モチは心の回廊を灯す
「たんぽぽ氏をここまでやる気にさせるおモチ。
我輩も是非、味わってみたいですな」
「了解っしょ。準備をするから、聖水を撒いてくださいな」
モッチーナはそう言い残して、小枝と乾燥した草を拾いに向かう。
残った僕らは聖水を撒いたり、モチを串に刺したりして準備をした。
小枝と草の山を抱えて戻ったモッチーナは、手際よく火を着けた。
「良いっしょか? あたいの手は二本しかないので、
今日は自分のモチは自分で焼くっしょよ?」
「はいっ、モッチーナ先生」
僕が元気に手を挙げた。
「けんちゃん生徒、なんでしょうか?」
「焼き方のコツがわかりません。教えてくれないでしょうか?」
「しょうがないですね~。あたいがやるところを真似しながら焼くっしょ」
そう言いながらも、頬が若干緩んでいるモッチーナ。満更でもないようで。
僕らはモチが刺さった串を、一人一本ずつ持って焚き火を囲んだ。
「まず、串の持っていない方の手を火にかざすっしょ」
「かざした」
「こうですかな?」
たんぽぽと夏目が何も持っていない手をかざす。
僕も真似して左手を焚き火に持っていく。熱が手のひらに当たる。
「そのまま火傷をしないところまで、近づけるっしょ」
「ふむむ、この辺ですぞ」
「私はここまで」
「おお、たんぽぽ氏! そんなに火の近くで熱くないのですかな?」
「平気よ。モンスターの傷みに比べたら」
「ふむむ、では私も負けずにここまでって、あちっ」
「あつい」
風で揺れた炎の先が、夏目とたんぽぽの手を順々にかすめていく。
慌てて手を引っこめるお二人さん。
「何をやっとるんだ」
「先が思いやられるっしょねー」
ふっと小さく微笑み合う。
お二人さんが手をかざし直すのを見て、モッチーナが口を開いた。
「その場所がおモチと火の適正距離なのですよ」
「なるほどお、ただ火の中に突っ込むだけではダメなんですな」
夏目が感心しながらモチを近づけた。
「焼く時は、モチに当たる熱が角や真ん中に偏らないように、
自分の手だと思って、バランスよく火にあてるっしょ」
「わかりやすい」
たんぽぽがぽつりと独り言のように言う。
それを聞いて、モッチーナが僅かに赤くなった。
「おっ、段々と香ばしいにおいがしてきましたぞ」
「なっちゃんのは、もうそろそろひっくり返しても良いかもですね」
「私のは?」
「ぽぽちゃんのも、うん。ひっくり返しても問題ないっしょ」
ぽぽちゃん、と聞いて、ぷっと吹き出してしまった。
む、とモッチーナに睨まれる。
「面白い呼び名だね」
「どう呼ぼうがあたいの勝手っしょ。可愛らしいですし」
ねえ、とたんぽぽに呼びかける。
「うん。でも、舌噛みそう」
「大丈夫っしょ。あたいはお口捌きが器用ですからね~」
「その謎自慢は止せ。妙な気分になってくる」
「扇情的な気分ですかな?」
夏目がメガネを直して、にやにや見てくる。
「言わなくても良い」
「それより、けんちゃんはモチを急いでひっくり返した方が良いっしょよー」
モッチーナに指摘されて気がつく。
いつの間にか、表側まで狐色に染まっていた。
慌てて、裏返す。
「うおっ、真ん中が焦げちゃっている」
「ギリセーフっしょねー。あたいの口捌きを妄想しているからそうなるのです」
「してないって! ああ、真っ黒なところは避けて食べるかなあ」
「真っ黒なところも意外といけたりするっしょよー」
渋い苦味の中に旨みも隠れています、と言ってくれる。
モッチーナなりのフォローだろうか。
「そろそろ焼きあがってくるので、この甘い味噌ダレを表面に塗るんだ」
手元に置いておいた、五平さんの味噌ダレが入った瓶を開ける。
タレ付け筆でモチの表面を塗りたくる。そうして順番に回していった。
