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剣を売ってガチャるな!  作者: 原 すばる
第七章 最終決戦キャンプファイヤー編
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誰もがヒーロー

「貴方のことが好き!」


勇者君の手を取りながら、私は叫んだ。

言えた。ようやく、言えた。

私の想いが。


「宮下」


そう私の名前を呟いたっきり、勇者君は消えてしまった。


「え? あれ?」


手に残る勇者君の感触を確かめながら、私は混乱する。


「間に合わなかったみたいね」


すぐ隣で悲しそうに言う美雪ちゃん。


「ま、間に合わなかったって?」

「勇君はガチャガチャ様のところへ行ったわ。今頃、お祈りしている最中」

「そんな……」


私は肩で息をしながら、その場に崩れ落ちる。

校庭の中心にある炎もジャバジャバ水を浴び続け、暗くなっていった。

私の沈んでいく気持ちのよう。


「すまん、もう一度言ってくれないか?」


すぐ前から声。

村で一緒に遊んでいた時、旅をしていた時、モンスターと戦っていた時、

ご飯を食べていた時、寝る時、どんな時にも聞いていた声。


「勇者君」


顔を上げると、勇者君が立っていた。


「お前は昔っから、声が小さいからよ。聞きそびれちまった」


ばつが悪そうに頬をかいて、手を伸ばしてくる。

私はその手を取った。優しくて暖かな手。


「私、勇者君のこと、ずっと、ずっと!」

「ほらほら、早くしないと、火が消えちゃうよ?

音楽も止まっちゃって、さあ大変!」


煩い有泉のアナウンスが割り込んでくる。

おかげで宮下は、言葉の勢いを失ってしまった。


突然、ホースから噴射されていた水が止まった。


「あ、あれ? どうしちゃったのかなあ、お水ちゃん?」


次いで音楽も流れ始める。

ウサギ達は再び駆け出し始めた。


「ど、どうなっているのよ?」


マイク越しから伝わってくる慌てた有泉の声。


「どうにか、火は消えずに済んだようですなあ」


夏目の安堵の声が校庭中に響き渡った。


「あなた、まさか!」

「こっそり侵入して、ホースは切り刻んでおきましたぞ!

音楽スイッチの遠隔モードも切っておきました。

いやはや、たいそうなアトラクション。我輩こそヒーローですなあ」


満足げな夏目の声が放送に乗って聞こえてくる。


「……なかなかやるわね。でも、ちょっと爪が甘かったかしら?」


有泉の不敵な声。

ドッシャーン、と突如背後から爆発音。


宮下が振り返ると、白テントが炎上していた。

それに合わせて音楽も止まる。


「放送席を爆破させちゃえば、音楽も鳴らせないわ」

「くう、なんと過激なことを」

「でも安心して頂戴。真のヒーローなら、

こんな絶体絶命でも音楽を流せちゃうんだから。奇跡を起こしてね」


有泉が再び勇者にガチャガチャを回すことを煽る。


「いらないわ、そんな奇跡」


別方向、体育館の方向から声が聞こえた。

生徒達がそちらに一斉に振り向く。


「ぽぽちん、この辺りで良い?」

「うん、完璧。ともちん」


黄身色の髪をなびかせてたんぽぽがマイクを持って、

校庭から体育館へと行く階段付近に立っている。

その階段に、ライブで使っていた大きなスピーカを置く友塚。


「機材も持ってきました、たんぽぽ先輩!」

「ありがとう、合唱部」

「ちょ、ちょっと勝手な真似は、青組が許さないわ!」


有泉が動揺しながら叫ぶ。


「奇跡なんてゴミ。私こそが、真のヒーロー」


階段に置いた大きなスピーカーからたんぽぽの宣言が聞こえてくる。

そして。


ラーラーラララー、ラールゥララー、ラールゥラッララー、ラッルーラー。


先ほどまで流れていたマイムマイムを、歌い始めた。

透明感のある声質だが、得意の本能に訴える熱のこもった歌声は、

聞いた生徒達の心を弾ませ、踊り出させた。


そのたんぽぽの歌声に合わせるように合唱部もマイクを持って援護する。


「さすが真のヒーローね。私も思わず踊りたくなっちゃうわ。

でも見て? さっき水を被ったせいで炎が消えそうよ?

