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剣を売ってガチャるな!  作者: 原 すばる
第七章 最終決戦キャンプファイヤー編
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もちもち剣第五巻

 あたいはけんちゃんに、どんな風に思われているのだろう。

散々、宮下ちゃんに偉そうなことを言ったけど、

あたいだってけんちゃんとは恋人でも何でもない、ただの幼馴染みなのだ。


だからこそ宮下ちゃんの気持ちはとても良くわかる。

好きである時間が長いほど、一緒にいる時間が長いほど、怖いのだ。


あたいは既に、けんちゃんの一部。

けんちゃんとの今の関係が消えて無くなってしまったら、

あたいはあたいでいられなくなりそうな予感がする。


この冷たい空に溶けて消えて無くなってしまいそうで、怖い。


校庭の轟々と燃える炎を中心に、

川が流れるように駆けていく足元のウサギをかわしていく。

生徒達も元気ハツラツ、ぽぽちゃんの歌う声に合わせて楽しそうに踊っている。


あたいはこの熱気の中にも入っていけない。

けんちゃんと一度もまだ踊れていない。

けんちゃんは、あたいと踊っていないことに気付いているのかな。


気付いていたらいいな。


あたいは、バックネット裏までやってくる。

金網フェンスを掴んで登っていく。


けんちゃんとお互いに好きで、

元の平和な世界で、モンスターを狩るのを競ったりして、

いつまでも平和に、一緒に暮らしたいな。


そのためにも、あいちゃんのあの水の塊は、

絶対に校庭に投げさせちゃダメだ。


けんちゃんの炎は魔法によるもの。

だからこそ、ただの水を弾いて炎は復活できた。


でも、あいちゃんの掲げている水も魔法によるもの。

あれを浴びたら、けんちゃんの爆炎剣で復活させることもできない。


あたいは金網フェンスを登りきった。

少し見上げたところに、あいちゃんが両手で水の塊を掲げていた。

今や水の塊は、あいちゃんよりも二回り大きく膨れ上がっている。


あれだけの水の塊を出すには結構な魔力が必要なはずだけど、

あいちゃんって魔法の適性もあったってことなのかな。

ちょっと嫉妬する。


あたいも魔法使いたいなあ、と思いながら魔力を脚全体に伝えていく。


どこに飛ぼうか思案する。

あいちゃんは、いつ水の塊を投げてもおかしくない状況。

ここは、飛んで正面から直接、叩き斬るのが一番だ。


ひゅん、と小さなつむじ風が脚の回りを流れた。

充填完了。

とその時、あいちゃんと目が合った。


一瞬、目を見開かせて驚く。


「遅いっしょよ」


望月は両手で素早く短剣を二本、懐から抜き取って投げた。

くの字仕様の短剣は、大きな弧を描いて水無月を目指す。


水無月は背後に立っている人物に、二言三言話し、

両手で天に掲げていた水の塊を差し出す。

背後の人物は右手だけを天に上げて、水の塊を受け取った。


そうして水無月は懐から長剣を抜いて、屋上から飛び出す。

藍色のローブが月明かりに照らされ、美しくなびいた。


「第四巻の動きは見切っている」

「もちもち剣第五巻、半月斬り!」


望月はそう叫んで、直線に投げた短剣の軌道よりも高く飛んだ。


「なに、第五巻だと?」


水無月は困惑する。


「あいちゃんはスルーして、屋上に行くっしょ」


望月は山なりに水無月の上を通り過ぎようとする。


「水無月剣、鯉の滝登り!」


水無月は長剣を空気に擦る。剣先から水が噴き出し、

金網フェンスに向かっていた水無月の軌道は、

垂直に天に向かった。

そのまま望月を下から上に向かって斬りつけようとする。


「空中で方向転換。人間技じゃないっしょね!」


望月は突如向かってきた水無月の長剣を、両手の短剣で防ぐ。

キンッ、と金属音が耳の奥まで響いた。


「今の俺は人智を超えた魔力を得ている」


水無月がそう告げると、長剣の威力が増していく。

形勢は上を取っている望月が有利なはずなのに、

ぐいぐい長剣が下から突き上げていく。


「や、やるっしょ」


このままでは弾かれて吹き飛ばされる。

そう予感させたところで、水無月の背中に短剣が刺さった。


「ぐっ。やはり投げた剣は戻るのか」


長剣の押す力が弱まる。


「当たり前っしょ。背後から狙う二段構えは忘れていません」


勝機と言わんばかりに、望月は両手の短剣をさらに押し込んだ。

このまま長剣ごと押し込んで、水無月を地面に叩き落す。


