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剣を売ってガチャるな!  作者: 原 すばる
第三章 ゲームと現実の混同編
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おモチちゃんの告白

 教室の喧騒が遠くへ離れていく。前を歩く望月の影が廊下に長く落ちる。

付かず離れずの間隔を保ちながらその後を美雪が追う。

二人の間に会話はない。


望月が何を考え、どんな話をするのか。

美雪にはおよその検討がついていたが、はっきりとは読み取れていなかった。


これ以上、けんちゃんに付き纏わないで!

なんてことを言われたら返りうちに合わせてやるんだから。


後ろを歩きながら返りうちにする段取りを美雪は考える。

そういう考えを巡らしていると不思議なもので、

前を歩く望月の背中を突き飛ばしたくなるぐらい憎く思えてきた。


 生徒の喧騒が冷風のように囁いてきた頃、望月は足を止める。


「立ち入り禁止になっている、ここで話をするっしょ」


望月が指を差したのは、昨日爆破騒動があった家庭科室だった。

立ち入り禁止の張り紙がでかでかと扉に張られているが、

それを無視して望月が扉を開けて入っていく。


「さあて、何が飛び出してくるのかしらね」


美雪は気を引き締め直してから、家庭科室へと足を踏み込んだ。


 室内は昨日の爆破後とほとんど変わらず、

美雪と豪健が使っていた調理台は、コンロを中心として

真っ黒こげになっていた。テーブルの白い破片も足元に散らばっている。


「こんな人気のない場所に呼び出して、美雪を焼いて食べちゃうの?」


美雪が爆破跡の調理台を眺めながら尋ねる。


「この世界の住人には聞かせたくない話をするっしょからね」

「面白いことを言うわね。まるでおモチちゃんはこの世界の住人じゃないみたい」


軽い口調で美雪が言うものの、望月の表情は緊張したままだ。


「その通りっしょよ。あたいは、この世界の住人じゃないです」

「……えっ、ええ? もう、意味わかんなーい」


あまりに突然でファンタジーな告白に、美雪は今度こそ本気で軽口を飛ばした。

それは、望月の変わりない真剣な眼差しに向き合うのも馬鹿らしい、

という思いからだったが、根底には芽吹いたばかりの恐怖があった。


それがどんな種類の恐怖なのか、美雪にはわからない。


「わからなければ、説明するまでっしょ。

あたいとけんちゃんがこの世界に来てから、今日で五日目。

今週月曜日の文化祭出し物を決めている、あの時に初めてここに来たっしょ」


望月はゆっくりと歩いていく。

黒焦げの調理台に沿って、美雪と正面に向かい合うところまで。

ぷっ、と美雪は口元を手で押さえて笑う。


「ねえ、おモチちゃん。昨日のこの爆発で悪いところを打っちゃったのかしら。

美雪とおモチちゃんの初めては、入学式の日、隣の席同士でお話した時じゃない。

半年前のあの日のこと、もう忘れちゃったの?」

「忘れたとかじゃないっしょ。それは、あたいじゃないっしょよ」

「あっ、美雪わかっちゃった。おモチちゃん記憶喪失なんだ。

昨日頭を打っちゃった時に、記憶があやふやになっちゃってて、

この世界に来たとか言っちゃってるんだ」


なーんだ、そっかそっかと美雪が白い破片を手に取って遊ぶ。


「だから、記憶喪失なんかじゃなくって」

「嘘よ!」


美雪は白い破片を調理台に叩きつけた。

ガッ、と鈍い音がして白い破片がさらに細かく割れて、

黒こげの調理台の上に目立つように散らばった。


しかし、望月は動じない。全てを悟ったような冷めた表情のまま。


「ねえ、おモチちゃん。教室で初めてお話した時のこと、教えてあげる。

美雪ね、本当はとても臆病で、誰かに話しかけるのも、目を合わせるのも怖くて。

窓の外ばかり見ていたの。そうしたら、後ろからおモチちゃんがね」


美雪は乱れた髪も気にせず、どうにかいつもの望月に戻って欲しいと

前のめりに語りかけていく。

美雪の白いセーラ服に調理台の黒い焦げ跡が付着する。


「あの雲は、おモチに見えるっしょ。見ているだけでお腹が減ってきます。

なんて、馴れ馴れしく話しかけてきてね。それだけで安心しちゃって。

その時から、おモチちゃんはおモチちゃんなの。どう? まだ思い出せない?」


美雪が強く訴えるだけ、望月の表情は険しくなるばかりだった。

そうして静かに顔を横に振った。


「何度も言いますが、それはあたいじゃないっしょ。

半年前のあたいは、ダンジョンでモンスターを狩っていて、

