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剣を売ってガチャるな!  作者: 原 すばる
第三章 ゲームと現実の混同編
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蛍光色ウサギは目が痛い

「故郷」


ううむ、どうりで。

このたんぽぽの歌を聞いていると無性に元の世界に帰りたくなる。

ダンジョンを駆け回った幼い自分の影が、濃くなっていく。


恋しい。

町の人たちは元気かな。

モンスターは人間を襲っているのかな。


「や~ま~は、あ~お~きいふ~るう~さ~とお」

「み~ず~は、き~よき、ふ~る~さ~と」


たんぽぽは胸に当てていた手をそっと下ろした。

どうやら歌い終わったようだ。

しかし、ウサギ達はまだたんぽぽの周りをグルグルと駆け回っている。


「アンコールをご所望みたいですぞ~!」


夏目が大きな声を上げて手を振った。

たんぽぽはつい今しがたまで声を張って歌っていた人とは思えない、

眠そうな目をこちらに向けた。


「なっちゃん、アレの準備はいい?」

「ばっちりですが、たんぽぽ氏はいけるのですかな?」


夏目は振っていた手とは反対の手を掲げて見せた。

その手には青くて丸っこい大きめのラジカセが握られている。

たんぽぽはこくんと頷いた。


「次で本当に最後の歌」


たんぽぽが下ろした手を再び胸に持っていく。

夏目は一旦、ラジカセを地面に置き、襟付き茶コートを脱ぎ始めた。


「おいおい、いきなり服を脱ぎ出してどうしたんだ?」

「何事もなりきることが大事なのですなあ」

「なりきるって、何になるべ?」


つばきも訝しげに様子を見守っている。

夏目はリュックサックから服を引っ張り出す。


だるだるのパーカーに、だるだるのボトムだった。

それらを素早く身に付ける。


「我輩はパンクになりますぞ」


フードを頭に被り、メガネを黒いサングラスにかけ直して仕上がった。

夏目はパンクになった。


「あの、夏目さん?」

「かむ、みゅーじこー!」


テンション高く夏目が言い放ち、ポチっとラジカセのボタンを押した。


ギュイーーーン。

ドルゥルゥドルィンドルィン

ドルルルルルルル、ツルルリィウィーーン。


騒々しいエレキギターのソロで、その歌は始まった。

駆け回るウサギ達は、ぴたっぴたっ、とその足を止めていく。

そうして、たんぽぽの場所を目指す夏目の道を開けていった。


この世界は狂っている。豪健は初めてそんな風に思った。


「YOYOウさウさ、ウサギを追いし、追われて追い越せ、ウサギさん」

「かの山へ、この山へ、手のなる方へ、亀さんやーい」

「呼ばれて飛び出てたんぽぽちゃーん! こぶな釣って亀さんやーい」

「呼ばれてみゅーじこーかけるぜなっちゃん! 夢は巡って亀さんやーい」


突っ込みどころ満載のラップだった。

何故ことあるごとに亀さんを煽っているのか。

しかし、縦横無尽に元気良く走り回っているウサギを見て、どうでも良くなった。


その後のことはあまり記憶が無い。

たんぽぽと夏目が両手をチェケラせながら、

ウサギ達と一緒に校庭をYOYO行軍しているのを断片的に思い出せる程度だ。


これは夢なのだ。

僕は夢の世界に居て、変な光景に遭遇してしまったに違いない。


「何を寝ぼけたことを言っているっしょか」


ハッと気が付くと目の前にたんぽぽが居た。

寝袋をまとって、今から寝ようとしている。


「だからな、放課後にたんぽぽと夏目がラップでウサギと行軍して」

「寝る前に変なことを言うなっしょ。夢に出てきそうで怖いです」

「やはり、あれは現実だったのか」


夢を見る前の出来事なのだから、あれは現実だったのだと豪健は思いなおした。

今はテント内の就寝前、

放課後の校庭での出来事を豪健は望月に話したところだった。


「この世界も夢みたいなモノっしょよ」

「お前もあの場所に居れば嫌でも見られたのに。

そういえば今日は放課後に剣の練習はしなかったのか?」


豪健は何気なく尋ねたつもりだったが、

望月はじとっと目を細めて見つめ返してきた。


「しなかったっしょ」

「そうか。いや、モッチーナにしては珍しいなって」

「もっと大切な用事がありましたので」


それだけ言って、望月は反対方向を向いてしまった。

豪健は困惑した。


実は、本題はこれからだった。

今日の美雪、豪健チームの調理台に爆弾を仕掛けたのはお前じゃないかと。

こうして落ち着いて話せる時に、面と向かって聞きたかったのに。


話の切り出しに躊躇っていたら機を逸した。


今日は諦めるか、と豪健は疲労による眠気に身体をゆだねた。

夢の世界へと誘われていく。


 RHLに来て五日目、金曜日の朝が訪れた。ずさシャシャざわわ、と

テントの外の騒がしい音で豪健は目を覚ます。


「……昨日の朝よりうるさい」


嫌な予感がしつつも、まずは落ち着いて寝袋から抜け出す。

隣を見ると望月は既にいない。


きっと今朝も剣の鍛錬をしているのだろう。

昨日の放課後は剣の鍛錬をしなかったらしいけど、

いつも通り朝早くから剣を振っているようで良かった、と豪健はひと息ついた。


しかし、草木の擦れる音が心を落ち着かせない。

テントの外では見てはいけない、グロテスクな光景が待ち構えているはずで。

今度はため息が零れる。


外に出なければ何も始まらないこの状況を疎ましく思いながらも、

豪健は入り口のカバーをめくった。


「うおおう」


もう出る息もないと思っていたのに、肺の空気が絞り出された。

樹木の影や伸びた雑草の合間を、蛍光色が蠢いている。

オレンジ、パープル、スカイブルー。


自然界ではお目にかかれない、不自然な色。目に痛い色。

あんまり見ていると背筋が冷えてきそうなので、

目を細めながら草むらに足を置こうとする。


「あぶなっ」


地面に生えている雑草とは明らかに違う、

眩しいライトグリーンのウサギが横ぎった。


「足の置き場があるのか、これ」


つま先立ちで慎重に歩を進めていく。

てやっ、たあっ、と声が聞こえてきた。

望月の掛け声だ。


途端に異様だった光景が馴染み深い日常へと様変わりしていく。

まるでウサギ達が昔からこの森に生息していたかのような。

ていやああっ、と望月の声がこだまする度に、ウサギ達が自然に同化していく。


「今朝もせいが出るね」

「あっ、おはよう、けんちゃん」


息を整えながら、望月は剣を下ろした。


「ウサギがこんなに増えているのに、お前は変わらず剣の鍛錬か」

「剣の乱れは心の乱れっしょ。乱さない剣を振ってあたいの一日は始まります」


豪健はぽりぽりと髪をかく。


「お前、時々親父みたいなことを言うよな」

「あたしの剣の師匠は、古今東西、けんちゃんのお父さんっしょよ」


すいいっと風を撫でるように剣を振った。

目の前のウサギは剣が迫っていることに気付かず、一瞬遅れて驚き飛びのいた。

剣の軌道が全くブレていない。


調子の良い時の望月は、斬られたモンスター自身も死んだことに気付かない。

これなら昨日の調理台爆破について聞けるかもしれない、

と豪健は思い立った。


「あのさ、モッチーナ」

「ふん? 改まって、何っしょか」


心なしか身構えられた。

長い付き合いだと気配で察せられてしまうらしい。

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