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剣を売ってガチャるな!  作者: 原 すばる
第二章 リアルヒューマンライフ没入編
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やきもち

些細なことでも厳しいことでも、

感想を残して頂けると励みになります!

わくわくどきどき楽しんで貰えたら幸いです。

「う、うん。でも、お弁当を貰ってばかりで悪いような」

「気にしないでよ。あたしとごうちんの仲じゃない」

「あのあの、抜け駆けしないでくれます? 友ちゃん。

ごうくんは美雪のお弁当を食べるのよ?」


三段重ねの重箱を持って、前に出てくる美雪。

すげえ豪勢な見た目だ、と豪健は感心しながらも間に入る。


「まあまあ。みんなで、分け合いながら食べようよ。ね?」

「そ、そうだよね!」

「ごうくんがそれで良いなら。でも、美雪のお弁当は一番に食べてよね?」


ひとまずお弁当を並べようか、とお弁当を抱える女の子達の指揮を取る豪健。


「なーんか、手慣れているっしょねー」

「お前も、分けて貰う身で文句は慎めよ」

「あたいはこの建物を燃やして食べるおモチの方が、断然好きっしょよー」


虫の居所が悪い望月に、豪健は深いため息をつく。

お腹が減っていると、人間イライラするものだ。


「わかったよ。モッチーナから選んで良いよ。何が食べたいんだ?」


今や机をくっつけて、各自のお弁当が目前に広がっている。


まず美雪の三段重ねの重箱弁当は、和食を中心とした中身となっている。

卵焼き、栗きんとん、かまぼこ、紅白ごはん、お魚の煮付けから、

唐揚げ、肉団子、エビフライ、コロッケなどお弁当の定番まで、

幅広くカバーされていた。


「美味しそうだからって、美雪のお弁当はあんまり取らないでよね」


美雪が意地悪く言った。

ふん、と望月はそれ以上答えずに視線右に移す。


開かれた抹茶色の風呂敷の上には、宮下の四角い弁当箱が開かれていた。

中身は小豆やきな粉、黒ゴマを纏った丸いモノ。


「これは何っしょか?」

「おはぎ、かも」

「かも?」

「……です」


自身無さそうに俯く、宮下。

ふーん、とそれ以上望月は追求せずに、さらに右を見ていく。

最後は友塚のお弁当だ。


可愛らしい動物の絵が描かれたお弁当箱を取ると、

タコさんウインナーに、星型にくりぬかれた卵焼き、

いくつもの小さなオニギリに海苔やニンジンで、

ワンちゃんやネコちゃんを描いたりと、究極のキャラ弁だった。


「おおっ、これは食べるのがもったいなさそうだな」


望月と一緒にお弁当箱を覗き込んでいた豪健は、思わず感想が漏れる。


「けんちゃんはこういうのが好きっしょか?」

「うん、可愛いなって」

「でもでも、美雪のお弁当の方が、量も栄養もばっちり摂取できちゃうわ」

「へぇ、そんなどこにでも売ってそうなお弁当に、愛なんて感じられないわ」


美雪と友塚がバチバチと睨みあっている。

豪健は慌てて間に入った。


「だから、みんなで平等に食べるんだって。な、モッチーナ?」

「……あたいは、いい」


そう言って静かに席を立つ望月。

そのままスタスタと教室を出て行ってしまう。

突然のことに、その場に居た人は対応できなかった。豪健も例外ではない。


「あらま、美雪のお弁当に恐れをなしちゃったって感じい?」

「これぐらいのことで、参っちゃうなんて。

やっぱり、あたし達の知っているもっちんとは違うのかなあ」

「ってことは、美雪にチャンス到来?」

「う~ん」


自信たっぷりの笑みを浮かべる美雪と、首を傾げる友塚。

宮下だけは動じておらず、ただ成り行きを見守っている。


「僕、様子を見てくるよ。みんなは先に食べておいて」

「え~、放っておこうよー。お昼の時間も短いんだし」


美雪は不満そうだ。


「そうも言っていられないんだ。ごめんな、折角作って貰ったのに」

「良いって良いって。それより、早くもっちんを元気付けてあげて!」


友塚はそれが当たり前だと、笑顔で送り出す。

