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剣を売ってガチャるな!  作者: 原 すばる
第三章 ゲームと現実の混同編
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お前ってヤツは、本当に可愛いヤツだよ

「昨日の調理台を爆破したのって、モッチーナだったりする?」


豪健は探り探りに聞いた。


「……」


聞こえているはずだが、望月は答えずに剣を振りかぶる。

ズビズビズバババン、とわかりやすく剣をブレさせながら振り下ろした。


「……剣の乱れは何だっけ?」

「さ、さあ。いつも通りの上出来な素振りっしょよー」


ぴゅっぴゅぴゅいー、と無駄に上手く口笛を吹いてごまかす望月。


「嘘つけ。風も笑っちゃうほどの動揺っぷりだったぞ」


豪健は目を細くさせて指摘する。

むう、と頬を膨らまして、しかし、望月は観念したかのように肩を落とした。


「……爆発させるつもりは無かったっしょ」


ぽつりと言う。


「だったら、どうして爆弾なんて」

「むしゃくしゃしたからやったっしょ」

「そんな愉快犯みたいな声明は聞きたくないな」


豪健は冗談ぽく言ったつもりだったが、望月の目は笑っていない。


「本当ですよ。あの女を見ていると、胸がむかむかしてくるっしょ。

あの猫撫で声でけんちゃんと仲良くされるだけで、爆破したくなります」


握りこぶしをぷるぷる震わせて、望月はその猫撫で声を思い出しているようだ。

豪健はため息をつく。


「だからって、本当に爆破することはないだろう?」

「違うっしょ!」


望月は勢いづいて豪健に迫る。


「本当に爆破するつもりは、無かったっしょ。

あの時、けんちゃんや他のみんなが家庭科室からいなくなって、

アイスパフェならコンロは使わないと思って。それで、手が勝手に動いたっしょ」


望月が自らの手を眺めながら呟いていく。


「それでも仕掛けてから、やっぱり止めようと片付けようとしたっしょよ?

