ガチャガチャ改造の結果
キーンコーンカーン。お昼の時間を知らせるチャイムが鳴り響く。
「よし、校長室に行こう!」
豪健は勢い良く立ち上がった。
豪健の机の上で居眠りをしていた茶色のウサギが、驚いて机の上からずり落ちる。
「張り切っているね~」
落ちた茶ウサギを抱えながら、前の席の友塚が言う。
「おうよ。僕の運命がかかっていると言っても、過言ではない」
「確かに過言じゃないっしょねー」
後ろで望月がうんうんと頷いている。
「ふふっ。まあ、お昼ご飯は適当に残しておくから、
午後の準備時間中にこそっと食べちゃって」
「ありがとう、ともちん」
豪健は手を振って、望月を連れてその場を後にする。
廊下に出ると、当たり前のようにウサギが駆け回っている。
「この校舎でウサギを見ない場所はないな」
「今や推定二百五十六匹っしょよー」
「しかし、表示オブジェクト数に制限をかけているから、
無茶苦茶には増えないみたいなことを博士は言っていたのに」
しっかりと数えたわけではないが、二百種類以上の模様は確実に見ている。
「あたいとしては、このまま千匹二千匹に増えて学園をぶっ壊して欲しいっしょ」
「お前は本当にブレないな」
呆れたように言ったが、望月はえへへと照れて頭をかいている。
褒めてないっての、と豪健は軽く小突いた。
二日ぶりに校長室に着く。
ノックをして、ドアノブを捻って部屋に入った。
「おっ、馴染みの二人が来ましたなあ」
夏目がメガネを直して声をかけてくる。
「お前、今日は昼の放送には行かなかったのか?」
「なにぶん、重大なお話だそうですからなあ。
放送は勇者氏と宮下氏にお任せしておりますぞ」
「ふ~ん。よっぽど重大っしょね。いつもいない有泉も居ます」
望月は窓際に立っている有泉を見た。
有泉は首元の青い蝶ネクタイに触れる。
「そうね。私達の運命に関わる話と言っても過言ではないわ」
「過言っしょよー」
さっきと真逆なことを言う望月。
ふうん、と有泉は望月を挑発的に見つめる。
「わたし達に残された時間は限られているのです」
有泉の隣には身体の大きさに合わない椅子に座っている博士。
さらに隣には水無月が立っていた。
「だから今日は全員に声をかけたのだが……」
水無月が鋭い視線で豪健らを見回す。
「一人、足りないようだが」
「たんぽぽなら、つばきと一緒にウサギを撫でていたけど」
「よくもまあ飽きずに愛でていられるっしょねー」
「あらあ、望月ちゃん。それは人間も同じでなくって?」
有泉が妖艶な眼差しを望月に送る。
「ど、どういう意味っしょか?」
「よく飽きもせずに同じ人間を愛でていられる、なんてね」
「耳障りなことを言うなっしょ」
望月がジト目を向ける。
そんな視線を気にせず有泉は涼しそうな顔だ。
相変わらず一枚上手だと、豪健は苦笑いを浮かべる
その時、バンッと勢い良く校長室の扉が開かれた。
「お待たせ」
黄身色の髪をなびかせて、たんぽぽが立っていた。
水無月が眉間に皺を寄せて睨み付ける。
「校長室に入る時はノックをして静かに扉を開けるようにと、何度も言わせるな」
「ゆっくり開けたらコンマ一秒遅れていた」
「一番遅れた人のセリフじゃないっしょねー」
「本当なのです。待ちくたびれたのですよ」
博士も高質な机に身を乗り出して、ぶーぶー文句を言っている。
夏目が両手の平で壁を作って、間に入ってきた。
「まあまあ。限られたこの世界の時間を、少しでも堪能しておられるのですから」
「この後の報告次第では、限られた時間も永遠になるわけだが」
豪健はそれとなく博士に水を向ける。
うむ、と博士は重厚な椅子の上に立った。
それでも背丈は背もたれよりも少し高いぐらい。
「今日までに学園のオブジェクトを魔力投入できるよう、
ガチャガチャの改造をしていたのですが」
窓からの光に水色の羽が照らされて神々しい。
白衣を着て、腰に手を当てる。得意げに。
「バッチリ上手くできたのです!
