メイド喫茶メニュー採用戦 後編
教室に行って大袋を取り、家庭科室へ戻ると既に買出し隊が帰還していた。
「もう戻って来ていたのか」
「そうよお、早く美雪特製イチゴチョコアイスパフェを食べて欲しくって」
ごうくんにね、と一番手前の調理台にビニル袋を乗せながらウインクをする美雪。
「イチゴにチョコ?」
「うんっ。イチゴにチョコの組み合わせが、美雪は一番好きなの」
へぇ、と豪健は感心する。
イチゴにチョコとは考えたこともなかった。
「モッチーナに渡すものがあるから、ちょっと待っていて」
「はーい」
ちょっぴり拗ねた返事を聞きながら、望月の元へ行く。
「ほら、食用モチを持って来てやったぞ」
「ありがとうっしょ。十個ぐらいそこに置いてください」
「はいはい」
トントン、と望月の調理台に置いていく。
八個目を手に取ったとき、手に湿った感触が。
「このねちょっとしたモチは、水モチだ」
「スライムの体液と混ぜたモチっしょね」
「スライムの味がわかる人は、ここにはいない」
横から手が伸びてきて、水モチを掴んだ。
そうしてそのまま、ぱくっと口の中におさまる。たんぽぽの。
呆気に取られる豪健と望月を他所に、もぐもぐと口を動かす。
表情は変わらないままだが、頬が僅かに紅潮していた。
「このしつこいぐらいの水っぽさ。粘り気。まさにスライム」
「か、勝手に食べるなっしょ!」
「そうだぞ。数も少ないのに」
デリシャス、とぼそっと呟くたんぽぽ。
好き勝手に動かれて、モッチーナが振り回されるのが目に浮かぶようで。
豪健は先が思いやられながら、残りのモチを取り出した。
「お前、ちゃんとモッチーナのサポートをしろな?」
ダメもとだが、一応注意する。
ん、と力強く親指を突き出すたんぽぽ。
「ごうく~ん、ちょっと来て~」
後ろから美雪の呼ぶ声が聞こえた。
あからさまに望月がむすっと嫌な顔をする。
「じゃあ、僕も手伝いに行くから。おモチ料理、期待しているぞ」
「はいはい。あたいも期待しているっしょよー」
望月がこちらを見ずにしっしと手を振る。
豪健はため息をつきながら戻った。
「元気があるうちにクリーム作りに入るわ。
ごうくんは材料を使いやすいように開封していって」
買出しの材料の入ったビニル袋が調理台の上に乗っている。
「わかった」
豪健はビニル袋の中身を取り出していく。
そして、コーンフレーク、チョコレートソース、イチゴパックに卵パックを
それぞれ開封していく。
「あれ、アイスが見当たらないけど」
生クリームの紙パックを開封しボウルに入れている美雪に尋ねる。
「さっき冷凍庫に入れておいたわ、ってああ!」
生クリームパックを落としそうになりながら豪健を見つめてきた。
卵が入りそうなぐらい、口を開けて。
「なんだ、生クリームを入れすぎたか?」
「氷を買ってくるのを忘れちゃった」
「氷もパフェに入れるのか?」
「ううん。クリームを混ぜる時に、
ボウルを冷やしながらの方が、らく~に角を作れるのよ」
人差し指を頭に置いて、くねくねと曲げる。
「角?」
豪健も真似して、頭に角を作った。
見詰め合ってお互いに指を曲げていると、自然と笑みが零れた。
「あは。手首を鬼にしないとダメになっちゃう」
「僕が混ぜようか? あ、他に氷を買ってきた人に貰うとかもできるし」
「ううん。これぐらいならまだまだ自分の力でやるわ」
「そうか?」
うん、と美雪が泡立て器を握り締める。
「誰かの力を借りて作るよりも、美雪でいっぱいの料理を
ごうくんに食べて欲しいんだ」
「う、うん」
息を吐くように恥ずかしいセリフを言って、生クリームを混ぜている。
豪健は美雪を直視できなくなり辺りを見回す。開封された材料が散らばるだけ。
