ガチャガチャ様の祟り
「しかるに、メイド服には猫耳が良いと思う」
「猫耳?」
「昔、猫族が住む村へ一度だけ訪れたことがあってな。
あれは大層、可愛いものであった」
「あの、それ勇者じゃなくて、勇者を操っている親父の」
豪健がそう言い返すと、勇者は何を言っているんだと変な顔で見てくる。
「何だ親父って。お前の親父も猫族の村へ行ったのか?」
「いや、そうじゃなくって、いや、そうなんだけど。
この世界に猫族の村なんてあるのか?」
豪健が重ねて聞くと、勇者は腕組をしてう~んと唸った。
「言われてみれば、猫族の村なんて、ここからどうやって行くのだろうか。
あれ、俺はどうして、あんなことを口走ったのだろう。猫族の村って?」
う~ん? と首を捻って悩みこんでしまった。
「ガチャガチャ様の祟り、かも」
ぼそっと小さな声が聞こえた。左隣の席からだ。
振り返ると、メガネをかけて文庫本に顔をうずめた女の子が居た。
「あっ、あの、祟りかもしれないって、そういう、
変な記憶のノイズが、走ることが、あるって……」
言葉の最後の方は消え入りそうな声だった。
この子もセーラ服を着ている。
「ば、馬鹿! たた、祟りなんてあるわけないだろ、宮下!」
「ひっ、そ、そうですよね」
びびった勇者が声を張って叱りつけたせいで、
宮下と呼ばれた女の子がすっかり縮こまってしまった。
「こらそこ! さっきから何を話しているのかしら?」
黒板の前に立っている、チョークを持った女の子が豪健らを咎める。
「すみませーん、ゆうちんのメイド喫茶の熱弁を聞いていました」
「ちょ、ともちん! へ、変なことを言うのはよせ。
俺は、そんな不埒な喫茶店なんか開きたくないと言っていたんだ」
勇者が両手を暴れさせて弁解している。
いくらなんでも格好悪すぎる。
こういうのは貫き通すか、隠し通すかして欲しいモノだ。
クラス中でも失笑が忍ばれ、豪健はため息をつくしかなかった。
「えーと、では他に案は無いですか?」
「すみません」
勇者が挙手をした。
「はい、勇者くん」
「トイレに行って参ります!」
顔はへらへら笑い、頭をぺこぺこ下げながら、勇者は教室を出て行った。
「ほらあ、さっそく屋上の神社にお願いをしに行った」
愚痴るように友塚は言った。
「お願いって、ガチャガチャ様に?」
「そそ。メイド喫茶も悪くないんだけどねー。
こうなっちゃうと、話し合いの意味もないっていうかー」
つまらなそうに口をへの字に曲げて、豪健の机を枕にする友塚。
三つ編みの髪もへたれこんでいる。
「勇者さんのこと、悪く言うの、良くない、かも」
左隣の宮下が、小さな声で反論する。
「えー、悪くは言ってないよお。
それに、みやちんだって、さっき大きな声で怒られたばかりなのに」
「で、でも。勇者さんは、みんなのことを、ちゃんと、考えているから」
本で口元を隠し、言葉の最後の方は自信なさげに消え入りそうだった。
「ほんとかなあ。自分の欲望に忠実な判断だよー」
ねえ、と豪健に同意を求めてくる友塚。
「うん。あの行動が、みんなのことを考えているとは、到底思えん」
「おっ、ごうちんハッキリ言いよりますな」
友塚が嬉しそうに笑いかけてくる。
当たり前だ。本心からそう思っている。
親父のヤツ、好き勝手にやりやがって。ガチャガチャ様に頼るなんて。
ガチャガチャ様に頼る?
親父が、ガチャに頼る。変な引っかかりを豪健は覚えた。
まるで……。
「それでも、私は」
宮下が唇を噛み締めたところで、勇者が颯爽と戻ってきた。
手のひらですまんすまん、とポーズを作って。
「はい。勇者くんも戻って来たところで、多数決で決めたいと思います」
そして、文化祭のクラスの出し物は、圧倒的多数によりメイド喫茶に決まった。
キンコーンカーン、とチャイムが鳴り響く。豪健の前の席の友塚が、
んー、と気持ち良さそうな声を上げて腕を伸ばした。
「さーて、お昼のイベントに向かうぜ!」
ほくほく顔で勇者は席を立って、足を弾ませて教室を出て行く。
豪健は白けた視線で見送った。
「ごうちん、お昼一緒に食べない?」
友塚が振り返って誘ってくる。
「えーと、僕は」
「モチがあるっしょからねー。あたい達には」
後ろから望月が豪健を小突いた。
「でも、モチは焼かないとだぞ?」
「ここで焼けば良いっしょよー」
「そんなことできるか。火事になったら大変だ」
「どうせ、ゲームの世界っしょよー」
後ろで豪健らの話を聞いていた望月も、
ここはRHLの世界じゃないかと、考え始めていた。
「ゲームの世界? もっちんも変なこと言うねえ」
「もっちん!」
望月は鳩が豆鉄砲を食らったかのように目を丸くさせた。
その様子がおかしくて、豪健はぷっと噴き出す。
「もっちん、今日ぐらいはここで食べようじゃないか。
ここの世界について、僕らは知らな過ぎる」
「う~、けんちゃんがそう言うなら」
恨めしそうに望月が見つめてくる。
「ありがとう」
「ただし、けんちゃんはもっちん禁止ですよ?」
「わかっているよ。それで、食べる物は持ち合わせていないんだが」
「はいはいはいー! ごうくんのために、美雪がお弁当作ってきました!」
そう元気良く手を挙げて言ったのは、望月の左隣の席の女の子。
この子もセーラ服を着ているのだが、金髪でぷくっとした唇も不自然に紅い。
胸も大きく主張し、全体的にセーラ服とミスマッチな雰囲気を醸し出している。
「僕にお弁当?」
「そうでーす。おモチばかり食べていたら、栄養が偏っちゃうと思ってー」
言いながら、これ見よがしに望月に流し目を送る。
「ななっ、おモチを馬鹿にするのですか!」
「馬鹿になんてしませんよー。美雪はただ、
ごうくんの身体を心配をしているだけなの」
ねー、と豪健を見る。
戸惑いながらも豪健は頷いた。
「確かに、おモチばかりだと栄養が偏るというのは一理あるかも」
「けんちゃん!」
「まあまあ。しかし、モッチーナが食べる物も無いというのは、僕も困る」
「そう言うと思って、ちゃーんと、おもちちゃんの食べる分も作ってきたから」
「おもちちゃん!」
再び目を丸くさせている望月。
「そういうことなら、有り難く頂こうかな」
「はぁ。そうっしょねー、有り難いですね」
キッと横目で睨む望月を、余裕そうな笑みで受け止める美雪。
美雪の前の席、宮下は鞄の中から小さな風呂敷包みを取り出した。
古めかしい見た目に、中身が何か気になる豪健。
「宮下も、自分で食べる物を持ってきたのか?」
そう尋ねると、こくりと小さく頷く。
「ちょっと多いから、食べて欲しい、かも」
「うんうん、食べるよ」
「あ、あたしも手作りのお弁当を持ってきたんだよ。
作り過ぎちゃったから、ごうちんにも食べて欲しいなあ」
慌てた声で、友塚も会話に入ってきた。お弁当を急いで取り出して。




