水色の羽を装着した女の子
「いやあ、一時はどうなるかと思いましたが、ご無事で何より」
壁からにゅうっと夏目が出てくる。
「お前は隠れるのが本当に上手いな」
「ダンジョンの奥深くまで潜るためには、戦闘を避けるのが一番ですからな」
はっは、と胸を張っている。
「しかしあいちゃんは、ダンジョンガチャに関して相当深く噛んでいるっしょね」
モッチーナが訝しがりながら、自分の靴を履き直す。
「できれば衝突は避けたいところだな。ヤツは強い」
「あたいも結構強いですけどね」
「わかっているよ。お前の強さを信頼している。
ガチャの在り処を夏目が示してくれる今、速やかにぶっ壊しに行くぞ」
「おっ、ぶっ壊すのですな」
夏目が納得したように頷く。
水無月のヤツ、いくら腐ってはいても親父のことを悪く言いやがって。
それに、カジノにあった伝説の剣のあられもない姿。
もう我慢できん。
全ての元凶、ダンジョンガチャを破壊する。
「決めたっしょね! 威勢よく真っ二つにするっしょよー」
モッチーナも目を輝かせて、剣を鋭く振った。
あれ、たんぽぽの反応がない。後ろを見ると、たんぽぽは未だ落ち込んでいた。
「たんぽぽ、どうしたんだ?」
「何でも、ない」
「何でもあるだろう。もしかして、歌えなかったことを気にしているのか?」
僕がそう尋ねると、力なく頷いた。
「私、モンスターのこと敵じゃないって、思っていたのに。それなのに」
それなのに、敵だと思ってしまった。憎いと思ってしまった。
言葉の後にはそう続きそうだった。
「凄いな、お前」
気がつくと、そんなことを口走っていた。
「僕が同じ立場だったら、昨日の今日でなんて許せない」
そうだ。仮にたんぽぽの立場だったら、親父をモンスターに殺されて、
それを昨日の今日で許すなんて、できっこない。
憎くて憎くて、切り刻んでも足りないぐらいの憎しみを抱えるはずだ。
きっと、一生許せない。
「それをさ、頑張って許そうとしているんだもんな。自分の信念を貫くためにさ」
「私の、信念?」
「モンスターが好きってヤツ」
言ってやると、たんぽぽは顔を上げて真っ直ぐに僕を見た。
「そう。私はモンスターが好き。モンスターは悪くない。人間はゴミ!」
頬を薄くピンク色に染めて、言い放つ。
「調子出てきたっしょねー。その捻じ曲がった信念を貫くっしょよー」
「私、今度こそはちゃんと歌う。許容して、迎え入れる」
「頑張るのですぞ。我輩は、何もできないですが、心より応援しております」
うん、と小さくガッツポーズを作るたんぽぽ。
僕はみんなを、今一度見渡した。
「これより、ダンジョンガチャ破壊に向けて、出発するぞ」
おー! と息ぴったりに声を上げる。
今日、ダンジョンガチャに終止符を打つんだ。親父の目を覚まさせてやる。
その後、二階層目を一通り回る。途中で、斧持ちゴブリンに出くわすものの、
たんぽぽは歌を歌いきり、斧を手放してゴブリンは眠りに落ちた。
強いな、とそう思った。
夏目の案内でいよいよ三階層目に入る。辺りはいっそう暗くなり、
通路の端は暗闇で見えなくなった。時々、何かが蠢くのを
びくんとモッチーナが反応していたのを見逃さない。
「ちょ、ちょっと、今隅に何か居たっしょよ」
「ん? スライムゴーストじゃないのか?」
「居るなら居るで、ちゃんと正面から出てきて欲しいですよー」
「モッチーナ氏は意外と怖がりさんですなあ」
虫眼鏡で壁に視線を走らせながら、夏目がからかう。
「違うっしょ! こう神経を張り詰めていると、
ちょっとしたことに反応してしまう、剣士の性なのです」
「剣士というのも大変ですなあ」
「ちなみに、そんな性は無い」
「けんちゃんの裏切り者!」
他愛の無い話をしていると、たんぽぽが声を上げた。
「ここ、さっきも通った」
「なな、なんですと!」
驚いて虫眼鏡を落としそうになる夏目。
「なっちゃん、その虫眼鏡大丈夫っしょ?」
「虫眼鏡は大丈夫なので、我輩がダメですな」
「おいおい、そんな弱気な」
ため息をついてしまう。
「しかし、我輩は確かに、エネルギーの流れる方向に進んでいるのですが」
「もしかして、ダンジョンガチャも動いているんじゃないか?」
「ダンジョンガチャもぐるぐる」
たんぽぽが両手の人差し指をぐるぐると回した。
「それなら、反対周りに歩けば、見つけられるっしょ!」
「よし、来た道を戻ろう」
僕たちは踵を返して、今歩いて来た道を戻り始める。
しばらく歩いたところで、おおっ! と夏目が歓声を上げた。
「エネルギーが段々太くなっていきますぞ! こちらに向かってきておる」
「モッチーナ、警戒をしていてくれ」
「おっけいっしょ」
両手に剣を持って、モッチーナが先陣を切る。
すると、向こうからずずっ、ずずっと鼻をする音が聞こえた。
やがて、ひっく、えぐっ、としゃくり上げる声も。
「誰か泣いている?」
「この世に未練を残した女の怨霊っしょか?」
「そんなわけあるか。落ち着け」
震えた声で問いかけるモッチーナにげきを飛ばしていると、
白い服が僕達の前に現れた。背中には水色の羽。天使系のモンスターか?
ひっ、と小さく悲鳴を上げるモッチーナ。
「ぐすっ、セーラ、ひぐっ、あい、どこなのですか?」
泣き腫らした女の子が現れた。
目の前で見ると、その水色の羽は作り物だとわかる。
何ゆえ、こんなものを付けているんだ。
「これ、ダンジョンガチャはこれですぞ!」
夏目が虫眼鏡を通して叫んだ。
水色の羽に気をとられていたが、
女の子は透明なケースにカプセルが詰まった箱を抱きかかえていた。
「なっ、お前達は、ナニモノなのですか!」
僕達に気がつき、白衣の女の子はズサササ、と素早く距離を取った。
その目は泣いて赤くなっていたが、こちらに警戒心をむき出していた。
「えっと、僕たちはダンジョンガチャを探していて」
何て、言おう。壊しに来たなんて言ったら、触らせてくれなそうだし。
「RHLをプレイしているっしょよー。ガチャを回すためにここまで来ました」
モッチーナが言い添えると、白衣の女の子はぱあっと顔を明るくさせた。
「ほんと? RHLをプレイしてくれているのですか?」
「うんうん。してるしてる」
「わあ、嬉しいのです。最近の行事は、好評なのですか?」
「あー、えっと学園祭だよね? あれは、うん、良かったよ。
ガチャのおかげで五人の女の子とデートできたし、
キャンプファイヤーも好きだった女の子と踊れてさ」
親父からうんざりするほど聞かされた自慢話を、思い出しながら言う。
「わわっ、本当に充実しているのです! 頑張って作ったかいがあったのですよ」
「作ったって、君がRHLを開発したのか?」
背丈はモッチーナと変わらないけど、顔立ちや体型からどう見ても子どもだ。
もしや、あのどこでもスベールのお姉さんや水無月が言っていた博士って。




