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剣を売ってガチャるな!  作者: 原 すばる
第四章 インディゴカジノで魔王再誕編
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一流の剣士とは

「そう、なのか」


今にも崩れ落ちてきそうな天井を眺めながら、僕は寂しく思う。

元々は魔王が作ったダンジョン。

世界征服のためのモンスターの住まう場所。


しかし、僕にとってはお城から一番近いダンジョン。

幼い頃から勇者である父さんの指導によって、

剣の扱い、モンスターの倒し方を覚えてきた場所。


それが無くなる。崩壊する。

道場だって変なカジノに変わってしまったのに、

また一つ、僕の大切な場所が失われていく。


「あ、危ない!」


天井の尖った岩が揺れで割れて落ちてきた。


「っしょ」


モッチーナは地面を蹴って横に避ける。

しかし、その小さな肩に岩の先が当たった。

僕の身体が大きくブレる。


肩に傷を負って、よろめきながらもモッチーナは僕を地面に落とさなかった。

守るように抱えて。

思わず、女の子みたいに胸がときめいてしまう。


「ここまでだな」


僕はモッチーナの腕から転がり出た。

地面にしゃがみこんで着地。

そのまま流れるように、モッチーナの膝裏に腕を入れた。


「あっ」

「剣士交代だ」


吐息混じりに驚くモッチーナ。

いつまでも女の子をやっていては格好がつかない。

モッチーナをお姫様抱っこして、すぐさま駆け出した。


「何だか、見ているだけで悶々としてきますなあ」

「後ろから蹴飛ばしたくなる」


背後から二人の少女の物騒な声が聞こえてくる。

聞こえないふりをしながら階段を駆け上り、落石に注意して角を曲がった。


「ぐごぉおお」


突如目の前に、斧持ちゴブリンが現れた。

かかとに力を入れてブレーキをかける。


「あっ、モンスターっしょ! 懐かしいです」


腕の中のモッチーナが落ちそうなぐらい前に迫り出して、目を輝かせていた。


「懐かしんでいる場合か。どうにか戦闘を回避して、すぐに上へ行かないと」

「えー回避っしょか? 倒すっしょよー」

「肩を負傷しているお前と、商人である僕が迅速に倒せるとは思えない」

「むう。けんちゃんはまだ商人だったっしょね」

「あれから酔っ払いのシスターに会っていないからな」

「わあ、あのシスターまだ愚痴っているっしょかね~」

「与太話をしている場合ではありませんぞ」


と、壁から叱咤される。

夏目は既に透明化しており、壁際に沿って歩きながらやり過ごすつもりらしい。


「くっ、こうなったらたんぽぽ! お前の歌を聞かせてやれい!」

「しょうがない」


待ってましたと言わんばかりに、ずいっと前に出るたんぽぽ。

今にも襲い掛かってきそうなゴブリンに愛おしそうに手を伸ばした。

顔は相変わらずの仏頂面だが。


「ラぁーララー、ルルぅーッル、ラララー」


しかし、歌声が耳に入った途端、場の緊迫感が一瞬で溶けた。

ズゴゴゴゴゴ、と揺れを忘れて、僕もモッチーナもゴブリンも

たんぽぽの暖かみのある歌声で心穏やかになっていく。


「ルルーラー、あールルルゥ、ラぁーらっ、じゃはっ」


じゃはっ? 唐突な濁りのある声に目を覚ます。

たんぽぽは、差し出した手で親指を立てて、そのまま倒れていった。

ごろん、とゲンコツ程度の岩が傍らに転がった。


「おいっ、たんぽぽ!」

「揺れで天井の落石が直撃したっしょ。集団行動を乱している天罰っしょね」

「お前も人のこと言えないけどな」


いー、とモッチーナは白い歯を出して威嚇してきた。

腕の中ですっぽり収まっている分、可愛らしい。


「しょうがない。けんちゃんの腕の中は、ぽぽちゃんに譲るっしょ」


そう思っていたら、モッチーナは僕の腕から身体を捻ってぴょんと飛び出た。


「おい、お前だって怪我しているだろう?」

「左肩だけっしょよ。早くぽぽちゃんを抱えるっしょ」


モッチーナに急かされて、僕は地面で気を失っているたんぽぽを抱きかかえた。

その間、ゴブリンも我に返って、再び僕らに斧の標準を合わせる。

それに合わせて、モッチーナも右手で短剣を取り出した。


「ちゃっちゃと蹴りを付けるっしょ。もちもち剣第三巻、一角ウサギ!」


右手から投げられた短剣は、ゴブリンの額に向かって真っ直ぐな軌道を描く。

キンッ、と斧ではじかれた。