そのついでに出来たばかりのダンジョンガチャを探したりしていたっしょ」

「ダンジョン? モンスター? なあに、それ」


馬鹿馬鹿しいと美雪はため息をつく。


「信じないなら話半分で聞いてくれても良いっしょ。

あたいの居た世界では、ダンジョンという人間を襲うモンスターや

生活に役立つアイテムが落ちている場所が点在しているっしょ」


望月は美雪に自分の元居た世界を話していく。


「半年前からリアルヒューマンライフ、通称RHLという携帯ゲームが流行りだし、

あたいはその調査をしていました。そうして開発者を突き止めたまでは

良かったっしょが、そのRHLの世界に飛ばされてしまったのです」

「で、まさか、そのRHLの世界がここなんて言い出すんじゃないでしょうね?」

「そうっしょよ。ここが、あたいの世界で流行っていたゲームの中の世界っしょ。

美雪は」


望月は美雪の名前を呼んだ。


「美雪は、ゲームのキャラクターっしょ。操作するプレイヤーがいない、

あたいの世界のプレイヤーを楽しませるためのノンプレイヤーキャラクター」


淡々と告げる望月に、美雪は調理台を蹴飛ばした。


「ふざけないで! じゃあ、美雪の、十数年生きてきた私の人生は何なの?」

「今言った以上のことは聞かされていないっしょ」

「そんな話、信じられるわけがないわ!」

「別に信じなくても良いっしょよ」


望月は懐にある短剣の柄を握りしめた。

足に力を入れて、モンスターに隙を与えない一瞬で間を詰める跳躍。

それを仕掛けた。


黒焦げの調理台を滑り、散らばった白い破片を蹴散らし、

美雪の首根っこを掴んで、そのまま調理台の上に押さえ込んだ。


かはっ、と濁った吐息が美雪の口から漏れる。


「な、何するの?」

「あたいが美雪にだけ、この話をしたのは何故かわかるっしょか?」


美雪はもがこうとするが、足がじたばたと動くばかり。

上半身は望月の身体ごと乗られて完全に調理台に固定されていた。


「わ、わかるわけないじゃない」

「あんたは目障りだったっしょ。けんちゃんに色目を使って、

何度も、あたいを迷わせないと誓ってくれたあたいだけのけんちゃんの手を、

何度も何度も、握って、教室でも保健室でも帰りの廊下でも」

「あらら、覗き見されちゃってたのね、昨日の放課後。おモチちゃんは悪い子だ」


無理に軽口を叩いている美雪に、望月は右手で短剣を素早く取り出した。


「まだ状況がわかっていないみたいっしょね。

美雪はただのゲームキャラクター。それがあたいの世界の

あたいの大切な人に、手を出して良いはずがないっしょよ」

「ねえ、ねえ! 何をする気なの?」


語気を荒げたものの、言葉の最後は恐怖で縮こまって震えていた。

望月は獲物を狩る時みたく、刃を美雪の腕に当てる。


「美雪には元の世界に戻るための魔力になって貰うっしょ。

ガチャガチャが吸収しやすいように、バラバラに斬り刻まないとです」

「ねっ、止めてよ。嘘でしょ? ほんと、お願い」


必死に抵抗しながら、美雪が言葉を紡いでいく。

しかし、何十、何百と自分よりも大きなモンスターを狩ってきた望月に

美雪の身体を押さえ込むのは簡単だった。


命の灯火が消えようとする。その最後の揺らぎも虚しかった。


「やっぱり、最初に斬るのは、けんちゃんと繋いでいたこの左腕っしょね」


そう言いながら、望月は剣を振り上げた。


「いやああああああ」


家庭科室に響き渡る美雪の悲鳴。

しかし、望月は躊躇いなく短剣を振り下ろした。


ガツッ、鈍い音が耳の奥まで貫く。


短剣は、美雪の左腕の一寸横に突き刺さっていた。

調理台から新たに抉りだされた白い破片が美雪の左腕近くに散らばる。


「……仕留められないっしょ。今のあたいでは」


望月は剣を引き抜くと、ゆっくり落ち着いて美雪を解放した。

そうして調理台の上から飛び降りる。


「はぁ、はぁ」


美雪は額に汗を滲ませて、呼吸を整えようとしている。

その姿に望月は背を向けた。


「前の、つい最近までのあたいだったら、躊躇なく美雪をバラバラに出来ました。

でも、あたいは、気付いちゃったっしょ」

「……何に気付いたの?」


間を空けて美雪が尋ねた。

顔を見せないまま望月は答える。


「嫉妬をしてしまうほどに、美雪のことを一人の人間として見てしまっている、

自分です」


俯きながら唇を噛み締めている望月。

美雪はため息をついた。

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