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剣を売ってガチャるな!  作者: 原 すばる
第一章 ダンジョンガチャ探索編
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スライムの体液が混ざったモチを食べる女の子

「そもそもダンジョンガチャは、どうしてダンジョン内にあるのか。

それは、ガチャ本体が膨大なエネルギーを消費するから、と聞いているわ」

「膨大なエネルギー?」


お金を払うだけでなく、エネルギーまで要求するのか。


「ガチャはRHLのゲームに役立つイベントを出してくれる、

というのはご存知よね?」

「はい。そこで学園祭? とかいう行事を成功させるために、

イベントを発生させるとか」


父さんが得意に言っていたことを思い出す。

そうね、とお姉さんは相槌を打った。


「ゲーム内の学園生活で起こる様々な出来事に、プレイヤーは巻き込まれる。

その手助けをしてくれるのがガチャ。ただし、無数にあるプレイヤーの個性に、

無数のプレイヤーの行動を掛け合わせた、無限大の一の状況。

それをベストな方法で手助けをしてくれるイベントを、その場でガチャ本体が

解析して発行する。だから膨大なエネルギーがかかってしまうの」


ハッキリとしたかつ舌、滑らかな言葉の抑揚でお姉さんの声は聞き取りやすい。

長い説明もすっと頭の中に入ってくる。商人を生業としているだけあるな。


「その膨大なエネルギーをまかなっているのが、ダンジョン内のエネルギー。

ダンジョンにはモンスターやアイテムを発生させるための魔力が内包されている。

それを吸収して、ダンジョンガチャは稼動しているのよ」

「そ、そうだったんですね。わざわざダンジョンに置く意味なんて、

開発者の趣味ぐらいにしか考えていなかったけど」

「街中にガチャが置けたら、そっちに設置しているわ。

ゲームをする人だってその方が便利なはずだし、もっと儲かるもの」


RHLを有利に進めるアイテムがダンジョンガチャ、

ぐらいしか聞けないと思っていたので、思わぬ収穫だ。

まさか、ガチャ本体がダンジョンのエネルギーを吸い取っていただなんて。


「聞けば聞くほど、そのRHLというのは良くできたゲームだ。

プレイヤーの性格どころか、行動も自由に決められるみたいだし」

「戦いが盛んであれば、人々は戦い方を学び、武器を開発した。

私も、幼いながら弓矢と小刀を売り歩いたっけ」


お姉さんは、懐かしむように遠くを見る。


「今は平和が訪れているから、娯楽が発達しているんですね」

「そういうことよ。あなたも言ってくれたらRHLを安く仕入れてあげるわ」


遠くだったお姉さんの視線は、既に目の前の僕を見ていた。

にやりと笑みを作って。


「え、遠慮しておきます」

「まあ、良いわ。とても有意義な取引をありがとう」


お姉さんは立ち上がってハンカチを一つ払う。

そして、僕はどこでもスベールを受け取り、お姉さんには銀鉱石を渡した。

最後にぎこちなく握手を交わした後で、お姉さんとは別れた。

この靴を見たら、モッチーナは何て思うかなあ。気に入ってくれると良いけど。

使うのモッチーナだし。


「やっほーい! 儲かってるっしょか?」


お姉さんとは入れ違いで、モッチーナが煙を立てて駆けて来た。


「ぼちぼちだねー。お客さんも見ていくかい?」

「ほほう、なかなか良い品揃えですね~」


モッチーナが品定めをするかのごとく、目を細めて頷いている。

それが、ぱっちりと見開いて、輝き出した。


「この水色のモチは、何っしょか?」

「ああ、それは援護用のモチとスライムのって、ああ!」


僕の説明を聞きながら、モッチーナがモチを口に入れてしまった。


「うーん、なかなかの瑞々しさ。生モチも良いっしょ」

「た、食べられるのか?」


すっかり硬くなって食べられないモチを合成させたのに。


「ちょっとネバネバ粘着性があるっしょね。ほぐむぐ」

「やっぱり、食べられなかったんじゃ」


ごっくん、と飲み込んでしまう。まあ、モッチーナの胃なら平気か。


「水は嫌いだけど、この水モチは気に入りました!

他に何個もあるっしょか?」

「六個しかないよ。スライムの体液と混ぜたからね」

「す、スライムの体液!」


おえええ、と喉に手をあてるが、そこにモチは無かった。


「お前の胃で試して、大丈夫なら僕も食べよう」


にやにやしながら言うと、モッチーナが頬っぺたにモチを作った。


「女の子を実験台にするなんて、酷いっしょねー」

「まあまあ。他に、お前が気に入りそうな靴も手に入れたぞ」


なだめながら、どこでもスベールをモッチーナの前に置いた。


「これは、どんな靴っしょ?」

「どこでも滑る靴だ」

「なんだか、嫌な靴っしょねー。あたいの天敵です」

「お前はギャグで生きている人間だからな」

「ほんと、この靴を履いたら滑りそうで。って、誰がギャグっしょ!」


そう文句を言いながらも、ちゃんと靴を履いてくれるから、素晴らしい。


「つめたっ! これ、靴の中冷たいですよ」

「む、気が付かなかったな」


うーん、変なアイテムを掴まされたか。

モッチーナは産まれたての小鹿のように、脚をわなわな揺らす。


「おっ、よっ!」


両手でバランスを取りながら立ち上がる。


「たあああ! 立てたっしょ!」

「おお! さすがモッチーナ」


って、立てたぐらいでこの盛り上がりは何だ。頭が痛い。


「よーし、モチモチ剣第一巻、望月切り!」


ぴょーん、とうさぎのごとく天高く飛んで。飛んで……。


「はうわっ」


中途半端な高さに飛んだかと思ったら、

そのまま靴の重さに引きずられて落ちていく。


「受け身を!」


とっさに声をかける。

ぴくっと耳を動かし、モッチーナは身体を丸めて地面に転がった。


「あー、びっくりしたっしょ」


目を丸くさせているモッチーナ。


「その靴は使いどころを考えないとな」

「上手い着地で、ギャグにできなかったっしょ」

「どこまで芸人なんだ! ギャグで済まされないぞ、ここで足でも挫いたら」

「あは。これは練習が必要っしょね」


とほほ、と髪が乱しながら笑うモッチーナに、僕は声をかける。


「靴底を見てみなよ」


指で示す。ふん? とあぐらをかきながら、モッチーナが靴底を見た。


「わああ。これは、雪だるまちゃんです! 真っ白白で可愛いっしょ」


ここは予想通り、モッチーナが喜んでくれた。白い頬を紅潮させて。

その顔が見たくて交換したと言っても過言ではない。

いや、過言か?


「これは、この靴を使いこなせとの天啓っしょねー」

「今回のダンジョンでは履くなよ」

「了解っしょ!」


ゆっきだるまー、ゆっきだるまー、と鼻歌を歌いながら、靴を脱いでいった。

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