表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣を売ってガチャるな!  作者: 原 すばる
第一章 ダンジョンガチャ探索編
15/104

その鳥はまっさらな空を目指す

「いかにも。青い翼を創造し、疾風のごとく天を突き抜け、世界を支配する、

青い天才科学者、ドクターミルクとはわたしのことなのですよ」


水色の羽をふりふりさせて、えっへんと威張る。


「まさか、あいちゃんの師匠ってこの子っしょか?」


モッチーナが耳打ちをしてくる。


「間違いなさそうだ。水無月のヤツ、こんな小さな子に何を教わっているんだ?」

「犯罪のにおいがしますが……、しかし、これはチャンスっしょ。

仲間がこないうちに任務遂行ですよ」

「気が引けるが、元凶はこの子だもんな。やろう」

「こそこそと、何を内緒話しているのですか?」


僕達が相談していると、博士が訝しがって聞いてくる。


「いや、まさかこんな有名人に出会えるなんて、凄いねって話していたんだ」

「そうそう、博士の目の前でガチャを引けるなんて、こんな幸運ないっしょ」


口々に言うと、博士はえへへと照れる。


「そ、そこまで言われると照れるのです。そうなのです!

今日は一回、無料ガチャして良いのです。みんなには秘密なのですよ?」

「ほんとに? 嬉しいっしょねー」

「だなあ、ラッキーだ!」


何故だろう。無邪気な笑顔を見ていると、心が痛む。

しかし、一時の情に流されてはいけない。


「はい、どうぞなのです。RHLをガチャの頭に取り付けるのを忘れずに」

「そっか、プレイヤーの状況に合わせたイベントを出してくれるんだもんな」

「そうなのです。RHLを読み込ませないと、ガチャは回らないのです」


そう言って、博士がガチャの筐体を差し出した。

その頭には確かにRHLを埋め込むような、窪みがある。

しかし、当然ながら僕らはRHLを持っていない。


モッチーナと目配せをする。ガチャを奪うならここだ。

カプセルの詰まった透明ケースの下部には、捻る回しがある。

本来ならここにお金を入れて回せば、カプセルが出てくるのだろうけども。


「ありがとう、回させて貰うよ」


僕はお礼を言いつつ、ガチャの筐体ごと手に掴んで奪い取った。


「な、何をするのですか!」


手を伸ばして取り返そうとする博士を、後ろから羽交い絞めにする。

たんぽぽが。


「こんな野蛮なモノを作るとは、やっぱり人間はゴミ」

「は、離すのですよ!」

「うるさい! これのせいで罪無きモンスターが倒されるの。お父さんだって」


ぎりっと唇を噛んで、暴れる博士を強く取り押さえるたんぽぽ。


「さあ早く」

「よし、モッチーナ、これを真っ二つに斬るんだ」

「わかっているっしょよ」


モッチーナが剣を振り上げ、僕はガチャを前に差し出す。


「やめてえええ!」


目に涙を溜めた博士の悲鳴も虚しく、剣は無常に振り下ろされた。

しかし、後には風を切る音しか響かなかった。


「あーらら。ダメじゃないの坊や。女の子を泣かせたら」


僕の手元にあったはずのガチャは、あのどこでもスベールを売りつけてきた

お姉さんが持っていた。少し離れたところで、

手のついたアームのような機械を持って。


「忠告したはずだがな、俺に斬られる前に立ち去れと」


ドンッ、と剣の柄でたんぽぽのわき腹を殴りつける水無月。

うぐっとお腹を押さえて、博士を離してしまうたんぽぽ。

開放された博士は、お姉さんと水無月の元へと駆け寄った。


「セーラ、あい、遅いのですよ!」

「ごめんなさいね。探すのに手間取ってしまったわ」

「すまなかった。タダで野放しにしてしまった、俺の失態だ」


お姉さんと水無月は膝をついて、博士よりも低く頭を下げている。

そんなに偉いのか、その子は。


「気にしないのですよ。こうして再開できたのも輪廻の理、

青い鳥の導きなのです。さあ、世界を暗闇へと誘う悪い魔女を退治するのですよ」


博士が袖で半分隠れた手で、二人の肩を叩いた。


「さっきから、何を言っているっしょか?」

「お前達は何なんだ?」


そう問いかけると、姿勢を低くしていた二人が素早く立ち上がった。


「我々は、雛鳥」

「大人になろうとしない、雛鳥」

「邪悪な正義で濁った空を」

「清廉潔白な青に塗り替える」

「水無月藍」

「有泉セーラ」


二人は僕らを指差した。


「青い鳥の名にかけて」


息ぴったりに言い放つ。

わあっ、と目を輝かせて博士が拍手をしている。


「ちゃんとわたしが考えた通りのセリフ、ありがとうなのです!」

「やっぱり博士が考えていたっしょねー」

「あんな青臭いセリフを言わされて、ちょっと気の毒だよな」


僕とモッチーナが口々に言うと、途端に博士の目に涙が溜まり始めた。


「そ、そんなことないのです! 完璧にカッコいいのですよ!」


なのですよね? と不安そうに、水無月とセーラを見る博士。

セーラは優しげな笑みを浮かべて、

しゃがみこんで博士と目線を合わせながら頭を撫でる。


「当たり前だわ。偽りの空を眺める人には、理解できないセンスなのよ」

「青い鳥。どこかで聞いたことがあると思ったら、革命組織の青い鳥ですぞ」


すぐ近くの壁から、小声で囁かれる。既に壁になっている夏目だった。


「革命組織?」

「そうね。私たちは王国滅亡を望む、青い鳥よ」


すくっと立ち上がりながら、セーラが言う。


「王国滅亡だって? 水無月、お前」

「そういうことだ。我々は真に青い空を望む、青い鳥。邪魔立ては容赦しない」


水無月が剣を抜いた。

今にもこちらに斬りかかってきそうだ。

そうはさせまいと、モッチーナも両手の剣を構える。


「道場以来っしょねー。実践は、手加減できないですよ?」

「こっちのセリフだ」


二人同時に地面を蹴って、剣を交わらせた。

キンッ、と金属音が鳴り響いて、

モッチーナは二本の剣で水無月の剣を押さえている。


「もちもち剣外伝、モチ爆弾!」


ちっ、と舌打ちが聞こえたのと同時に、モッチーナのスカートの中から

わらわらと白いモチが出てきた。

水無月とモッチーナは距離を取る。

その二人の間で、転がったモチがどかんどかんと爆発していった。


「ななっ、モチが爆発しましたぞ!」


隠れていることも忘れて、夏目が驚いている。


「あれは、モチの中に爆弾を仕込んだモッチーナの補助技だよ」

「補助技? 思いっきし攻撃技ですぞ」


そう思うのも無理はない。


「モッチーナは接近戦が苦手なんだ。ああやって距離を取った状態が、

モッチーナの土俵だよ」

「なるほどお。ど派手な爆弾は目くらまし。勝負を有利に進めるために、

モッチーナ氏も考えておられるのですなあ」

「それより夏目。有泉の手にあるガチャを、今から奪い返すぞ」


声をひそめ、その段取りを夏目に素早く伝えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