他にやることもなくなってしまった。
ふと、手元の大袋に目がいった。
中身を見てみると、どこでもスベールを見つける。
待てよ、この靴底って。
「美雪、冷たいモノなら用意できるかも」
「本当? だけど、美雪だけの特製パフェで」
「そう意地を張んなって。ちょっとはお前の手助けをしないと
どこかの味見だけをする、どうしようもないヤツと同じになっちゃうよ」
「でもでも」
「今だけは味方になって欲しいんだろう?」
豪健がそう言うと、美雪が何かに気がついたように目を見開いた。
「そこまで言うんなら」
美雪にしては珍しく消え入りそうな声で頷く。顔も赤い。
豪健はあまり見てやらないように視線を外して、
材料を入れていた白いビニル袋の中にどこでもスベールを入れた。
そうして、ビニルをひっくり返す。
「思った通り、靴底から冷気を放出している」
ビニルの表面に手を近づけただけで、冷たさが伝わってきた。
「どれどれ~、ってつめた!」
美雪が何気なく触り、声を上げて素早く手を離した。
「一瞬にして地面を凍らす冷気が出ているからね」
「美雪の指が凍っちゃうかと思ったよお」
ふーふー、と人差し指に息を吹きかけている。
そんな何気ない仕草も、可愛らしい。
豪健がなんとなく見惚れていると、その視線に美雪が気づいた。
「心配してくれているの?」
「う、まあ」
「ごうくんが指を舐めてくれたら、もっと早く治るのにな~」
「な、舐める?」
口をぱくつかせていると、美雪はふふっと小さく笑った。
「冗談よ。そのビニル袋をシンクの中に置いて」
「変な冗談はよしてくれ」
ほっと一息つきながら、豪健はどこでもスベールの入ったビニル袋を
裏返したままシンクの中に置く。
その上に、美雪は混ぜかけ生クリームが入ったボウルを乗せた。
「変な冗談じゃないわ。真面目な冗談よ」
「真面目なのか冗談なのか、よくわからない言葉だ」
「一つだけわかっていることがあるわ」
「なんだそれは」
嫌な予感を覚えながらも、豪健は聞き返した。
美雪は泡立て器で手早くかき混ぜながら答える。
「美雪のごうくんへの愛は真実ということ」
照れ隠しなのか、きざっぽく語調を上げた。
「まさか料理をしながら真実の愛を告白されるとは」
「現実的で素敵でしょう?」
現実的で素敵、か。
美雪にとってはこの場所こそが現実なのだ。
だが、僕にとってこの場所は。
「わあっ、見てこれ! こんなに早くとろっとろになってきたあ!」
そのテンション高い声に、豪健は我に返った。
泡立て器で生クリームを伸ばして見せる美雪。
「いいね。すぐに美味しい生クリームが出来上がりそうだ」
「もうできたよ~。ほら、角が生えるわ」
そう言いながら白いクリームをすくうと、泡立て器についてきて途中で千切れる。
先を尖らせたまま、ゆっくり沈んでいく。
美雪はそうして何度も角を作って見せた。
「クリームができれば、後は材料を飾りつけながら作っていくだけ?」
「ちっちっち。美雪特製パフェがこれでおしまいじゃあないんだなあ」
ボウルを置くと、別の器に卵を割って入れ始めた。
菜箸で素早くかき混ぜると、砂糖を大匙二杯入れる。
さらにしょうゆも一周さっと入れた。
「これが美雪の卵焼きのレシピだわ」
「もしや、卵焼きをパフェに?」
「そそ。甘いほかほかの卵焼きが、意外と冷たいパフェに合ったりするの」
「へぇ、楽しみだな。だったら、そろそろアイスを取ってこようか?」
「うん、お願い」
豪健が冷凍庫に向かう。
美雪はかき混ぜた卵の入った器を置いて、フライパンを棚から出す。
「あっ、コンロは!」
望月が声を上げた次の瞬間、
ドガーンと爆発音が耳をつんざいた。
窓ガラスが震えた。




