表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣を売ってガチャるな!  作者: 原 すばる
第二章 リアルヒューマンライフ没入編
34/104

大きな声に吊るされた小さな声

「勇者の! 愛を語ろうぜ放課後トーク!」


ハイテンションの勇者の声が放送に乗って聞こえてきた。


「まさか、放課後の放送ってこれか?」


豪健が望月に尋ねる


「うん。ぽぽちゃんが聞いたら罵詈雑言が飛びそうなラジオっしょよ」

「どういうことだ?」

「聞いていればわかるっしょ。あたいは昨日と同じく剣の鍛錬に行きます」


そう言いながら生徒玄関を目指して歩いていってしまう望月。

豪健は職員室の方を目指した。放送室は向かいにあるのだ。


「昨日に引き続き、今日も文化祭特集をやっていくぜ!」

「文化祭も三日後に控えておりますぞ!」


勇者のテンションに合わせて、懐かしい声が聞こえてきた。

夏目だ。


「もう三日しかないんだねえ。文化祭が始まるまでに、

俺の文化愛は語りきれるだろうか!」

「文化愛とは、知的な響きを感じますなあ」


そうだろうか、と豪健は疑問に思うが、

そうだろうよ、と勇者の得意な笑い声が聞こえて、まともに聞く気が失せた。


「というわけで、今日も一押しの出し物を紹介していきますぞ!」

「いいねえ。俺はできるだけ多くの女の子とデートをしたい。

趣向を凝らした出し物でないと困るぜ夏目」

「お任せ下せい。我輩の調査力、アシスタント宮下氏の分析力をもって

ラブラブデート必至、勇者氏満足し過ぎのたまらずアヘ顔な出し物を

チョイスしてきましたぞ!」

「ほほう、たまらずアヘ顔とは楽しみであるな」


放送室に向かいながら豪健は思う。

なんだこの放送は。もはや学園生徒に向けたモノではない。

自己満足全開の勇者による勇者のための放送になっている。


「まずは、川のせせらぎ組のお化け屋敷ですな」

「お化け屋敷か。確か、前日にも聞いたような気がするが」

「しおらしいめしべ組のお化け屋敷のことですな。

あちらは、こんにゃくに始まり柔らかいモノを次々と頬っぺたに当ててくる

特徴があります。対して今日紹介するのは同伴キャラが居るとのことですぞ」

「同伴キャラ?」


勇者が問い返すと、オドロオドロしいBGMが背景で静かに流れ始めた。


「ある晩、帰宅途中のあなたは雨に降られてしまう。雨宿りに駆け込んだ

廃病院で、幼い女の子と出会う。ねえ、この中にママが居るの。

一緒に探すことを頼まれて、あなたは幼い女の子と廃病院に入っていくが……。

みたいな、あらすじですぞ!」


BGMが元の明るい雰囲気に戻った。


「うーむ。雰囲気は気合いが入っていて怖そうだが、

デートしている女の子と二人っきりになれないのはマイナスだな」

「しかし、同伴するキャラは幼い女の子ですぞ! 上手くあやしながら

度胸のあるところを見せれば、勇者氏の父性にイチコロ間違いなし!」

「子どもかあ。俺に上手く扱えるだろうか」


自信なく育てられた息子の身にもなって欲しいが。


それはそれとして、夏目が随分とノリノリだ。

裏で宮下も協力しているみたいだし、

一体、このワンマン放送に協力する理由は何だろう。


まさか、これもガチャで思いのまま動かしているのだろうか。

そんなことを考えていると、放送室の前に辿り着いた。


「次はぶち猫組の耳輪投げ、これも愉快な出し物ですなあ」

「耳輪投げ?」

「猫耳から犬耳、うさぎ耳、ねずみ耳など好きな耳をまずは選んで、

頭に付けます。そして、輪投げのわっかをそこに入れて、

景品のある通し棒めがけて、頭を振って輪っかを発射!