水無月の突き上げる力が無くなった。

そして、水無月は不敵な笑みを浮かべる。


「もちろん忘れていない。短剣が一本しか戻って来ないこともな!」


はああっ、と水無月が気合いを入れた。

再び上へと長剣を突き上げる力が湧き上がる。

その水無月の背中には二本投げた短剣のうち、一本しか刺さっていなかった。


「やっぱり左手の短剣ちゃんは、言うことを聞いてくれないっしょ」


望月も両手の短剣に力を込めるが、ぐいぐいと押し返されていく。


「終わりだ、モッチーナ!」


水無月は長剣から水を噴き出させて、勢い良く振り上げた。


「第五巻、っしょよ?」


望月は長剣に押されている両手の二本の短剣を持ったまま、頭を突き出す。

身体を捻ってくるりと一回転しながら、両手の短剣を離した。


「な、に」


望月は右足首をくいっと曲げる。

短剣がスカートの下から飛び出す。両足に短剣を挟みこみ、

そのまま水無月の背中に、既に刺さっている短剣の隣に、踏み刺した。


「ぐはっ。そこか、ごほ、んめは」

「日々の鍛錬の賜物っしょ」


望月は水無月を蹴って屋上へと飛んで行く。

一方、水無月は校庭の隅へ、真っ逆さまに落ちていった。


 望月が屋上へと着地すると、目の前にはあの水無月の背後に居た人物が

水の塊を右手だけで支えて立っていた。


「いやん、やるわねえ白ウサちゃん」


どこかで聞いたことのある、オネエ声。

青空色のパーカーが月明かりに不気味に照らされている。


「むっつりちゃんにはあちしの魔力たくさんあげたのに、惚れ惚れしちゃう」

「あんたはもしかして」


望月が確信めいて尋ねる。

頭まですっぽり被ったフードを左手でめくって見せた。


そこには、赤い鼻で左目にスペードのマークが描かれたピエロの顔があった。


「魔王! どうしてここに居るっしょか!」

「あらあ、魔王がここに居ちゃいけない?」

「当たり前っしょ! 現実世界の魔王は

このタイミングだとまだ封印されているはずっしょ」

「そうよねえ、現実世界だとあちしはまだ封印されているのよねえ」


煮え切らない返答をするピエロ。

天に掲げられた水の塊は先ほどよりも、ずっと大きくなっていた。

人間を二十人はぺろりと飲み込みそうである。


「何でも良いっしょ。今すぐ」


言いながら懐を探る望月。

しかし、短剣は全て使いきってしまったことに気付く。


「あらあら、魔王と対峙してタネ切れは良くないわ。

最も、この世界ではどっちが魔王なのやら」

「タネ切れではないっしょよ」


望月は胸の間から白いモチを出す。

爆弾を練りこんだ、モチ爆弾だ。


「あ、れ?」


しかし、手に持って取り出した瞬間、望月は動けなくなった。

ピエロの瞳が満月に反射して、白く光っていた。


「か、身体が動けないっしょ!」

「月の杯を入れてあげたわん。しばらくはそこの特等席で、見物していて頂戴」

「この変態! あたいの身体の自由を返すっしょ!」


望月は罵声を浴びせるが、ピエロは気にせずに水の塊を大きくしていく。


「ねえ、あなたはこの世界の住人をどう思うかしら?」

「どうって、どういう意味っしょか?」


困惑しながら尋ねる望月。

ピエロは仕方ないと言った風に微笑み、左手で望月の身体の向きを変えた。


望月は見た。

眼下に広がる校庭で、熱気に溢れて踊る生徒とウサギを。

ひとかけらの理性と剥き出しの本能に従い、

今を楽しむことを第一とし、ハチャメチャに踊る姿だった。


「生きている、って感じないかしら。

あなた達から見ればただのゲームのキャラクターなのに」

「あたいもそう思い直したっしょ。生きた人間なんだって。

でも、それと現実世界で魔王の支配を受けるのは別っしょ。

あたい達だって平穏に楽しく暮らしたい」

「あくまでも、あなた達の世界を優先しちゃうのね。

当然のことだものね。興味本位で聞いてみただけよん」

「それはどういう?」

「さあて、そろそろ準備もできた頃でしょうか!

今や水の塊は、校庭の炎よりも巨大になっていますよ!

あんなのが落ちたら、炎は一瞬で消えてしまいます。

キャンプファイヤーの中止は必至!

これを救ってくれる影のヒーローはいないのでしょうか!」


望月がピエロの言葉の真意を尋ねようとした時、

有泉のアナウンスが割り込んできた。


「まっ、気にする必要はないわん。あちしは封印から復活する。運命に従って」


ピエロの右手から、巨大な水の塊が離れた。

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