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剣を売ってガチャるな!  作者: 原 すばる
第三章 ゲームと現実の混同編
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異世界の住人に対する接し方

 お昼になった。今日は校長室に呼び出されていないので、

初日ぶりに教室でゆったりお昼ご飯を食べることになる。


「こらあ、ウサちん達、ご飯を食べるから机から降りるんだよ」


くっ付けた机に乗ってこようとするウサギを叱りつける友塚。


「しかし、今日も12時になったらウサギが増えたな」

「良い調子っしょねー。全部のウサギが増えていれば、

六十四匹になっているっしょ」

「ワシがガチャガチャ様に頼んだウサギが、こんなに増えてぐれるなんて」


感無量だべ、と満足そうに黒ウサギを抱いて笑っているつばき。


「今日は二人とも、校長室へは行かないの?」

「うん、今日は呼び出されていないんだ」

「良かったー。最近、ちゃんとここで食べてくれないから、

弁当食べすぎちゃって、困っていたところだったのよ」


友塚がえへへと照れたように笑う。


「悪いな。いつも作って貰っちゃって」

「ううん、好きでやってるから良いの」

「ちょちょちょ、美雪だってご飯食べすぎちゃって、困っていたの。

ほらあ、この辺りとかに栄養が余分にいっちゃって」


そう言いながら、自分の下乳を押し上げる美雪。

おおっ、と豪健が唸る。


「けんちゃん~」


すぐ隣から望月に睨まれていた。

「ああ、ごめん」

「そんなに見たいなら、あたいのを後でじっくり眺めさせてあげるっしょよ」

「いや、本当にごめん」


むぅ、と望月が頬っぺたを膨らませる。


「いいなあ、二人とも、大きくてさ」


友塚は自分の胸を見下ろしていじけている。

宮下も自分の小さく膨らんだ胸元をそっと撫でた。


「勇者さんは、どっちが好きなんだろう」

「あっ、どちらかと言えば親父、

じゃなくて、勇者は小さい方が好きだよ!」


小さい胸にこそ儚さと切なさとコンプレックスが詰まっていて至極なのだ、

と母さんに言って殴られていたのを思い出した。


「そう、良かったかも」


文字通り胸を撫で下ろして、安堵の表情を見せる宮下。

一途な宮下を心から応援したくなる。


ふと、豪健は違和感を覚える。

隣の席の自分と同い年の女の子が親父に恋をしている。

親父には母さんや僕という家族がいる。それでも彼女の恋を応援できる。


何故なら、宮下がゲームの世界の住人だと、

僕自身がしっかり認識しているからではないか。


もし現実世界の女の子だったら、僕は全力で阻止していたに違いない。

話し合いで解決しなかったら、権力を行使して遠くの国に飛ばしてでも、

その恋を妨害していただろう。


そうまでするのは、自分の家庭が崩壊する危険があるからだ。

だけど、親父がこの世界で恋をしようが何をしようが、現実世界に影響はない。

せいぜいゲームにのめりこんで、母さんに足蹴にされるぐらいか。


異世界の住人に対する接し方が、自分でも気付かないうちに

現実世界のそれと変わっていた。

モッチーナのことをとやかく言う資格が、僕にはあるのだろうか。


「さっきから難しい顔をして、何を考えているっしょか?」


豪健が腕組みをして自問自答していると、

望月が心配そうに顔を覗き込んで呼びかけてくる。


「あっ、いや、なんでもない」


我に返ると、いつの間にか机の上には中身が開かれた弁当が並んでいた。


「うおっ、今日も美味しそうなお弁当がよりどりみどり!」


陰鬱とした気分を紛らわそうと、

豪健はいつもよりもテンション高めにお弁当にはしゃいだ。


 豪健は美雪の作った卵焼きを頬張りながら、窓から差し込む日差しに

お腹を放り出して日向ぼっこをしているウサギ達を眺めた。


