄いっしょよー。このカジノ一番のディーラーさんを打ち破って、

助っ人なのにポーカーの卓を任されているっしょ」


自分のことのように得意に言う。


「そんなに凄いことなのか?」

「百聞は一見にしかず。見に行きましょうぞ」

「あっ、あたいは接客に戻るっしょ。あんまり怠けていると怪しまれます」


じゃあ後でっしょ、と軽く手を振ってから入り口に着いた客の相手に戻っていく。


たんぽぽがポーカーのディーラーね。

ふざけた予感がしながらも、夏目に案内されてたんぽぽの卓とやらに行ってみる。

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