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剣を売ってガチャるな!  作者: 原 すばる
第一章 ダンジョンガチャ探索編
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相棒はモチ好き

些細なことでも厳しいことでも、

感想を残して頂けると励みになります!

わくわくどきどき楽しんで貰えたら幸いです。

 夜。月明かりを頼りに、洋服ダンスを開く。いつか露店で買い、

奥にひっそり隠しておいた獣皮製のベストを取り出した。


丈夫さに加え、大小、外に内にポケットが所狭しとある。

こんな利便性のみ追求した服、一生着ないと思っていたが。世の中わからん。

最後に薄汚れたフード付きのマントを羽織って準備完了。


「よし、見張りはいないな」


ドアをそっと開けて廊下を確認する。紅い絨毯を踏む者はいない。

ドアを閉め、忍び足で廊下を進む。階段を降りて、角を曲がろうとした時、

つま先に力を込めた。


「勇者様、どこへ行くのですか?」


母さんの声だ。壁に張り付いて、姿勢を低くし覗き見る。


「あ、やあ、お姫様。こんな夜遅くに」

「こんな夜遅くに、はこちらのセリフですわ。もしかして、またですの?」

「その、はい。またです。あそうだ! ここで会ったのも何かの運命。

翌月分のおこづかいを前借りさせてはくれないだろうか」


父さんが手を擦り合わせて頭を下げている。母さんは一段と声を張った。


「翌々月分の間違いではなくって? 翌月分はもうありませんことよ」

「そそ、そうでしたっけ?」

「いい加減にして下さい! 伝説の剣を競売にかけて、まだ懲りないんですか!」

「でも、おかげで学園祭イベントは大成功に終わったわけでして。いやあ、

姫様にも見せたかったなあ。ラストのキャンプファイヤーで踊るところを」


そう言いながら母さんの腰に手を回そうとして、蹴飛ばされる。

あうう、とお腹を抱えて膝をつく父さん。


「それで、五人の女の子とデートできた感想は何でしたっけ?」

「は、とても、楽しかったひぃ。ですが、ひ、姫様には敵わないので、あ、足を」


グリグリとうずくまっている父さんの背中を踏みつける母さん。

見ていられない。今のうちに通り抜けよう。

僕は素早く裏口へと抜けてお城の外へと出た。

城下町の方からは夜なのに喧騒の声が聞こえる。

父さんが魔王を倒す前までは考えられなかったことだ。


 あの頃の父さんは格好良かった。旅先で善行を積んで得た持ち金を使いきり、

国の財源にも手を出したところまでは、どうにか許せた。

だって、国を滅ぼさんとする魔王を倒した英雄だもんな。腐っても。


だけど、伝説の剣まで売ったとなれば、話は変わってくる。

剣は勇者のプライドそのものだ。剣を振ってモンスターを倒す父さんに憧れて、

僕は剣士を目指したというのに。それをガチャのために売るだなんて!


 城下町に着いた。人々は頬を緩ませてゆったりと行き交っている。

平和を享受している。そんな平和な灯りを足早に避けつつ、酒場に入った。

深く被ったフードの中にまで熱気が入ってくる。

辺りを見回して、目的の人物を探した。


「けんちゃん、こっちこっち」


僕を呼ぶ声が横から聞こえた。小さな体型を精一杯に主張して、

手を挙げている女の子が居た。


「モッチーナ、もう来ていたのか」


対面に座りながら言うと、モッチーナはおっぱいを押し上げて腕組をした。


「ふっふーん。遅刻は罰金モノっしょ。モチを要求します!」

「僕は時刻通りだ。それに、お前は大事な時に遅刻した前科があるだろう」

「はい? あたいに前科なんてありまっせーん。ピカピカの真っ白白っしょ」

「魔王四天王戦の隠密調査で集まった時」


そう指摘すると、テンション高々だったモッチーナがテーブルに崩れ落ちた。

かと思えば、がばっと顔を上げる。


「あれは仕方がなかったんです! 