「しかし、こうして色んなウサギを見ていても、

二つと同じ模様のウサギは見つけられないな」

「確かにそうっしょね。グロテスクな模様のウサギもいます」


望月は苦い顔を浮かべて、なるべく視線を床に向けないようにする。


最初のうちは白とか黒とか茶色とか、どこにでもいそうな

単純な色合いのウサギだったのに、黒ぶちや茶色の斑点模様なんか良いほうで、

中には青いまだら模様だったり、緑と紫のコントラストを描いていたりする。


「グロテスクは言い過ぎ」


そう咎めて、たんぽぽも美雪の卵焼きを口の中に放り込んだ。

ちなみにたんぽぽは、望月と美雪のくっつけた机の真ん中に

自分の机をくっつけている。誕生日席みたく。


「いや、言い過ぎじゃないぞ。

夜中に学校で出くわしたら悲鳴を上げる自信がある」

「ゴミにふさわしい情けない自信」


相変わらず辛口なたんぽぽに、豪健はううっと重いため息をついた。


「ちょちょちょ、ごうくんのことを悪く言うなら、美雪のお弁当食べないでよね」


美雪はお弁当箱を自分の方へ戻そうとする。

がしっ、とたんぽぽは無表情のままお弁当箱を手で止めた。


「この卵焼き、本当に美味しい」

「えっ、まじまじ?」

「まじまじ」


テンション高く前のめりに聞いてくる美雪とは対照的に、

たんぽぽは淡々とした口調で答える。

それが妙に真実味を帯びていて、美雪は心底嬉しそうに笑みを零した。


「砂糖としょうゆを多めに入れて作ったんだけど。ごうくんの口に合うように」

「うん。大丈夫」


こくりと小さく頷きながら、ちゃっかり自分の方へ弁当箱を引き戻すたんぽぽ。


「焼きモチとどっちが美味しいっしょか?」


望月が横から口を挟んだ。


「もちろん美雪の卵焼きよね?

おモチなんて味気のないカロリーも高いぽっちゃりちゃん御用達の食べ物だわ」

「おモチは小さくて持ち運びも便利、しかも少量でエネルギーを

たくさん確保できる優れた食べ物っしょ。身体を動かさない怠け者のあなたには

分不相応な食べ物かもしれませんが」

「あらあ、これでも運動していたりするのよ?

いつでもごうくんに身体を見せても良いように」

「だったらあたいがまずは見てやるっしょ。

たるんだお腹をけんちゃんには見せられないので」

「美雪のお腹を見る前に、おもちちゃんのもちもちしたお腹を見せて欲しいな」

「残念ながらあたいのお腹は引き締まっているっしょよ?」


今や美雪と望月は席を立って、お互いに至近距離で睨み合っていた。

その間に挟まれながらも、たんぽぽはマイペースにウインナーやほうれん草など

お弁当のおかずをつまんで、顔色を変えずに口へ運んでいる。

温度差を感じる、なんとシュールな光景だ。


「やっぱり、あの二人は仲が良いよね」


豪健に右から耳打ちしてくるのは友塚。

クスッと微笑んで、怒ったワンちゃんの顔を海苔で描いたおにぎりを差し出す。


「あれは仲が良いと言えるのだろうか」


豪健はおにぎりを受け取りながら小首を傾げる。


「喧嘩するほど、仲が良いって言うじゃない」

「そうだけどさ。あいつらが仲良くしている光景が思い浮かばん」

「そう? あたしはすぐに浮かんできちゃったけど。

落ち込んでいるもっちん。ほら、とお汁粉缶をパスするみゆちん」


友塚は胸に手を当てて、まぶたを閉じる。


「なんだそれ」

「言葉を交わさずとも、お互いの欲しているモノがわかるみたいな」

「どうしてそうなるんだよ」

「相手のことを嫌うためには相手のことを知らないといけないから、みたいな?」


人差し指を立てて自信満々に言う友塚。

豪健は、おおっと思わず感心してしまう。


「なるほど、たまには深そうなことを言うな、友塚も」

「あたしはいつも言っているよー」

「良いことを、聞いたかも」


豪健と友塚の会話を正面から聞いていた宮下が目を輝かせた。

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