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剣を売ってガチャるな!  作者: 原 すばる
第二章 リアルヒューマンライフ没入編
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ドキュメンタリが販促動画に切り替わる瞬間

 有泉はお馴染みの毛皮の装飾がされたアタッシュケースを開く。


「今回ご紹介する商品は、『どこでもツクール』よ」


そう言って取り出して見せたのは、何の変哲も無さそうなノコギリやカナヅチ、

釘などの工具類だ。つばきがカナヅチを手に取って眺める。


「こりゃあ立派なカナヅチだべ」

「でも、見た感じどこにでもありそうな物だが」


手のひらで釘を転がしながら豪健が呟く。

その釘がウネウネとミミズのように曲がった。


「うわっ」


驚いて手を引っ込めた。

コンクリートの地面に落ちたそれは、

身体をくねらせて痛みに悶えているようだった。


「なな、なんだこれは?」

「あら~、もうミミズになったのね」


目を逸らしながら苦笑いを作る有泉。

さっそく雲行きが怪しくなってきたが。


「あんのお、これはどういうことだべ?」

「まあまあ、皆さん。まずは、この映像をご覧下さい」


有泉は場の空気を整えるかのように笑顔で呼びかけて、

アタッシュケースから大き目のタブレットを取り出す。


慣れた手つきで画面をタップ操作して、こちらに見せてきた。

豪健らはタブレットの前に集まる。


タブレットには見覚えのある後ろ姿が映っていた。

どこかに向かって歩いているようで、藍色のマントが忙しなくなびいている。


「早朝。朝霞の香る街中を、人知れず歩く男が居た」


映像の外からナレーションが入る。有泉の声で。

その声で、前を歩いていた男が足をとめて振り返った。


「おい、セーラ。そのカメラでいつから撮っていた?」

「あー。あいがカメラに映っちゃいけない顔になってる。

むっつり顔禁止。もっと凛々しく、できる男の顔になって」


茶化すセーラ。水無月は手を伸ばしてカメラを取ろうとするが、

ひょいっと映像が跳躍して、腕をすり抜ける。


「そんなできる男あいが、朝早くにどこを目指しているかというと」

「お前、絶対についてくる」


水無月の声がぶつ切りになった。

映像がひし形模様に象られて、場面転換する。


そこは豪健にとって、見覚えがあるどころではなかった。

懐かしさで涙腺が緩む、今は無き道場だった。


「やあ、たあ!」

「とわった!」


視点が上のほうだ。

これは、道場の天井裏から撮影されているのだろう。


「ふんぬ! こうなったら、もちもち剣第一巻、望月斬り」


水無月と剣を交えているのは望月だった。

ぴょーん、と飛び上がり望月の姿がカメラに近づいてくる。

くるり、と一回転してから斬り込みにかかった。


水無月はバックステップでその攻撃をかわす。


「水無月剣、水面めくり」


水無月が剣を水平に構えて、姿勢を低くする。


「で、出ましたー。あいちゃんお得意の、水面めくり。

その鋭い斬撃は、荒れ狂う川の水面もめくるほど」


吐息まじりの小声で、有泉が解説を入れている。


水無月が剣を素早く水平に斬り込む。

軽くジャンプをして、低い軌道の攻撃をかわす望月。


「しかしその実態は、鉄壁のスカートをめくるほどの鋭い斬撃だわ」


映像からは、ぶわっと望月のスカートが広がったように見えただけだが、

水無月の位置からはばっちり見えていたはずである。


「ちょいっと、その攻撃は禁止技って言ったはずっしょ」


慌ててスカートを押さえて、顔を真っ赤にして怒る望月。


「ふっ、知ったことか。戦場で肌を露出するな」

「じゃあ言い方を変えます。やっても良いけど、パンツを凝視するなっしょ!」

「し、しとらんわ! そんな布きれ、興味ない!」


ぷいっとそっぽを向く水無月。


「このように耳を真っ赤にさせながらも、

道場では日々の鍛錬を怠らないあいちゃん。そんな彼に転機が訪れます。

なんと道場の師匠がゲームにハマり、顔を出さなくなってしまったのです」


再び場面転換し、薄暗い場所に松明の灯りが規則正しく並んでいた。

ここは、ダンジョンか。


「師匠が来なくなって、今日で一ヶ月。あんな道場、もういらん。

ここでモンスターの相手をしていた方が、数倍ましだ」


ずさんっ、と風を斬る音。松明の炎もゆらめく。


「なるほどお、そんな理由で家出をしたのね」

「家出じゃない! 道場を捨てただけだ。俺は新しい師匠を探す」

「しかし、都合よく彼の前に師匠が現れるほど、世の中甘くは無かった」


画面が暗転し、水無月の歩く姿。

ダンジョン内で強者の冒険者に話しかける。

近くの巨岩に腰掛けて。


「その攻撃、強いな。どうか俺に剣術を教えてくれないだろうか」


ふっ、とクールに微笑んで見せる水無月。

冒険者は胡散臭い顔をして、その場を立ち去った。


次は水辺の休憩エリアが映し出される。

飲み物を汲もうとする、上級のローブを身につけた魔法使いの女の子。


「こっちの女神の聖水の方が魔力は回復する。持っていけ」


水無月が懐から瓶を取り出して、ぽーんと放る。

女の子は何が起こったのかわからず、目を瞬かせるだけ。


受け取り手のない瓶は、ガチャンと音を立て割れた。

そうして、慌てて水筒を仕舞いこんで逃げるように去っていった。

後には巨岩に腰掛けた水無月が残るだけ。


「なあ、お前の言っていた誘い方で本当に良いのか?」

「大丈夫よ。超クールなカメラ映りだわ」

「いや、カメラ映りはどうでも良くてだな。じゃなくて、何でまた撮って」

「鉄壁のスカートよりも高い障害が、あいちゃんの前に立ちはだかる。

彼の師匠になってくれる奇特な方など、もう現れないのだろうか」

「おい、悪意のあるナレー」


再び水無月の反論が途中でぶつ切りになる。

ひし形に画面がくりぬかれて、場面が変わった。


コンコン、と薄暗いダンジョンで何故かカナヅチを振るう水無月の姿が。


「本当に、俺の師匠が作れるんだろうな?」

「大丈夫よ。どこでもツクールは、どこでも作れるんだから」

「いや、場所のことではなくてだな」

「最初は疑心暗鬼だったあいちゃん。

しかし、まだ見ぬ師匠を思って振るうカナヅチは、

希望の光で輝いているようだった」

「いった、親指をやっちまった」


手首を振って、しかめっ面を作る水無月。

あらら、と有泉の可愛いため息が聞こえる。


「こっちに治療キットがあるから、無理しないで来なさい」

「面目ない」


映像用の猫を被った声ではなく、素のやり取り。

二人の信頼関係が伺える。


「できたぞ。これで、俺にも師匠ができるのか?」


木の板をこっちに見せつける。

そこには釘を打った文字で、『師匠求む』と書かれていた。


「そうねえ。そこの角に、23って数字を入れて完成ね」

「23? どうして、そんな番号を」

「願い事番号よ。世界には願い事を叶えたい人が大勢いるわ。その順番ってわけ」


なるほど、と水無月が頷いてカナヅチを握り直す。

場面転換する。

長机と、後ろの椅子に見覚えのある白衣と水色の羽。博士が座っていった。


「受験番号23番、部屋にお入り下さいなのです」


がちゃり、とドアが開いて、藍色のローブを着た水無月が部屋に入ってきた。

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