表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣を売ってガチャるな!  作者: 原 すばる
第三章 ゲームと現実の混同編
42/104

メイド喫茶メニュー採用戦 エピローグ

冷凍庫を丁度開けていた豪健は、背後の爆発音に驚いた。

剣の柄に手をかけつつ、急いで振り向く。


ねずみ色の煙がつい今しがたまで豪健の居た調理場から上がっていた。

何なんだ。一体全体、どうしたってんだ。


「窓を開けよう」


たんぽぽがいつもと変わらない声色で呼びかけながら、窓を開けていく。


「なな、何が起こったっぺ」

「爆発したのかも」


豪健の調理場から一番離れていたつばきと宮下が戸惑っている。

それを横目に豪健は駆け出した。

美雪は、美雪は無事か?


「おい、美雪! 大丈夫か!」


ぐちゃっと嫌な感触が足元から。

何かを踏んづけた。

恐る恐る視線を足へ移していく。

赤が目に飛び込んできた。

ひやっ、と心臓が浮き上がる。


「くっ」


意を決して足を上げた。

そこには潰れた、イチゴがあった。

安堵と共に再び焦りが噴き出す。


煙に視線を戻すと、粉々に砕けた調理場がちらりちらりと見え始めた。

美雪の姿は見つけられない。


「おーい! 美雪!」

「ここっしょよ!」


遠くの、教室の隅から声が聞こえた。

そこには美雪を抱きかかえて倒れこんでいる、望月の姿が。


「け、怪我はないか!」


急いで駆け寄る。


「この子はたぶん、大丈夫っしょ。どうにか、爆発を免れました」


優しく微笑んで、しかし望月はすぐに苦悶の表情を浮かべた。


「モッチーナ。お前、どこかぶつけたんじゃないか?」

「へーきっしょよ。オークの棍棒にぶたれるよりも、軽い軽いっしょ」


声が段々と眠くなっていき、望月の意識がそこで途絶えた。


「保健室に連れて行きましょう!」


消火器を持った友塚が後ろから声をかける。


「わ、わかった。二人とも連れて行こう」

「ゆうちん! ごうちんを手伝ってあげて」

「任せなさい。俺様は重傷を負った人間を数多く教会へと運び込んで」

「御託は良いから、早く!」


友塚に急かされて勇者が美雪を抱きかかえた。


「行くぞ、豪健!」

「あ、うん。勇者」


親父に声をかけられた。冒険をしていた時みたく。

豪健は妙な気分を味わいながらも、望月を背負う。

そうして勇者の後を追って、家庭科室から出て行った。


 廊下を走る豪健と勇者。文化祭の準備時間ということもあって、

各教室からは賑やかな声が廊下の方に漏れ出て聞こえてくる。


「爆発するスイーツ料理でも作っていたのか?」


前を走る勇者が聞いてきた。


「いや、そんな物騒なモノは作っていなかったが」

「じゃあ、何でこんな物騒なことになっているんだよ」


ちょっと怒ったような勇者の言い方に、豪健は唇を噛み締めた。

それは僕の方が聞きたいよ!

そう言ってやりたかったが、美雪のサポートに入っていたのは僕だった。


豪健は何も言えずに、黙りこむ。

二人の間にそれ以上の会話はなく、廊下を走る足音だけが耳に響いた。


 保健室へと辿り着く。乱暴にドアを開けると、

椅子に座って腕組をしながら書類を眺めている、水無月が居た。


「保健室では静かに、って豪健」

「水無月。どうしてお前が」

「ちょっとしたお留守番だ。それより、何用だ?」

「この二人を診て欲しいんだぜ」


勇者が背負っている美雪を見ながら言った。


「わかった。そこのベッドに寝かせろ」


水無月の指示に従って、望月と美雪を白いシーツの敷かれたベッドに寝かす。


「お前、怪我の容態とかわかるのか?」

「回復魔法の使えない魔法剣士など、この世におらんからな」

「この世に魔法なんてないけどな」

「屁理屈を言うな」


水無月が二人の身体に触っていく。遠慮なしにぐいぐいと。


「そんな風にべたべた触って、モッチーナにまた怒られるぞ?」

「だったら死ねば良い」


水のように冷たく言い放つ。


「ひゅー、厳しいなお前」


勇者が後ろで物珍しそうに保健室を眺めながら言う。

それを無視して、水無月は診査を続ける。


「目立った外傷はないな。念のため、二回ぐらいヒールをかけとくか」


水無月の手が水色に光り出した。

光が小さな粒となって、身体に降り注いでいく。


「これでしばらく安静にしていれば、大丈夫だろう」


ふう、と小さく息を吐く水無月。


「ありがとう」

「こんな平和な学園で、何をやってくれたんだ?」

「それは……」

「痴情のもつれ以外に考えられないぜ」


後ろから勇者が口を挟んだ。水無月が眉をひそめる。


「痴情のもつれ?」

「豪健が美雪と一緒に料理を作って、美雪にばかり構うから、

モッチーナが嫉妬して、それで」

「馬鹿なこと言うな!」


豪健は叫んでいた。勇者に向かって。


「モッチーナがそんなこと、するわけがない!」

「どうかな。モッチーナは嫉妬深い。何をしでかすかわからないところがある」


水無月も勇者に同意して頷いている。

何なんだ、こいつら。

モッチーナのことをわかったような口ぶりで。


「ふ、ふざけるな!」

「そう取り乱すってことは、お前自身も思うところがあるのだろう?」

「何だと!」


豪健が水無月の胸倉を掴む。

その手首を水無月は強く掴み返した。豪健を睨んで。


「保健室で騒がしくするな。これ以上やるなら、校庭で相手してやる」


その目は頭を冷やせ、と訴えているようで。

豪健は手を離した。


「後でまた来る」


それだけ言って、豪健は足早に保健室から出て行った。

惨めな思いが引きずられていくようだった。


 興奮した頭が冷めるまで、屋上でウサギを撫でていた。

幸いウサギは腐るほど居たので、撫でられるのに飽きたウサギが去っても、

また新しいウサギが豪健の膝元にやってきた。


「モッチーナが、爆発させたのかな」


考えてみれば、もちもち剣外伝のモチ爆弾で爆発させられる。

しかも、教室に食用モチを取りに行っている間は

家庭科室にはモッチーナ一人だけだった。


極めつけは爆発直前に、コンロは! とモッチーナが叫んでいたこと。

あれは、コンロの着火をトリガーに

モチ爆弾が爆発するということではなかったのか。


「考えれば考えるほど、モッチーナが犯人だ」


砂色のウサギを撫でながら、豪健はため息をつく。

何て声をかければ良いのだろう。

それ以前に、僕はモッチーナをどう許せば良いのだろう。


「ダメだ。考えが纏まる前に、夕日が沈む」


気がつくと空はオレンジに染まり、夕日は山の中に入っていこうとしていた。

膝に乗せていたウサギをどけて、立ち上がる。


「迎えに行こう。モッチーナと話さなければ始まらない」


豪健は屋上の扉に手をかけた。いつもよりも重く感じた。


 保健室に戻ってくると、望月の姿はなかった。

代わりに、ベッドに腰掛けて窓の外を眺めている美雪が居た。


豪健は話しかけようか迷った。

親しく話している所をモッチーナに見られたら、変な気を起こすかもしれない。


そこまで考えて愕然とした。

やっぱり、僕はモッチーナを疑っているのだと。


そんな風に豪健が手を伸ばしたり引っ込めたりしていると、

美雪がゆっくりと振り向いた。


「えっ、そんなところで何しているの?」


微笑しながらも、戸惑っているように小首を傾げる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