若干後ろ髪を引かれる思いはありながらも、

豪健はもう一度謝ってから、教室を飛び出した。


 廊下に出ると、食堂や屋外で昼食を食べようと、歩く生徒で賑わっていた。

見回して探そうとした時、教室の壁に寄りかかるようにして望月が居た。

俯きがちで元気もない。


「どうしたんだ。急に飛び出したりして」

「勇者って、けんちゃんのお父さんのキャラっしょね?」


俯いたまま、こちらを見ずに聞いてくる。


「キャラって、親父がハマっているRHLのか?」


うん、と小さく頷く望月。


「そうだけど、やっぱりここってRHLの世界なのかな」


何気なく豪健は言ったつもりだったが、望月はギリッと唇を噛んだ。


「けんちゃんは、あの子達のことをどう思いますか?」


望月は潤ませた上目遣いで豪健に聞いた。


「どうって。ここの学園の生徒だろ?」

「そんなことは聞いていないっしょ!」


拳に爪を食い込ませ、望月は怒鳴った。

その顔は憤怒に満ちていて、同時に悲観も漂っていて。


「彼女達を、生きている人間だと思いますか?」


声だけ聞けば独り言のような、小さく呟くような声。

しかし、望月の視線は豪健を真っ直ぐ捉えていた。


モッチーナは何故、ここまで思いつめているのだろう。

僕に迫る彼女たちへの嫉妬、だけにしては深刻だ。

わからない。わからないけど、ただ一つ、

モッチーナは迷っている。


見たこともない、行くあてのない道を、選んで歩くことを強いられている。

そんな理不尽に悩まされている。


「彼女達が生きている人間、なんて、わからんさ」

「けんちゃん!」


豪健は望月の頑なに握られた拳の上に手を被せた。

あっ、と望月は驚く。


「モッチーナ、僕達はこの世界に、このダンジョンに来たばかりなんだ。

それなのに、何もわからないうちから、こうだと決めつけるのは良くない」

「でも、ここはゲームの世界っしょ?」

「そうかもしれない。でも、そうだとも限らない。

僕達は、冒険するしかないんだ。いつも通りにさ」


強く結ばれた唇が開いた。

大きく息を吐いて、望月は柔らかく微笑む。


「わかったっしょよ。けんちゃんの言う通り、冒険してみます」

「おう。お前が迷った時は、こうして手を離さないでやるからさ」


そう言って、もう一度強く握ってやると、望月は顔を赤くさせた。


「ここ、こんなに人が多い中で、恥ずかしいっしょよ」


確かに、通る生徒がこちらをあからさまに見てくる。

ひゅーひゅー、昼間っからあっついねー、

とすれ違いざまに野次を入れられることも。

それらが、気恥ずかしくもあり、温かかったり。


「彼らが生きている人間じゃないなら、関係ないだろう?」

「むう。意地悪ですね!」


手を離して、さっさと教室に戻ってしまう。

豪健はため息をつきながらも安堵して、後を追った。


教室に入って、望月は豪健が握っていた手の甲を反対の手でそっと触ってみる。

ほんのり、温かかった。


二人が席に戻ると、お弁当は半分ほど食べたところだった。


「ちゃーんと、戻って来たみたいね。美雪のお弁当欲しさに」

「ん、そうっしょね」


望月が美雪の重箱から、エビフライをつまんで持ち上げた。


「ああん、それもう一尾しかないのに」

「有り難く食べさせて貰います」


見せつけるように望月はパクリ、と口にくわえた。

美雪は不満そうに口を尖らせる。


豪健も手を合わせてから、割り箸を貰う。

重箱の中の卵焼きをつまんで口の中に入れた。


「美味しい! 甘い味付けのだしが、しっかり染み込んでいて」

「でしょう! ごうくんの好みにちゃーんと合わせて作ったんだから」


どうだと言わんばかりに美雪は望月を挑発する。

その望月は、意に介さず口をもぐもぐと動かしていた。


「確かに、良いかもしれないっしょ」

「でしょう?」

「この海老反りは、もちもち剣第五巻の参考になりました」


エビフライの輪郭をなぞるように、丁寧に咀嚼する望月。

頬っぺたを薄く赤くさせて、その顔は幸せそうだ。

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