ここは究極のヒーローが登場する場面ね」


有泉がめげずにアナウンスを割り込ませる。

確かに、校庭の中心にある炎は風前の灯となって、ちろちろとしている。

昂ってきた感情も、手元足元が暗いのでは踊れない。不燃焼となってしまう。


「豪健剣、爆炎突き!」


豪健はそう叫ぶと、剣に昂る炎を纏わせた。

そして、くべられている大木に向かって剣を突いた。

炎は水を飛ばし、瞬く間に大木全体に広がっていく。


「これぐらいしか役に立てない剣士だけど」

「豪く~ん」


豪健が校庭の中心で天に向かって猛々しく昇る炎を見上げていると、

走ってきた美雪がそのまま腕にしがみついた。


「うおっ」

「さすが豪君だよお。究極のヒーローだよお」

「それ格好悪いから止めてよ」

「えー良いじゃん良いじゃん」


美雪が嬉しそうに豪健の腕に頬擦りする。


「こらー! またそうやってベタベタけんちゃんにくっ付いて!」


望月が短剣を振り回し、叫びながら駆け寄ってきた。


「ベタベタするのは当たり前だもん! 美雪と豪君は踊っているんだもんねー」


そう言いながら美雪は豪健の手を取って、身体を弾ませる。

ついでに胸を弾む。


「ま、まあ踊るのも悪くないが」

「けんちゃん!」


ぷくうっと頬っぺたを膨らませる望月。


「少しだけだから。それと美雪、勇者の方は?」

「あそこよ」


美雪は斜め後ろに視線を送る。

豪健もそちらを見ると、勇者と宮下が楽しそうに踊っていた。


「良かった。本当に」


豪健は心底ほっとする。


「なんか美雪が悪者みたいで、美雪は辛かったかも?」

「そ、そうだったよね。ごめん」

「いいよ。美雪と楽しく踊ったら許してあげる」

「うん。僕で良かったら」


美雪は無邪気に笑って手を思いっきり振った。

おっとと、と豪健は驚きながらもそれを丁寧に受け止めて、優しく微笑む。


たんぽぽの歌声も心地良い。

足が軽い。手も弾む。生きているって素晴らしい。

いつしか豪健も踊りに夢中になっていた。


望月はため息をついて、一歩引いたところで辺りを見渡した。


あれだけの青い鳥の攻勢をかわしたのだ。

さすがにもう追撃はないだろう、と思いつつも警戒する。

向こうだって革命組織としての大儀がかかっているのだから。


このまま何も無く終わるとは。


「あっ」


屋上の水を噴射していたホースが回収されていく。

黒い人影によって。


やっぱり諦めた?


そう思っていると、黒い人影は腕組みをして校庭を見下ろした。

あのシルエットはあいちゃんに間違いない。

人影は後ろを向いた。


良く見ると、黒い人影の後ろにもう一人いる。

一度だけ頷いて、前方の黒い人影は両手を天に掲げた。


「ちょちょ、ちょいっと不味いっしょ!」


望月は慌てて踊っている豪健に駆け寄った。


「お、どうしたモッチーナ」

「おモチちゃん、今は美雪が踊っている最中なのに」

「それどころじゃないっしょ! 屋上に誰か居るっしょ!」


望月がさっきまでホースのあった屋上を指差す。


「本当だ。何をしようとしているんだろう?」

「きっとなすすべがなくなって、雨乞いをしているんだわ」

「そんなわけあるか。ん、あれは水無月か」

「そうみたいっしょ。何か魔法でも打ち込んでくるっしょか?」


話している間に、黒い人影の掲げた両手の上に、

水玉のようなモノが作られ始めていた。


「見ろ、水の塊ができ始めている。

これ以上、炎に水をかけられたら致命傷になりかねない」

「じゃ、じゃあ、生徒玄関の壁スライムの破壊の続きをするっしょか?」

「いや、お前も気付いただろうが、さっき二人で斬りつけても

ほとんど壊せなかった。あのペースで間に合うとは思えないよ」

「そうなると、屋上に辿り着く方法はもう」


絶望する望月。

美雪は二人の会話を大人しく聞いている。


「いや、一つだけ思いついているんだけど、

モッチーナに聞いてみないとわからないんだ」


豪健は言い辛そうだ。


「もったいぶらずにあたいに聞くっしょよ」


望月は頼もしくぐいぐいと迫る。


「うん。さっき登った高いバックネットから屋上に飛び移れないかなって。

もちろん無理そうなら別の校舎の入り口を探そうかなと」

「余裕っしょよ」


腰に手を当てて、ふふんと得意そうな望月。


「えっ。いやいや、高さは大丈夫そうだけど、結構距離あるし、

落ちたらただじゃ済まなそうだし」

「魔法で跳躍力高めればいけるっしょ。

それに、今は他に考えている時間も無いっしょよ」


望月が言い終えると同時に、アナウンスが流れた。


「はいはーい、屋上にまた注目! 見て下さいこの水の塊!

これがまだまだ膨れ上がります!

こんなのが落ちてきたらひとたまりもありませんねー。

キャンプファイヤーは滅茶苦茶になってしまいます。

誰か、影のヒーローはいないのでしょうか!」


懲りずに勇者を煽る有泉。


「じゃあ、影のヒーローとして行ってくるっしょ」

「ちょい待った! これを持っていけ」


豪健は懐から借りていた短剣を取り出した。

走り出そうとした望月は、それを素直に受け取る


「もしかしたら、使うかもしれないからな。例の」

「いよいよお披露目っしょね」


悪戯っ子のように望月は笑う。

そして、今度こそ金網フェンスの方へ走って行った。


「さてと、美雪達は楽しくさっきの続きを」

「いや、僕は校舎の中へ他に入る場所がないか探すよ」

「だったら、美雪もそれのお手伝いしちゃう!」


間髪入れずに美雪が志願して、当然のように腕に身体を絡ませる。


「ありがたい申し出だけど、これは走り辛いので止めて欲しい」

「はーい。じゃあ、ぱぱっと解決して、続きをしよっか?」


顔を覗き込んで笑いかける美雪。


「うん、そうだね」


豪健は頷いて走り出す。

そうして二人は校舎の方へと目指した。


有泉のアナウンスの後もたんぽぽは未だに歌い続けており、

ウサギ達も生徒達もアナウンスを無視して踊っている。

炎はさらに燃え上がり、キャンプファイヤーは最高潮を迎えようとしていた。

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