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剣を売ってガチャるな!  作者: 原 すばる
第二章 リアルヒューマンライフ没入編
32/104

異世界でも剣術の鍛錬は欠かせない

「ほうほう。それじゃあ、ウサギさんは何て仰っているのかな?」

「私達に、ウサギ小屋など不要」


たんぽぽがそう言い放ったと同時に、つばきの握り締めていたカナヅチが

白い鳥に変わった。


ぱたぱたと羽をはためかせて、先ほど床に落としてしまい

未だにウネウネしているミミズを、啄ばんでさらっていく。

鋭い滑空。あっという間に、森の中へと消えていってしまった。


「……んだな。この子達は、森の中で自由に走り回っていだほうが、いいべ」


つばきが何かを悟ったかのように、うんうんと頷く。


「えー、ウサギ小屋作ろうよー。楽しそうだしー」


美雪が頬っぺたを膨らます。


「そうだね。カナヅチも釘も鳥やミミズになるんだし、これで良いのかも」


友塚も納得したように頷いた。

はぁ、と有泉は軽くため息をつく。


「あらあら、作るものがないのなら、どこでもツクールの出番はなしね」

「あらあら、じゃないよ! 元から何も産み出さないゴミアイテムじゃないか!」


声を荒げて豪健が反論する。

ゴミは人間、とウサギに聞かせるようにたんぽぽは呟いた。


「そんなことないわ。ウサギ小屋は不要、というアイデアを作ることができた」

「結果論も良いところだが」

「豪健君、そこらにしておくべ。ワシらには考えも及ばない先まで読んで、

このアイテムを勧めたにちげえね」

「そうね。むしろお金もかからなくて住処が見つかり、感謝しなくっちゃ」


二人の言い草に豪健の頭が痛くなる。

有泉を見ると、一瞬ニッと笑って舌をぺろっと出した。


「さあて、私を待つ次のお客様の場所へ、行こうかしら」

「あっ、おい」


豪健の呼び止める声は無視して、

アタッシュケースを携え、颯爽と屋上を後にする。


「ワシ達も帰るべ」

「暗くなってきたし、そうしよっか」

「もうー? だったら、美雪はごうくんと下校デートするぅ」


美雪はまたしても、豪健の腕の絡みついた。

ほわわん、と頭が真っピンクになる。


「ラビちゃんは、どこ?」


お腹を放り投げて川の字になっている三匹のウサギ。

その主たるたんぽぽが、眠気まなこの上目遣いで聞いてくる。


「多分、モッチーナのところに居ると」


ハッと我に返り絡みついた美雪の腕をほどいた。


「すまん、ちょっとモッチーナの様子を見てくる」


あん、と美雪の色っぽい声を尻目に走り出して、

慌しく屋上の階段を降りていった。


 豪健はまず、教室を覗いてみる。夕日の残光が窓から差すばかり。人気なし。

さらに階段を降りていき、玄関を潜って外に出た。


校庭を見渡すと、隅の方で誰かが跳んでいるのが見える。

遠目からでも、豪健には望月だとわかった。


「おーい、モッチーナ。そこで何をしているんだ?」


手を振りながら呼びかける。

分厚いマットに身体を沈めていた望月は、むくりと起き上がった。


「陸上部って団体から、これを借りたっしょ!」

「なんだそれは」

「走り高跳び? の練習に使うみたいです」


豪健が近くまで来ると、用具の全貌を理解した。

肩ぐらいの高さにある棒。これをジャンプして跳び越えて、

向こう側にあるマットに着地する。


「これぐらいの高さなら、余裕じゃないのか?」

「魔力を使えば余裕っしょ。でも、そんなのなくたって、

ある程度は跳べないといけません」

「へぇ、魔力なしでここまで跳べるのか」

「ちょっと変わった跳び方をすれば、これも余裕っしょよ」


ぴょん、と跳んでマットから降りる。


「ラビちゃんも応援するっしょよー」


分厚いマットの影に隠れるようにして白ウサギのラビちゃんが居た。


