お口いっぱいに愛情をちょいと詰め込んで
校長室を出て、教室に戻ろうとする。豪健と望月が並んで歩き、
後ろから夏目がついてきている。
「なーんか、午後の授業を受けるのも馬鹿らしいっしょね」
「文化祭の準備だけなんだから、オブジェクト回収のために頭を回してなよ」
「頭より身体を回した方が、あたいの性に合っているっしょ」
「身体を回すって何だ」
ちょっといかがわしい響きだよな、と豪健がもんもんとする。
「クルクル回って剣を使う! 嗚呼、今すぐ剣で斬りたくなってきたっしょ」
「剣士は身体が資本だもんな」
「けんちゃんも剣士っしょよ。最近、ちゃんと剣を振っていますか?」
眉間にしわを寄せて顔を覗き込んでくる。
ばつが悪くなって豪健は視線を逸らした。
「いやあ、モンスターがいないと何か剣を振る気が起きないんだよな」
あはは、と照れたように後ろ髪をかく。
望月がため息をついた。
「この世界に染まり過ぎです。
とっとと魔力になるオブジェクトを大量に見つけて、現実世界に帰るっしょ」
「その事ですが、我輩に良い考えがあります」
後ろからついてきていた夏目が口を出す。
メガネを直して自信満々だ。
「何だ、良い考えって」
「ふっふっふ。ダンジョンをくまなく探索している我輩にかかれば、
ダンジョンが隠しているあられもない場所も一目瞭然!」
虫眼鏡を取り出して、床や天井を見つめている。
望月は焦れったそうに軽く貧乏ゆすりをした。
「つまり、どういうことっしょ?」
「オブジェクトが大量に格納された空き教室を見つけておいたのですぞ」
「おおっ! 本当っしょか!」
途端にぱあっと顔が明るくなる望月。
夏目の虫眼鏡を握る手を掴んで、ぶんぶん振って嬉しそうだ。
「よ、喜んで貰えて嬉しいですぞ。あ、安心して文化祭準備に励みましょう」
「まあ、夏目に頼りっきりってのも格好がつかないから、
僕たちも午後の文化祭準備中に目ぼしいモノを探しておくよ」
「おお! 是非とも頼みますぞ。我輩もまだまだ探索し足りないですからなあ」
「えっ、なっちゃんまだ探すの?」
望月が驚いて尋ねた。
夏目は落ち着いて乱れた帽子を整える。
「魔力吸収に使えるオブジェクトは多いことに越したことはありませんぞ」
ではでは、と夏目が颯爽と去っていく。
豪健と望月は呆然とその後姿を見送った。
「そういえば、夏目ってどこのクラスなんだっけ?」
「さあ。今度聞いてみれば良いっしょよ」
そんな話をしていると、お昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。
ぐうっと望月のお腹から可愛らしい音も聞こえた。
「お腹が減ったっしょ」
「ったく、帰ったらみんなにお弁当を分けて貰うぞ」
てへへ、とはにかむ望月に、
豪健は優しく頭の上に手を乗せた。
「でも、分けて貰うのは格好がついていないっしょ」
「言うな」
前髪のかかった瞳が悪戯っ子の色を見せる。
各々の教室からは文化祭準備による喧騒が廊下に漏れ始めていた。
教室に戻ると、さっそくメイド喫茶の装飾品の創作を手伝わされた。
赤いウサギに見つめられながら、赤い折り紙をハサミで切っていく。
「ごうく~ん、はいっあ~ん」
切り切りしていると、横から美雪が弁当をこそっと開けて
卵焼きを摘まんだ箸を口元に運んできた。
思わず口を開けて向かい入れる。
「んー、おいひい」
豪健好みの甘い味付けが口の中に広がり、
咀嚼すると舌の上で卵焼きがとろけた。
「もー、お弁当分けるって言ったのはあたしだったのに」
友塚が切った折り紙を輪っか状に糊付けしながら口を曲げた。
ふふっと美雪は勝ち誇った笑みを零す。
「ともちんは、そこでおはぎを吟味している
おモチちゃんに餌付けをしていれば良いわ」