オブジェクト吸引モードを搭載したので、
学園にあるオブジェクトを投入すれば、魔力変換をやってくれるのですよ」
「おおっ、ということは?」
「この学園のモノを片っ端から突っ込めば元の世界に帰れるっしょ」
やったぜやったっしょ、と豪健と望月は腕を組んで
スキップしながらグルグルと回り始めた。
その姿を夏目とたんぽぽは若干引いたところから見ている。
「あの、お二人さん、ゆ、愉快ですなあ」
「ゴミがつむじ風に舞っているよう」
「おい! 手放しで喜んじゃあいけないのか?」
豪健が足を止めた。
「いや、話を最後まで聞かないうちには、なんともですぞ」
「うっ、確かにな」
夏目に指摘されて我に返る。
望月も不穏な空気を感じ取った。
「オブジェクトの量が足りないっしょか?」
「当たらずとも遠からず、ね。
通常なら学園のオブジェクトを全て投入しても魔力が全然足りていないわ」
「通常なら?」
豪健が聞き返す。
「この二日間、ガチャ改造の他にここに来てからの魔力の供給量も調査していた。
ガチャガチャにはお前達からの魔力供給の他に、
影響の出ない範囲で学園からも魔力を吸収している」
「初耳っしょねー。それならすぐに魔力なんて集まりそうです」
「まあ、通常なら微々たる量なんだがな」
「面白いことに、日に日に学園からの魔力吸収量が増加していっているのです」
目を爛々とさせて、博士が言い放った。
「それは、何か理由があるのですかな」
「文化祭なのです。学園生徒の文化祭への期待感、高揚感が魔力となって
通常よりも多くガチャガチャに吸収されているのですよ」
「へぇ。確かに準備期間に入ったら、授業時間も騒がしくなったもんな」
「偶然だが、俺達にとっては追い風だ」
「まさに、天へ羽ばたく青い鳥を助ける、神風なのですよ」
博士は両手を水平に横に伸ばした。
水無月と有泉が両隣からその手を掴んで、さらに反対の腕も伸ばす。
見事なトリオに、シャキーンと音が聞こえてきそうだ。
「これより我らは、現実世界への帰還ミッションを遂行する」
「なるべく不要そうで、魔力がありそうな学園内のモノを屋上に持ってくること」
「期待しているのですよ」
では、解散。
と三人は瞬時に手を離して、窓を開けて外に出て行ってしまった。
「何故に窓から出て行ったんだ」
「鳥だからじゃないっしょかー」
「モッチーナ。やつらは人間だ」
「そんな真面目に言わないで欲しいっしょ」
他愛のない話をしていると、たんぽぽが開いた窓から出ようとしている。
「おいおい、お前まで何しているんだ」
「私は、鳥になる。人間はゴミ」
そう言って、ぴょーんと窓の外へ飛び出した。
そうして、頭から落っこちるのが見える。
慌てて豪健たちは窓際に駆け寄った。
「だ、大丈夫か?」
窓の外に顔を出すと、たんぽぽは黄身色の髪に雑草を付けて
むくりと立ち上がった。
「人様の世話になってはならない。恥だから」
そんな言葉を残して、ふらりと歩き去っていった。
「あ、おい、髪の毛に草が」
「放っておくっしょよ。お似合いの髪飾りっしょ」
「うーん。あいつ、絶対長生きしないタイプだぞ」
「心配になりますなあ」
夏目が心底心配そうな表情で胸に手を当てている。
そんな姿に、豪健はひっそりと尊敬の念を抱いた。