「お前さんここにおったのかー」


豪健がしゃがみこんでラビちゃんを抱きかかえる。

腕の上に足の置き場を探して、トントン重たい感触。

生温かい生命の温度が、腕を伝って首筋にまで。


生きている。

非現実的に増えているこのウサギも、やはり生きた動物なのだと

豪健は改めて実感した。


望月は助走をつけるため少し離れたところまで歩いていった。


「日も暮れているから、これで最後だぞー」

「わかったっしょ。練習の成果を、見せる時!」


タッタッタタ、と走ってくる。

棒に対して斜めから入り、歩幅を縮め、タンッ、と強く地面を蹴った。


棒の上を頭から通って、反らした胸がさらに主張しつつも棒の上を通過、

背中、腰、太もも、ふくらはぎ、最後の足まで美しい曲線を描いて、

虹のように跳び越えていく。


ドタン、とマットの上に無事着地をした。


「おお! 綺麗に跳んだな」

「ふっふっふ。もちもち剣第五巻の完成も近いっしょよ」


ラビちゃんが豪健の腕から抜け出して、望月の胸の中に飛び込んだ。

わあ、ラビちゃんも応援ありがとう、と頬を高潮させて喜ぶ望月。


「お前は、どこに行っても好きなんだな」

「変わらないのですよ。異世界だろうと、時間が戻ろうとも、

あたいの好きなものはいつだって」


マットの上で女の子座りのままウサギを抱いて、望月が見つめてくる。

豪健は急に熱っぽい眼差しを向けられて、思わず目を逸らした。


「そ、そうか。お前も、意志が強いのだな」

「あたいも? 他に誰が居るっしょか?」

「え? えーと、水無月とか」


先の動画が頭をよぎる。

あいつの師匠に対する執着も、相当なものだった。


「あいちゃんは確かに意志が強いっしょが。それだけですか?」

「なんだ、それだけって」

「ゲームの女の子のことを考えませんでした?」

「……考えてないよ。というか、お前、最近空気悪くしてるぞ」

「いっそ窒息するぐらい、空気が悪くなって欲しいっしょねー」


豪健の指摘も、悪びれる様子もなくお尻を払って立ち上がる。


「あんなあ、一応今はここの世界で暮らしているんだぞ、僕たちは。

頼むから問題を起こさずに生活してくれよ」

「はいはい、けんちゃんの頼みとあれば、善処するっしょよ」


二人で同時にため息をつく。

それがおかしくて、豪健はちょっと笑った。


「もう暗いし、片付けて夕飯にしよう」

「わかったっしょ」


豪健は望月の使っていた用具の片づけを手伝う。

RHLに来てからの二日目は、こうして幕を閉じた。


 朝起きると、テントの外から威勢の良い掛け声が聞こえる。

モッチーナが剣を振っているんだな、と豪健はすぐに理解してテントの外へ出た。


「おはよう、朝っぱらからせいが出るね!」

「あっ、おはようっしょ」


素振りをする望月の周りには、白ウサギのラビちゃんの他に、

見たことも無い黒ぶちのウサギ、オレンジ色、グレー色のウサギの三匹が居た。


「おい、応援しているウサギが増えているぞ」

「こう観客が多いと、気合いが入るっしょねー」


呑気なことを言っている望月。豪健は辺りを見回した。

ここに居る四匹の他に、茶色と縞々とクロちゃんの三匹が他に居る。

そして、まだ見ぬ一匹も恐らく居ることだろう。


一昨日の夜にウサギが二匹になり、昨日のお昼、その二匹が四匹に増えた。

そうして今朝、今度は八匹になっている。


「呑気なこと言っている場合か。思った通り、乗算式に増えていってるぞ」

「まあまあ、ウサギさんが多いことは良いことっしょ」

「いや、良くないだろう。このままだとウサギで埋め尽くされるぞ」

「最高のハッピーエンドじゃないですか」


びゅん、と望月が景気良く剣を振るった。

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