ガチャガチャ
モッチーナは両手に力を込め直す。
今や、スライムに吸われた体力も戻ってくるようだった。
「もちもち剣第二巻、双剣乱舞!」
そう言いながら、両手の剣を次々と繰り出す。
右手で斬りにいき、弾かれたらすぐさま左手で斬りにいく。
横にかわされたら、剣を外側にその場で回転し、回りながら斬りつける。
「手数が多いだけの、軟弱攻撃だが」
モッチーナの小柄な体型を生かした、すばしっこい剣術。
反撃の隙を与えない手数の多さだが、一撃一撃は軽い。
普段なら一、二発受けても、斬りにいけば良いのだが、
手負いの水無月はその一、二発が致命傷となるかもしれなかった。
どんなに弱い攻撃だろうと、例えば首を斬りつけられたらひとたまりもない。
上手く斬られて、さらに反撃。
そのプロセスを踏めない可能性を、水無月は危惧する。
「ちっ」
舌打ちして、水無月は地面を蹴ってモッチーナとの距離を離す。
十分下がったところに、有泉と博士が駆け寄った。
「ねえ、大丈夫?」
「わわっ、背中に酷い怪我なのです! 今すぐ治療しないと」
そう慌てる博士の手には、ダンジョンガチャがあった。
しまった!
さっきたんぽぽが歌っている間に、ガチャを取られてしまったのか。
「モッチーナ! 向こうが手負いの今、ガチャを取り返しに行くぞ!」
「おっけいっしょ!」
「何かあったら歌う」
「何もなくても応援しますぞ!」
僕達がじりじりと距離を詰めていく。
「ねえねえ、逃げ場がなくなっていくわ」
「すまない。俺だけ置いて、お前たちだけでも」
苦痛に顔を歪めながらも、水無月は剣を構えて前に出る。
「そうはいかないのです! 部下を見殺しにできるほど、
わたしは、博士の血は、鮮烈鮮明、無色で無力、ではないのですよ!」
言いながら、博士は白衣のポケットから銀色に光る何かを取り出した。
「ありゃま。銀鉱石で錬金したてほやほやの」
「今こそ、これを使う時が来たのです!」
博士は銀色のそれを、ガチャの頭に取り付けた。本来はRHLを埋める場所だ。
そこからノズルが口を開けるように上を向いて広がっている。
「何か、やばそうっしょね」
「どうする、退くか、突っ込むか」
「突っ込むっしょ!」
剣を構えたまま、突っ込むモッチーナ。
博士は、ガチャの頭をこちらに向けた。
銀のノズルの口の中は、そこだけ穴が空いたように、真っ暗闇だった。
「ガチャガチャなのです!」
博士は、ガチャガチャの回しを回した。
ぶおおおおお。
ダンジョンに轟く、唸り声。
その声と一緒に、空気が吸い込まれていく。ノズルの中に。ガチャの中に。
「なっ、飲み込まれてしまうっしょ」
かかとでブレーキをかけるモッチーナ。
しかし、風穴が開いたように、吸い込んでいく空気に引っ張られてしまう。
思わず僕はモッチーナの手を掴んだ。
「けんちゃん!」
「絶対に離すなよ」
強く踏ん張るものの、次第に吸い込む力も増していく。
もう片方の手で、剣を地面に突き刺した。
それでもずるずると、ゆっくり地面を滑っていく。
「けんちゃん! 私はもうダメっしょ。手を離して逃げてください!」
「ダメだ! お前がいなくなったら僕は。僕は!」
「けんちゃん」
歯を食いしばって掴む。
モッチーナの足が地面から離れた。
脚が空中で暴れまわる。
しかし、手だけはがっちり繋がっていた。
「なーんか、安っぽい劇を見ている気分だわ」
「じれったいな」
「さっさと吸い込まれるのです!」
必死な形相のモッチーナの背後では、
あくびをしている有泉と貧乏ゆすりをしている水無月。
博士はむむむ、と口を強く結んでいる。
「こうなったら、出力最大なのです!」
博士は手を伸ばしてガチャを回しまくった。
ぶんぶんぶごおおおおおおお。
燃費の悪い馬みたいな呻き声を轟かせ、
さらに吸い込む力が増した。
足が一瞬、宙に浮く。
がしっ、と足首を掴まれた。
「危ないところですぞ!」
「夏目!」
地面を這ってここまで来たのだろう。
ありがたいが、こんなところまで来てしまったら。
「お前まで吸い込まれるぞ!」
「その時はその時。我輩は、まだ見ぬダンジョンへ行きたいだけですぞ!」
「次のダンジョンは地獄かもしれないっしょよー」
「針の山に登ってみたいですぞ!」
「たくましいな」
しかし、とにかく助かった。
ラぁーララー、ルルぅーッル、ラララー
そんな緊急事態に、優しい歌が聞こえてきた。吸い込まれる風と一緒に。
振り返ると、右手を伸ばして歌っているたんぽぽが!
