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剣を売ってガチャるな!  作者: 原 すばる
第一章 ダンジョンガチャ探索編
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モチは心の回廊を灯す

「たんぽぽ氏をここまでやる気にさせるおモチ。

我輩も是非、味わってみたいですな」

「了解っしょ。準備をするから、聖水を撒いてくださいな」


モッチーナはそう言い残して、小枝と乾燥した草を拾いに向かう。

残った僕らは聖水を撒いたり、モチを串に刺したりして準備をした。

小枝と草の山を抱えて戻ったモッチーナは、手際よく火を着けた。


「良いっしょか? あたいの手は二本しかないので、

今日は自分のモチは自分で焼くっしょよ?」

「はいっ、モッチーナ先生」


僕が元気に手を挙げた。


「けんちゃん生徒、なんでしょうか?」

「焼き方のコツがわかりません。教えてくれないでしょうか?」

「しょうがないですね~。あたいがやるところを真似しながら焼くっしょ」


そう言いながらも、頬が若干緩んでいるモッチーナ。満更でもないようで。

僕らはモチが刺さった串を、一人一本ずつ持って焚き火を囲んだ。


「まず、串の持っていない方の手を火にかざすっしょ」

「かざした」

「こうですかな?」


たんぽぽと夏目が何も持っていない手をかざす。

僕も真似して左手を焚き火に持っていく。熱が手のひらに当たる。


「そのまま火傷をしないところまで、近づけるっしょ」

「ふむむ、この辺ですぞ」

「私はここまで」

「おお、たんぽぽ氏! そんなに火の近くで熱くないのですかな?」

「平気よ。モンスターの傷みに比べたら」

「ふむむ、では私も負けずにここまでって、あちっ」

「あつい」


風で揺れた炎の先が、夏目とたんぽぽの手を順々にかすめていく。

慌てて手を引っこめるお二人さん。


「何をやっとるんだ」

「先が思いやられるっしょねー」


ふっと小さく微笑み合う。

お二人さんが手をかざし直すのを見て、モッチーナが口を開いた。


「その場所がおモチと火の適正距離なのですよ」

「なるほどお、ただ火の中に突っ込むだけではダメなんですな」


夏目が感心しながらモチを近づけた。


「焼く時は、モチに当たる熱が角や真ん中に偏らないように、

自分の手だと思って、バランスよく火にあてるっしょ」

「わかりやすい」


たんぽぽがぽつりと独り言のように言う。

それを聞いて、モッチーナが僅かに赤くなった。


「おっ、段々と香ばしいにおいがしてきましたぞ」

「なっちゃんのは、もうそろそろひっくり返しても良いかもですね」

「私のは?」

「ぽぽちゃんのも、うん。ひっくり返しても問題ないっしょ」


ぽぽちゃん、と聞いて、ぷっと吹き出してしまった。

む、とモッチーナに睨まれる。


「面白い呼び名だね」

「どう呼ぼうがあたいの勝手っしょ。可愛らしいですし」


ねえ、とたんぽぽに呼びかける。


「うん。でも、舌噛みそう」

「大丈夫っしょ。あたいはお口捌きが器用ですからね~」

「その謎自慢は止せ。妙な気分になってくる」

「扇情的な気分ですかな?」


夏目がメガネを直して、にやにや見てくる。


「言わなくても良い」

「それより、けんちゃんはモチを急いでひっくり返した方が良いっしょよー」


モッチーナに指摘されて気がつく。

いつの間にか、表側まで狐色に染まっていた。

慌てて、裏返す。


「うおっ、真ん中が焦げちゃっている」

「ギリセーフっしょねー。あたいの口捌きを妄想しているからそうなるのです」

「してないって! ああ、真っ黒なところは避けて食べるかなあ」

「真っ黒なところも意外といけたりするっしょよー」


渋い苦味の中に旨みも隠れています、と言ってくれる。

モッチーナなりのフォローだろうか。


「そろそろ焼きあがってくるので、この甘い味噌ダレを表面に塗るんだ」


手元に置いておいた、五平さんの味噌ダレが入った瓶を開ける。

