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剣を売ってガチャるな!  作者: 原 すばる
第二章 リアルヒューマンライフ没入編
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夢の中で叶う夢は寂しくて幸せ

望月を樹木の根元に座らせて、テントの設営を行う。

テントの支柱を布の間に通していると、

有泉が隣に来て手伝い始めた。


「手を貸してくれるのか?」

「アフターサービスよ。お客様に敵も味方も関係ないわ」


慣れた手つきで支柱をしならせて、穴に通していく。

有泉は敵だ。だが、商人としてのプライドは信用できるところがある。

豪健はどこでもスベールを売りつけられたことも忘れて、そう思った。


「向こうの二本を持って、せーので持ち上げるわよ」

「わかった」


有泉の的確な指示であっという間にテントは完成した。

辺りはすっかり真っ暗闇。


「それじゃ、おやすみなさい」

「あっ、ちょっと」

「そうだ。明日のお昼休みに、校長室に集合ね」


有泉はそれだけ言い残して、暗い森の闇の中へと紛れていく。

ひとまずテントの中に寝袋を敷く。二人で寝るのには十分な広さだ。


「ありがとうっしょ」


寝袋を敷いたところで、テントの入り口から望月が顔を覗かせた。

その表情には疲労が見える。


「今日は長かったからな。ダンジョン探索、戦闘、そして、学校の授業」

「うん、目まぐるしかったっしょ」


二人で並んで、寝袋の中に潜り込む。

豪健が横を見ると、丁度、望月と目が合った。


「モッチーナも、今日はお疲れ様」

「このまま寝たら夢で、明日になったら、いつもの世界に居たいっしょ」

「あはは。そうだと良いな」


望月のまぶたは既にうつらうつらと閉じかけている。

寝袋から手を出して、望月の頭を撫でたい衝動に駆られながら、

豪健も疲労に任せてまぶたを閉じる。


「おやすみ」

「おやすみなさい」


問題は山積みだが、今はただ眠ろう。

豪健と望月の、異世界での一日目はこうして終わった。


 ちゅんちゅん。鳥のさえずりで目を覚ます。腕を伸ばそうとして、

豪健は身体が窮屈なことに気がつく。


「そっか。寝袋で寝ていたんだ」


隣を見ると、空っぽの寝袋があった。

モッチーナはもう起きたのか。寝袋のチャックを下ろして、身体を起こす。

テントの外は薄らと明るい。その光を目指して、豪健は外に出た。


「おはようっしょ」

「何をしているんだ?」

「もち、モチを作る準備です!」


望月が落葉や小枝を抱えながら元気に言う。

豪健は手を伸ばして、髪の毛について葉を取った。

あっ、と望月は小さく驚く。


「どこに居ても変わらないな、お前さんは」

「当たり前です。ゲームの世界でも、お腹は減るっしょ!」


活き活きと言う望月に励まされ、

豪健は頷いてテントの中へと戻った。


「本当は、夢であって欲しかったっしょ」


寝袋を畳んでいると、先ほどとは打って変わって、

弱弱しい声がテントの外から聞こえてきた。


「昨晩の話か」

「今朝、けんちゃんの寝顔を見て、これは夢なんだって、思ったっしょ」

「どういう意味だ」


豪健は笑ってしまう。


「けんちゃんと一つ屋根の下で寝ることが、あたいの夢っしょ」

「夢の意味変わってるし。しかも、朝っぱらから阿呆なこと言うな」


テントを隔てて、柔らかな軽口を叩く。

鳥のさえずりが心地の良い合いの手を入れてくる。


「ここは夢みたいな世界です。現実的じゃない」

「うん。異世界とはそういうものかもしれないな」

「でも、こうやってけんちゃんと喋っている今は、紛れも無い現実っしょ」

「もしかしたら、まだテントの中で眠っていて、夢の中かもしれないぞ」


豪健がそう言ってやると、ふふっとチャペルの音のような白い笑い声が聞こえた。


「それならそれで、あたいは今、幸せですよ」

「どうした、夢と現実の区別がつかなくなっているじゃないか」

「違いないっしょ」


ははっ、とテントを隔てて笑い合う。

お互いの顔は見えなくても、お互いにどんな顔をしているのか見えてしまう。

そのことがまた、豪健には可笑しかった。


少しの間、小鳥のさえずりに耳を傾けてモチを食べるための道具や調味料を

テントの中で集めていると、望月がぽつりと呟いた。


「それでも、ここがあたい達の住む場所じゃないのなら、

あたいの夢が叶うことはないっしょ」


自虐的に微笑みながら言う、望月。

豪健は何故自分たちの住む場所でなければ、夢が叶わないのかよくわからない。


しかし、自分達のやらなければならないことは、

今日やるべきことはわかっている。


おモチを食べるいつものセットを持って、豪健はテントの外に出た。


「おモチを食べて夢から覚めよう。僕達には冒険が待っている」

「そうっしょね。そうするっしょ!」


赤い髪飾りを元気に揺らして、望月は着火の準備を始めた。

朝日が木の葉に紛れて、ちらりと舞った。


 朝食を済ませて、二人が森を出ると、登校してくる生徒の様子を

眺めることができた。気合を入れて歩く生徒もいれば、

だるそうに鞄をぶらぶらとさせている生徒もいる。


「もう登校してきているんだな」

「そうっしょねー、ってけんちゃん! あれを見るっしょ!」


望月が柵からせり出すように指を差す。

その先には白いウサギと黒いウサギを両方抱えた、つばきの姿が。


「なんか、一匹増えてないか?」


ほくほく顔で校庭横を歩くつばきは、そのまま生徒玄関に入っていった。


「あたい達も行ってみるっしょ」


望月は目を輝かせて、屋上のドアへと走っていく。

ったく、元の世界に帰りたいヤツの動きじゃないぞ、とため息をついて

豪健はその後を追った。


 教室に着くと、予想通りつばきの机には人だかりができていた。

人を押しのけて、ようやく自分の席へと着く。


「お二人さん、おはようー」


豪健の前の席の友塚が、気さくに挨拶をしてくる。


「おう、おはよう。凄い賑わいだね、左隣」

「あは。ガチャガチャ様にハマる人の心理がよくわかるよ」

「というと?」


豪健が尋ねると、友塚が椅子を押して身体を寄せてくる。

三つ編みが豪健の机に乗っかる。


「前まで注目を浴びなかった人が、

こんな風にクラス中のみんなから歓声を浴びて、もてはやされる。快感よ」


ふふっと悪戯っ子のような笑みを零す。

豪健は顔が近いのと、何だか良いにおいにどぎまぎしてしまう。


「そ、そうだよね。普段から注目されている人ならまだしも、

あんな風にいきなりクラスの輪の中心になったら、喜びもひとしおかも」

「そうそう。あれに慣れちゃったら、もう末期よ。ガチャガチャ中毒、なんてね」


えへへと舌を出す友塚。


「誰が中毒だって?」

「わわっ」


豪健の右隣の席にドガッと鞄を下ろす勇者。

どうやら聞かれていたようだ。


「だ、誰もあんたのことなんて言っていないわ!」

「まっ、別に良いけどな。俺はガチャガチャ様のことを信頼しているんだ。

自分の思い通りになる世界ほど、素晴らしいモノはない」


両腕を広げて、はっはっはと高らかに笑う勇者。

まるで魔王みたいなセリフを白昼堂々と。

豪健はただ呆れるしかない。

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