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剣を売ってガチャるな!  作者: 原 すばる
第二章 リアルヒューマンライフ没入編
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むかついたから

「そんなにガチャガチャ様が好きなら、ガチャガチャ様と付き合っちゃえば?」

「おいおい、朝っぱらから何を怒っているんだ? 俺何か悪いことしたか?」


苛立たしげな友塚に対して、勇者は困り顔だ。


「そうよねえ。もしかして友ちゃんは、ゆうくんのことが好きなのかしら?」


左斜め後ろから、口に手をあてて意地悪く美雪が言う。

ちょっとお、と豪健の机を強く叩いて友塚が立ち上がった。

びくっと豪健が驚く。


「どうしてそういう話になるわけ? 有り得ないっての」


ずがーん、と勇者が机に突っ伏した。


「あらあ、むきになるところが怪しいわあ」

「そう言うみゆちんこそ、ゆうちんが盗られそうで口を出してきたんじゃない?」

「だ、誰が! 泥棒猫だって盗らないっての。こんなヤツ」


ずごーん、と勇者が机からずるりと落ちた。

これ以上、親父の情けない姿は見たくない、と豪健が立ち上がりかけたその時。


「勇者さんのことを悪く言わないで欲しい、かも」


睨み合っている二人の間に、宮下が入った。

二人は驚きながらも、宮下に向き直る。


「みやちんは、どうしてゆうちんのことを庇い立てするの?」

「こんな物に頼りっきりの男の、どこに魅力を感じるのかしら」


豪健はちらりと勇者の様子を伺う。

既に机からはズレ落ちて、椅子からもズレ落ちて姿が見えない。

きっと机の下にうずくまっているのだろう。


「勇者さんは誰よりも、みんなのことを考えている、はず」


相変わらず言葉の後ろの方は、自信なさそうに声量が小さい。


「ないない」

「有り得ないわ」


同時に手を左右に振る。

こんな時だけ息ぴったりなお二人さん。


「でも、私はあると、思っています」


俯いたままだが、珍しく頑なにその場をどこうとしない宮下。

二人は根負けしたようにため息をつく。


キーンコーンカーン。タイミング良く授業開始の予鈴が鳴って、

二人は席に戻っていく。ウサギで騒いでいた女生徒も自席に戻っていった。


「宮下は、意外と根性あるんだな」


静かに座った宮下に、豪健は話しかける。


「むかついたから」


俯いたまま、ぼそっと言う宮下に、思わず豪健は噴き出した。

あまりにも似合わない言葉が、宮下の口から飛び出したから。


「むかついた?」


クック、と押し殺したように笑いながら問いかける。

こくりと頷いた。


「勇者さんのこと悪く言われて、胸が痛かったから」


そう真剣な眼差しを机に落とす宮下に、豪健は頬を引き締めた。

涙が出そうなくらい、良い子だな、この子。


「うん、僕も同じだ」


豪健も呟くように言った。

宮下が豪健の方を見る。目を瞬かせて。

それに優しく微笑んで、頷いて応えた。


腐っても親父だ。あんまり悪く言われるのは、僕だって気分が悪い。

しかし、宮下は優しい女の子だ。

親父のために胸まで痛めてくれて。こんなに近くに居るじゃないか。

そう思いながら、豪健は勇者の方を見る。


「さーてと、今日は何人の女の子とお昼ご飯を囲もうかなあ」


指をぺろっと舐めて、手帳をめくっている勇者。

豪健はずっこけそうになる。


「お前、ろくな死に方しないぞ」

「ん? 何か言ったか?」

「何でもない」


まったく、世界を救う旅もずっとこんな調子だったんじゃないだろうな。

一体、どれくらいの女の子を泣かせてきたのやら。


そういえば、母さんは元気にしているだろうか。

親父を踏みつけて、上手くストレス発散していると良いけど。

きっと苦労したんだろうな。

って、変な流れで母さんの心配をしちゃったな。

豪健は顔を横に振った。


豪健の後ろの席の望月は、一連の様子をずっと黙って観察をしていた。

酷くつまらさなそうな顔をして。


 次の小休止の休み時間、つばきの席の周りには集まる人も少なくなっていた。

聞いてみたいこともあって、豪健は席を立つ。


「よお、つばき。今朝は大人気だったね」

「んだ、ラビちゃんにクロちゃんも来て、オラは幸せもんだべ」


つばきはニコニコ顔だ。

その腕の中には黒いウサギが大人しそうに眠っている。


「その、クロちゃんって黒いウサギ。昨日の今日で、どうして出てきたの?」

「わがんね。朝起きたら、ラビちゃんと一緒に居たけえ、連れてきたんよ」


一晩で、新しくウサギが増えたってことか?

豪健は小首を傾げる。


「そういえば、そのラビちゃんはどこに行ったんだ?」

「ああ、それなら」


つばきが豪健の後ろを指差す。

うん? と不思議そうにこっちを見る望月と目が合った。

その机の上には、真っ白いウサギが居た。


「いつの間に、あいつの所に」

「ラビちゃん、モッチーナのこと好いとると。

目を離したら、しゅーんとすっ飛んで行っちまう」


手を前から後ろに素早く動かして、にししと笑うつばき。

へぇ、と白ウサギと遊んでいる望月を見ながら豪健は相槌を打つ。


「今日の夜も増えたらどうするんだ?」

「そりゃあ、ウサギの住処ば、本格的にこしらえんといがんね」

「またガチャガチャ様に頼んで?」

「そうするんしか、ないべなあ」


腕組みをしながら、つばきは唸る。

胸の黒いウサギは目を覚まして、心配そうにつばきの顔を覗き込んでいた。


 そうは言いつつも、豪健はウサギが増える問題を

そこまで深刻に考えていなかった。昨晩はたまたま増えただけだろうし、

仮に一日一匹ずつ増えたとしても、

その分一匹ずつどこかへ行ってしまうんじゃないか。

そう楽観的に構えていた。


しかし、黒板の横に飾ってある時計が12時を指したとき、ウサギが増えた。


「ななっ、茶色のウサギが出てきました!」

「なんだべ! こっちは、縞々のウサギがクロちゃんの影から」


望月とつばきが同時に声を上げた。

チョークを持って、授業を講じていた先生もその手を止める。


「どうしたんだ。急に騒いで」

「ウサギが増えたっしょ」

「何だと、ウサギが増えた?」


青いジャージの男の先生は眉間にしわを寄せる。


「んだ、ウサギが増えて、ラビちゃんクロちゃんの友達も増えたべ」

「そうか。仲間が多いってことは良いことだ。大切にな」

「あったりまえだべ」


お互いに親指を突き出している。

話はそれで終わりと言ったように、先生は授業を再開した。


えええ、それで良いのか?

驚いている豪健の机の上に、ぴょんと茶色いウサギが飛び乗った。


「お、お前は」

「ラビちゃんの影から出てきた、茶色のウサギさんです」


後ろから望月が声をかける。


「撫でてあげると良いっしょ」

「お前なあ。こんな状況を良く受け入れているな」

「こんな異世界で何が起こっても、不思議じゃないっしょ」

「そうは言うけどな」


文句を言いながらも、茶色い毛並みに沿うように豪健は撫でてやる。

気持ち良さそうに、赤い目を細くさせた。

おおっ、ここが良いのか。


「あたいとしては、このままウサギが増え続けて、

学校が埋め尽くされて欲しいっしょね」

「お前、それ本気か?」


ウサギを撫でながら、豪健が振り向いた。

てっきり笑いながら言ったと思っていたが、

そこには真剣な眼差しでラビちゃんを撫でる望月が居た。

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