タレ付け筆でモチの表面を塗りたくる。そうして順番に回していった。


「ん~、この甘くて食欲をそそるこのにおい、期待値爆上がりですぞ」

「お腹に入ってくる香り。お腹を透かして見ているよう」

「たんぽぽ氏は詩人ですな」


夏目の言葉を聞いて、たんぽぽはおもむろに立ち上がった。


「熱いほのお? 熱いおモチに、すいたお腹を、透けたお腹に、

待ちきれない、モチ切れない? 早く食べたい、このおモチ」


韻を踏むようにたんぽぽは言い放って、再びしゃがみこむ。

僕とモッチーナは何事かと口をぽかんとさせていた。


「な、なんだ今のは」

「ら、ラップっしょよー、一昔前に流行った」

「今でも、私の中では流行ってる」

「おお! ラップもいける口なのですな!」


夏目が一人、腕を叩いて感心していた。


「気分が高揚すると、出ちゃう」

「意外性の塊だな、お前」

「しかし、楽しみなのは十分に伝わってきましたぞ!」


食べる前からテンション高いお二人にあてられ、

僕もお腹が、ぐうっと鳴った。


「そろそろ食べごろっしょね。各々、好きなように食べるっしょよ」


モッチーナの言葉も弾んでいる。

いただきまーす、と元気に言って、串に刺さったモチを頬張った。

外側はさくさく、中はとろとろ。甘味噌が染み込んでいく。


「美味い! 美味すぎますぞ! お味噌のタレがこんなにも合うなんて」

「幸せ」


顔をほころばせて、夢中になって食べている。


「ん~、やっぱり焼きたてのモチは世界一美味いっしょ」


モッチーナも例外ではなく、脚をじたばたさせて堪能していた。

こうやってみんなで焚き火を囲んで、その暖かな灯りに照らされながら、

モチを頬張る。不思議と食べるほどに、美味しさが滲み出てくる。

心の底から暖まる。


「そういえば、たんぽぽのお父さんの名前って、つばきって名前?」


ある程度おモチを食べたところで、たんぽぽに尋ねてみた。

親父が言っていた、昨日の深夜、RHLの中で足元から消えたという男子生徒。

たんぽぽのお父さんがゴブリンに殺された時間帯だ。


ダンジョンガチャを引きに来ていたわけだし、見当違いな考えではないはず。

たんぽぽは口に運ぼうとしていたモチを、手元にそっと戻した。


「うん。つばきは、お父さんの名前」

「そうか。親父がやっているRHLで、昨日の夜に消えたって男子生徒の名前が、

つばきだったそうだ」

「そう」


興味無さそうにたんぽぽが再びモチを口に運ぶ。

本当は、興味無さそうなふりをしているだけかもしれないが。

昨日の今日で、あまりお父さんのことは考えたくないかもしれない。


「操作している人がいなくなったら、キャラも消えるってことっしょか?」


隣で食べていたモッチーナがこそっと聞いてくる。


「さあな。だとすれば、よほど高性能なゲームだ」

「ちょっと不気味っしょね。これ以上考えたらモチが不味くなりそうです」

「あはは。この話はおしまいにしよう」


僕達は残ったモチも残さずたいらげた。

火の後始末も済ませて、荷物を詰め込む。

片付けている間も、どことなく距離感が縮まった気がした。


「さて、出発の準備も整って、いよいよ我輩の出番ですな」


虫眼鏡を取り出し、ずいっと前に出る夏目。


「おう、任せたぞ」

「敵を見つけたら、すぐにあたいが仕掛けるっしょよ」

「……その前に、歌を聞かせたい」


小さな声で、けれども確固たる意思を持ってたんぽぽが言う。


「そんな悠長なことができるっしょかねー」

「まあまあ。さっきは通用したんだから、初手はたんぽぽに任せてみよう」


モンスターが倒れるところを見たくなさそうだしな。

モッチーナは若干不服そうだが、頷く。


「わかったっしょ。その代わり、効かないとわかったらすぐに斬りますから」

「ありがとう」


ほっと胸を撫で下ろしているたんぽぽ。

さて、どこまでやれるだろうか。

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