隠密調査だったらいつもの剣士の格好じゃダメだし、

でもでもけんちゃんと一緒なら地味すぎるのも嫌だし。迷いに迷ったっしょ」

「で、今日はちゃんと剣士の格好なんだろうな」

「もちのモチモチろん。テーマはザ・機動力」


両手を広げて見せびらかす。全体的に白で統一されているが、

ぷるんと白く透き通った胸が揺れたのを見逃さない。


「どうして胸元が開いているんだ? 踊り子にでもなるつもりか?」

「だからザ・機動力っしょ」

「限度があるだろう。そんな目立つ格好」


要所にシルバープレートは装備されているが、胸を一突きされたらおしまいだ。

僕の考えを読み取ったのか、モッチーナはまぶたを閉じ、胸にそっと手をあてた。


「どっちみち、ここを攻撃されればあたいはおしまいっしょ。

だったら、さらけ出して少しでも軽く、動きやすくした方が

けんちゃんを守れると、そうは思わないですかい?」

「ん、確かに一理あるかも」

「あ、ウエイトレスさん! おしるこ大ジョッキでくださいっしょ!」


威勢良く注文しているモッチーナ。ため息ついでに僕もイチゴジュースを頼んだ。


「それで、うちの親父の件については、どうだった?」

「予想通りっしょ。架空の世界で生活する人間を成長させる

シミュレーションゲーム、リアル……、なんだっけ?」

「リアルヒューマンライフ。略してRHLだ」


親父が毎日、このRHLという携帯ゲームにかじりついている。

僕もちらっと画面を見せて貰ったことがあるが、

この世界とはまるっきり異なる世界の一人の人間がそこに居た。

今は学校と呼ばれる勉学を習う施設に通う途中で、

何故か両脇に女の子をはべらせていた。


親父は得意げにこのイベントを発生されるまで、

何度もガチャを引き直したと言っていた。

幸せそうな顔が画面の中の男の子と被る。


「そのRHLの援助アイテムとして、ダンジョンガチャを回すっしょよー」

「やはり元凶はダンジョンガチャか」


その時、ウエイトレスさんが飲み物を運んできた。モッチーナは目を輝かせて、

あずき色に濁ったジョッキの中から細長いスプーンで白玉をすくう。


「ん~、この一玉のために生きているっしょ!」


白かった頬っぺたがほんのり紅く染まる。

手をあてて、うっとりするモッチーナ。


「相変わらずモチには目が無いんだね」

「モチよ! ふぉのモチのほひほいはんがたまはないっしょ!」

「うん、ちゃんと飲み込んでから喋ろうな」


僕もイチゴジュースに口を付けた。


「おっ、前よりも美味しくなっているな。プチプチ感が増している」

「おしるこも濃厚どろっどろっしょ! 繁盛していますね~」


僕らは店内を見回した。席はほとんど埋まっており、

飲み物片手に談笑する人も居れば、

先ほど話題に挙がっていたRHLをプレイする人も居る。


「好きな物を好きな時に食べられるようになっただけ、マシなのかもな」

「でもでも、このはまり方はやっぱり異常です! 原因調査はすべきっしょ!」

「そうだね。もし平和を脅かす存在なら、絶たないとだ」

「なのでなので、けんちゃんは人生初の商人になるのでした」


ぷはーと口端におしるこを付けながら、モッチーナがにやりと見てくる。


「剣士だと情報収集能力が落ちるからな。

商人ならアイテムの売買がてら情報収集も容易にできる」

「張り切っていますね~。けんちゃんが商人に集中できるよう、しっかりと傭兵をやるっしょよー。道場ではけんちゃんの次に強かったですからねー」

「そんなことはない。モッチーナとは互角だった」


珍しく謙虚なモッチーナに、思わず反論する。モッチーナは顔を横に振った。


「まともにやりあったらあたいの負け負け。

あたいお得意の小細工がハマって、ようやく互角かそれ以下か」

「それなら、やっぱり僕が剣を握った方が良かったんじゃ」


のんのん、と人差し指を左右に振るモッチーナ。


「商人なんてあたいの性に合いまっせーん。

あたいはいつだって剣とモチを振っていたいっしょ!」


にしし、と白い歯を見せて、ジョッキを飲み干していく。

普段からふざけたヤツだが、モッチーナには剣士としての芯がちゃんとある。

こういうところが好きだ。


「そろそろ行くか?」

「うん! 教会へレッツゴーだね!」


最後の白玉をぺろりと食べるのを見て、僕は席を立った。

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