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剣を売ってガチャるな!  作者: 原 すばる
第二章 リアルヒューマンライフ没入編
35/104

変わらない日常

「モッチーナみたいに正直過ぎるのも、問題だけどさ。

心と心が通じ合うなんて、家族でさえできないんだから」


伝説の剣まで売ってガチャガチャを回す、

そんな親父の気持ちなんかわかりっこない。


「そうですぞ! 言葉と身体で、自分をアピールしなくては

勇者氏を振り向かせることなんて、できませんな」


豪健と夏目がげきを飛ばすが、宮下は俯いたまま。


「一緒にいるだけでも、私は良いかもだし」


声は小さいが、意志のこもった言葉。

くぅ、なんて健気なんだ。

しかし、こんなことではいつまで立っても宮下の想いは報われない。

あの鈍感親父がそれに気付くはずもないし。


豪健は何か良い案が無いかと頭を悩ます。


「今日のところは我輩で我慢して下せい」

「ありがとう、夏目ちゃん」


何にも浮かばないままで居ると、夏目が宮下を誘って帰路に着こうとしていた。


「それでは、後で我輩も例の注入作業をしておきますぞ」

「お、おう。わかった」


何のことやらとクエスチョンマークを頭に浮かべている宮下を尻目に、

豪健と夏目が手を振って別れの挨拶を交わす。


二人を見送った後、豪健は校庭へと向かった。

そこには、昨日と同じく剣術の練習をする望月が居た。

今日は剣を両手に持ったまま、高飛び棒を跳躍して越えている。


「けんちゃんも剣の鍛錬さぼっていないで、一緒にやるっしょ」


来て早々そんなことを言われてしまったので、

豪健は懐から剣を取り出して、素振りをしてみた。

夕風を斬る音は間の抜けた鈍さで、豪健は慌ててストレッチを始めた。


 四日目の朝。すさささっ、と草が擦れる音で目を覚ます。

豪健は伸びをして横を見る。空っぽの寝袋。

モッチーナは今朝も剣の鍛錬か、とテントの外に出る。


「うわっ」


目の前の光景に、ぽかんと口を開けてしまった。

樹木が乱立し雑草が生い茂る薄暗い森の中に、

所狭しと駆け回るウサギの姿があった。視界に、少なくとも十匹以上は居る。


「えーと、昨日の終わりが十六匹だから、今朝は三十二匹か」


順調だな、と豪健は深く考えることを放棄して望月を探した。


「たあっ、てや!」


威勢良く剣を振っているので、すぐに見つかる。


「おはよう。今朝もせいがでるね」

「寝起きの慣れっしょ。ウサギも多くて幸せです」

「ああ、良かったな」


本当に幸せそうに言うので、何の気なしに頷く豪健。

望月が目をらんらんと輝かせた。


「おっ、けんちゃんもついに、

ウサギで学園が潰れることを良しとするようになりましたか!」

「するわけないだろ。大体、潰れないって博士も言っていたし」


あくびをしながら言うと、望月はむぅと頬っぺたにモチを作った。


「けんちゃんは博士やあいちゃんの味方っしょか?」

「そんなわけないだろ」

「だったら、こんな学園どうなろうと知ったこっちゃないっしょよ」


豪健はため息をついた。


「またその話か。僕たちはこの世界に住まわして貰っているんだ。

どうなるこうなるは知らなきゃいけない」

「その考えから間違えているっしょ」


望月は短剣を突きつけた。


「そもそもあたい達をここに連れてきたのは、あの博士達っしょよ?

そうして元の世界に戻れない危機に陥れて、

何が創造した世界を潰すのは我慢ならないっしょか!