そうしたら、買出し組が戻って来ちゃって……」


唇を噛み締めて、目を反らした。

豪健はこれ以上望月を責めることはできなかった。

望月自身にさえ、相反する己の気持ちに収拾がつかなくなっている。


「お前ってヤツは、本当に可愛いヤツだよ」


重い空気を吹き飛ばすように、豪健は明るく言った。

望月はぽかんと口を阿呆っぽく開けている。


「だって結局、身体を張って美雪を助けちゃうんだもんな」

「あ、うん。つい」

「自分まで気を失っちゃってるし。よくわかんねーことやってるよ」


はっはっは、と笑って見せた。

それにつられたのか、ふふっと望月も笑みを零した。


「よくわかんねーっしょね」

「そうだそうだ。よくわかんねー」


半ば作って笑い始めたが、どうにも可笑しくなって本格的に声を上げて笑う。

変な色をした数多のウサギに囲まれて、真ん中に明るい朝日が落ちる。

望月の目元が日の光に煌いた。


 森の茂みから枯れ木や草を集めて、いつも通り焚き火を作る。


「ほら、あっち行った行った」


ウサギを追い払ってスペースを作る。

火をつけてモチを焼いている間も、ウサギ達は火に恐れる様子はなく、

駆け回って火の中に飛び込もうとするウサギさえ居た。


「おい、危ないぞお前ら」

「ここのウサギさん達は、火を怖がらないっしょねー」

「怖いもの知らずだな。ウサギの肉でも付け合わせにするか?」

「この青汁みたいな色のウサギを食べるなんて、

けんちゃんこそ怖いもの知らずっしょ」


苦い顔をしながら青汁ウサギを指差すモッチーナ。


「ほんとにな。色んな模様のウサギがいる。一つと同じ模様のウサギを見ない」


焼けたモチを頬張りながら見回してみる。

いかん、おかしな模様のウサギを見た後に白いモチを見ると

その模様にモチが変わっていくみたいで。


「美味しい模様のウサギを探してみるっしょね」

「美味しい模様ねぇ。そんなものあるのかな」

「焼肉模様とか!」


目をキラキラさせて言い放つ。

焼肉模様、か。

肉汁を垂らして焦げ目をつけた、お肉の模様。


「……絶対に見つけたくないな」


皮を剥いで調理された後なのに動き回っている。

そんな風に見えてしまうウサギも、ちゃんと探したら居そうだから怖い。

豪健は目を伏せながら、慌ててモチを口の中に詰め込んだ。


 身支度を整えて、森から出る。

それに合わせてウサギ達もぞろぞろと豪健の後をついてきた。


「今、一体何匹いるんだっけ」

「順調に増えていれば、百二十八匹っしょよー」


るんるん、と声を弾ませてスキップしながら言う望月。

ウサギで学園を潰すというモッチーナの冗談も、

現実味を帯びてきたな、と豪健はため息をついて校庭の方を眺めた。


校門をくぐり、生徒玄関を目指して歩く生徒たち。


お城の窓からこちらにやって来る衛兵集団を見ていた時を思い出す。

これからお勤めに向かう気合いが内包された表情。


ゲームの世界も現実世界も変わりはないのだな、と視線を外そうとした瞬間

妙なモノがちらりと見えた気がする。


「うん?」


屋上の扉に向けた視線を、再び校庭へと戻す。

すいー、すいー、と地面を滑って玄関を目指す生徒が居た。


「なんじゃありゃ。見間違えか?」


豪健は屋上の柵に身を乗り出して観察する。

地面を蹴って加速し、歩いている生徒を風を切って抜かしていく。


「見間違えじゃないっしょ。地面を滑っています。あたいがやったみたいに」

「ってことは、あいつが履いている靴はやっぱり」


こくり、と望月が頷く。


「どこでもスベールっしょ」

「てっきり調理台の爆発で四散したかと思っていたが」

「誰が履いているっしょねー」


棒読み口調の望月。誰が履いているのか見当がついているようで。

すいーっと曲がって、朝日に照らされた顔が見えた。


「大方の予想通り、勇者だったな」

「けんちゃん、勇者のこと呼び間違えなくなったっしょね」

「……そう言えば、そうだな」


望月に指摘され、豪健は戸惑った。

勇者を現実世界で操作しているのは親父で、

だからゲーム世界の勇者というキャラクターは親父なのだが。


「僕は勇者のことを、一人の人間だと思うようになってきたのか?」

「お馬鹿なことを言うなっしょ」


軽く言って望月は屋上の柵から離れる。


「いつもお馬鹿なことを言ってるお前には言われたくないな」

「あは。だったら、早いところ夢から覚めるっしょよ」

「もう覚めているよ。僕たちも教室に行こう」


前を歩く望月の頭にぽんと手を乗せて、豪健は抜かしていく。

むう、と頬っぺたにおモチを作って、その背中にチョップした。


 教室に行くとさっそく勇者がどこでもスベールを自慢していた。


「これを履いていると歩かなくても良いんだぜ?」


はっはっは、と聞いているだけで頭が悪くなりそうな笑い声に耳を傾けながら、

豪健は屋上での軽口を思い出す。


冗談っぽく済ませたけど、勇者や他のクラスメイトを人間として認め始めている。

この世界に来て今日でもう五日目。

段々と自分がこの世界に染まり始めている気がしてきて、焦りを感じる。


親父が操作しているとは言え、ゲームキャラクターはゲームキャラクター。

そこに親父の表情があるわけじゃない。仕草が、親父らしい振る舞いが

息子に向けられた言動が、あるわけじゃないんだ。


それなのに、あと三日、四日この世界で過ごせば

リアルタイムで進行している日程に追いつくとかで、

元の世界に戻れなくなってしまう。


馬鹿言うな。この世界の住人になるのなんて、ごめんだ。

何としても元の世界に戻る。早急に。


全ての鍵を握るのは、やはり全ての元凶である博士たちだ。

ガチャガチャの改造、上手くいっていると良いが。


豪健はお昼休みの校長室での報告を待ち遠しく思う。

教室の時計がいつもよりも遅く、針が動いているようだった。

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