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剣を売ってガチャるな!  作者: 原 すばる
第三章 ゲームと現実の混同編
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ふるさと

「あ~その。もう具合は良くなったのかな?」

「うん。おモチちゃんが助けてくれたおかげで、無傷だよ」

「そっか。あいつ、あの時にちゃんと助けていたんだな」


豪健は胸を撫で下ろす。

その姿に、美雪はあははと声を上げて笑った。


「ど、どうしたんだ?」

「ふふっ。美雪の心配よりもおモチちゃんの心配をしていたんだなって」

「それは」

「あーあ。おモチちゃんにはやっぱり敵わないなあ」


悲観した言い回しだが、美雪は楽しそうに伸ばした脚をぶらつかせる。


「ごめん」

「やだあ、妬いてみただけなの。美雪が勝手に困らせたの。だから謝らないで」

「う、うん」

「それとも、おモチちゃんに代わって謝っているとか?」


小悪魔っぽく笑いかけてくる。


「今回だけじゃないけどさ。もし、モッチーナが迷惑かけていたらと思って」

「良いの。だって、おモチちゃん可愛いだもん。しょうがないよ」


窓から差し込む夕日の逆光で、美雪の表情に影が見えた。

それでも笑っているような気がして、豪健は切ない思いで胸がいっぱいになった。

でも、だからと言って抱きしめるわけにもいかない。


何もしてやれない自分をもどかしく思っていると、

美雪が手招きした。


「ねえねえ、こっちに来て窓の外を見てみてよ」

「ん? 何か面白いモノでもあるのか?」


美雪の座るベッドの脇に立って窓の外を見てみた。

異様な光景がそこには広がっていた。


校舎の中からウサギが続々と出てきて、校庭に集まってきている。


「何か始まりそうよ?」

「あんなにたくさんのウサギが、校庭に一斉に集まって何を始めようって」


よく見ると、ウサギは円を描くように何かを中心にして集まっていた。

そのウサギの輪の中心には、黄身色の髪を風になびかせたたんぽぽが居た。


「たんぽぽじゃないか!」


思わず声を上げてしまう。

たんぽぽは集まったウサギを見回して、口を動かして何かを話しかけている。


しばらく話しかけていたかと思うと、胸に手を当てた。

もう片方の手を前に伸ばす。

あの構えは。


「ラぁーララー、ルルぅーッル、ラララー」


微かに聞こえるたんぽぽの歌声。

豪健が窓ガラスを開けた。

先ほどよりも歌声が風に乗ってハッキリ聞こえてくる。


「綺麗な声ね」

「普段の言動からは、およそ考えられない歌い方だ」

「人は見かけによらないわ」


いつの間にか豪健の近くまで身体を寄せていた美雪は、

そっと手を握った。

びくっと身体を硬直させる豪健。


「美雪だって、本当は臆病なの」

「そうなのか?」

「うん。だって、この手、震えているでしょう?」


確かに、握ろうか握らまいかの豪健の迷いによって

今にも解けそうな美雪の手は、震えていた。


「もし振り解かれたらと思ったら、どうしようもなくなっちゃって」


えへへと無理に笑みを作る美雪。

今日はこんな笑顔を良く見ているな、と豪健は思った。


「良いよ。落ち着くまで、こうしていよう」


豪健は中途半端に握られたその手を、しっかりと握り返した。

わあっ、と小さな歓声を零す美雪。


「ありがとうごうくん」


微笑んだその瞳の端が、夕日の日差しで輝いていた。

それが眩しくて、窓の外へと視線を戻した。

たんぽぽの歌に耳を傾けているウサギを、どうしようもなく愛おしく思った。


 結局、生徒玄関を出たところまで美雪とは手を繋いだままだった。

モッチーナに見られたら殺されるかもなあ、とぼんやり思いながらも

豪健はその手を強く握ったままだった。


