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剣を売ってガチャるな!  作者: 原 すばる
第一章 ダンジョンガチャ探索編
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歌はみんなを優しくさせる

「な、この歌は、敵っしょか?」


ラぁーララー、ルルぅーッル、ラララー


透明でほんのり暖かい、春の風のような歌。

語りかけてくる。ここに敵などいない、と。


「違うな。この歌声は」


僕らに注目していたモンスターは、歌の主へと身体を向けた。

薄いピンク色のワンピース、黄身色の髪。

右手をそっと伸ばして、おぞましいモンスターに愛おしい目を向けて、

たんぽぽは歌っていた。


ルルーラー、あールルルゥ、ラぁーララー


歌声が舞台の幕を閉じていくように、優しく小さくなっていく。

スライムはゆっくりと壁際まで這い、

十本足インセクトは松明の灯りが当たらない岩影に隠れ、

鬼コウモリは出っ張った岩に鍵爪を固定させ、

それぞれが眠りに落ちていった。


剣を構えている僕らも、気がつくと肩の力を抜いてその歌に耳を澄ませていた。

とても戦闘中とは思えない、リラックスムード。


「今のうちに、逃げて」


歌に乗せて、小声で聞こえてきた。

僕はハッと意識を覚醒させ、並べていた商品を乱雑に纏めると、

その場から忍び足で離れた。


「ありがとう、助かったよ」


十分に離れたところで、たんぽぽにお礼を言う。


「別に。私はモンスターを守っただけ。人間はゴミ」


頬をピンクに染めて、そっぽを向きながら言われる。


「昨日の今日で、よくもダンジョンに来られたっしょねー」


モッチーナは胡散臭そうに目を細めて言った。


「わからなくなったから。モンスターは敵なのか」

「敵っしょよー」

「違う! と思う」


強く反論しようとして、父親がモンスターに殺され自分もやられそうになった

出来事を思い出したのか、尻すぼみとなった。


「しかし、元気そうで良かった」

「元気じゃない。でも、リベンジはしたかった」

「リベンジ?」

「私は、このダンジョンのモンスターとも友達になりたい」


その眠たげな目に、小さな炎が宿っていた。


「あの歌は、とっておきってわけか」

「うん。いつも、牧場のモンスターには聞かせている」

「昨日襲われた時に歌えば良かったっしょねー」


意地悪く指摘するモッチーナに、こらっと小突いた。

たんぽぽは俯いてしまう。


「怖くて、声が出なかった」

「うんうん。誰だって、斧を持ったゴブリンを前に、平静を保てないよ」


強く頷いてなだめる僕を、モッチーナは口をへの字に曲げて見ていた。


「まっ、あたいも殺気立ってしまいますから? 気持ちはわかるっしょねー」

「お前、どうしてそんなに喧嘩腰なんだよ」

「べっつにー。でも、さっきは、助かったっしょね。ありがとう」


つん、とそっぽを向きながらも、お礼を言っている。

お互いに分かり合えるまでは、まだまだ時間がかかりそうだ。僕自身も。


「いやあ、先ほどは助かりましたぞ」

「うおっ」


すぐ横の壁から話しかけられた。

薄暗い岩肌の壁から、にゅうっと人型が浮かび上がる。


「我輩だ」

「で、出たあ!」


身体を仰け反らせてしまった。

夏目は、緑の前髪を整えて焦げ茶の帽子をかぶり直す。


「そう騒ぐでない。ただの隠密スキルの一種、壁隠れですな」

「黒幕のおでましっしょねー」

「ち、違わい! しかし、先ほどは軽率でしたな。自慢したくなって、つい」


すまなかった、とバツが悪そうに後ろ髪を掻く夏目。

何か空気悪いな。良くしよう!


「いや、あの笛の音色も素晴らしかったよ。こう、ダンジョンを

もっと探検したくなるような、懐かしくて勇気を貰える音色だった」

「そう言ってくれると気が楽になるが、皆さんを危険な目に……」

「それも、たんぽぽがどうにかしてくれたしな」


なあ、と振り向くと、たんぽぽは眉間にしわを寄せていた。


「またゴミが増えた」

「どうしてお前たちは、人と仲良くなろうとしないんだ!」


思わず叫んでしまう。

こいつらときたら、一言二言目にはゴミだの黒幕だの。

社交辞令の一つも言えないのか。


「我輩は友好的ですぞ。ダンジョンで出会う人も、色が出ていて面白いんだ。

そういうわけで、改めましてダンジョン鑑定士をやっている夏目だ」


よろしく頼む、と差し出された手を握る。

次いでモッチーナに握手を求めた。

口を波にして仕方ないとでも言いたそうな顔で握手に応じる。


「モッチーナ氏、よろしく。何か困ったことはないですかな?」

「そうっしょねー。女のにおいが強くなって来て困っていますよ」

「おい、モッチーナ」


僕が咎めると、つまらなそうに目を細める。


「はいはい。困っていることは、ダンジョンガチャの在り処とかですかね~」

「それぐらいなら、我輩が案内しますぞ」

「え?」


あっさりと、簡単そうに言ってのける夏目。


「私にはダンジョンのエネルギーの動きが、なんとなくわかるんだ。

ひときわ太い流れを追っていけば、辿り着きますぞ」


虫眼鏡を通して、夏目は得意げだ。

ダンジョンガチャの場所は定期的に変わる。

RHLを持っている人はダンジョンガチャがマップで表示されるようなので

問題はないが、僕らのようなRHLを持っていない人には探すのも苦労する。


「ただ闇雲に探すよりも、ずっと効率が良いな」

「下手な戦闘も避けられそうっしょね。しょうがないです。

あたいが護衛するから、ちゃんと案内をお願いしますよ?」

「名誉挽回の機会、感謝したい」


帽子を取って、頭を下げる夏目。まだまだ、堅苦しいな。


「それで、そちらの素晴らしい歌を歌ってくれた黄色い君は誰ですかな?」

「……私はたんぽぽ。モンスターは友達、人間はゴミ」


たんぽぽの次の言葉を待つが、何もない。自己紹介終わり。

夏目は顎に手をあてて思案する。


「ふむむ。つまり我輩たちは全員ゴミの集まりなわけかな?」

「そういうことになる」

「ならねーよ!」


あんまりなことを言うたんぽぽに、つい口を出してしまった。


「あの歌は、モンスターに聞かせる歌なのですかな?」

「そう。私の家で飼っているモンスターに、いつも聞かせてる」

「良いなあ。あの歌を毎日聞けるなんて、たんぽぽ氏のモンスターは

幸せな夢を毎日見ているんだろう」


虫眼鏡を通して笑いかける夏目に、たんぽぽは頬をピンクに染めてそっぽを向く。


「モッチーナ、ああいうことだぞ」


モッチーナに耳打ちをする。しら~っと上目遣いで見てきた。


「けんちゃんは、ああいうのが好きなんですねえ」

「好きとか嫌いとかじゃなくて、大人になれって言っているんだ」

「はいはい。いつまでも子どもで悪かったっしょね~」


僕はため息をついた。


「あんまり、僕を困らせないでくれよ」

「……わかっているっしょよ。けんちゃんの頼みとあれば、仲良く付き合います」


ぎこちなく握手を交わしている二人のところへ、モッチーナは進み出た。


「さっきは私もつんけんし過ぎたっしょ。

お詫びにおモチを振る舞っても良いですか?」

「おモチ、食べる!」


たんぽぽらしからぬ素早い挙手と勢いのある発言。

よっぽど、昨日のモチが美味しかったらしい。

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