美雪が顎をしゃくった方には、つばきの席でおはぎを並べて
睨めっこをしている望月の姿があった。
「あいつ、何やってるんだ?」
「おモチの新味開発っしょ! って言っていたわね」
「あそこまで堂々とサボれるのは逆に清々しいが」
つばきは望月と一緒におはぎを睨みつけながら若干よだれを垂らしており、
おはぎを作った張本人の宮下はそんな二人を固唾を呑んで見守っている。
「あずき!」
「いや、きなこっしょ!」
言葉の勢いそのまま、望月は黄色いきなこの付いたおはぎを一口で食べてしまう。
「あっ、唇にきなこがついている、かも」
宮下が小声で指摘するも聞こえておらず、
頬っぺたをはち切れんばかりに膨らませて咀嚼している。
「あいつ、無茶苦茶な食べ方をするな」
「そうね~料理は味わって食べないと。はいっあ~ん」
二個目の卵焼きを口の中に入れて貰う。
むう、と友塚は口惜しそうにその様子を見て、
自分のお弁当箱を開いた。
残しておいた小さなワンちゃんのおにぎり。それを手に取る。
「ごうちん、こっちもはいっあ~ん」
「おっ、あり、ありがとう」
小さいとは言え、おにぎりを一口で食べるのは少々難がある。
しかし、むごむご言う豪健の口の中に、友塚は楽しそうに押し込んだ。
「むぐごご」
これじゃあモッチーナとやってることが変わらないな、
と豪健は思いながら頬っぺたを限界まで使って必死に咀嚼する。
「ごうく~ん、はいっあ~ん」
そのやり取りが仲睦まじく見えたのか、
美雪も対抗して三個目の卵焼きを持ってくる。
んーん、と豪健は顔を横に振った。
これ以上、口の中に入るもんか。
しかし、美雪は固く結んだ唇に卵焼きをぐいぐいと押し付けてきた。
「ほらあ、美雪が一生懸命作った卵焼きを、食べて食べて~」
むむぐ、と今にも決壊しそうな口内を唇で必死にせき止めている豪健に、
美雪は楽しそうにほらほら~、とノリノリである。
「ちょっと、美雪」
美雪の席で無理矢理お弁当を食べさせられていると、
いつの間にか望月が目の前に仁王立ちしていた。
「なあに、おモチちゃん」
「話があるっしょ。一緒に来て貰っても良いですか?」
えー、と美雪が不満そうに頬を膨らましかけたが、
望月のブレない真剣な眼差しに、表情を引き締めた。
「良いわよ。ここじゃあ騒がしいし、教室の外で話しましょうか」
「ついてくるっしょ」
始めからそのつもりだったようで、
望月がさっさと教室の外へと歩いていってしまう。
「ごめんね、ごうくん。後はともちんのお弁当で我慢して」
美雪は軽くウインクをすると、望月の後を追った。
もぐもぐごっくん、と豪健はようやく無理矢理押し込まれた
おにぎりと卵焼きを飲み込んだ。
「おい、お前達」
ちゃんと言葉を発した時には既に二人は教室にいなかった。
「不穏な空気だね」
友塚がぼそっと呟く。
「一体、どんな楽しい話をするんだか」
「そんな呑気なこと言ってて良いの?」
糊付けを再開しながら友塚が言う。
うん、と豪健は一瞬思案を巡らせた。
「まあ、大丈夫だろう」
「どうしてよ」
「モッチーナは、どこに行ってもモッチーナだからさ」
豪健は友塚のお弁当からウサギさんリンゴを持ってきて口に入れた。
呑気にリンゴを食べている豪健に、
友塚はふんと拗ねて荒々しく折り紙に糊を塗りたくった。
「そういう誰彼も寄せ付けない信頼関係に立ち向かっている自分が馬鹿らしいわ」
「あはは。拗ねないでよ。ともちんには、いろいろと感謝しているしさ」
「えー、感謝が足りないと思うけど」
「今度まとめて恩返しするよ」
言っていて、今度なんて来るのだろうかと薄ら思う豪健。
「へぇ。だったら無茶苦茶な要求をしちゃおっかな~」
「ぼ、僕にできる範囲でお願いします」
悪いことを考えてそうな友塚の表情に、豪健は慌てて補足を入れた。