「ガチャガチャ、何をそんなに怯えているの?」
「いや、怯えているのは僕達だから!」
「私の歌を聞いて」
「聞く耳なんてないっしょよー」
「いや、あの博士には届いているはずですぞ!」
そう言って、ガチャ本体を持つ博士を見る。
「わわっ、つ、強くしすぎたのです」
歌を聞くどころじゃなかった。
ガチャを持つ博士自身も、前のめりになっている。
背中の水色の羽がまるで本物かのように、バタバタとはためかせて。
「ちょっと、私達も危ないわね」
「そのようだな」
有泉と水無月が博士を見る。
ふっふっふ、と博士が怪しく笑った。
「悪い魔女を実験台のネズミにするのも、悪くはないのですよ?」
「恐怖でおののく顔を見ているのも」
「悪くないな」
ふっふっふ、と博士と一緒に笑いながら、こっちを見てくる有泉と水無月。
「すっかり悪党が板についているな」
「呑気に感心している場合じゃないっしょよー」
「いよいよ覚悟を決める時がやってきたようですな」
夏目の身体もふわりふわりと、地面から離れ始めた。
その時、タッタッタ、と地面を蹴る音が。
たんぽぽが、こちらに向かって走ってくる。
「馬鹿! お前まで、僕達を」
そのまま僕達の横を、ビュンと風をきって駆け抜けていく。
えっ?
自らガチャに向かっていってる。血迷ったか。
たんぽぽは、走ってきた勢いそのままに
ガチャを持った博士に飛び掛った。
「な、何をするのですか!」
「たんぽぽ剣、道連れ」
吸い込む力に引きずられて、
ノズルの真っ暗闇の中に身体が半分入ってしまっているが、
そんな中で、博士の白衣を掴んでいた。
剣じゃないという突っ込みを抜きにしても、すげえ。
「人間はゴミ。みんな真っ暗闇に沈むが良い」
「あらら、笑って見送るどころじゃないわ」
「師匠! こら、離すんだ」
道連れにされそうな博士の身体を支える有泉と水無月。
だが、執念深く掴むたんぽぽ、増していく吸い込む力に、なすすべはなかった。
最初にたんぽぽと博士、次いで有泉と水無月がガチャの中に取り込まれた。
持ち主を失ったガチャは地面に落ちる。ノズル穴をこちらに向けて。
吸い込む力は依然と増している。
「あっ、我輩の身体も完全に浮きましたぞ」
「あの世でも、仲良くしてっしょ」
涙を浮かべて笑みを作るモッチーナ。
「馬鹿! くそお、親父のような剣士になりた」
僕の言葉が最後まで紡がれることはなかった。
こうして、僕達はこの世界から姿を消した。
次に僕達が辿り着く場所は、剣や魔法はあるのか。
モンスターやアイテムは出てくるのか。
はたまた、せせらぎが聞こえてくる川しかない、
あの世なのか。
第一章 ダンジョンガチャ探索編 終わり