はじかれた短剣がグルグル回転して、天井に突き刺さる。


「むう、素直に当たってくれません」

「いや、ナイス時間稼ぎだ」


今の隙に、僕はたんぽぽを抱えてゴブリンの背後へと通り抜けていた。

仲間とは言え、他の女の子を思いやって。

モッチーナ、見直したよ。


「あっ、あたいを身代わりにしたっしょね!」


見直した矢先にずっこけそうになった。


「人聞きの悪いことを言うな!」

「やっぱりぽぽちゃんに譲るべきでなかったっしょ! けんちゃんのぬくもりを」

「お前、自分の行動がちぐはぐだって良く言われないか?」

「いざ自分が酷い目に合わないと、わからないことが世の中多すぎるっしょ」

「真理だけど、ちょっと違うな」


ゴブリンを真ん中において、僕たちは好き勝手言い合う。

肝心のゴブリンは前に後ろに、どちらから先に攻撃すれば良いか混乱していた。


「他人の経験を自分のモノにして、世の中をわかるようにする」


僕はたんぽぽを一旦地面に置いて、大袋の中から『水もち』を数個取り出した。

スライムとモチを合成したアイテム。それをゴブリンの足元へと撒いた。


以前モッチーナが誤ってこれを踏み、

モチを剥がすのに苦労していた。それはモンスターも同じなはず!


「けんちゃんの言っていることは半分正解っしょ」

「なに?」


モッチーナは左手用の剣を右手で取り出した。

それを見て、ゴブリンは再びモッチーナを攻撃対象と決めたようだ。


「諸々の経験に基づいて、その先を予測する。これこそが一流の剣士っしょ」


ゴブリンが一歩踏み出す。

ぐちゃり、と先ほど僕が撒いた水もちを思いっきり踏んでしまった。

強い粘着性と足裏の気持ち悪い感触に、ゴブリンは足元に夢中になる。


「それはどういうことかな?」

「こういうことっしょ」


モッチーナは短剣を再び右手でスナップを効かせて投げる。

短剣はグルグル回転しながら、ゴブリンからは大きく外れた。


その軌道が向かう先は、最初に投げた短剣が突き刺さった場所。天井だった。

最初の短剣である程度天井に亀裂が走っていたのが、

今のモッチーナの短剣によって、とどめを刺した。


メシメシミシ、ガキッ。

亀裂から岩が切り出され、剥がれ落ちてきた。


だんっ、とゴムを押し潰したような鈍い音。

水もちに気をとられていたゴブリンの頭に命中する。

ふらふらと二、三度頭を左右に振って、大きな地鳴りと共に地面に倒れた。


「思いのほか上手くいったな!」


たんぽぽを抱え直しながら驚く。


「ねっ、経験のない初めてのことだって、上手くいくものっしょ」


僕と並んで駆け出しながら、モッチーナは調子に乗った笑みを浮かべた。

それが妙に憎たらしく思えて。


「経験のないこと、とは一概に言えないのではないか?」

「はい?」

「こんな感じで、僕達はずっと息を合わせて困難を乗り越えてきたじゃないか」

「だ!」

「だ?」


モッチーナは走りながら素直に顔を赤らめた。


「ダンナ!」


たんぽぽが叫んだ。腕の中で眠っていたはずなのに。


「おわっ、起きていたのか」

「夫婦、みたいな感じ」

「や、やめてよぽぽちゃん」


いやいやと満更でも無さそうに頬に手を添えて顔を振るモッチーナ。


「そうだな。モッチーナの視野が広かったから、抜けられたんだ」

「ううん。直前にぽぽちゃんがあの天井から剥がれた岩にぶつかったのを、

見ていたおかげだよ」

「良かったなあ、たんぽぽ。お前の気絶は無駄じゃなかったぞ」


僕は腕の中で眠たそうな目をしているたんぽぽをあやすように呼びかけた。


「もし、願いが叶うのならば、私と場所を交代して欲しい」

「なんだ、お前もお姫様抱っこをしたいクチか?」

「あの時の私の代わりに、岩にぶつかって欲しい」

「そっちの場所かよ! 人間は過去には戻れないの!」

「世界の理は無視できませんぞ!」


いつの間にかすぐ後ろから夏目が追いついてきていた。


「私は過去に戻ってた。だって、お父さんと」


たんぽぽは瞳を閉じた。

切実に呟いて。

確かに、あの世界は僕達の生きている世界よりも少し前を辿っていたようだが。


「って、ごまかして寝るな! 自分の足で走れ!」

「ぐうぐう。もうオークの肉は食べられない」


下手ないびきをかいて、たぬき寝入りを始めた。

本当にふざけた女の子だ。

文字通り、手が掛かる。

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