そんなことを言われる筋合いはないっしょ」


昨日の校長室での出来事を思い出しているのだろう。

地団駄を踏んで怒っている。

周りのウサギ達が驚いて、飛んで樹木の後ろに隠れる。


「モッチーナの言い分も良くわかるけどさ。この世界は良くできているというか」

「けんちゃんはあたい達の住んでいた世界とこの世界、どっちが大事っしょか?」

「あっ、今の言い方、母さんに似ていたな。

家族とゲーム、どっちが大事なの? って」


自分で言っていて、悲しくなった。

親父は家族の時間を犠牲にするほど、RHLにはまっていたのであった。


「はぐらかすなっしょ!」

「わ、悪かったよ。もちろん、元の世界が大事だ」


いつにない剣幕の望月に、豪健はたじたじになりながら答える。


「王国滅亡をたくらむ革命組織の開発したゲーム。

あたい達の世界に悪い影響を与えている、こんなゲームの世界は

破壊し尽くすに限るっしょよ!」


そうっしょ? と望月が迫るように尚も問いかけてくる。

そこで豪健はう~ん、と腕組みをして黙り込んでしまう。


そうなのだ。いつも、このモッチーナの問いかけに対して答えられないでいる。

ちゃんと筋は通っている。一国の王子として、むしろそうすべきだ。


わかるんだけど、それができたら苦労しない。

実際、そんなことを言っているモッチーナだって

何かを壊したりしているわけでもない。


この世界は出来過ぎているのだ。人のぬくもりが生々し過ぎる。

もしも凶暴で冷たいモンスターで学園が埋め尽くされていたならば、

また話は変わってくると思うのだが。


いつもの調子で黙り込んでしまった豪健に、望月はため息をついて

短剣を握りなおす。

てやっ、と一際大きな発声をして、風を鋭く斬り付けた。


その声は、森の奥深くまで、豪健の心の奥深くまで、

いつまでもこだまし続けるようだった。


 朝食を済ませ、軽く身支度を整えてから森を出る。

そのことを察したのか、森の中のウサギが豪健らの周りを駆け回りながら

着いてくる。


「こいつら、ちゃんと着いてくるんだな」

「全部のウサギじゃなさそうですが、ほとんどが校舎に行きたいみたいっしょ」

「何で校舎に行きたいんだろうな」

「そんなの、たくさん可愛がられたいに決まっているっしょよ」


例の赤い支柱が立っているところまで歩いて来た。

いつものようにその下を潜っていく豪健だが、望月は潜らない。

その場で足を止めたまま。


「おい、どうしたんだ?」


着いて来ない望月に訝しがって、豪健は振り返る。


「そんなの、たくさん可愛がられたいに決まっているっしょよ」


先ほどと同じセリフを望月は言う。

今度は噛み締めるように、言葉に力を込めて。

視線は真っ直ぐ、豪健を貫いていた。


望月の気迫に触れて、豪健は察する。

その言葉がウサギに向けられたモノではないことに。


踵を返して望月の方へ、一歩、二歩と近づいた。

そうして、頭を撫でようと手を伸ばす。


「あっ、撫でても良いか?」

「そこで止められたら、生殺しっしょよ」


クスッと笑みを浮かべて、上目遣いで見つめてくる。

胸を掴まれるようだった。


止めていた手が勝手に動いて、望月に触れる。

さらりとした髪の毛が、手のひらに馴染む。

滑らかに伝っていく。


望月は甘いモノでも食べているかのように、

むぅ、と強く唇を結んで頬を紅潮させている。


「最近はモンスターも倒していなかったから、

こうしてモッチーナを褒めることもなかったからな」


言い訳がましい言葉を豪健が口にしても、

望月は黙ったままただ首を小さく横に振るだけだった。


木漏れ日がいっそう強く、二人に降り注ぐ。


「もう大丈夫っしょ。たくさん可愛がられました!」


からりと笑う望月。


「それなら、また迷子にならないよう、森の外まで案内しよう」


撫でていた手をそのまま望月の手に添える。

一瞬、目を見開いて驚いて、すぐに満面の笑みになった。


「ちゃんと案内するっしょよー」


幼き頃からそうしてきたように、望月は豪健の手をしっかりと握った。


「おい、そんなに大きく振るなって」

「昔はもっと、ぐるんぐるん回していたっしょよ」


大きな円を描くほど振り回しても、その手が離れることはなかった。

リアルヒューマンライフの世界に居ても、変わらない日常はある。

小鳥が赤い支柱の上でさえずっていた。



第二章 リアルヒューマンライフ没入編 終わり

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