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剣を売ってガチャるな!  作者: 原 すばる
第二章 リアルヒューマンライフ没入編
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ガチャガチャ様の祟り

「しかるに、メイド服には猫耳が良いと思う」

「猫耳?」

「昔、猫族が住む村へ一度だけ訪れたことがあってな。

あれは大層、可愛いものであった」

「あの、それ勇者じゃなくて、勇者を操っている親父の」


豪健がそう言い返すと、勇者は何を言っているんだと変な顔で見てくる。


「何だ親父って。お前の親父も猫族の村へ行ったのか?」

「いや、そうじゃなくって、いや、そうなんだけど。

この世界に猫族の村なんてあるのか?」


豪健が重ねて聞くと、勇者は腕組をしてう~んと唸った。


「言われてみれば、猫族の村なんて、ここからどうやって行くのだろうか。

あれ、俺はどうして、あんなことを口走ったのだろう。猫族の村って?」


う~ん? と首を捻って悩みこんでしまった。


「ガチャガチャ様の祟り、かも」


ぼそっと小さな声が聞こえた。左隣の席からだ。

振り返ると、メガネをかけて文庫本に顔をうずめた女の子が居た。


「あっ、あの、祟りかもしれないって、そういう、

変な記憶のノイズが、走ることが、あるって……」


言葉の最後の方は消え入りそうな声だった。

この子もセーラ服を着ている。


「ば、馬鹿! たた、祟りなんてあるわけないだろ、宮下!」

「ひっ、そ、そうですよね」


びびった勇者が声を張って叱りつけたせいで、

宮下と呼ばれた女の子がすっかり縮こまってしまった。


「こらそこ! さっきから何を話しているのかしら?」


黒板の前に立っている、チョークを持った女の子が豪健らを咎める。


「すみませーん、ゆうちんのメイド喫茶の熱弁を聞いていました」

「ちょ、ともちん! へ、変なことを言うのはよせ。

俺は、そんな不埒な喫茶店なんか開きたくないと言っていたんだ」


勇者が両手を暴れさせて弁解している。


いくらなんでも格好悪すぎる。

こういうのは貫き通すか、隠し通すかして欲しいモノだ。

クラス中でも失笑が忍ばれ、豪健はため息をつくしかなかった。


「えーと、では他に案は無いですか?」

「すみません」


勇者が挙手をした。


「はい、勇者くん」

「トイレに行って参ります!」


顔はへらへら笑い、頭をぺこぺこ下げながら、勇者は教室を出て行った。


「ほらあ、さっそく屋上の神社にお願いをしに行った」


愚痴るように友塚は言った。


「お願いって、ガチャガチャ様に?」

「そそ。メイド喫茶も悪くないんだけどねー。

こうなっちゃうと、話し合いの意味もないっていうかー」


つまらなそうに口をへの字に曲げて、豪健の机を枕にする友塚。

三つ編みの髪もへたれこんでいる。


「勇者さんのこと、悪く言うの、良くない、かも」


左隣の宮下が、小さな声で反論する。


「えー、悪くは言ってないよお。

それに、みやちんだって、さっき大きな声で怒られたばかりなのに」

「で、でも。勇者さんは、みんなのことを、ちゃんと、考えているから」


本で口元を隠し、言葉の最後の方は自信なさげに消え入りそうだった。


「ほんとかなあ。自分の欲望に忠実な判断だよー」


ねえ、と豪健に同意を求めてくる友塚。


「うん。あの行動が、みんなのことを考えているとは、到底思えん」

「おっ、ごうちんハッキリ言いよりますな」


友塚が嬉しそうに笑いかけてくる。

当たり前だ。本心からそう思っている。

親父のヤツ、好き勝手にやりやがって。ガチャガチャ様に頼るなんて。


ガチャガチャ様に頼る?

親父が、ガチャに頼る。変な引っかかりを豪健は覚えた。

まるで……。


「それでも、私は」


宮下が唇を噛み締めたところで、勇者が颯爽と戻ってきた。

手のひらですまんすまん、とポーズを作って。


「はい。勇者くんも戻って来たところで、多数決で決めたいと思います」


そして、文化祭のクラスの出し物は、圧倒的多数によりメイド喫茶に決まった。


 キンコーンカーン、とチャイムが鳴り響く。豪健の前の席の友塚が、

んー、と気持ち良さそうな声を上げて腕を伸ばした。


「さーて、お昼のイベントに向かうぜ!」


ほくほく顔で勇者は席を立って、足を弾ませて教室を出て行く。

豪健は白けた視線で見送った。


「ごうちん、お昼一緒に食べない?」


友塚が振り返って誘ってくる。


「えーと、僕は」

「モチがあるっしょからねー。あたい達には」


後ろから望月が豪健を小突いた。


「でも、モチは焼かないとだぞ?」

「ここで焼けば良いっしょよー」

「そんなことできるか。火事になったら大変だ」

「どうせ、ゲームの世界っしょよー」


後ろで豪健らの話を聞いていた望月も、

ここはRHLの世界じゃないかと、考え始めていた。


「ゲームの世界? もっちんも変なこと言うねえ」

「もっちん!」


望月は鳩が豆鉄砲を食らったかのように目を丸くさせた。

その様子がおかしくて、豪健はぷっと噴き出す。


「もっちん、今日ぐらいはここで食べようじゃないか。

ここの世界について、僕らは知らな過ぎる」

「う~、けんちゃんがそう言うなら」


恨めしそうに望月が見つめてくる。


「ありがとう」

「ただし、けんちゃんはもっちん禁止ですよ?」

「わかっているよ。それで、食べる物は持ち合わせていないんだが」

「はいはいはいー! ごうくんのために、美雪がお弁当作ってきました!」


そう元気良く手を挙げて言ったのは、望月の左隣の席の女の子。

この子もセーラ服を着ているのだが、金髪でぷくっとした唇も不自然に紅い。

胸も大きく主張し、全体的にセーラ服とミスマッチな雰囲気を醸し出している。


「僕にお弁当?」

「そうでーす。おモチばかり食べていたら、栄養が偏っちゃうと思ってー」


言いながら、これ見よがしに望月に流し目を送る。


「ななっ、おモチを馬鹿にするのですか!」

「馬鹿になんてしませんよー。美雪はただ、

ごうくんの身体を心配をしているだけなの」


ねー、と豪健を見る。

戸惑いながらも豪健は頷いた。


「確かに、おモチばかりだと栄養が偏るというのは一理あるかも」

「けんちゃん!」

「まあまあ。しかし、モッチーナが食べる物も無いというのは、僕も困る」

「そう言うと思って、ちゃーんと、おもちちゃんの食べる分も作ってきたから」

「おもちちゃん!」


再び目を丸くさせている望月。


「そういうことなら、有り難く頂こうかな」

「はぁ。そうっしょねー、有り難いですね」


キッと横目で睨む望月を、余裕そうな笑みで受け止める美雪。

美雪の前の席、宮下は鞄の中から小さな風呂敷包みを取り出した。

古めかしい見た目に、中身が何か気になる豪健。


「宮下も、自分で食べる物を持ってきたのか?」


そう尋ねると、こくりと小さく頷く。


「ちょっと多いから、食べて欲しい、かも」

「うんうん、食べるよ」

「あ、あたしも手作りのお弁当を持ってきたんだよ。

作り過ぎちゃったから、ごうちんにも食べて欲しいなあ」


慌てた声で、友塚も会話に入ってきた。お弁当を急いで取り出して。

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