「ん~、この甘くて食欲をそそるこのにおい、期待値爆上がりですぞ」
「お腹に入ってくる香り。お腹を透かして見ているよう」
「たんぽぽ氏は詩人ですな」
夏目の言葉を聞いて、たんぽぽはおもむろに立ち上がった。
「熱いほのお? 熱いおモチに、すいたお腹を、透けたお腹に、
待ちきれない、モチ切れない? 早く食べたい、このおモチ」
韻を踏むようにたんぽぽは言い放って、再びしゃがみこむ。
僕とモッチーナは何事かと口をぽかんとさせていた。
「な、なんだ今のは」
「ら、ラップっしょよー、一昔前に流行った」
「今でも、私の中では流行ってる」
「おお! ラップもいける口なのですな!」
夏目が一人、腕を叩いて感心していた。
「気分が高揚すると、出ちゃう」
「意外性の塊だな、お前」
「しかし、楽しみなのは十分に伝わってきましたぞ!」
食べる前からテンション高いお二人にあてられ、
僕もお腹が、ぐうっと鳴った。
「そろそろ食べごろっしょね。各々、好きなように食べるっしょよ」
モッチーナの言葉も弾んでいる。
いただきまーす、と元気に言って、串に刺さったモチを頬張った。
外側はさくさく、中はとろとろ。甘味噌が染み込んでいく。
「美味い! 美味すぎますぞ! お味噌のタレがこんなにも合うなんて」
「幸せ」
顔をほころばせて、夢中になって食べている。
「ん~、やっぱり焼きたてのモチは世界一美味いっしょ」
モッチーナも例外ではなく、脚をじたばたさせて堪能していた。
こうやってみんなで焚き火を囲んで、その暖かな灯りに照らされながら、
モチを頬張る。不思議と食べるほどに、美味しさが滲み出てくる。
心の底から暖まる。
「そういえば、たんぽぽのお父さんの名前って、つばきって名前?」
ある程度おモチを食べたところで、たんぽぽに尋ねてみた。
親父が言っていた、昨日の深夜、RHLの中で足元から消えたという男子生徒。
たんぽぽのお父さんがゴブリンに殺された時間帯だ。
ダンジョンガチャを引きに来ていたわけだし、見当違いな考えではないはず。
たんぽぽは口に運ぼうとしていたモチを、手元にそっと戻した。
「うん。つばきは、お父さんの名前」
「そうか。親父がやっているRHLで、昨日の夜に消えたって男子生徒の名前が、
つばきだったそうだ」
「そう」
興味無さそうにたんぽぽが再びモチを口に運ぶ。
本当は、興味無さそうなふりをしているだけかもしれないが。
昨日の今日で、あまりお父さんのことは考えたくないかもしれない。
「操作している人がいなくなったら、キャラも消えるってことっしょか?」
隣で食べていたモッチーナがこそっと聞いてくる。
「さあな。だとすれば、よほど高性能なゲームだ」
「ちょっと不気味っしょね。これ以上考えたらモチが不味くなりそうです」
「あはは。この話はおしまいにしよう」
僕達は残ったモチも残さずたいらげた。
火の後始末も済ませて、荷物を詰め込む。
片付けている間も、どことなく距離感が縮まった気がした。
「さて、出発の準備も整って、いよいよ我輩の出番ですな」
虫眼鏡を取り出し、ずいっと前に出る夏目。
「おう、任せたぞ」
「敵を見つけたら、すぐにあたいが仕掛けるっしょよ」
「……その前に、歌を聞かせたい」
小さな声で、けれども確固たる意思を持ってたんぽぽが言う。
「そんな悠長なことができるっしょかねー」
「まあまあ。さっきは通用したんだから、初手はたんぽぽに任せてみよう」
モンスターが倒れるところを見たくなさそうだしな。
モッチーナは若干不服そうだが、頷く。
「わかったっしょ。その代わり、効かないとわかったらすぐに斬りますから」
「ありがとう」
ほっと胸を撫で下ろしているたんぽぽ。
さて、どこまでやれるだろうか。