見事棒を通したら景品ゲットになりますぞ!」

「なんだそれ。輪投げをやり辛くしただけじゃん」

「勇者氏、甘いですぞ! 景品が物とは限りません。

ぶち猫組の女の子もけもみみを装着して、耳をこまねいて待っている

そんな噂もあったり、なかったり」

「おお! それは俄然やる気が出てきたぜ! ゲットしたらどうなるのだろうか」

「それは、ゲットしてからのお楽しみですな」


ふっふっふ、と二人で下衆な笑いを零している。

ゲットしてしまったら、デートしている女の子はどうなるんだ。

逃がすのか?


その後も放送は文化祭の出し物を紹介していく。

豪健は話半分に聞きながら、放送室の前で終わるのを待った。


「ではでは、また明日のお昼に、勇者の愛妻弁当で会おうぜ!」

「帰る時は影を踏まないように、気をつけるのですぞ!」


扉の上の放送中の赤い電灯が消えた。

しばらくして、その分厚い扉が開く。


「やっぱり、耳輪投げで最初に狙うのは猫耳だな」


勇者の弾んだ声が聞こえてきた。

そうして、僕とばったり正面で出会う。


「うお! お前は」

「楽しそうな放送をやっているな」


豪健が肩をすくめて言うと、勇者が元気に親指を突き出した。


「みんなに俺の声を届けているかと思うとな。デートの時間を削ってでも

やりたくなっちゃうんだよな」

「はは、その調子で愉快な勇者をみんなに届けてくれ」

「おうよ!」


豪健は投げやりに言ったつもりだったが、

勇者は楽観的にわははと笑う。


「その声は、豪健氏ですかな!」


勇者の後ろから、探偵風の平たい帽子が見えた。

お馴染みの襟付きの茶コートにメガネをかけた夏目が、にゅうっと姿を現した。


「夏目! お前、今まで顔も出さずに」


いやはや面目ない、と夏目が緑色の髪の毛を申し訳なさそうにかく。


「学園や文化祭がなかなか興味深くて、つい夢中になってしまったのですな」

「まあ、元気そうで良かった」

「二人とも、面識があったんだ」


夏目のさらに後ろで、目を丸くして文庫本で口元を隠している女の子、

宮下が立っていた。


「あれ、宮下氏も豪健氏のことをご存知ですかな?」

「うん。隣の席の」


放送にはすっかり声が乗っていなかったけど、宮下も居たようだ。


「おーい勇者く~ん!」


廊下の向こう側から勇者を呼ぶ女の子の声が聞こえた。


「しまった。佐々木ちゃんとのデートを

ガチャガチャ様にお願いしていたんだった。それじゃあ、俺はこれで」

「ほいほい、また明日会おうぞ」

「あっ。うん」


夏目は軽やかに手を振る。

宮下は、残念そうに文庫本を下げて俯く。


今いくよ~、と甘ったるい声を出してスキップしていく勇者。

その様子に鳥肌が立ってしまう豪健。

何が今行くよだ、馬鹿親父。早く戻って来い!


「今日は残念でしたな」

「うん。じゃなくて、別にそういうわけじゃ、ないかも」


相変わらず言葉の語尾は消え入りそうで、

しかも、残念であることも否定していて。


豪健と夏目は、目配せして苦笑いを交わした。


「まあまあ、あんな軽い男放っておいた方が良いよ」

「勇者さんは、軽くない!」


宮下は垂れた前髪の隙間から、キッと豪健を睨みつける。


「ええっ、そ、そうかな」

「そう、かも」


睨んでいたかと思えば、すぐに伏せ目がちになる。


「一途ですなあ。我輩は宮下氏のこういうところ、嫌いになれないですぞ」

「もう少しハッキリした態度は取った方が僕は良いと思うな」

「うう、難しい、よ」


小声で反論してくる。

そこはハッキリ言ってくるんだな、と頭をかく豪健。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