今だけ。今この瞬間だけしか、自分はここに居ないから。

だったら、この子のためにできる限りのことをしてあげたい。

そんな思いが勝っていた。


美雪が家路に着くのを見届けてから、豪健は校庭へと足を伸ばす。


「圧巻だべな」


校庭の近くまで行くと、腕組をしてうんうんと頷いているつばきが居た。


「おう、つばきも見に来ていたのか」

「たんぽぽに見にけえって誘われちょってなあ。こんなにたくさんのウサギ、

みんな言うこと聞かせて、すげえっちゃね」

「そうだな。お前が連れてきた一匹が、今はえっと」


六十四匹だべ、とすぐに答えが返ってきた。


「それだけの数、動物の扱いに慣れていないと、できないよ」

「んだな。たんぽぽの家も牧場をやっておるんかね?」


何気なくつばきが聞いてくる。

どう返答しようかと、思案を巡らせる。

いっそたんぽぽの父親は現実世界のお前だよ、と言ってしまおうか。


「……そうみたいだよ。父親から教わったと聞いている」

「きっと動物のことが大好きな父親にちげえねえべ」

「違いないな。だってそれは」


その時、たんぽぽの歌声が止まった。

何事かと豪健とつばきが校庭の中心を見る。


「みんな集まってくれてありがとう。じゃあ次は、グルグル回って」


ほんのり興奮が混じりながらも、淡々とした口調は崩さずに呼びかける。

人差し指でグルグルと円を描きながら、それを天に向けていった。


「う~さ~ぎ~お~いし、か~の~や~ま~」


歌詞を紡ぎながら、指だけで回していたのが徐々に手首へと伝わっていく。

それにあわせて、今まで大人しく座っていたウサギ達が

むくりむくりと起き上がってきた。


「こ~ぶ~な~つ~りし、か~の~か~わ~」


そして今や、腕ごと振って大きな円を描いていた。


「ノリノリだな、たんぽぽ」

「んだな。しっかし、この歌は懐かしい気分にさせるべな」

「知らない歌だけど、確かに懐かしくなる」


つばきがたんぽぽの背景にある何かを遠い目で眺めていた。

豪健も頷いて、黄身色の髪を揺らして歌うたんぽぽを見た。


「ゆうめ~は、いいま~も、め~ぐ~うりいて~」

「わ~す~れえ、が~たき、ふ~る~さ~とお」


歌の拍子に合わせてぐるんぐるんと大きく腕を回していく。

その腕から風でも起こしているようで、

たんぽぽを中心とした、ウサギの竜巻が巻き起こっていた。


「い~か~に~いい~ます、ち~ちいは~は~」

「おやおや、二番も歌えるようになったのですなあ」


豪健の背後から、感心する声が聞こえた。

焦げ茶の平たい帽子のツバを上げて、夏目が歌うたんぽぽを眺めていた。


「夏目! お前、どこに行っていたんだよ」

「いつもの放送のお手伝いですぞ」

「んだ、それよりお前さん、あん歌を知っておるんか?」

「当然ですな。この世界の歌を知りたいと聞かれて、私が教えたのですぞ!」


ふふん、と鼻高らかに言う夏目。


「どうしてお前が教えられるんだ」


この世界の住人じゃないのに、と豪健が目を細めた。

夏目はメガネをくいっと直す。


「ダンジョンに潜入したら、隅々まで探索するのは基本ですぞ!」

「ダンジョンとはちょっと違う気もするけど」

「知らない場所に知らない文化、見たことも聞いたこともないアイテム。

それらに触れられる喜びを、嗚呼、我輩はなんと幸せ者であろうか」


豪健のことなど気にせず、自分を抱きしめて惚けている。


「なあ、こんやつ大丈夫かえ?」

「いつもは大丈夫なんだけどスイッチが入るとな。

おーい夏目、結局たんぽぽが歌っている歌は何て言うんだ?」


豪健が呼びかけると、夏目はハッと我に返り乱れた帽子を整えた。

こほん、と咳払いをする。


「あの歌は、『故郷』と言いますな」

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